ソコでは全てを識ることが出来る。しかし何も知ることは出来ない。
第4話 知識と埃の墓場

ドガガガガガ、という音と共に紅魔館全域に激震が走る。
「どうやら上手くやってくれたようね。」
そう霊夢はつぶやくとすばやく換気のために開け放たれていた窓から館の廊下へと飛び込む。

あか、アカ、赤、紅・・・。館の外壁がそうであったように廊下も、壁も、ありとあらゆる物が紅かった。
それでいて趣味の悪さを全く感じないのはある種感嘆に値することでもあったが。

内部の使用人の注意は大破した大扉に行っているらしく、霊夢はわずかな数のメイドを打ち倒しただけで館の深部へと突入して行った。

「どうやら上手くいっているみたいね。しかし、それにしても広いわねぇ。ということは奥に空間を操ることの出来る能力者がいるわね。
こういうときは誰かを締め上げるのが一番手っ取り早いのだけど・・・。」

霊夢が手ごろなはぐれメイドでも居ないかと辺りを見回しているとある不自然なものに気がついた。
茶色の扉である。上質の木で出来たそれは普通の洋館ならば全く自然であっただろう。
しかし、紅一色に染められたこの世界では明らかにそれだけが異質であった。

「不自然なものには理由がある・・・。調べてみる価値は有るわね。」
扉にかけられた簡易結界をすばやく解除し、中へと進む。
するとソコは・・・見渡す限り本棚だらけであった。まるでほかの場所の「紅」をここだけ「本」に置き換えたかのように。

「うわ・・・。見渡す限り本、本、本ね。ここにこんなに本が有るという事はもう外の世界では本がなくなってしまったのかしら?」
そんなことを考えながら霊夢が本棚の奥へと進んでいくとそこには一人の少女がいた。
その少女、見た目は赤い髪に白いワイシャツ、そして黒いロングワンピースと場所が場所だけにどう見ても司書のようであった。
ただ背中とアタマに生えている2対4枚の羽を除けば。

「ちょっとソコの人!」
霊夢に気がついた少女が声をかける
。 「さっきの激振はあなたですか!? 全くなんて事をしでかしてくれたのですか!」
「いや、ちが・・・」
「つい今さっきパチュリー様は眠りにつかれたばかりなのですよ。ただでさえお体が弱いのにここ数日はずっと霧の調整でろくに休まれていなかったというのに、あなたという人はなんて事をしでかしてくれたのですか!」
言い訳をしようとする霊夢を制し、早口で言い立てる小悪魔。
流石に多少面食らったが、すぐに気を取り直す霊夢。
「ふーん・・・。つまりこの霧はその『パチュリー』と言うのが出していたのね。
今すぐ起こしてきなさい!」
「なっ!」 「私はこの怪しい霧をどうにかするためにここまで来たの。そいつが出しているというのなら話は早いわ。」
「そんなこと、させません!」
というが早いか小悪魔は羽を羽ばたかせ空に飛び上がり、攻撃態勢をとる。そしてそれに応じてて霊夢が構えた瞬間、
「うるさいわねぇ。真夜中なんだからもう少し静かにしてくれない?」

思わず霊夢が声のかかったほうに振り向くとソコには、
紫の長髪にピンク色のネグリジェ、そして同じ色のモブキャップといういかにもインドア派の小柄な少女がいた。
声は身体と同じく小さいがよく通る。それは多分彼女から感じられる強大な魔力が影響しているのだろう・・・。

