「ッ! こ、これは……。 なんて、ことでしょう。こんなの成り立つわけないです。でも……。」
誰もいない一室、そこに少女の叫びがこだまする。
それは、この幻想郷の真実を一つ知ってしまったため。
知的好奇心からとんでもないパンドラの箱を見つけてしまったのだ。
知らなければまだ幸福だったかもしれない。だがそれはもはや意味のない仮定。
もはや自身の運命は決まったもどうぜ……
「いえ、まだです。まだ打つ手はあります!」
自身の諦め、ネガティブになりかけた思考を断ち切るように彼女は叫ぶ。
そして自身の言葉で落ち着きを取り戻した少女は素早く思考を切り替える。
【そう、自分は知ることができたのだ。そして自分の行きつく先が見えようとも、そこまでの過程はまだいくらでもあり得る。だから、まだ出来る事はあるはず。】
彼女は『自分は幻想郷でも頭がよく回る』と認識しており、事実そうである。おまけに楽観的な一面も持っている。
だから腰を落ち着けて考えればきっといい手が浮かぶはず、と考えていた。少なくとも気が付いてしまったこの時点では。
だがその直後、ある気配を感じた時彼女は真実に気がつくのが遅すぎ、そして早すぎた事を知った。
自分にとって最善の手は判る。だがそれは選べない。なぜならそれは自分を不幸にするから。
自分にとって最悪の手も判る。だがそれは選ばれた。なぜならそれは自分を幸福にするから。
そんな矛盾した思考の下、彼女は部屋を、家を飛び出し、黄昏の空へと飛び立った。胸いっぱいの絶望と、それに匹敵するくらいの多幸感を感じながら……。
ヒュン! ヒュン! ヒュンッ!
光が、エネルギーが、殺意を持った弾丸が黄昏の空を拘束で切り裂き、飛び交う。
魔力弾が炸裂し、鉄塊が、呪符が嵐のように荒れ狂う。
そしてそれらの余波が収まった時、一人の少女が傷つき、地に倒れ伏していた。
「ぐっ…。こ、この、ままじゃ、だめ、ぐぶぅっ! だ、め、なのか。わたし、も、ここ、までで……。」
もうすでに死を受け入れかけている少女。彼女の名は霧雨魔理沙。
その全身は血と泥にまみれ、あらゆる所に傷が現われている。流石に致命傷こそないものの立ち上がることはおろか出血により喋る事すら厳しい状況。
そしてもう止めを待つだけの魔理沙を見つめるのもまた一人の少女であった。
見つめている少女の名は八雲紫。その瞳に表れているのは深い悲しみと、わずかな迷いであった……。
今までの光と爆発、それは二人の戦いによって巻き起こされたもの。
それも最近の幻想郷でよく使われる『ごっこ遊び』によるものではなく、古き昔に使われた、お互いの命をかけた死闘によるもの。
だが、その勝敗は戦う前から付いていたようなものである。
そもそも妖怪は人間よりすべての面、特に肉体的に大幅に上回っている。
だからこそ、人間が妖怪と戦うときは策を立て、武器を使い、そして何より徒党を組み、集団として戦う。そうでなければ相手にならないからだ。
まして紫はかつて勇者、英雄と形容される人々が数十人束になっても仕留める事はおろか、封印することすらできなかった大妖である。
いくら魔理沙が幻想郷でも有名な人間といってももとより一対一で勝てる相手ではない。
だから逆にいえば、魔理沙はたった一人でよく持った方なのだ。もちろん魔理沙の実力にもよるが、最大の要因は紫にわずかに浮かんでいる迷いによるものなのだが……。
「さぁ、あなたに全く恨みはないけれど、これで止めよ。今楽にしてあげるから。」
隙間から取り出した鉄製の、外界の言葉で『道路標識』と名付けられた大型武器を頭上に掲げながら、紫は自身の迷いを断ち切るように言い放つ。
そんな紫の言葉に、魔理沙は諦めた、弱弱しい視線で自分に振り下ろされるであろう標識を見続ける。
そもそも、彼女は自分が殺されることにあまり多くの疑問を抱いてはいなかった。
もちろん無念ではあるし、やり残したことはいくらでもある。
だがその一方、人間を襲う妖怪と共存している幻想郷で生まれ育った以上、こうなる可能性も自然と理解していた。それに以前にも魔理沙を食料としか見ない妖怪に襲われた事もある。
さすがに襲ってくるのが八雲紫、というのはかなり意外ではあったが。
そして、「白玉楼に逝くのか? それともあの口うるさい閻魔の世話になるのか?」などと考えながら、振り下ろされる標識という名の死を見ていた……。
紫はせめて魔理沙に無駄な苦痛がないよう考慮しながら頭上の標識を振り下ろす。それで、全てが終わるはずであった……。
だが、爆音が響いたのち、そこにあったのは信じられない光景。
全力で振り下ろしたはずの標識は新たに現れ、わりこんだ少女の腕で食い止められ、魔理沙までは到達していなかったのだ。
「な、なんでお前が…。」
「な、なんという事なの…。」
魔理沙と紫がその少女を見て驚愕の声を上げる。だが、そこに込められた意味はまったく異なる。
魔理沙の方は完全に未知、理解ができないから。
だが、紫にとってそれは恐れていたことの具現化。汚染の拡大。
新たに現れた少女。それは幻想郷で二番目に真実に気がついた少女、射命丸文であった。
「『なんで私がここにいるのか?』 ですって? 答えは簡単です。」
呆然とする魔理沙ににこりと笑いかけながら文ははっきりと言い放つ。
「私が生きている間にあなたに死なれると私がとても【不幸】になるからです。
FIN……ではありません
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後書き
この話は私が「漆黒の堕天使来たりて」を書く前にプレビュー版を兼ねて作成した話です。
C74で無料配布したのですが、「漆黒の堕天使来たりて」が完成したのでその記念に乗せてみました。
本、特に下巻を読んだ方は分かると思うのですが、この時点で基本的な物語設定はすべて完成していました。
まぁ、魔理沙の謎、能力を私なりに解釈した結果だったりします。
そして続きが気になる方は「漆黒の堕天使来たりて」をお買い求めください(さりげなく宣伝ww)。
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