中島光孝 著
「還我祖霊」
〜台湾原住民族と靖国神社
■弁護士 小野順子■
「還我祖霊(かんがそれい)」とは、なんて難しいタイトルだろうか、というのが第一印象でした。もっとわかりやすいタイトルにした方が、売れるのでは? と思ったことも……。でも、中身を読んでいくうちに、なぜ著者(中島弁護士)が「還我祖霊」という言葉を題名に選んだのかが、よくわかりました。
「祖霊」とは、台湾の原住民族の言葉で、文字どおり「祖先の霊」という意味だそうです。「還我」とは、「私に返せ」あるいは「私たちと一緒に帰りましょう」という意味合いです。この本は、後半で、台湾の原住民族らが、靖国神社に合祀されてしまった祖先の霊を私たちに返せ、という意味で起こした台湾靖国訴訟のことについて、詳しく解説されています。(訴訟は、小泉首相が靖国神社に参拝したことにより、台湾原住民族らの自己決定権が侵害されたとして、国、小泉首相、靖国神社に対して賠償請求をした事件です。二審・大阪高裁〔2005年9月30日〕は、結果として原告らの請求を棄却したものの、小泉首相の靖国参拝は違憲であると断じ、戦没者の回顧祭祀に関する自己決定権を認めた画期的なものでした。)
そして、本の前半では、台湾原住民族の歴史について、詳しく述べられています。台湾は、朝鮮半島と同じように、かつて日本が植民地支配していたところです。しかし、朝鮮半島のことも知っているとはいえませんが、それよりもさらに、台湾のことについて、私は知らなすぎたんだなあ、という思いを強くしました。1930年10月、ダッキス・ノービン(花岡一郎)とダッキス・ナウイ(花岡二郎)が(二人は兄弟ではありません)、抗日のために武装隆起した同胞たちと日本との板挟みになって、それぞれの家族とともに自殺してしまうくだりは、涙が出ます。
タイトルの印象とは裏腹に、わかりやすく、一気に読めて、いろいろなことを教えてくれる一冊です。
(2007年2月
ララ通信
57号掲載)
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大川一夫 著
「裁判と人権」
平和に、幸福に生きるための法律ばなし
それはお金でもなく、権力でもなく。
あなたが幸せに生きるために、必要なもの。
すべての人を幸せにするために、必要なこと。
■弁護士 友弘 克幸■
「貝塚事件」をご存じですか?
1979年1月、大阪府貝塚市で強姦殺人事件が起きた。事件6日後に容疑者として逮捕された少年5人は捜査段階で「自白」。裁判では「警察官に暴行され、嘘の自白をしてしまった」と無罪を主張したが、一審大阪地裁堺支部は少年たちの主張を認めず、1982年12月、全員に有罪判決。5人のうち4人が控訴し、控訴審(大阪高裁)で国選弁護人に選任された弁護人がアリバイ証人や血液型の矛盾を証拠として発見・提出するなどしたところ、1986年3月、大阪高裁は劇的な逆転無罪判決を言い渡した。こうして、逮捕から実に7年以上の歳月を経て、少年たちの無実が明らかとなった。
想像してみてください。
逮捕されたのが、あなたの愛する家族だったら。
想像してみてください。
この弁護人が、無実の証拠を発見することができなかったとしたら。
考えてみてください。
なぜ、本当は犯罪を犯してもいない少年たちが、「自白」してしまったのか。
テレビで、こんな発言を聞いたことはありませんか?
「オウム真理教の教祖に国の費用で大人数の弁護団をつけるのは、税金の無駄遣いだ」
「和歌山カレー事件の被告人は、黙秘などしないで、被害者のために真実を話すべき義務がある」
「現在の憲法に国民の『権利』ばかりが書かれていて、『義務』がほとんど書かれていないのはおかしい」
一瞬もっともらしく聞こえますが、本当に正しいのでしょうか?
