H改め


「さぁ、今日こそこの池の大蝦蟇にあたいの力を見せ付けて見せるわ。」
「わくわく」

ある春の日、蓮の浮かぶ大蝦蟇の池。今日も普段どおり無謀な挑戦を行うHことチルノ。
そして今日もまたそれを記事に書こうとはなれたところから観察する射命丸文。
全ては普段どおりのはずであった…。


================================================================================
「アイシクルフォール!」
気合の入ったチルノの声がこだまし、多数の氷弾が大蝦蟇に向けて襲い掛かる。
…しかし、当たらない。
別に大蝦蟇がかわしている、というわけではない。
大蝦蟇はチルノの正面におり、なおかつ一歩も動いていないのだから。

つまりはそういうことである。だがチルノはその事に何回やっても気が付かない。
ただどうして命中しないのかと首をひねるだけである。
…なぜならチルノだから。

そうしている間にも大蝦蟇はチルノに舌を伸ばし、飲み込む。
そして吐き出されたチルノがそのまま空を飛ぶ。全ては普段どおりであった。そう、ここまでは…。

「あーあ、明日もまた新聞の一面は『氷精、またしても大蝦蟇に一蹴される』ですか。
そろそろこのネタもマンネリ化してきましたね…。」
そうつぶやきながら文は吹き飛ばされたチルノの元へと向かう。

「チルノさん、大丈夫ですか? H戦全敗の感想などを頂きたいのですが…。」
文はそうチルノに声をかける。だが、普段ならもう起き上がって文句を垂れ流しているはずなのに今日は寝そべったままピクリともしない。
おかしいと思ってよく調べてみると、チルノの頭には大きな瘤が出来ており、近くの岩には何か硬いものがあたったような跡が残されていた。

「チルノさん? チルノさん!? しっかりしてください。」
あわてた文が揺すっても、チルノの目が開かれはしなかった…。



「ん…。ここは?」
そこは見慣れた我が家であった。
「あれ? 確か私、池にいたはずじゃ…。」
「あ、チルノちゃん、気が付いたのね。よかった…。」
チルノの思考は大妖精の声によって中断される。
「よかった…。もう二度と目を覚まさないかと思っちゃったよ。」
「どう、どこか痛いところはない? ゆっくり休んだ方がいいよ。」
周りを見渡すとリグルやミスティアなどの中の良い友人たちも居た。

「私、池にいたはずなのにココにいるってことは…また負けちゃったんだね。」
「うん、そのときに強く頭を打って完全に気を失っちゃったみたいの。
それで、側にいた射命丸さんがわざわざココまで運んできてくれたの。」
「アッ、わざわざありがとう。」
チルノは少し離れたところに立っている文にお礼を言う。
「イエイエ、チルノさんからはいつも面白いネタをいっぱいもらっていることですし。」
そう答えながら文は何か違和感を感じていた。見た目も、声も、全くのチルノ。だがおかしい…。
普段から養われた鋭い観察力が最初のチルノの異変を感じたのであった。

「みんなもありがとう。そして心配掛けてゴメンね。」
周りの友人たちにも謝るチルノ。だが、この後のチルノの違和感の正体が明らかになる。

「私、間違っていた。今やっと気がついたの。私は馬鹿だった。」
………………。
数瞬の間、まわりの皆が沈黙した。 いや、唖然としていた。
「今更やっと気が付いたのか!」という思い、そして何よりも「なぜチルノがそのことに気が付けたのか!」という驚きで完全に思考が中断していたからであった。

「…ち、ち、チルノちゃん、頭、大丈夫? ぶつけたところ、痛まない?」
「大丈夫だよ。もうゼンゼン痛くないよ。それに頭は『今までがおかしかった』の方が正しいと思う。
だって今まではほんの僅かな力で強い、と勘違いして弱いものいじめをしたり、強い相手に無謀に立ち向かっていったりしていたじゃない。でもそれじゃいけないって事に気が付いたの。」
チルノは心配する大妖精にとてもじゃないが信じられない、だが至極まっとうな答えを返す。

「だから私、明日になったらあの大蝦蟇に謝ってこようと思うの。
結局カエルを凍らせていたのだって軽い気持ちで命をもてあそんだことになるじゃない。そして、これからもっと正しい力の使い道を探してみたいと思うの。」
「ち、チルノちゃん…。」
いまだに信じられないのかざわめく妖精仲間たち、メモ帳を取り出し、一心不乱にペンを走らせる文、
そして大妖精は感激の余り泣き出していた…。


『チルノ、目覚める!』
この事は文々。新聞号外により直ちに幻想郷中に知れ渡ることとなった。


そして時が流れ、季節は春から夏を通り秋を迎える頃、チルノはあたりの妖精たちのリーダー的存在となっていた。
妖精の成長はその心の成長に比例する。そのためチルノの身体はこの短期間で急成長し、力もそれに応じて強力なものとなっていた。
だが、決してその力を無駄に使おうとしないその姿勢はある意味幻想郷で一番の大人と言えるほどであった。

