場面による分類


 『世話狂言立ち回り』  時代、大時代ものは合戦といわれる立ち回りが多く、槍、刀、弓などの武器を持っての大掛かりなもの。世話になりますと、町中、盛り場などでの立ち回りというか喧嘩場と云われるものが多くなりますね。しかも滑稽味が加わり寄席囃子合方のようなユ−モラスな合方が使われます。
 盛り場では竹巣、粋か不粋か、甚次郎兵などの寄席囃子や追い回し合方。神社前では辻打ち。川端では佃。廓の付近ではスガガキ、騒ぎ。祭りの喧嘩では四丁目や屋台囃子、祇園囃子。また、早メ合方はどの場所でも使えますので便利な合方ですね。 
 三下り早メは世話物に、本調子は時代物に。と云うように立ち回りの合方としてのものだけでなく様々な曲が場面に合わせた鳴物、合方が使われております。代表的な例として、敵仇天下茶屋での辻打ち、十日戎合方。荒川の佐吉の騒ぎ合方。夏祭浪花鑑の祇園囃子。他に稲瀬川勢揃い(白浪五人男)での早メ合方。め組の喧嘩や加賀鳶などの世話狂言などで、以上のような合方が場面に合わせてうまく使われています。


 『殺しの場』
 
立ち回りの一種とも言えなくないので続けます。
 「殺しの場」は歌舞伎独特の美学を持った場面です。悲惨、凄み、壮絶など、当てはまる言葉がないほど歌舞伎独特の美学を持っています。怨念、仇討ち、情念といった事からの殺しの場面は墓場、土手、薮、山中、峠などの暗くて寂しい場所。このような暗くて陰惨な舞台設定を如何に美化していくかが、舞台美術、衣装、音楽、演技、全ての手腕の見せ所です。物語り自体が陰惨なのですから、背景、姿、音楽全てが怨念に満ちていては歌舞伎ではありません。 どれか一つで良いのです。雪を降らせて美化したり、音楽は逆に美しいメロディのものを流すというように。唄は独吟か両吟また廓では音頭が使われます。
 一つ鉦打ち上げの後に、「なんまいだ、なんまいだ」と繰り返し唄うものがあり、独吟で三味線は入りません。
 鳴物の方では、この一つ鉦、松虫、本釣りのような鐘、そしてネトリ笛や大太鼓のドロを入れます。真景累ケ淵の狂言(累ケ淵の場)では(奇妙頂来地蔵尊、なんまいだなんまいだ、悪趣に出現し給いて仏の済度に導かん、なんまいだなんまいだ)この唄を両吟で一つ鉦打ち上げの後、唄います。この奇妙頂来は調子は二上りで歌詞の内容のわりには陰気な感じはしません。三人吉三(吉祥院裏手墓場)ほかよく使われる代表的な曲です。  
 この殺しの場は、全てといっていいほど恋のもつれからの怨念、因果、といったものです。御所五郎蔵(時鳥殺し)巴之丞の愛妾、美しい時鳥を嫉妬した妻百合の方との殺しの場。舞台面は館の奥庭、池には八橋掛り、杜若が咲き乱れる美しい背景。その中で時鳥の顔を切りつけ、髪を掴み引きずり回す百合の方。四の句まである独吟の後、吾妻獅子という時代物の合方を弾きます。一般には武士のセリフなどに弾く硬い感じの合方ですが、ここでは箏曲風の感じをだしてリズミカルに弾いております。ご存じ「四谷怪談隠亡掘の場」では(露は尾花と寝たという、尾花は露と寝ぬという、あれ寝たという寝ぬという、尾花が穂に出てあらわれた)という音頭の曲を使っております。銅鑼のごんのあと唄にかかり、鳴物は狸囃子に篠笛。曲は明るいリズミカルなもの。舞台もだんまり風の華麗な舞台に仕上げております。これぞ歌舞伎の真髄ですね。廓での殺しの場面は一人が多勢を殺すという場面が多く、曲は音頭を使っています。「伊勢音頭奥庭の場」「籠釣瓶」などの殺しの場で、待つ宵、桜花、流れの泉などの音頭にごん、篠笛などが入り演奏致します。「縮屋新助美代吉殺し」では地唄の「愚痴」をアレンジした「お前の袖」という曲を独吟で使います。この曲も殺しの場での使いものとして代表的なものであります。一つ鉦を打ち上げたあと、高音からゆったりと唄い出す哀調のある唄で地唄の感じはあまりしません。黒御簾の名曲に仕上がっております。
 また合方としては葛西合方という曲。鳴物は太鼓、松虫を打ち入れ、本調子と二上りの二曲があります。本調子の方は「お前の袖」の合方に共通する部分があり、二上りの方は長唄「二人晒」に合方として使われております。

