No.486
朝日新聞 2008.01.28-02.01
2008年(平成20年)1月28日  月曜日  朝日新聞
生活  あなたの安心.

どうする?家庭で食育@

「食」の習慣は大切。でも、そもそも「食育」って……

 「まず、火の使い方から。絶対に火の上に顔を出しちゃいけませんよー」
 東京都の渋谷区立本町東小学校で昨年12月下旬の土曜日、16組の親子が厚焼き卵とピザトーストを作る催しがあった。題して「子どもの生活習慣確立プロジェクト 親子で楽しく朝ごはん!」。子どもの肥満・メタボリック対策の一環で、朝食を食べる習慣をつけてもらおうと区教委が開いた。指導した東京ガスの料理インストラクターは「冬休み、家でも作ってみてください」と、宿題も出した。
 実習の約1カ月後、成果の発表会が開かれた。小学4年の男の子と小学1年の女の子の母親(43)は、子どもたちが自宅でとても楽しそうにサンドイッチやパンケーキを作ったことを紹介。「今まで『ニンジンを切りたい』と子どもが台所にきても、つきっきりになるのが大変なので、避けたこともあった。反省しました」
 男の子はごはんばっかり食べる日、おかずばっかり食べる日と、食べ方にムラがある。女の子も好き嫌いが直らない。昔ながらの子の「偏食」の悩みだ。だから関心があると母親が言ったのは「食育」。
 05年に食育基本法が施行され、食育担当相も誕生した。06年には食育推進基本計画ができて、05年に3・5%だった子どもの朝食欠食率を2010年にゼロにするとか、食材や食の安全性の知識を高めてもらうなどの目標が掲げられた。
 「でも親自身、時間的ゆとりもないし、作法ひとつとっても、わからないことが多い。世界には食べられない子どももたくさんいることも知ってほしいんですけどね」とも言った。
     ◇
 食育をテーマにした昨年の内閣府の意識調査で「食育を実践している」と答えたのは半数強。「してない」理由は「関心あるが仕事などが忙しい」 「食育自体よく知らない」などだった。小学生ぐらいの子どもに、家でどう教えたらいいのか。
「どうする? 家庭で食育」は6回連載します。       (浅野真)

 


インストラクター(右端)から厚焼き卵の作り方を学ぶ親子=
東京都渋谷の区立本町東小学校で




2008.01.29

どうする?家庭で食育A

将来の「生活の自立」見すえ習慣作り

 「今や我が国の食をめぐる現状は危機的な状況を迎えていると言っても過言ではない」。食育基本法にもとづき定められた食育推進基本計画は、こんな厳しい現状認識をしている。
 子どもをめぐる問題でみれば、栄養や健康面では朝食を食べない「欠食」、偏食や過剰な栄養摂取による肥満の増加がある。「食べ方」では、1人で食べる「孤食」、一緒の食卓で家族が別々の物を食べる「個食」、はしの使い方やあいさつなどマナーの欠如が挙げられる。
 内閣府の食育推進担当参事官の深井宏さんは「子どもへの食育で、家庭の役割はきわめて大きい」と話す。昨年6月には、内閣府の食育推進有識者懇談会が重点事項として、生活リズムの向上など家庭で取り組める具体策を掲げている。
 ただ、実現はそう簡単ではない。食育コーディネーターの大村直己さんは「親世代がそもそも食育を受けてこなかった」と指摘。子どものころは、家庭科の授業でみそ汁とごはんを作った程度、家の中でも食事の手伝いより、勉強することを求められた世代で、食に関する知識や技術が伝承されていない。子どもへの食育は、そんな親たちの食生活改善にもつながる。
 では、何をすればいいのか? 大村さんは食育を「自立に向かう意欲を育むこと」と位置づける。「今の子どもは、大人が意識しないと自立しにくい時代に育っている。食育こそ、子育ての柱に」という。
 国が掲げる食育の柱はいくつもあるが、大村さんは生活、心、社会の三つの自立の観点で分類する。
「生活の自立」とは、主食と副食の組み合わせを理解する
▽簡単な料理ができる
▽食材本来の味がわかるようになること。
人と一緒に楽しんで食べたり、食文化を知ったりすることは「心の自立」につながる。地球規模の環境を考えたり、安易な食べ物の情報に惑わされない判断力を身につけたり
することは、社会人としての自
立へとつながる=図参照。
 食べることを重んじるのか、軽んじるのか。子ども時代の食習慣が、将来に影響を及ばす。

