さらばPC−98
5.低迷期(1995年5月〜1997年9月)
1995年(5月〜)
将来のWindows95,そしてインターネットの利用を考慮した,「アドバンスド98」シリーズがこの年5月から発売される。それがPC−9821Xa7(ペンティアム/75MHz)/Xa9(ペンティアム/90MHz)/Xa10(ペンティアム/100MHz)である。これ以降のPC−9800系マシンはノートマシンやPC−9821Cb2のような「キャンビー」シリーズも含めて,全て,RS−232Cが115,200bps対応の高速型となっている。そして新Xaシリーズについては,旧PC−9821Xaで搭載されたPCIバスも搭載されていた。この新しいXaシリーズが,2003年まで製造・販売されたアドバンスド98シリーズの「原器」である,とも言える。よく言えば名器入りできる素晴らしいマシンなのだが,極端なことをいえば,PC−9821はこの新Xaでその成長が止まってしまった,と言っても言い過ぎではないと思う。
さて,この「アドバンスド98」シリーズの中でも変り種だったのがPC−9801BX4(AMD製486DX2/66MHz)である。95年当初に発売された人気機種PC−9801BX3が,中国生産だったこともあり極度の品薄状態になってしまったため,あわせて各種機能をさらに向上させて登場したのだ。
このマシンの変り種な点は,なんといっても「PC−9801」を名乗りながらシーラス・ロジック社製のグラフィックスチップを搭載していた点だ。まったく同じ筐体のマシンにWindows3.1プレインストールの,PC−9821Xe10があったので,「PC−9821Xe6」と命名してもよかったマシンだ。
この2機種,モデル末期にはペンティアムODPのそれぞれ63MHz版と83MHz版を搭載して発売された。市販用のマシンにオーバードライブプロセッサが搭載されたのは,あとにもさきにもこのマシンだけである。
そして11月,Windows95が出荷される。Windows95にアップグレードしようとしたPC−98ユーザが,POWER.EXEが常駐されていたためにアップグレードできなかった話があった。
プレインストールマシンでは,ここでようやく,富士通FMVデスクパワー対抗の「98バリュースター」,PC−9821V10(ペンティアム/100MHz)/V7(ペンティアム/75MHz)が登場する。「98フェロー」はここで消滅し,PC−9821Xa13をはじめとする「98メイト」は企業向け専用マシンという扱いになった。
一方,この年秋の話題と言えば,エプソンがPC−9800互換機の生産をやめたことが挙げられるだろう。その救済策として,従来からAT互換機用PC−X86エミュレータとして発売していた「98/V」を,それまでの「専用グラフィックボード+ソフトウェア」から,ソフトウェア単独でも動作できるようバージョンアップし,パッケージ販売するとともに,自社のDOS/Vパソコンにもプレインストールして販売した。
この「98/V」は,お試し版がDOS/Vマガジンに添付されたので,早速購入して試してみたところ,画像表示が遅く滑らかでないものの,そこそこ使えそうな感触があった。PC−9800用のソフトがDOS/Vマシンで使える,というのはちょっとした感動だった。と同時に,「PC−9800はこれでもういらない」ということも強く感じた。
1996年
Windows95のリリースにより,パーソナルコンピュータが飛ぶように売れた。もちろんPC−9821も空前の売上げを記録したのではないかと思う。それを表すかのように,今までとは比較にならないくらいたくさんの機種が登場した。
確かに職場では依然,PC−9801なり,PC−9821が幅を利かせていた。しかし,AT互換機でPC−9800用ソフトが動く「98/V」の出現で,完全にPC−9800系マシンに対する興味・関心が失せてしまった。 実際,この年に空前の数でPC−9821各モデルが登場したというのに,それぞれの機種に対する印象がほとんど思い出されないのだ。事実,この頃PC−9821Xc13という,同じ型番でタワーとデスクトップの両方のモデルを持つマシンが登場しており,それに今頃気づいて驚いているところなのだが,当時は全く気がつかなかった。
PC−9800アーキテクチャの問題として,「小型化が難しい」という問題が出始めたのもこの頃だと思う。確かに,日本でノートパソコンの市場を確立したのはPC−9801/9821であると思うが,PC−9800陣営から,なかなか携帯に便利な,つまり今でいう「モバイル」を意識したマシンが登場しなかった。唯一,エプソンから大き目のシステム手帳のようなPC−486が登場したこともあったが,いつのまにか忘れ去られてしまっていた。
この年話題を集めた機種として,東芝の「リブレット」がある。iDX4/75MHz採用ながら,ほぼVHSビデオテープ大の大きさで,VGA液晶を持ちWindows95がそこそこ動くマシンで,結構人気を集めた。PC−9821ではカスタムチップの割合が多くなってしまうため,逆立ちしてもリブレットのような超小型パソコンは作れかったのだろうと思う。
一方この年,WindowsNT4.0の利用を意識した「メイトR」シリーズ,PC−9821Ra20が登場する。PC−9821でもPentiumPRO(200MHz)が載せられるのかと,ずいぶん感心したことがある。
1997年(〜9月)
この年早々に,マルチメディア命令を搭載したMMXペンティアムが登場し,98バリュースター,PC−9821V200(200MHz)などに搭載される。また春にはMMXペンティアムとペンティアムプロを組み合わせたようなペンティアムIIが登場し,メイトR,PC−9821RaII23(233MHz)などに搭載される。
NECはUSBポートにも熱心なことから,新しいPC−9821にもUSBポートが装着されていた。テレビCFタレントも前年の大河ドラマの主役だった個性派男優を起用し,依然意欲的に販売しようとしていた。
また同時に「98セレブ」(PC−9821C233/Vなど)というマルチメディアパソコンをリリースする。MMXペンティアム(166〜233MHz)とワイヤレスキーボード,機種によってはDVD−ROMを搭載し,パソコン対応の大画面テレビもセットして60万円台というモデルもあった。「当社のパソコンの売り上げの10%は98セレブになる」との記述を新聞記事で読んだ覚えがある。
後年,あるテレビ番組で,病気のため寝たきり生活を続けているある作家が,ベッドに98セレブのワイヤレスキーボードを置き,大画面テレビに映し出された一太郎で執筆している場面が紹介された。「なるほど98セレブにはこんな使い方もできるのか」と感心したものだったが,実際には,98セレブはあまりに高価格でメーカーが思うようには売れなかったような印象がある。
この年夏,ふらりと大型家電店のパソコンフロアに入った。不況ながら仕事面で一層のスキルアップを図る目的でパソコン,特にノートパソコンを買おうと考える人は依然多かった。ところがそんな中で人影のない,がらんとしたコーナーがあった。何が展示されているのかと思ってよく見ると,それがなんと9821ノートだったのだ。
Windows95マシンという見方をすれば,DOS/VマシンでもPC−9821でも大差ないはずなのだが,がらんとしたコーナーを見ていると,ユーザーの9821離れはかなり深刻なのではないか,という印象を受けた。
実は,PC−9821Nw150(MMXペンティアム/150MHz)など,この当時の98ノートを触る機会が最近になってあったのだが,どのマシンもいまひとつ調子がよくなかった。もともとAT互換機用のOSであるWindows95と,98ノートのアーキテクチャの相性が,いまひとつよくなかったのだろうか。それを数多くのノートパソコン購入者が見抜いていた,ということなのだろうか。