先にも述べましたが、総じて歌舞伎の立ち回りは写実ではなく型の美しさを見せるもので、従って音楽の方も多種多様、その場に合った曲を使用すると云う事です。場面分類として「合戦の場」、「殺しの場」において 全般の立ち回りの音楽をお話し致しました。


 『だんまり』 歌舞伎の立ち回り(形式美)の極致がこの「だんまり」です。黙りの言葉から由来した無言劇で音楽で演じるパントマイムの一種。舞台設定としては、土手、山中などで月明かりがなくなり暗闇の中で探り合いでの立ち回りとなります。「だんまり」には時代と世話の二種類あります。「世話だんまり」は先の「殺しの場」でも述べましたが、殺しの場や怪談ものの狂言の中で歌舞伎手法の一つとして使われます。物語の恐怖感を和らげる意味合いがあるものです。「四谷怪談隠亡掘の場」での「だんまり」がそうです。「露は尾花」という音頭を唄入りで演奏します。この場面は物語の筋として一貫性はありません。唄入りでは「音頭」、合方では「木の葉合方」がだんまり風立ち回りにはよく使われます。山中で傷を負った武士が多勢を相手にする立ち回り場面。ごん、篠笛が入ったあとに合方がかかります。「義経千本桜小金吾」、「鈴ケ森」の立ち回りなどで。森閑とした感じがする合方です。 


 一方「時代だんまり」は「御目見得だんまり」といいまして一幕もので独立したものです。とくに物語性はありませんが、お家の宝、名刀、御旗などを奪い合うといったもの。顔見世、襲名興行のための狂言で、幹部俳優総出の豪華な舞台になります。美しい衣装を着けた様々な登場人物、侍、六部、姫、女賊などが繰り広げる歌舞伎絵模様。


 音楽の方を簡単に説明しましょう。だんまり前段は大太鼓の山おろしで幕が明くと浅黄幕外で雑兵の出這入りには早禅合方(鳴物も早禅)を弾く。雑兵が這入ると大薩摩になります。この大薩摩は黒御簾が舞台に出て演奏する数少ないものの一つで三味線は合引(台)に足を掛けて浅黄幕外で演奏致します。人物も背景も無くこの時ばかりは、唄と三味線の一丁一枚が主役となりフットライトを浴びる時です。大薩摩は以前は独立したものでありましたが現在は長唄の一部であり、大薩摩として演奏されるのはこの「だんまり」や「所作舞踊」だけです。豪快な節付けで、深山幽谷などを表現します。これから始まる舞台を暗示させる効果のあるもの。大薩摩が終わると、浅黄幕が落ち、セリの鳴物(太鼓、大小鼓、能管、大太鼓)になります。合方は長唄「鞍馬山」のセリ合方がほとんど使われています。セリフの間は「こだま入り合方」を弾き、立ち回りには竹笛入りの合方、夜神楽合方などが演奏されるのが極まりです。だんまり専用の合方でもあります。このあと鳴物「翔り」「山おろし」になり幕となります。宝物を奪った主役が花道七三で見得を切り幕外の六法となります。これには大太鼓の入った合方が使われます。
 この「だんまり」は音楽劇と言っても過言ではないでしょう。得に囃子方の活躍する場面ですね。黒御簾音楽の別格に位置するものです。

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