ローレンツ『ソロモンの指環』雑感

 

 アパート暮らしのせいで、動物(ペット)を飼うことはできないが、犬や猫 などの動物を見るのは好きである。できればお付き合い願いたいとも思うが、 なかなか侭にならない。たまに田舎に帰ると親戚の家に犬が飼われていて、そ のワンちゃんに遭うのが楽しみである(今はゴールデンレトリーバー)。
 もしかしたら帰省する動機になっているかもしれない。
 飼えない淋しさを埋めるには、近所を散歩する(それともご主人の散歩にお 付き合いしている)犬をチラチラ眺めたりすること、顔なじみの猫を横目で眺 めること、などなどであるが、同時に動物を扱う本を読むこともいい。
 過去、何十冊と関連する本を読んできたが、動物ものの本の筆頭というと、 やはり、ローレンツ『ソロモンの指環』ということになるだろう。
 小生はコンラート・ローレンツ(の本)とは長い付き合いである。学生時代 からの…と思って調べてみたら、勘違いだった。『ソロモンの指環―動物行動 学入門―』(日高敏隆訳、早川書房刊)を買ったのは、大学を卒業し、フリー ター生活を始めた直後の1978年6月だったのだ。今にして思うと、東京での都 会暮らしの寂しさを紛らすには、動物を扱う本、ということで、既に名著の誉 れの高かった本書を買ったのだろう。
 辛いアルバイトで疲れて帰ってきた夜に一気に読めたのも、ローレンツの文 章の魅力と動物という自然の生態を残した生き物への愛着のゆえなのだろう。 それから2年後の6月に再読している。
 ついでローレンツの本に触れたのは、『文明化した人間の八つの大罪』(日 高敏隆・大羽更明訳、思索社刊)で、1979年4月のことである。今回、過去の 記録を調べてびっくりしたのだが、この本を新宿区立中央図書館で借りて読ん だのだ。
 フリーターの時代だから、好きな本など気侭に買えるわけもなく、『ソロモ ンの指環』を買ったのも、例外中の例外ということのようだ。
 それにしても、自分が新宿区立中央図書館に通っていたなんて、全く記憶か ら消えている。そうだったのか…。そこでは20冊ほども借りて読んでいるのに …。その後、引っ越した先の中野区立中野図書館でも60冊ほど借りている。
 次に読んだローレンツの本は、『攻撃 1・2』(日高敏隆・久保和彦訳、 みすず科学ライブラリー、みすず書房刊)で、これはちゃんと買っている。19 82年4月の購入なので、既に社会人二年目の春を迎えていたのだ。その4月には、 3年間のブランクを置いてオートバイを購入し、思いっきりオートバイそして ツーリングにのめりこむことになる。これは小生にとって都会の喧騒を離れ、 自然の息吹を吸い込む機会でもあったのだ。
 その後、ローレンツ熱が再発したのは、85年9月のことで、友人から『ロー レンツの世界 ハイイロガンの四季』(日高敏隆・羽田節子編訳、早川書房刊) を借りて読んだので、そのお礼に『ソロモンの指環』を買って贈ったわけであ る。
 調べてみたら、『攻撃 1・2』も、85年に同じ友人に進呈している。その 友人と同書などについて語り合いたいとか、また、自分でもローレンツを読み 直したいということで、同書を85年7月に帰省した際に、再購入し、再読して いる。
 そうか、今も田舎の書棚にある奴は、85年に買った分なのだ(これまた、記 憶からは完全に欠落していた)。
 そう、その85年頃は、ツーリング熱(オートバイ熱)がピークの頃で、バイ クは本田党の小生が唯一買ったヤマハのオートバイ・XJ650ターボに御機 嫌だったことを思い出す。朝からザンザン降りの雨の中でも、高速を飛ばして 観音岬などを巡ったものだった。エンジンフィーリングも含め、小生が出会っ た最高のバイクだった。
 その他、『人イヌにあう 至誠堂選書 1』(小原 秀雄訳)が田舎の書棚に 並んでいるが、いつ買ったのかは分からない。読んだことは間違いない。面白 かったという記憶はあるし。ただ、蔵書の記録が、89年以降、ワープロに頼り、 その際、普通紙への印刷ではなく、感熱紙に印字したため、ワープロを使用し た数年間の記録が経年変化で消えてしまっている。非常に残念だ。

   さて、『ソロモンの指環』の紹介をすべきところだろうが、有名な本だし、 名著の誉れも高いので、改めて紹介するにも当たらないだろう。小生が下手な 紹介をするよりは、以下のサイトが無難だ:
 http://homepage1.nifty.com/hint-yf/B_solomonsring.htm
 このサイトを見ても分かるように、1998年3月に文庫版が出ている。小生も 書店で懐かしい書が店頭にあるのを見て、ハヤカワ文庫版の同書につい手が出 てしまったのだ。同書の副題に「動物行動学入門」とあるが、その行動学とい う厳めしいタイトルに恐れをなす必要は毛頭ない。
 動物学者たるコンラート・ローレンツがいかに動物を愛し、愛するが故に巻 き起こす、常識人の目には奇人変人としか思えないような、抱腹絶倒のエピソ ードに満ちているとだけ言っておこう。
 文庫版の『ソロモンの指環』の末尾に、訳者(であり動物学者)である日高 敏隆氏(小生は同氏の訳本には相当にお世話になっている)による「文庫化に あたってのあとがきと解説」が附してある。その中に、ローレンツが打ち立て た動物学は、死後、完全に変貌したとあるが、そんなことは一切、気にしなく ていいだろう。
 そもそもドイツ語版原著は、1949年に出版されているし、日本語訳も1966年 の出版なのだ。その後に学問的進展なり変貌なりがあって不思議ではない。
 本書は今も新鮮だ。古くて新しいと感じさせてくれるのは、ローレンツの、 動物への愛情が満ち溢れているからだ。世の動物への(たとえばオオカミなど への)誤解を解きたいという一念が漲っているからなのだ。
 オオカミは、例えば平和のシンボルに模されたりするハトなどに比べ、いか に家族愛に満ち、仲間を大事にすることか。
 何かと気忙しい日々が続く。新しいミレニアムを迎えて、ますますきな臭い 雰囲気が漂う。そんな中、一番身近な生きた自然である動物との悪戦苦闘のド キュメントを読むのも一興ではなかろうか。
 最後に、その名も「ソロモンの指環」というサイトがあったので紹介してお こう。おっとっと、よく見たら「ソロモンの指輪」だった。楽しい自然観察の 部屋である:
 http://homepage2.nifty.com/night-forest/

                                               02/12/21