(04/04/12 up)
えっ、春爛漫じゃないかって。いいんだよ。猫の世界じゃ、春爛爛で通ってる
んだから。何事も、郷に入っては郷に従え、さ。って、別に今更、郷ヒロミがど
うとかってんじゃないけどね。
そう、猫好きのあなたなら分かるよね。春爛爛は、猫の目に懸けているってこ
と。春先の猫の目の爛爛たる輝きを見ると、盛りついちゃってさ、もう、
目はギラギラ。虎視眈々…じゃない、猫視眈々なのさ。
だから、春爛爛でなきゃダメなんだよね。
さて、今日は、何を話そうか。えっ、聞きたくない? じゃ、いいよ。別に。
ボクは他にもいろいろとやることが一杯で、忙しいんだから。その間を縫って相
手してやってんのに、用はないだなんて、よく言えるよな。じゃ、あばよ!
っととと。行こうとすると、追って来るんだから。まるで近所のミーヤみたい
じゃないか。
えっ、ミーヤを知らない。あの可愛いボクの仔猫ちゃんを知らないの。あんた、
余所者じゃないの。ボクがどんなにミーヤを…じゃない、ミーヤがどんなにボク
に焦がれているか、だから、ボクが何処へ行っても、ちょっと脇の何処か隅っこ
を見遣ると、そこにはミーヤがいるんだね。もう、しつこいったら、ありゃしな
い。うんざりしているんだよ。持てる猫は辛いね。
何? ボクが追い駆けてるんじゃないかって? いつも、ミーヤの尻を追って
いるように見えるって? 先に動き出すのはミーヤで、それを見て、慌ててボ
クが腰を上げてるように見えるって。
失敬な。世間じゃ、そんなふうに噂する奴もいるらしいけど、とんでもない誤
解だね。猫はね、君等人間みたいに鈍感じゃないんだよ。なんちゅうか、テレバシー
というか、第六感というか、行動や変化に対する嗅覚が敏感なんだね。だからさ、
ボクが動こうかなと思った瞬間には、ミーヤちゃんが、そのボクの意図を察知し
て、先回りして動き出しているんだよ。
それを何も知らない奴らが見たら、まるで、ミーヤが動き出すのを待って、そ
れこそ、ストーカーじゃないけど、ボクがどこへでもくっ付いていくように見えるだけ
なのさ。
っとととと。ミーヤが動き出しちゃった。まずい!行かなくっちゃ。
ん? と思ったら、また、寝そべっちゃったよ。どうも、最近のミーヤは、気
紛れでいけねえや。女はみんな、あーなのかね。
さて、ボクも寝っ転がっちゃおうかな。寝転がるって、猫が転がることから来
た言葉だって、知ってた? え、知らなかったって。そりゃ、そうだろな。ボクも初耳だしね。
何? やることが一杯って、何がそんなに忙しいのかって。もう、そんなこと、
説明するのも億劫ほど、忙しいんだけど、ま、ミーヤがのんびりしている間だけ
…、じゃない、食事の後の一服が済む間だけ、ちょっとだけ、説明してあげるね。
なんてったって、一番、大変な仕事、一日たりとも欠かすわけにはいかないのは運
動さ。運動たって、縄張りの警戒だけどね。
そうだ! 今日は、縄張りの話を少しだけするよ。
(それにしても、ミーヤの視線が気に掛かるな。何処、見てるんだ? まさか…)
ん? 何だっけ。あ、そうそう、縄張りの話だったね。
ボクは、未だ若いけれど、それでも、我が家の見張り番を買って出ているんだ
よ。言っちゃ、悪いけど、我が家のご主人気取りの女王様というか王女様という
か、女の主殿は、もう、頼りないんだから。
教養がないのは、このご時世だから仕方ないとして、もう少し、戸締りとか、
物の始末とか、しっかりしてほしいんだけどね。どうも、不甲斐ないったら、あ
りゃしないんだよ。それが目下のボクの悩みなんだ。
住んでるところが一階だってえのに、着替えだって、カーテンを開けたまま、
やるんだよ。いくらベランダと道路の間には垣根があり、カエデの葉っぱが密生
しているからって、ちょっとまずいよね。
夜なんて、部屋に灯りを付けてるんだから、カエデの目隠しなんて、なんの役
にも立ってないってえのに、平気の平左なんだから。せめて、楽園を追われるイブほどにも羞恥の念を感じて欲しいな。前を隠したりとかさ。余程、普段、見てくれる相
手に不足しているからかね。もしかして、ボクなんて、見たくもないのに、女王様のゴム
の跡の付いたお腹なんて、見せられるってのは、あれかね、男の変わりってわけ
かね。
教養で思い出したけど、ボクが守ってあげている女王様は、ボクより図体はず
っと大きいけど、とにかく、勉強が嫌いな子でね。学習能力がないっていうか。
ボクが、苦労してゴキブリとかネズミとかハトとかカエルとか、バッタとかを、
それも、ピンピンしている、真っ赤な血のダラダラ流れている、血潮の噴き上げ
ている活きのいい奴だよ、それを枕元まで持って行ってあげて、じっくりゆっく
り甚振る楽しさとか、口に銜え、噛み付く、その感触のえもいえぬ愉悦だとか、