そんなある日の夜。幻想郷のとある森で火災が起こった。
「枯れ木が倒れるときにほかの木とこすれて火が出た。」「弾幕ごっこの流れ弾が引火した。」
などの様々な噂が流れた結局出火原因はわからなかった。
ただ重要なのは折からの乾燥した気候により炎が猛スピードで燃え広がっていったことであった。

森に住む動物も、人間も、妖怪も、区別なく迫り来る炎から逃げ惑う。それは妖精もまた例外ではなかった。

「ち、チルノちゃん。もうだめだよ。このままだと焼け死んじゃうよ。」
「さぁ、早く。ココはもう持たないわ。」
迫り来る炎の近く、冷気を吹きかけ続けるチルノにリグルと大妖精が逃げるように促す。
「ダメよ。今ココを退いたらまだ逃げ切れていない動物たちがみんな火にまかれちゃう。
それに、力はこういうときのために使うものだしね。」
そういっている間にもどんどん火は迫ってくる。
「さぁ、リグルこそ火に弱いんだから早く逃げて! 大妖精ちゃん、リグルのことカバーしてあげてね。」
「う、うん、判った。チルノちゃんも絶対に死んじゃだめだよ。」
そして二人は飛び出す。既に火は退路にまで回りこみはじめていた…。

やっとの事で炎から逃げきり、後ろを振り返る。
そこにはもう道はなく、一面炎に包まれている森だけがあった。
「そ、そんな…。」
「こ、これじゃあチルノちゃんが…。」

二人が絶望しかけたその時、急に空が曇り、ゴロゴロと唸りをあげ始める。
そしてそれはすぐに大粒の雨となって炎の上に降り注ぐ。

「あ、あめ…!?」
「たすか、ったの?」
いきなりの大雨を信じられ無いとばかりに見つめる二人。その脇を漆黒の疾風が駆け抜ける。
雨で勢いを失った炎はその風の前に吹き消され、一筋の道を作ってゆく。
そして黒き風はは森を駆け抜け、Uターンして二人の元へと戻って来る。
「はぁ、はぁ、な、何とか、はぁ、間に合い、マシ…たねっ。」
風が完全に収まったとき、そこにはその羽根を全開にした文、そして抱きかかえられたチルノがいた。

「山火事だと聞いて、紅魔館の魔女に雨を降らしてもらって、そしてココまで戻ってきました。
ほんと、ひさしぶりに全速力を出しましたよ。」
息を整えた文が事情を説明する。
「チルノちゃんは無事なの?」
「はい、ちょっと危ないところでしたが何とか…。」
「…大丈夫みたいだね。ちゃんと息はしているし。でも…なんか縮んでない?」
そうこうしている間にチルノが目を覚ます。
「ん、んぁ〜、おはよう。でもなんであたいはこんなところにいるの? それになんで皆ココにいるの?」
「なんでって、あの火事の中たった一人残ってたんじゃないか。それでまた文さんに助けられたんだよ。」
「ん? あ、本当だ、もう消えそうだけど山火事になっている。でもそれとあたいが何の関係があるの?」
「ち、チルノちゃん、もしかして覚えていない?」
「うん、なんかずーと長いことグッスリ寝ていた気がする。寝る前は…そうだ、あの大蝦蟇と戦っていたんだ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・。
余りのことに一同は数瞬沈黙する。だがその静寂は文の大笑いによっていきなり破られた。
「ど、どうしたの? 射命丸さん!」
「文さん、貴方までおかしくなっちゃったの?」
心配する二人に文は心底おかしそうに説明する。
「いえ、ククッ、つまり、チルノさんは、力を全部使い果たすと同時に頭まで元に戻ってしまったんですよ。あはは、嗚呼面白い。」
急いでチルノの顔を見、そして納得する二人。
「ねぇ、よくわからないけどあたいくたくたでお腹減ったの。だからなんか食べよう。」
そしてチルノはヤッパリ空気の読めないHであった…。


チルノがHに戻ったということは文々。新聞により報じられたが、実は皆それほど驚きはしなかった。
「レティにもみせてあげたかったのにねぇ〜。」とは大妖精の談である。
ただ、そんなチルノであったが唯一つ、仲直りした大蝦蟇やカエルに力を使わないことだけはそのまま残っていたという…。
========================================================
後書き

ソースは忘れましたが(確か神主の発言だったと思います)「妖精の成長は心の成長に比例する」という事にヒントを得て書いてみました。
やっぱりペーパー用SSなので短くまとめるのに苦労した記憶が^^;
そして一番最後のところに一番思い入れが有ったりしますw


お戻りはこちら   TOPへ