 



2008.01.30
どうする?家庭で食育B

飽食の時代に選ぶ力養う

 肥満傾向の小学生が増えている。学校保健統計調査によると、5年生では84年に6・8%だったのが06年は10・2%になった。今は、24時間営業のコンビニやファストフード店もあり、食べたい物がいつでも手に入る環境だ。何をどれだけ食べればよいのか。食べ物を選ぶ力を養うことが、大人になっての生活習慣病を防ぐことにもなる。
 NPO法人こどもの森(静岡県磐田市)の理事長で管理栄養士の吉田隆子さんは、十数年前から静岡県内の保育園などで食育指導をしてきた。その経験から「栄養学で説明しても、子どもには理解されない」という。
 吉田さんが提唱するのは「四つのお皿」という考え方だ。食べ物を主食、汁物、主菜、副菜に分類。黄色の皿はご飯、パン、めん類などの主食、白はみそ汁など汁物、赤はハンバーグ、焼き魚など主菜、緑はサラダなどの副菜とし、色と料理を結びつけて理解させる。
 自宅では、料理を実際に四つの皿に盛りつけて覚えてもらう。朝食での実践は難しそうだが、「毎日、手の込んだ4皿を並べるのは無理。副菜はりんごだけでもいい。4品そろえ、続けることが大切」と吉田さん。
 この考え方が身に付くと、外食やコンビニで買うときも、「もう一品」という発想ができる。「ラーメンライスって主食だけだ」とわかるので応用が利く。同じ主菜でも油が多いか少ないかなど、調理法も教えると、さらに理解が深まる。
 食べて代謝して健康をつくるのが基本で、吉田さんは排便も重視する。「うんちをした後、硬さ、色などをチェックする習慣をつけてほしい」という。
 摂取量の目安を知るには、厚生労働省などが作った「食事バランスガイド」があり、実際に自分の食事のバランスをチェックできるサイト(http://www.j−balanceguide.com\shokuiku/)もある。
 子どもの栄養で困ったら、身近な相談機関を利用しよう。栄養士や栄養教諭がいる小学校もあるし、自治体によっては管理栄養士らによる「子どもの栄養相談」が定期的に開かれる。

 



2008年(平成20年)1月31日
どうする?家庭で食育C

料理教えるなら小学生から

 食育の必要性は分かったが、でも、なぜ小学生のころから、調理技術が必要なのか。
 東京ガス「食」情報センター主幹の小西雅子さんは「おなかがすいたとき、コンビニに直行ではなく、自分で作るという選択肢も持っていることが大切」という。つまり、1人で家にいるとき、冷蔵庫にある材料で簡単な料理を作れるぐらいになろうよ、ということだ。調理では食材を触ったり、香りをかいだり、音を聞いたりするため、五感を研ぎ澄ます効果もある。
 小西さんらが首都圏の小、中、高校で調べたところ、食や調理への関心は小学生が最も高かった。技術の習得を関心の高さが支えるとすると、小学生のときが絶好の機会なのだ。
 最初は包丁とコンロの使い方から。正しい持ち方=イラスト参照=と、強火・弱火などの火力調整を教える。親のかかわりの目安を小西さんは「3年生以上は1人で、それ以下の学年は親の手助けが必要」という。
 調理手法では、「焼く」 「いためる」 「ゆでる」から始めるといい。小西さんのおすすめは卵焼きだ。材料が身近で、だれもが食べたことがあり、失敗が少ないからだ。アルミカップにニンジンやレンコンなどの薄切り野菜、生クリーム、チーズを入れてグリルで焼く「簡単グラタン」も、「切る」と「焼く」だけの料理だが、作る側に満足感がある。「蒸す」 「油で揚げる」は慣れてからがよい。
 キッチンに入るにあたってそろえたいのは、子ども用の包丁と体の大きさに合った高さの踏み台だ。このほか、子ども用の計量カップ、まな板なども売っている。
 親自身に教える自信がなければ、料理教室に入る方法もある。ガス会社や全国展開する料理教室などが、子ども向けや親子の料理教室を開いている。メニユーの幅を広げたければ、子ども用のレシピ集もある。
 始めたならば、継続させたい。そのコツは? 小西さんは「家族の『おいしいね』の一言。いかに喜んで食べるかが、子どもの達成感や継続につながる」と話す。