(なるほどね。これだけの魔力があればあの霧を出せるのもうなずけるわね。)
そんな霊夢の考えを呼んだかのようにパチュリーが口を開く。
「あなたはあの霧を止めに来たみたいだけど、残念ながらもう無理よ。私がやったのはほんの調整程度。もうお嬢様で無ければ止められないわ。」
「じゃあそのお嬢様とか良いのがどこにいるか教えなさいよ。」
「じゃああなたはこの屋敷にいるもう一匹のネズミのことを教えてくれる?」
エッ!? という顔をする霊夢に対し言葉を続ける。
「それと同じことよ。あの子は私の親友でもあるの。だからあなたに・・・お嬢様の邪魔をさせるわけには行かないわ。」
その言葉と同時にスペルカードが発動し、まだ飛び立ってもいない霊夢の周りを炎が飛び交い始める。
「はっきり言って寝起きで機嫌が悪いから、一瞬で燃え尽きてもらうわ。 火符『アグニシャイン上級』」
霊夢を中心として飛び交う炎は徐々にその数を増していき、回転速度も上がっていく。
そして炎を竜巻となって燃え上がり、収束する。だが、何もかも燃え尽きたと思われた瞬間、竜巻から光があふれ出し炎は散り散りとなる。
「夢符『二重結界』。アレだけの魔法を無詠唱で撃てるのは流石だけど、私を焼くには力不足ね。今度はこちらの番よ!」

霊夢の周りを覆っていた二つの結界がパチュリーに向かって延びる。
互いに逆回転する二重の結界。一度それに囚われてしまえば双方からの圧力により結界と結界の間で潰されるという霊夢の大技である。
「ッ! そう簡単にはいかないわ。光符『ノンディレクショナルレーザー』」
パチュリーを中心とした空間全域に無数の魔方陣が浮かび上がる。それら一つ一つから大量のレーザーを放ち、また受けたレーザーを増幅させて打ち返す。
レーザーは『無軌道』という名のとおりありとあらゆる方向から霊夢と結界を狙い打つ。
魔力の光と結界の光がぶつかり合った後、両者のスペルはちょうど相殺、いや、霊夢の方は服が多少こげた程度だがパチュリーの方は多くは無いが確かにダメージをおっていた。

「どうやらあなたを甘く見ていたみたいね。良いわ、こちらも大技を使わせてもらうわ。」
「そうね。私もこれで決めさせてもらうわ。」
そういって両者が符を構える。パチュリーの言う「大技」がどれほどのものかを知っている小悪魔は急いでその場から逃げ出す。
霊夢の霊力にあわせ地面が、パチュリーの魔力にあわせ空が発光した瞬間!
「月符『サイレントセレナ』」
「夢符『封魔陣』」

パチュリーの魔力によりはるか天空から光の矢が降り注ぐ。それはまるで月の光が固まり、物質化したかのように。
霊夢の霊力により地面から光の柱が駆け上る。それはまるで光で織られた檻であるかのように。
二つの光は双方のちょうど中間で衝突し、激しい火花を散らす。
二つは全くの互角であった。しかし、時間がたつにつれ少しずつ天空からの光が弱まってゆく。
「!?」
パチュリーの一瞬の動揺を見逃さず、霊夢は符に気合を込める。
一度付いた勢いはとまらず、パチュリーはそのまま霊力の光に飲み込まれていった。

「ハァ、ハァ、勝負の差は、体力よ。」
額に浮かんだ汗を袖でぬぐいながら霊夢は言う。 「いくら魔力が強くても、それを扱う体力が下がっていればどうしようもないわ。まぁ、あなたが十分に寝ていれば別だったけど。」


そして紅き館の深淵部、少女は一人つぶやいた。
「一人はビビッテ逃げ出して、一人は光に飲み込まれた。これで残るはあと4人。」
そして少女はさもうれしそうに、扉の前に立つ。
度重なる衝撃で緩んでいた封印をあっけなく破壊すると、少女は部屋の外へと飛び立った。およそ495年ぶりに。



  「地獄巡りの片道キップは、貴様らの命で買ってもらおうか。」
第5話 The Incarnation Of Scarret Devil(紅魔の化身)

「おお、霊夢じゃないか、お前さんも派手にやったみたいだな。」
「魔理沙・・・。その縄をくくりつけている変なのはナニ?」
紅魔館奥へと続く通路。霊夢は魔理沙(&美鈴)と合流する。

