内田康夫著『箸墓幻想』

(04/03/28 up)







 小生は必ずしも内田康夫氏のファンというわけではない。今まで読んだものとい うと、いろいろ事情があって『杜の都殺人事件』を読んだことがあるだけだ。
[『杜の都…』を読むに至る事情は、下記エッセイを参照願いたい:
「同姓同名に惹かれて、あるいは杜の都」 ]
 今度の『箸墓幻想』(毎日新聞社刊)にしても実は、タイトル(と本の装丁=菊 地信義)に惹かれて、つい、衝動買いしてしまったのである。
 小生は古代史や考古学のファンなのだ。マニアとまではいかないが、でも、年に 何冊かは必ず日本・世界を問わず、考古学とか古代史を読む。新聞などに遺跡発掘 のニュースがあれば、目は勝手にそちらに向かってしまう。
 この箸墓古墳とうのも、邪馬台国ファンならずとも、卑弥呼の墓ではないかとい う傍証が相当に蓄積されていることは知っているかもしれない。従来は古墳の想定 される年代と卑弥呼(邪馬台国)の年代とが符合せず、問題外だったが、近年、年 輪年代測定法などの発達もあり(倉橋秀夫著『卑弥呼の謎 年輪の証言』講談社刊 など参照)、箸墓古墳が卑弥呼の墓であっても、少なくとも矛盾はないようになっ てきたのである。
[箸墓古墳など、天皇陵全般については、下記サイトを参照:
「天皇陵の学術的研究・保存を」 ]

   というわけで内田康夫ファン、あるいは主人公である浅見光彦ファンの方からし たら、とんでもなく邪道な入れ込みで読み出したのだが、ミステリー小説ファン出 ない小生も、面白く読むことが出来た。筋が入り組んでいて、土壇場に行かないと 殺人事件の謎は解けないのだが(当然か、これは)、この小説に関しては、連載執 筆と相前後して、まるでこの小説に脚光を浴びさせるかのように連続して重要な発 見・発掘・露見があった。
 まず、奈良県桜井市での「ホケノ山古墳」が最古の前方後円墳であることが昨年 の春に判明したこと。その証明の材料として「画文帯神獣鏡」がその古墳から発見 されたこと。この「画文帯神獣鏡」は、小説の中でも重要な役回りを持たせられて いる(しかも、執筆当時は、まだこの発見はされていない)。
 ついで、昨年の秋口には、例の「神の手」の持ち主だとされた藤村新一氏による 「石器捏造」事件が発覚したことである。
[藤村新一氏による「石器捏造」事件については、下記を参照:
「遺跡捏造事件 2000年」  ]
 実は、この小説『箸墓幻想』の中でも「神獣鏡」が捏造された形で事件が展開し ているのである。
 更に続く。
 今年五月のことだが、「橿原考古学研究所(小説の中の畝傍考古学研究所のモデ ルである)の発掘調査と、奈良文化財研究所の年輪年代法調査によって、奈良県桜 井市の勝山古墳から出土した木材の伐採時期が[紀元一九九年プラス十二年以内]、 つまり、二世紀末から三世紀初頭にかけてであることが判明した」のである。
 それは、勝山古墳が日本最古の古墳であること、倭国女王卑弥呼の時代と完全に 重なることを意味する。
 まるで時代がこの小説を後押ししているかのようだ。

 さて、ところで内田康夫氏のファンは男性が多いのだろうか、それとも女性が多 いのだろうか。
 というのも、主人公の浅見光彦は、本人は歴史ルポライターで世間からは探偵と して見られているが、兄が警察の役人として輝かしいキャリアであるという設定に なっている。また、男としても格好がよくて、女性に持てるという性格付けである。
 ところが、浅見光彦というのは、女性には持てるのだが、さて、いよいよ女性と 決定的な一線を超えるか(結婚も含めて)というところになると、腰が引け、「敵 前逃亡」してしまうのである。彼に惚れる女性からしたら、とんでもない男という ことになりかねない。煮え切らない男性なのだ。しかも、でも、格好がいいし、家 柄もいい、となると、どういうことなのだろう。
 これは、男性ファンからしたら、多少は感情移入したくなるタイプとして内田氏 は設定しているのだろうか。簡単に結婚されると小説上、困るとか。
 あるいは、女性ファンからしたら、そんな男は困る存在なんだけど、放っとけな い存在となりるだろうとして考えられたキャラクターなのだろうか。芸能人などで、 人気があっても、結婚してしまうと一気に人気が醒めてしまう(最近は少し事情が 変わってきたようだが)、そうした傾向に習った女性ファンを繋ぎとめるための方 策なのだろうか。
 ま、ミステリーの本質には関係ない話だけれど。


01/11/11作