場面による分類        


  『武家屋敷の場』 御殿の場と共用するものが多く、特に区別することもありませんが、ここでは武家屋敷の広間などでのセリフ合方を説明致しましょう。もっとも多く使われているのが本調子合方。これは格調があり、強くきっちりした感じの曲で武家のセリフには良く合い、弾き始めの手を替えてその場の雰囲気に合わせ弾き分けます。武士の強さにたいして女形の場合は優しさ、柔らかさが必要ですね。そこで長唄の「五色の糸」の前弾きを借りものとして使っておりますが、これもしんみりとした場面にはぴったりの曲です。この曲においても、弾き始めの手を強い感じに替えると馬盥の場で光秀のような勇壮な武士の出にも使うことが出来るのです。
 このように黒みすの音楽は附師、演奏者の能力や技術で自在に場面にあった演奏法が工夫されていくのです。
 武家屋敷の上品さを出すために箏曲を取り入れておりますが、これは大変かしこい方法だと思いますね。六段、八千代獅子等は、女形の立ち回りにも使われております。河内山玄関先の場での宗俊のつらねには三曲合方という曲を琴入りで演奏しますが、場面の上品さとつらねの強さとを表現したものとして成功している例でしょう。他に、吾妻獅子、八千代くづし、八千代恋慕などの合方があり、長唄「秋の色種」の前弾きなども屋敷内でのセリフ合方として使えます。
 能楽で舞台へ出る前に囃子方が楽器の調子を調べるために能管を吹いたり、太鼓、鼓を個々に鳴らしたりする情景を表現して「調べ」という名称で用いておりますが、これは屋敷内で能楽の催しがあるという情況設定なのです。このように能楽や箏曲を上層階級のものとして取り入れ黒みす音楽が効果的に利用しているのです。 



 
 『附師』 
附師という言葉が出て来ましたので簡単に説明しておきましょう。「附」と云うのは、狂言に音楽を付けると云うことで、それを担当するのが附師の役目です。台本が出来上がり附師に渡るとそれを良く把握して、役者と相談しながら舞台面や役、動きに合った曲を選定していくのです。ですから附師は日頃から音楽に対する感性をみがき知識を豊富にする努力が必要となります。一般にも使われる言葉に、知識が豊富な人を、あの人は引出しが多いといいますがまさしく附師はその引出しが多くその中には沢山の経験や知識、感性が詰まっていないと出来ない仕事です。良く上演される狂言は既に附がありますからそれを元に舞台師(立三味線)の判断で行います。「附」に関しては重要な事なので改めて別の稿でお話し致しましょう。

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