「ナニ、便利な道案内さ。マスタースパークを見てもびびらなかったバカメイドには盾としてもつかえるがね。」
「全く、あんたという人は・・・。」
得意げに話す魔理沙に対し呆れ顔の霊夢。そしてそうこうしている内に美鈴はある扉の前で止まる。

「昨夜さん・・・。お嬢様・・・。美鈴は決して裏切ったわけではございませんよ。お二人が勝つと信じているからこそ侵入者をおびき寄せただけですよ・・・。」

「なぁ? この中国便利だろう?」
「そうね。この中に後二人いるってわざわざ教えてくれているんだもの。」
美鈴に聞こえないように二人が小声でささやきあっている中、美鈴かドアに手をかけ、開く。

次の瞬間、中から出てきたのは額にナイフが刺され涙目となった美鈴であった。
バタン! と美鈴が倒れ部屋の中が見渡せるようになる。中にいたのはたしかに二人。
一人はナイフを持ったメイド。もう一人はピンクのフリル服と帽子をかぶった少女。
その少女がゆったりと、優雅にかけていた椅子から立ち上がった時、最も早く反応したのは魔理沙であった。
突然のことに硬直したままの霊夢の手をとると天井に向かってほぼ垂直の急上昇する。
「ちょ、ちょっと!??」
「しゃべると舌をかむぞ。 星符『ドラゴンメテオ』」
スペル発動と同時に二人の身体が星屑をまとう。そのまま急上昇し天井を破ると方向転換し、加速度をつけ星屑を今までいた部屋に全て叩きつける。

「やったの?」
「いや・・・」
「今のは中々良かったけれど、あの程度じゃ私を倒すことは出来ないわよ。」
後ろからの声に振り向く二人。ソコには何時の間にか少女とメイドが。
そして部屋に居るときは気がつかなかったが少女の口には二本の牙が、少女の背には二枚の羽根が存在していた。 その二つを持っているのは吸血鬼。それも血を吸われてなった者ではなく、生まれたときから吸血鬼であった者のみである。 「まぁ、確かにこれならここまでたどり着けるのもわかるわ。もっともパチュまでやられるとは思っていなかったわね。そうは思わない? 咲夜。」
「ですがレミリア様、パチュリー様は徹夜明けに近い状態だったのでそれは仕方が無いかと。」
咲夜と呼ばれたメイド少女が主に答える。

「ノーブルヴァンパイア・・・。だから日の光をさえぎるために霧を出していたのね!」
「だろうな・・・。もうこうなったら解決法は一つしかないぜ。」
「ええ、もちろん判っているわ。」
「力ずくね!」
「力ずくだぜ!」

「全く、優雅さのかけらも無いわねぇ。まぁ、ここまで暴れてくれたのだからそれなりの責任は取ってもらわないとね。」
「はい、お嬢様。もう躾に使う地下室の準備は整えておきました。」
「流石は咲夜ね。じゃあ・・・紅月の夜に運命を垣間見るが良いわ!」
そう言い放つとレミリアは満月を背に大きく羽を広げた。



戦いは霊夢&魔理沙にとって不利に進んでいた。
双方とも高い実力を持っているために中距離戦がメインとなるのだが、霊夢や魔理沙が攻撃しようとすると何処からかナイフが飛んでくるため体制を崩してしまう。その分踏み込みが甘くなってしまうため戦はジリ貧に近い状態となっていた。

「クッ! 霊夢、あのナイフどうにかならないのか?」
汗をぬぐうまもなく魔理沙が霊夢に話しかける。お互いに服にはいくつもの切れ目が入っており、中にはその下の皮膚に赤い筋が走っているものもある。 「いや、アレは多分あのメイドの方の能力。でもその能力がわからないと手のうちようが無いわ。
ナイフを操るのがサイコキネシスでいきなり現れるナイフは空間制御みたい。でもそれだけでは説明のつかない何かがあるわ・・・。」
「スペルカードを使おうにもカードを取り出す暇が無い。」
そう言っている間にも大量のナイフが、深紅の衝撃波が二人の襲い掛かる。
ナイフは全て退魔針で叩き落すが衝撃波はマジックミサイルの爆風で相殺しきれず、直撃を受けた魔理沙が吹き飛ぶ。