生き血たっぷりの生肉をガブリと噛む適度に塩気の含まれたジューシーな味わい
の素晴らしさとか、一所懸命に教えてあげようとしているんだけど、未だに、何
故だか、キャーキャー喚くばかりで、どうにも、聞く耳がないって状態なんだ。
教養のない女ってのは、悲しい限りだね。化粧ばかりしてないで、たまには一
緒にネズミを捕まえたいもんだけどな。ま、これからも、せっせと餌を運んであ
げるつもりだけどね。諦めるわけにはいかないし。躾は大事だよね。
ま、とにかく、無教養且つ無用心で世間知らずな王女様なので、ボクは、近所
の見回りは一日たりとも怠るわけにはいかないのさ。痴漢か誰かヘンなのが来たら、こっそり近付いてさ、葉っぱか小枝を揺らしたりして、ガサガサやってね、追い払うんだよ。 だから、一日たりとも…、そう、日
に何度も、家の周りを見て回っているのさ。特に夜回りは大切さ。
あれ? 話がずれちゃったかな? 前張り…、じゃない、縄張りの話だったね。
我が猫族にとって縄張りは命に代えても守るべきものなんだ。
いつだったか、
猫のことを生半可にしか知らない奴が、縄張りについて、敵がいても、猫が歩い
ているということは、逃げ出す必要がないほどに居心地がいい、悪い場所ではないってことな
のでしょう、なんて、嘯いていたけど、とんでもないね。
猫はね、一旦、ここが我が縄張りだと決めたら、餌が見つからなくなって、餓
死寸前になっても、その縄張りを死守するものなんだ。猫が縄張りを離れる時…、
それは死ぬ時なんだ。
まして、ボクは、見るも哀れな、驕慢なだけの女王様を守る責任がある。
とな
ると、我が縄張りを、餌がまずいとか(安物のペットフードじゃなくて、たまには手料理ってのを作れないのかなー)、女王様が気に入らないとか、他所の芝生とい
うか縄張りは綺麗に見えるとか、とにかく、そんなさもしい理由なんかじゃ、決
して、鞍替えはしないんだよ。
その意味では、気紛れに見えるらしい猫族だけど、案外というか、想像以上に
縄張りに対しては忠実なのさ。頑固なくらいに律儀なんだね。
えっ、お前は、この頃、いつもの領分を離れがちじゃないかって、それも、ミ
ーヤの尻を追い駆けて、ミーヤの塒(ねぐら)にしけこもうとしたじゃないかっ
て。
てへへへ。見てたのか。ヘンなとこだけ見てるね。ばれてたんじゃ、仕方ないな。
あのさ、猫族が縄張りの外に出る唯一の機会ってのは、発情期の頃、もとい、
恋に情熱を燃やしている時なのさ(発情期だなんて、失礼な表現、止めて欲しい
ね。高貴なる猫様に失礼だと思わないのかね)。
その時ばかりは、夢中になってしまって、
つい、うっかり他の猫の奴の縄張りに踏み込んでしまったりすることもあるのさ。
勿論、時には喧嘩になるよ。ほら、人間だって、恋は盲目っていうんだろ。猫族
だって、その点は、似たり寄ったりなのさ。恋に関しては、妥協の余地はまるで
ないし、そんな場合には、縄張りもグジャグジャになっちゃうんだよ。
恋はズブズブさ。
とにかく、縄張りがある限り、猫の生活は安泰だね。
えっ、縄張りはどれくらいの広さがあればいいのかって。
広さと来たね。質は問わないんだね。
あのさ、いつだったか話したから、少しは分かっていると思ったけど、ま、い
いや、物分りの悪さは、どうしようもないもんね。
あのね。猫は、何よりも精神生活ってのを大切にするんだ。広さなんて、関係
ないね。最初に、ここが縄張りだと思ったら、そこが縄張りで、その外の世界の
ことなど、関心を払わないんだ。そこそこに居心地のいい、居眠りや寝そべる場
所、時折は日向ぼっこが出来て、雨とかを凌げて、できれば外敵の心配もない空
間が確保されれば、もう、満足なんだね。決して、贅沢じゃないんだよ。ちょっとグルッと縄張りを見て回ったら、後は、ひたすら居
眠りさ。人間が見て広い狭いなんて、関係ないのさ。
猫族は、夢を見るのが大好きなんだよ。寝ていて、夢をみたりして、何かの拍
子に目が覚めて、ここは何処? あたいは誰? あの目の前にぶら下がっていて、
ほとんど口の中だったはずの餌は何処に消えたの? 今にも肩を抱っこできそうだったあの麗しの姫君は何処なの? って表情をしばしばするけど、まあ、それだけ寝ていて夢
に戯れているのが好きなんだって証拠なんだね。
うお! いけね。ミーヤが動き出した。もう、あんたの相手はしてられないね。
ああああー、だめだよ、ミーヤ、あいつはダメだよ。ボクじゃだめなの? あああ、
ボクをミーヤ! ママ、ミーヤ! ボクを棄てないで、ミーヤ!!!!
下記サイトを参照しました:
「餌付け (餌やりを止めたら、猫はいなくなる?)」
(04/04/11 作)

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