本書の著者は、20年以上のキャリアを持つ弁護士です。労働事件を始めとする民事事件はもちろんですが、刑事事件や、国家賠償請求訴訟、行政訴訟などにも多数関わってきました。4年前から龍谷大学で1回生向けに、本書と同じ「裁判と人権」と題する講座を持っています。本書は、彼の講義を聞いた学生からの「テキストはないのですか?」という声に答えて出版されたものだそうです。
さて、本書の内容を「あえて」一言で言うとすれば、「人権とは何か、そして今この国で人権は守られているか」ということになりましょう。(本書のタイトルには「裁判と」とついていますが、「裁判」はつまるところ人権を実現するための手続ですから、本書の本質は「人権」の部分にあると言ってよいと思います。)
著者は、「民事裁判と刑事裁判の違い」、「刑事司法における人権」、「子どもの人権」、「外国人の人権」、「労働者の権利」、「行政訴訟」…と、さまざまな分野から、この国の「人権」をめぐる状況について、縦横に語ってゆきます。「弁護士をしているとこういう相談を受けることが多い」「例えば、こういう裁判を経験した」という具体的な話を踏まえて説明されていますので、「人権とは何か」という難解なテーマも、無理なく理解できるでしょう。もちろん、一般民事事件を解決する裁判の仕組みなども、分かりやすく解説されていますし、特に労働法については、短い記述ながらもかなり高度な内容まで触れられています。
しかし、本書の圧巻は、何と言っても「刑事司法における人権」です。
そう、本書の著者こそ、冒頭に紹介した「貝塚事件」の控訴審(大阪高裁)で国選弁護人をつとめた弁護士なのです。本書の「貝塚事件」のコラムなど読むと、「えん罪」を今も作り続ける警察の手法、そしてそれを見抜けない裁判官の判断に、読者は背筋が凍る思いをされるのではないでしょうか。
刑事事件では、逮捕された被疑者や被告人は、国家権力の前に無力です。詳しくは本書に譲りますが、国家権力はあらゆる手段を使って無実の人をも「自白」させようとします。著者は弁護士になってから、一貫して刑事事件に情熱を注いできました。本書の行間に、読者は「無実の人を処罰してはならない」「どんな場面でも、人権は必ず守られなければならない」、そういった著者の強い信念を感じられることでしょう。
著者は刑事事件以外にも、「関西水俣病訴訟」では弁護団の一員として患者たちの権利のために戦い(昨年の画期的な最高裁判決のあとも、問題の最終解決に向けて弁護団会議は続いているそうです)、「小泉首相靖国神社参拝違憲訴訟」(先日、大阪高裁で「参拝は違憲」とする判決が出ました)では「良心の自由」のために戦い、本当に毎日忙しそうです。(これらの事件については、本書中の「コラム」に事件の背景や訴訟の内容など、興味深い内容がいろいろ書かれています。)
人権とは何か。
この難しいテーマについて、本書の1つ1つの言葉には、どんな「分かりやすい教科書」のそれよりも説得力があります。(市販の教科書の中に「講義のテキスト」が見つからず、本書を出版することになった、というのはいわば必然でしょう。)
改憲と人権制約の動きがますます加速しつつある今の時代、「現行憲法にはプライバシー権など『新しい人権』が織り込まれていないので、憲法にきちんと織り込む必要がある」といった「まやかし」の憲法論・人権論に惑わされないためにも、ぜひ多くの市民の方々に読んで頂きたい一冊です。
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■本の紹介
中島光孝 著
「還我祖霊」
〜台湾原住民族と靖国神社
2006年9月30日 初版発行
定価2200円+税
発行所
有限会社 白澤社
(はくたくしゃ)
大川一夫 著
「裁判と人権」
平和に、幸福に生きるための
法律ばなし
2005年8月15日 初版発行
定価2200円+税
発行所 株式会社 一葉社
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