「魔理沙ッ!」
霊夢が思わず叫んだ瞬間、爆風の中から赤き爪が振りぬかれる。
辛うじて払い棒で受け止めるもそのパワーによりそのまま吹き飛ばされる。
吹き飛ばされながらも放ったホーミングアミュレットも、レミリアはやすやすとステップでかわし、誘導の切れた護符は虚空へと消える。

「あら・・・。せっかくここまでたどりつけたのだからもう少し楽しませてくれると思ったけど。
まぁ、そろそろ終わりに・・・。」
ソコまでいたっとき、レミリアの目が驚愕に開かれる、隣の咲夜も驚きを隠せない。
その理由は二人にもわかった。何か、そうとても恐ろしいものが近づいているのだ。
魔力の大きさならレミリアの方が上であろう。だが感じられる魔力は、何かとても禍々しい物であった。

館から一人の少女が飛び出し、レミリアの元へと向かう。少女はレミリアにとてもよく似ていた。違う点を上げるなら血のような赤に染まった上着と七色のクリスタルのような羽、そして手に持った歪な形の杖であろう。
「い、妹様。ど、どうして、どうやってこちらへ?」
咲夜が動揺を隠せぬ声で聞く。
「簡単よ。扉の立て付けがゆるくなったからあけてお外に出ただけよ。」
そう、彼女こそが館の地下に閉じ込められ、数を数えていた少女。フランドールであった・・・。


この状態に最も早く反応したのは魔理沙であった。
「霊夢、下がれ。まとめて吹き飛ばす。」
その声を聞きあわてて飛び退る霊夢、そんな二人を見たフランはレミリアに対し、
「お姉さま、あいつらはコワシチャッテイイノネ?」
そう言うと返答も聞かず魔理沙に向き直る。すると手に持った杖が紅い炎を上げ始める。

「3人まとめて吹き飛ばす。 恋符『マスタースパーク』」
魔理沙から膨大なエネルギーが放出され、霊夢はマスタースパークの唯一絶対の安置、魔理沙の後方へと非難する。

「禁忌『レーヴァンテイン』」
フランの杖から紅い炎が立ち上り、魔理沙へと向かう。
それは炎に有って炎にあらず。狙った相手を必ず焼き払うという神話の剣の名を冠した炎である。

二つのエネルギーは中間でぶつかり、激しい火花を散らす。

「れ、霊夢、今すぐ・・・逃げろ。こ・・・の・・ままじゃ、パワー負けする。」
「ちょ!」
確かに火花は少しずつ魔理沙のほうへと近づいている。
「アハハハハ、パワーダウンした敵は、押し込むべきって言うわよね。」
火花はどんどんと魔理沙のほうへと近づいてゆき、そして終に爆発した。

辛うじて爆発から逃れた霊夢が魔理沙を探す。すると・・・居た。
吹き飛ばされて離れた位置にいる魔理沙に駆け寄ろうとすると、
「あら、友達の心配をするより自分の心配をしたほうが良いのでは?」
気を取り直した咲夜が目の前に立ちふさがる。
「邪魔よ、どきなさい。」
霊夢が珍しく感情もあらわに払い棒で咲夜へと打ちかかる。
咲夜もナイフで応戦し、一気に激しい乱打戦となった。
一瞬の隙を突き咲夜へ気合の入った一撃を入れる霊夢。だが確実に捕らえた、と思った時ソコには既に一枚のスペルカードが舞っているだけであった。
「奇術『ミスディレクション』」
何時の間にか回り込んだ咲夜の真後ろ上方からの浴びせ蹴り。霊夢は緊急回避である『幻想の穴』を使い短距離瞬間移動で受身をとる。
だが流石に衝撃を逃しきれずよろめくが、それを起き上がっていた魔理沙が支える。

