君がくれたもの U・サスケSide
「・・・ナルトがこの里から いなくなったよ」
まだ、サクラも来ては居ない。いつもなら、ナルトを誘って二人で集合場所に赴くのだが、今日に限ってナルトは既に家を出たあとなのか、いくらノックしても返事がなく、窓のカーテンもピッタリと締め切られて中を窺い知る気とも出来なかったため、取り合えず、集合場所に来てみたサスケは、ナルトの代わりに絶対にこの時間に顔をあわせるというい事がありえない人物が、しかも自分より先にその場所に現れているのをみて、多分に動揺していた。
その上・・・開口一番。何事なのかといぶかしんでいたら、何の前触れもなく聞かされた言葉。
―――いったい、何の冗談をいっているんだ?―――
サスケの一番の感想はソレで。まさか、そうして自分をからかう為だけに、こんな時間から待ち伏せていたんだと思いたくって。
「そんで、伝言預かってるから・・・サスケに。俺のことは忘れてくれってさ」
もう、サスケと居るのがイヤになったんだって。だから、居なくなるって。
「・・・昨日は、普通だった。分かれる時も、取り立ててオカシイとこなんてなにもなかったはずだ・・・」
呆然と、昨日のやり取りを思い出す。確かに、普通に分かれたのだ。じゃあな、てアイツが手を振って、そのまま振り向きもしないで走り去った・・・。そうだ、振り向きもしないでっっ!
いつもなら、何度か振り返って、「また明日!」て、言うか、なにかしら理由をつけて、大抵はどちらかの家に寄ったりするのだ。
いくら、「用事かある」といっても、あそこまで淡々とした態度でアイツが離れるわけがなかったんだっ!
だが、「居なくなる」なんて、そんな簡単に出来るわけが無く・・・。気が動転したサスケはほんの少し気づくのが遅かったが、それでもその矛盾にはっとする。
「・・・それは、抜け忍になったってことだよな?」
里から抜けるということは、忍である自分達にとっては、命を賭けた行為である。
抜け忍になれば、追っ手が掛かる。追っ手はもし、ターゲットを見つければ手加減無くその者を排除することだろう。問答無用で。そして、そんなことになれば、いくらカカシだとて、ここまで落ち着いているわけが無い。
―――コイツ、なにか隠してやがる!
きっと、睨み付ける、と何故か、満足そうにカカシはにっと笑った。
「さすがはサスケだな。動揺はしても、モノの心理はきちんと把握できるもんなぁー」
「俺は、お前になら教えてやっていいと思っている。てーか、お前には教えておきたいとは思っていたんだけどね」
―――事の真相を―――
「・・・なんでっっ!!なんであんたが知っていて、俺は知らねーんだっっ!」
「・・・それは俺が上忍で、それの警備にあたってたからだろ?」
わざと、意地悪くサスケに言葉をぶつける。
行き場のない怒りをぶつけるかのように、無言のままサスケは傍にあった大木を力いっぱいに殴りつけた。その拳からは、血が滴り落ちていた。しかし、それすら気にならない。自分の至らなさが心底悔しく、そんなことは全く気にもとまっていない様子だ。
「・・・ナルトからの伝言。お前だって本心じゃないって事くらい分かってんでしょ?」
「ナルトはさ、お前の夢の邪魔になると思ったみたいなんだよね。お前、最初に言ってたでしょ?夢は一族の復興だって。ナルト、子ども生めないからってさー。サスケは嫁さん貰って、子どもできれば幸せになれると思ったらしいぞ」
ただし、とカカシが続ける。
「ただし、理由はそれだけじゃないんだけどね」
「あんたは、どこまで・何を知ってるってーんだ!」
食って掛かるサスケに対し、意に介さないように、カカシは淡々と話を続ける。
「そんで・・・お前は、もうナルトの秘密には気がついたのか?」
「・・・秘密?」
「これは里のトップシークレットだ。本来なら絶対に教えられないが・・・。お前には教えておかなければフェアじゃない。これを聞いた上でも構わないというのなら・・・俺が全部教えてやる。ナルトの失踪の意味も何故、里で「抜け忍」がでたという騒ぎにならないか」
本当に危険な任務だったときにだけ見せた、あの鋭い眼光でサスケに問い掛ける。
―――どうする、サスケ―――?