 


 


2008.02.01

どうする?家庭で食育D

成績の話食事中はしない

 1人で食事をとることを「孤食」と呼ぶ。国民健康・栄養調査によると、朝食を子どもだけで食べている割合は小学1〜3年生は88年に約27%だったのが、05年には約41%になった。
 発達心理学が専門の聖徳大学教授室田洋子さんは、子どもたちが描いた食事時の絵=下図参照=の分析を続けている。十数年前は食卓の片隅でさびしそうに食べている姿を描く子が多かった。ところが、最近は食卓の真ん中で好物を前に笑顔を見せる絵が目立ち、弧食の質が変化してきたと指摘する。
 「孤食が当然のようになっている。それではコミュニケーション能力が育たないし、食事マナーなども伝わらない。その結果、大人になっても人と一緒に食べられない人が増えている」と、その意味を読み取る。
 共働きで、子ども白身も塾や習い事で忙しい時代。室田さんは「一緒に食べられなくても、大人が食卓につくだけでもいいし、塾帰りの子どもが食事をしていたら、そばで親が果物を食べるだけでもいい」とアドバイスする。家族の人数が減ってもいる。家族だけを意識せず、近所の人やシングルマザーの家族同士で食べるなど、「一緒に食べると楽しいね」と子どもに思ってもらうことが大切という。
 ただし、一緒に食べるときの注意点もある。一つは食卓を「嫌な場」にしないこと。食事中、親がつい成績や生活態度について話題にしてしまう。「子どもは反論したくても、モグモグしていればできない。大人だってそんな場なら早く逃げたいはず」と室田さん。食事中にしからず、注意は別の場でするなど、大人側の意識の問題だ。
 もう一つは、配膳や後片付けはすべて親などと、子どもを王様にしないこと。「そんな食生活が思春期にも続けば、肥大した自我で、自分に仕えるのが当然と思う。勉強はできても、生活能力のない大人になる」と、室田さんはクギを刺す。小学3、4年生ぐらいは「私は役に立つんだ」と自己確認する時期でもある。後片付けを含め、かかわりを持つようにすることが、自発性を育むことになる。

 



2008.02.02

どうする?家庭で食育E
地産地消を心掛けよう

世界の人口は約66億人。国連の人口推計だと、現在10歳の子どもが働き盛りの40歳代になるころには、約85億人になる。だが、食料増産の見通しは明るくはない。農地拡大には限界があり、地球温暖化の農水産業への影響も心配されるからだ。
 「自分の食事が、世界の食糧問題や地球環境に関係ある、という想像力を働かせることが必要」と訴えるのは、農林水産省職員で、フードマイレージを研究する中田哲也さんだ。
 フードマイレージは、食料の輸入量と輸送距離を掛けた数字。遠い国からの輸入ほど輸送燃料が必要で二酸化炭素を多く出すため、環境負荷が大きい。
01年の輸入実績をもとにした試算だと、日本は年間9千億トン・キロメートル。米国の3倍、フランスの9倍になる。
 マイレージの算出では、輸出国の環境や資源への負荷は考慮していない。「ただ、食べ物がどこで作られたか、自給率の低さを子どもが知るにはわかりやすい指標」と中田さん。
 スケールが大きく、実感しづらいこのテーマに、家庭でどう取り組むか。食育プロデューサーの近藤恵津子さんは「選べるなら近くで作られた食べ物を買おうよ、という気持ちを持つ。無理しないのが長続きのコツ」という。いわゆる地産地消だ。もう一つは食品廃棄の削減。近藤さんの試算では、4人家族だと1週間で1`以上の食材を調理もしないで捨てている。
 子どもと問題意識の共有もしたい。近藤さんのおすすめは食材マップ。スーパーの食品チラシを切り抜き、食材を世界地図上に置いてみる=写真。距離感をつかめ、理解しやすい。食材宅配の「大地を守る会」は、主な食材のマイレージを示したホームページを開設(http://www.food-mileage.com/)。農水省も料理の自給率を計算できるソフトをホームページで公開している。近藤さんは「食べることは個人的行為だが、同時に社会性もある。一人ひとりの食べ方が未来を決める」と話している。(浅野真)