「エッ!?」
「私は悪運がどうやら強いみたいでな。だがそれも時間の問題かもなぁ・・・。こいつら3人が相手じゃもう逃げることも無理そうだしな。」
半ばあきらめの表情で魔理沙がいう。だが霊夢は力強さを取り戻した瞳で返す。
「いや、あのメイドの能力は今のでひらめいたわ。そして攻略法も。」
「ナンダッテ、本当か!?」
「シッ! あのメイドの能力は時間、正確には時空間を操る能力よ。そしてその攻略法は・・・。」

そうしている間にもレミリアたちが少しずつ二人に近づいてくる。どうやらフランの事は後回しにしたようだ。
「そういうことよ。良いわね?」
「アア、大丈夫だぜ。」
「最後の相談はすんだかしら? たのしい紅い夢もそろそろお仕舞いにしましょう。」
無慈悲にもレミリアが二人に宣告する。そして再び戦闘が開始される。
二人は最初から明らかに劣勢であった。何しろどうやっても一人は2対1になってしまうのである。
完全の勝利を確信しているのかスペルカードを使われないことは救いではあったが、それすらも見方を変えればなぶり殺しに近いもの。
そんななかで魔理沙が咲夜に対しマジックミサイルを放つ。だがそれは密度も弾速も無くどう見ても苦し紛れでしかなく、咲夜は能力を使うまでもないとゆったりとかわす。
だが次の瞬間、マジックミサイルを霊夢が放ったニードルが貫き、大量の閃光を放つ。
余りの光量に離れていたレミリア、フランですら攻撃の手が止まり、至近距離で食らった咲夜は目を押さえ完全に動きが止まってしまった。
このときを見逃すはずも無く霊夢のホーミングアミュレットが咲夜に直撃する。
さらに魔理沙が最大加速で突っ込み、手に持った箒を叩きつけ、さらに駄目押しとばかり回し蹴りを入れる。

「咲夜!」
レミリアの悲痛な叫びが響く中、メイドは吹き飛ばされ、墜落する。そして「してやったり」というような笑顔で霊夢に微笑む魔理沙。
「・・・嘘だろう。」
だが、その笑顔はすぐに凍りつく。骨の折れた手ごたえまで感じたメイドが起き上がったのだ、その青かった目を真っ赤に染めて。

目が見えるようになったわけではない。だが敵の居る座標はわかる。今の今まで自分がいた場所なのだから。
「せ・・・め・・・て、一人、だけでも。幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』」
メイドが残った力全てを使い魔理沙へとナイフを投げつける。必死になってかわし、箒で打ち払う魔理沙、だが最後に一本だけはかわしきれず胸へと吸い込まれる・・・。

胸から紅い糸を出しながら倒れる魔理沙。余りの衝撃に声を上げることも出来ない霊夢。
そんな霊夢に大量の蝙蝠が襲い掛かる。
「紅蝙蝠『ヴァンピッシュナイト』 お前もすぐに友の元に送ってあげるよ。」
幾多の蝙蝠と化したレミリアがその爪と牙で霊夢を引き裂き、血を啜ってゆく。
これにはたまらずひざを突く霊夢。
霊夢への攻撃を続けながら気絶した咲夜がほかのメイドたちによって館の中へと連れて行かれるのを確認すると、レミリアは最後の攻撃に入るべく再びもとの姿へと戻った。

「貴方たちはちゃんとペットとして飼ってあげるから安心しなさい! 必殺『マイハートブレイク』」

レミリアがそのスペルを使用した瞬間、地面が、空が、月が、全てが血を垂らしたような紅に染まってゆく。
そしてレミリアの右手に紅い光が集まり、たちまちのうちに巨大化する。

