COOL DOWN SidetStories
「冬のとある休日――紗夜の不安――」
written by シーカー



 冬のとある休日、わたしは駅前で「彼」が来るのを待っていた。今日は彼と隣町の映画館に行く予定だから。

 出かける前に見た天気予報では午後から雪が降るらしく、空はどんよりと曇っていた。待ちに待ったデートの日にこんな空では憂鬱な気分になる・・・ということは、わたしに限って言えば全くない。むしろ絶好のデート日和だった。だって太陽の光は厚い雲に遮られてるし、この寒さなら雨になる事もない。だからわたしにとって冬は一番好きな季節。他の季節はせっかく雲が苦手な日の光をさえぎってくれても苦手な雨になる可能性が高いから・・・。でも冬は雪になる事もあるし、見た目も儚くて綺麗だった。

 ふと時計に目をやると、約束の時間までまだ一時間以上あった。わたしは自動販売機でホット紅茶を買って「彼」が来る方向に目を向ける。当然彼の姿は見えないが、そんな事は関係なかった。だって「 「彼」の姿を探す 」という行為こそが重要なのだから・・・。早く来て、ある筈のない彼の姿を探しながら彼のことを考える――それはわたしにとって「彼」に会う為に必要な儀式であり、そして一番楽しい時間の一つでもあった。

 わたしは彼の姿が見つからなかった事に若干の落胆と安堵を感じながら、次に「 「彼」のことを思う 」ことにした。

 普段は無愛想で周りの事など気にも留めない「彼」だけど、時折見せる不器用な優しさ(彼はただの気まぐれだと言い張っている)がわたしはとても好きだった。それにいざというときの行動力もものすごく頼りがいがある。他にも彼の何気ないしぐさや照れたときの表情など、全てが好きだった。今のわたしが彼の好きでない部分を探そうとしても絶対に無理だと思う。

 でも・・・・・・



 ――― いつから「彼」の事がこんなに好きになったのだろう? ―――



 ふとそんなことを考えてみる。



 花壇の件でわたしを庇ってくれたから?


 何の取り柄もない、人ですらない根暗だったわたしを、彼が気にしてくれたから?



 ・・・・・・なんとなく・・・違う気がする。

 ・・・確かにきっかけはそうだったかもしれない。当時のわたしは誰にも相手にされず、虐められているときさえ他の人に無視されていから・・・。だから無意識のうちに支えてくれる人を探していたのかもしれない。

 最初の頃はそれを「彼」に求めていたんだと思う。遠くから見ているだけで幸せだったときなら・・・。人外のわたしが人を好きになってはいけない事はお母さまからいやというほど言い聞かされていたし、自分でもそれがはっきりとわかっていた。人が異端を嫌うという事は、当時いじめられていたわたしにはいやでも理解せざるを得なかったから。

 だからただすがりたいだけだったなら、いずれ確実に自分が人外であることがばれるであろう、ひいては更なる嫌悪や恐怖の視線に晒される危険を冒してまで自分の気持ちを「彼」に伝えようとは思わなかっただろう。

 一時的な安心感と引き換えの、更なる絶望を誰が欲しがるだろう!?





  ・・・・・・本当に・・・そう・・・だろうか?



 当時のわたしがそこまで追い詰められていなかったと本当に言えるの?


 もしかして「受け入れられない」ことを前提に、告白する事で気持ちに整理をつけたかっただけでは?


 あるいは自分が化け物という事実すら受け入れてくれたのだから、わたしの気持ちも受け入れてくれるかもしれないと?



 どんどん暗い方向へ考えが行ってしまう。

 もしかしたら吸血鬼事件のとき、せっかく彼が「いいよ」といってくれたのに拒否してしまったのも、「危機的状況の気持ちは本物の気持ちじゃない」なんてえらそうな事言ったのは、実はただの言い訳で本当は怖かっただけじゃないのかしら?



 そう・・・いつか彼に「化け物」と言われることに・・・・・・


 いつかぶつけられるかもしれない、嫌悪や恐怖の感情に・・・・・・


 自分から告白したくせに・・・・・・






「・・・・・・や、さや、紗夜」

「・・・え? 」

 顔をあげると目の前で「彼」が心配そうにわたしを見ていた。

 先ほどまで感じていた不安が消えて、代わりにうれしさと安心感が溢れ出てくる。

「どうかしたのか? 思いつめた顔してたけど・・・」

「え? あ、べ、別になんでもないんです!それよりいつ来たの? 」

「今来たとこだけど」

 そう言って「彼」はわたしが持っていた飲みかけの紅茶をひょいと取り、そのまま一口飲む。

「あ、か、克樹君?」

 間接キスという事実にうろたえているわたしの声を無視して、

「つめてっ! 完全に冷え切ってるじゃねーか・・・・・・ったく、いつから待ってたんだよ。これでも早く来たつもりなんだけどなあ」

 いや、そんなことよりそれって間接キス―――え?

 パニックになりかけた頭を冷静にしようとしてわたしは時計に目を向けた。


 ・・・・・・えっと・・・あれ?約束の時間より30分も早い・・・


「か、克樹君もずいぶんと早く来たんだね? 」

「・・・ああ、誰かさんが約束の時間よりずいぶん早く来て待ってるもんでな。あんまり待たせちゃ悪いと思って早めに来たんだが・・・ったく、もっと早く来ないとだめか・・・」

「そんなっ! ・・・そんな事気にしなくてもいいのに・・・その・・・わたしが好きで待ってるんだから・・・」

「俺が気にするんだって! ・・・ったく・・・ほら、上映までまだ時間があるからどっか喫茶店にでも入ってあったまろうぜ」

 そんな彼の優しさにわたしはふんわりと幸せを感じる。

 が、次の瞬間、先程の不安が横切った。



 「彼」は本当にわたしを受け入れてくれているのだろうか?


 いつかわたしの事を「化け物! 」と罵るのではないだろうか?


 あまりにも・・・・・・あまりにも「今」が幸せすぎるから「未来」が不安になる・・・・・・




「あ、あの、克樹君?」

「ん? 」

「えと・・・その・・・」



 ――― 人ですらないわたしでも本当にいいの? ―――



 こんな事を聞くのはすごく勇気がいる。拒否される事が怖いのはもちろんだが、何よりも彼の気持ちを疑っているようでいやだった。

 でもどうしようもなく不安な自分がいる。以前、彼から「気にしない」と言われたが、それでも今、もう一度「彼」から同じ言葉を聞きたかった。



 だから・・・・・・



「・・・・・・その・・・本当に気にしないの? 」

「? 何が? 」

「その・・・わたしが・・・吸血鬼・・・だってこと・・・ 」

 彼はあきれたような口調で、でも優しく微笑みながら、

「はあ・・・まだそんなことで悩んでたのか・・・前にも言ったろうが? 食い物が肉だろうが野菜だろうが血だろうが関係ないって。誰にだって好き嫌いがあるんだ。ただそんだけ。」

「で、でも、それとこれとは違うんじゃ・・・ 」

「俺にとっては同じことなんだって! ほら、いくぞ! 」

 そういって照れたように顔をそむけ、足早に歩き出した「彼」の背中を見ながらわたしは思った。





 ―――――――― 彼を好きになってよかった ――――――――





fin.

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