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朝日新聞 2008.02.18
2008年(平成20年)2月18日  月曜日
裁判員時代

裁判員判決に大差
無罪〜懲役14年
同じ設定の殺人19地裁で模擬審理


 裁判員制度の導入を来年の春に控え、全国19の裁判所が、同じ設定の架空事件を題材に、裁判員役の市民を集めて模擬裁判を開いた。すると、「無罪」「有罪」と判断が真っ二つに割れ、同じ「有罪」でも罪の重さに懲役14年から5年までの開きが出た。最高裁は模擬裁判としては想定された結果だと言うが、本番では量刑の差が生じる心配はないのだろうか。    (山本亮介)
 
 〈レンタカー店で借りた車を自分の車だと思い込み、返そうとしなかった統合失調症の40歳の男性が、車を回収した店の58歳の従業員を刃物で刺し殺した〉。最高裁によると、こんな設定の模擬裁判が昨年10月以降、全国19地裁(支部含む)で開かれた。どの地裁でも、被告に犯行当時、善悪を判断し、それに従って行動する「責任能力」があったかが争点になった。
 刑法39条は「心神喪失者の行為は、罰しない」「心神粍弱者の行為は、その刑を減軽する」と定める。責任能力がない心神喪失の状態なら無罪。あっても著しく衰えた心神耗弱なら、有罪としたうえで減刑するという意味だ。プロの裁判官でもその判断は難しい。
 結果は表の通り、8地裁が「責任能力を認めるに足りる証拠はない」として無罪。11地裁は心神耗弱と判断して有罪としたが、量刑には懲役14年〜5年の差がついた。京都地裁は「懲役14年」。求刑は「懲役10年」だったが、裁判員役の市民から「被害者の遺族の思いも考えるべきだ」などの声が上がった結果、求刑を上回る判決になった。
 福岡地裁での模擬裁判では当初、裁判員6人全員が「被告は犯行後に逃走していた。合理的に行動している」と検察側の心神耗弱説を支持した。
 ところが、判決言い渡し直前、裁判官に「被告の行為に飛躍はないか」と尋ねられると一転。裁判官の「被告の行為は統合失調症の症状として説明できる」との意見に沿う形で「責任能力を認める検察の主張には合理的な疑いがある」と全員が無罪の判断に変わった。
 裁判員役を務めた会社員の男性(57)は「一般の感覚では、無罪とは言えないのでは、というのが本音。事件と議論の全体像をつかむのが困難だった」と話した。

最高裁「想定内」
弁護士会は懸念

 最高裁は「責任能力のような難解な概念を、裁判員にどう理解してもらえるかが重要」と模擬裁判の意義を説明する。「結果に差が生じるのは想定されたことで、比較するのは意味がない」 福岡県弁護士会・刑事弁護等委員会の古屋勇一委員長は「責任能力を争う事件は裁判官でも判断が難しく、一審、二審で結論が分かれることがある。量刑に差が出るのもやむを得ない」と指摘。本番では裁判官が過去の類似事件での量刑を一覧にした表を示すことなどで妥当な量刑に収まるだろうと見つつも「極端な差が生じ続けるようであれば、公平さを欠くのではないか」と懸念も示した。


■19地裁の模擬裁判の判決■
地裁名  責任能力の認定  判決  (求刑)
京 都  心神耗弱     懲役14年(懲役10年)
大 阪  心神耗弱     懲役9年(懲役12年)
大 津  心神耗弱     懲役9年(懲役10年)
青 森  心神耗弱     懲役8年(懲役10年)
高 松  心神耗弱     懲役7年(懲役15年)
山 形  心神耗弱     懲役7年(懲役10年)
東 京  心神耗弱     懲役6年(懲役10年)
札 幌  心神耗弱     懲役6年(懲役10年)
岡 山  心神耗弱     懲役6年(懲役8年)
函 館  心神耗弱     懲役5年(懲役10年)
松 江  心神耗弱     弱判決なし
鹿児島  心神喪失     無罪    (懲役10年)
盛 岡  心神喪失     無罪    (懲役10年)
名古屋  心神喪失     無罪     (懲役10年)
津     心神喪失     無罪    (懲役10年)
奈 良  心神喪失     無罪    (懲役10年)
福岡(小倉)心神喪失    無罪    (懲役8年)
宮 崎  心神喪失      無罪    (懲役10年)
福 岡  心神喪失      無罪    (懲役8年)

松江地裁は責任能力の有無だけを判断。地裁名のカツコ内は支部