「ふざけないで・・・。そんな、都合にいいこと、博麗の巫女である私が、許すわけ無いでしょう!」
外見だけ見ればどう見ても紅い巫女と化した霊夢。だがどこにそんな力が残っていたのか立ち上がりスペルカードを使う。

「霊符『夢想封印』」

夢想封印が発動するのと、レミリアが紅い魔力塊を投げつけるのは同時であった。
閃光を放つ8の光玉と深紅の投槍(ジャベリン)が正面からぶつかりあう。
1,2,3・・・紅い槍は光玉を次々と引き裂き、貫きながら進む。
だが次々と襲い掛かる光玉の前に徐々に勢いを失ってゆく・・・。
そしてついに7つ目の光玉で収束が解け、大爆発が起こる。
その爆風が収まったとき、立っていたのは霊夢であった。



  最後の一人は結婚し・・・。
最終話 そして誰もいなくなるか。

「さぁ・・・。今度は・・・、あなたの番よ。」
霊夢は息も絶え絶えとなりながら、最後に残ったフランへと向き直る。

「アハハハハ、最後に残ったのはあなたなのね。」
最初に魔理沙を吹き飛ばした以外自分から積極的に戦おうとせず、咲夜やレミリアがやられてもどこか他人事であったフラン。
「私が本気を出すとすぐに何でも壊れちゃうから、最後に残ったあなたなら丈夫なおもちゃになってくれるかなぁ、と思ったけど、そんな傷だらけじゃダメそうだね。」

「えっ!?」
思わず耳を疑う霊夢。今までのことは全て彼女にとって遊びであったとでも言うのか?
「一人は叩きのめされて、一人はナイフに突き刺さって、一人は巫女に封じられ、残りは一人となった。そして!」
次の瞬間フランの姿が掻き消え、スペルカードを使用する声だけが響く。

「禁弾『そして誰もいなくなるか?』」
誰もいない、何も無いはずの空間から次々と弾幕が打ち出され、霊夢へと向かってゆく。そしてそれらが消えた時、ソコには力尽きた霊夢が倒れ付していた。
「最後の一人は弾を避け切れず・・・
」 「そして誰もいなくなった、か?」
それを聞いたフランは初めて動揺の色を見せ、声のしたほうを向く。
ソコには、ナイフが突き刺さっているはずの魔理沙がしっかりと立っていた。

「ど、どうして・・・。なんで?」
「アア、それはこいつのおかげさ。」
魔理沙は胸元から何か穴の開いた金属製の物を取り出す。
それは先ほど魔理沙が美鈴の帽子から奪った星であった。
「これ、結構丈夫なんだな。こいつのおかげで直撃を受けても軽傷で済んだしな。」
「嘘、うそよ。そんなもので私の予想が、よみが外れるなんて・・・。」
だが、フランの動揺はとまらない。
普通の人や妖怪であればたいしたことではないのかもしれない。だが495年も孤独で世間を知らなかったフランにとってそれは信じられないことであった。

「それと、もう一つ。わかったことがある。」
「な、ナニ・・・?」
フランが恐る恐る聞きかえす。状況の変化についていってないのだろう。
「お前さんは外の世界に出れて喜んでいるように見える。だが実際には外の世界を怖がっている!」
「嘘よ・・・。私が怖がっているだなんて、そんな嘘ばかり言わないで!」
「嘘じゃない。お前さんが積極的に攻撃をしなかったのは待っていたからじゃない。始めて見る外の広さにおびえていたからだ!」