それに対し、サスケの答えはすでに決まっている。迷うことなんて、何一つ無い。
「・・・全部教えろ。あいつのことは全て」
本当は、何かを隠していることは知っていた。時々、自分と居たときでさえ居たたまれなくなるような寂しい、あきらめたような表情でいることを。だが、問いただしたいと思うことは多々あったが、その度に、この上なく辛そうな、ただ「ごめんなさい」をくり返すだけのナルトにそれ以上の追求が出来なかったのだ。
・・・本当なら、ナルトに心を開いてもらって、その口から直接に聞きたかった事だったのが、どうやらそうも言っていられない内容のようだ。
サスケの真剣な・そして、迷いの無い瞳を見てやっとカカシは何時ものような柔和な顔に戻る。
「それじゃあ、先ずは―――」
「本当の伝言、教えてやるよ」
「・・・ありがとうってさ。幸せだったって、言ってたぞ」
そんで・・・
「・・・幸せになって欲しいんだと。お前には」
ナルト、凄くきれいに笑ってたぞ。サスケが幸せなら、俺も嬉しいって。
子供作って、一族復興して・・・夢をかなえて欲しいんだと。
「・・・そんな夢・・・とっくにどうでもよくなってるっ!」
――俺は、ナルトさえ居ればそれで良かったんだっっ。ナルトが傍に居て、笑って、たまには喧嘩もして。ナルトがここにいるということが一番重要なことなんだから。
そして、自嘲ぎみな笑みを唇に乗せて、
「・・・ナルトがいないってーのに、俺が幸せになんかなれるか?」
問い懸けの形は取って入るが、それは自分にとっての真実。もう、ナルト以外いらない。
一族なんて、知ったことじゃない!!
「・・・そう言うと思ったよ」
やれやれ、としかし、どこか嬉しそうにカカシが応じる。そして、サスケの本気を確認すると、カカシは常からは珍しい、重い口調で言葉を紡いだ。
「もし、お前が本気なら手がない訳でもない」
「・・・な、んだって・・・?」
「ナルトを目覚めさせることが出来るかもしれないよ」
「・・・目覚めさせる・・・?」
一体何のことだ?と訝しげに眉を寄せる。
「だから、それを・・・今から教えてやるよ」
「あいつの内には九尾が眠る。もちろん、サスケも九尾のことは・・・」
知ってるだろう?とその瞳が問い掛ける。
もちろん、サスケも知っていた。今から13年も前の出来事を。「九尾の狐」が現れて里を襲ったということを。だが、『襲った』ことは知っているが、それから九尾がどうなったのかまでは知らなかった。ただ、今現在、里がこうして存在しているのだから、もちろん、倒されたものと思っていたのだ。
「九尾はね、あまりにも強すぎて、倒すことは出来なかったんだよ」
「倒せなかった―――?」
「そう、倒せなかった。だから、九尾は今も存在する。『封印』という檻に入れられてね」
「―――まさか・・・それが・・・」
「おまえ、やっぱり察しがいいね」
幾分青ざめた様子のサスケにそれでも尚、続けて言う。もう、言わなくても分かってしまったろうことを
「その『封印』がナルトだよ」
「―――っっ!!」
やっとサスケにも何となくではあるが事情が飲み込めてきた。なぜ、抜け忍の捜索が行われないか、そして、カカシが言った『目覚めさせる』という意味―――。
「ナルトは、『九尾』の封印として、九尾ごと封じられた――・・・」
怒気を孕んだ低い声でサスケが到達した結論を言葉に載せる。カカシは黙ってサスケの言葉を聞いていた。
「・・・なんで、あいつがそんなマネされなけりゃなんねーんだっっ」
ぐいっと、カカシの胸倉をつかんで怒りをカカシに向ける。何も、カカシがそう命じたわけではないと言うことは頭では分かっているのだが、怒りの向く先がそこしかなかったから。
カカシは黙って、ゆっくりとサスケの手を離させる。
「・・・誰が命じたわけでもない。これはナルトが望んだことだ」
「・・・・・ナルトが?」
カカシは静かに言葉を続ける。
「ナルトは最近頻繁に夢を見ていたそうだ。林を駆け巡り、動物を狩る自分の夢を。その自分か『楽しそうに』獲物を狩っていたそうだ」
だけど・・・。カカシが続ける。
「夢だと思っていたことは、夢ではなかった。現実だったことに、ある日気がついた」
森の中・林の中の夢を見た後に自分の足についていたドロ。はじめは気のせいだ、と思い込もうとして、誰にも言わずそして、そのことを自分自身にも夢として処理していた。でも、その誤魔化しも効かなくなってしまった。
「森で・・・自分が獲物を手にして歓喜していた。そこで眼が覚めて・・・。そうして、眼を開いたら、現実にその通りだった」
自分で、自分の夢を暴いてしまったんだ。ナルトは・・・それが何の仕業か分かってしまったのだ。どういうことなのか、気づいてしまったのだ・・・
―――九尾が目覚め始めていると言うことに―――・・・
「誰か、大切な人を傷つける前にどうにかしたかった」
イルカをサクラをカカシを・・・その他、今まで出会ったたくさんの人々を・・・そして、一番に――・・・
「サスケを、守りたいから―・・・」
カカシは優しい眼をしていた。サスケを優しく見守るように見ている。ナルトの気持ちを代弁するかのように、暖かな瞳だった。
「・・・俺は、そんなあいつの気持ちなんて何も分かっちゃいなかったのか―・・・」
自嘲ぎみにサスケは俯く。分かっていたつもりで、何も分かっていなかった自分に腹が立つ。
「今更、もう遅いのか?あいつを取り戻すことは出来ねーのか・・・!?
「・・・方法はあるよ」
「―――!!」
思わず、ばっと顔を上げ、カカシの眼を覗き込む。嘘は無い、静かな色をたたえた眼だった。
「ナルトを目覚めさせる方法。お前に、それをするだけの決意があるかどうか、それが俺は知りたかったんだ」
「ただし・・・今のお前では絶対にムリだし、たとえ出来たとしても、成功率なんざ低すぎてお話にもならない。それこそ、奇蹟でもおこらんかぎりはね。そしてね、術者と被験者の両方が助かる見込みはもっと少なくなる。これは、本来、術者の命を代償に行う術だからね。だが・・・万が一、ナルトが目覚めても、お前が死んだりしたら、折角目覚めてもナルトのことだから、命を絶つだうね。多分、お前が思う以上に・・・ナルトにはお前が大事だから」
サスケがナルトを想うように、ナルトもサスケが大切だから。だから、サスケがいなければ下手をすれば九尾が解き放たれることも忘れて自分の命を絶つ道を選ぶだろう。
「だからお前は・・・もし、それを実行するのなら、自分自身すら救わなければならないよ?」
その覚悟はあるのか?と、いつもはちゃかしている瞳が真剣に聞いている。
「・・・あいつの為だって言うなら・・・俺は何だってやってさるさ」
アイツの願いなら全て叶えてやる。俺の幸せが、アイツの幸せで、アイツには俺がいないとダメだってんなら、アイツの為に自分は生き残る。
「・・・教えろ。その術を。必ず完成させてナルトを救い出す!!」
大いなる決心をその瞳に込めて、サスケはナルトの全てを救うことを誓った。
君がくれたものU
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