「嘘よ嘘よ嘘嘘うそうそうそウソウソウソウソ・・・・・・」
ついにフランは半狂乱になった。この事実は外に出たばかりのフランの心にとっては重すぎたのだ。
「嘘ばかり言う、お前なんかー! Q.E.D『495年の波紋』」
フランから衝撃波が放たれ、魔理沙へと向かう。だが魔理沙はそれを平然とすり抜け、一歩一歩歩きながらフランへと近づく。
「イ、イや・・・。来ないで、来ないで。」
衝撃波によって服はちぎれ、髪の毛も舞い、血もとぶ。
だが魔理沙は歩みをやめようとしない。
「聞くんだ。外の世界は確かに広い、そして怖いかもしれない。でも私が一緒にいてやる。そして教えてやる。だから・・・。」
もはや完全にうずくまってしまったフランのもとに寄る。
「一緒に来るんだ!」
そしてフランの手をつかんだ。



えぴろーぐ

それからしばらく後、やっと戻ってきた太陽はたちまちのうちに気温を上げ、気候はたちまち夏真っ盛りとなっていた。
そのため夕方になってもまだ涼しめるほど気温は下がっていないのだが・・・
「イヤー、ここはいつ入ってもちょうど快適な温度だなぁ。」
「そりゃあそうよ。ここは本を保存するのに最適な気温、湿度になるように調整してあるから。って、そろそろいい加減帰ってくれない?」

紅魔館大図書館。ここ数日ずーと利用している魔理沙に対しパチュリーが呆れ顔でいう。
「そういうなよ、せっかく霊夢からこんなにいい場所を教えてもらったんだから。もっともその霊夢も毎日のようにレミリア(とそのメイド)が来るってぼやいていたけどな。」
「はぁ・・・。どおりで黒鼠がやすやすと入ってこれるわけね。まぁ、あの門番じゃ仕方が無いけれど。」
そんな会話を交わしていると魔理沙に紅い影がのしかかる。

「ねぇ魔理沙、あそぼあそぼあそぼあそぼ・・・。」
「ああ、フランか。判った。判ったから。もう少ししたら日が暮れるからそれからだぜ。」
「イヤー、今すぐー。ねぇ、ここでもいいからぁ。」
「うるさいわねぇ。騒がしくしていると外に雨を降らすわよ!」
耐えかねたパチュリーが二人にはっきりと告げる。

「ヤレヤレ、仕方がないなぁ。とりあえず図書館の外に出ようぜ。」
不満そうな顔をしたフランをなだめ図書館の外に出ようとする魔理沙。
「魔理沙。」
ドアを開けて出ようとする魔理沙にパチュリーが声をかける。
「ありがとうね。」
それを聞いた魔理沙は照れ笑いをすると外に出てドアを閉めた。
窓から空を見上げると雲ひとつ無く、もう星が瞬き始めていた。
明日も幻想郷は暑くなりそうだった。


FIN


後書き
この作品は2月の第1回東方不敗小町に出した作品を加筆訂正したものです。
というか1年ぐらい掛けて書いている作品ですから最初のほうは文の区切り方が今と結構違うのですよね。
それを今風に入れ替えたのが一番の大きな訂正かな。

そして作品解説でも
タイトルの由来は桜庭統の名曲「The incarnation of Devil」より。
まぁ、紅魔郷の英語タイトル部分の「Enbodiment」を同義に近い「incarnation」に置き換えたという解釈も有りますがねw
後は『アースライトレイvsムーンライトレイ』とか『私の名前をいってみろ!』とか色々細かい小ネタを入れたりしてみました。
そして小悪魔が一番のヘタレだったりしますが気にしてはいけません。
ちなみに第5話はZDXストーリーモード(ニュータイプコース)のコロニーレーザー内部をイメージして書いたりしていました。2対3のところとか、『復活』(ラストスペル)するところとかねw

2006年 2月5日  初出
      8月14日 加筆訂正


後書きその2
私の一番古い同人作品なのでそろそろ良いだろう、ということでサイトのほうに載せて見ました。
何しろ前半部分を書いたのが3年前の第二回例大祭ですし^^;
それと、前述の通り加筆訂正はあまり行っておりません。誤字修正ぐらいはしましたが。
今から見るとかなり書き足りない部分もあるのですが、まぁ、自分自身の記録、という意味も込めて。

2008年6月7日



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