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「SURT」
written by hydra
かつて西ドイツと呼ばれた国の首都、ベルリン。
―――――ッ!」
現在では、ブランデンブルグ門やヴィルヘルム皇帝記念教会、ポツダム広場、ベルリンの壁などの観光名所を残しつつも、統一後は近代化が急激に進み、全体的に見て高層ビルが乱立する没個性的な都市となっている。
そんなベルリンの個性を埋没させている高層ビルの一室。
窓から夜景を見下ろしながら、ベルグマンは含み笑いを漏らした。
「くくく…もうすぐだ…もうすぐ…」
ベルグマンがそう呟いたとき、背後のドアがノックされた。
「入れ」
その声とともに開かれたドアから、黒服を着た男達に周囲を固められた一人の少女が入ってきた。
その男達全てが銃を少女に向けて、厳しい視線を送っている。
年の頃は13、4だろうか。
栗色の髪を金色のバレッタでまとめている。
何故か、日本のカトレア女学館中等部の制服を身につけているが…青みがかった瞳や彫りの深い顔立ちを見ると、どうやら染めているのではなく、地毛であるらしい。
「ようこそ、ドーラ・シュライヒャー君。待っていたよ」
「…で? 何の用? ここまでやって、一緒にお食事なんて言わないわよネ?」
「勿論。君が母上から譲り受けたそのバレッタが頂きたい…『それ』の使い方と一緒に、ね」
「…アンタ…これが何なのか知ってるノ?」
「無論…我らに輝かしいゲルマンの誇りを取り戻させる奇跡の水だと言うことは、百も承知だよ」
ドーラは、ベルグマンの頭上の壁に掲げられたハーケンクロイツを嫌そうに眺めた。
「最近、流行ンないわよ? そーゆーノ」
「流行廃りを気にしてはいないよ。真理とは常に不変で在り続けるモノだ」
「アンタらみたいな勘違い馬鹿と一緒ネ」
「言葉を慎み給え。口さえ聞ければいいのだ…何なら、君のお母さんや伯母さんに聞いてもいいんだぞ?」
「……。そう…最後に一つだけ聞かせて。シュミット・アルベスタって男を知らなイ?」
「ああ…あの腰抜けか。我らの高尚な理想を理解せず、目の前のことに目を奪われ、逃げ出した愚か者だよ、彼は」
「…2週間ほど前、彼は変死体で発見されたワ」
「彼は脱走した罪滅ぼしに、我々の研究に協力を快く申し入れてくれたのだよ。あんな結果になってしまって本当に残念だ」
「…だってサ」
「…?」
その言葉に、眉をひそめてベルグマンはドーラを見て、ふと気付く。
ブレザーの襟に引っ掛かっているピンのようなモノは、小型通信機ではないか?
「貴様、誰と会話している!」
「アンタの後ロ」
ドーラの声に振り返ったベルグマンに、凄まじい光が降り注いだ。
思わず手をかざし、目を細めて見たそこには…
「G−302J『アイン・ホーン』…最新型戦闘ヘリだと…?!」
そこにいる全員が呆気にとられる中、ドーラは腕に絡ませてあった多目的戦闘鞭『シュヴァンツ』を引き抜いた。
「ブリギッテ・アルベスタの依頼により…今から復讐を代行すルッ!!」
ドーラがそう宣言するのと同時に、6連装モータガトリングガンから放たれた20mmゴムスタン弾が雨霰と降り注いだ。
◇◆◇◆◇◆
ベルグマンは、廊下を走っていた。
「何だ…? 何だというのだ? あのヘリは? …むッ!」
空気を引き裂く音とともに襲いかかるそれを、ベルグマンは後ろに跳んで躱した。
それは空気を刃に変え、壁を切り刻みながら鎌首をもたげ、再度ベルグマンに襲いかかる。
反射的にガードした右手に絡みついたのは、金属繊維で編み込まれた長鞭の先端だった。
その鞭を辿っていくと、それを放った人物が見えた。
ドーラ・シュライヒャー。
制服や髪はつい先程までと比べてボロくなっているが、どうやら無傷であるらしい。
「大したものネ。あんなスピードで動けるなんテ…それも研究とやらの成果かしラ?」
彼は、組織が人体実験の末に作り上げた強化人間…薬物と外科手術によって体機能を数十倍に高められた人造の超人である。
銃弾の雨を難なく躱し、素手で人体を引き裂く人間兵器。
「無論だ…これこそ、新たなる世界の…」
「ハイハイ…」
溜め息をついた後…スッと、ドーラの目が細まる。
「それで、何人殺した? 何人の人生を狂わせタ?」
「ふん…生きていてもいなくても大差ない愚劣な…」
「黙レ」
ドーラは『シュヴァンツ』を握る右手に力を込める。
「その言葉…貴様にそのまま返ス!」
「ふん…小娘が…」
ベルグマンは腰を落とし、そして…
「ハッ!」
瞬間的にベルグマンの筋肉が膨張し、鞭が絡みついた右手を引いた。
小柄で40kg程度しかないドーラの体がアッサリと宙を舞い、引き寄せられる。
「死ね!」
空中にある無防備なドーラの首筋に、ベルグマンは左の手刀を放つ!
が…
「な?!」
ドーラの左手がベルグマンの手刀を受け止め、下に押す反動でドーラはまるで重さがないかのように、更に上に舞い上がった。
そして、金属の鞭『シュヴァンツ』が獲物に襲いかかる蛇のようにベルグマンの体に巻き付く。
「チチィ!」
舌打ちを打ちながら、ベルグマンは『シュヴァンツ』が体を締め付ける前にその輪から跳び出した。
「……あラ?」
仕留めたと思ったのだろう、素っ頓狂な声をあげたドーラ。
その隙をついて、ベルグマンは一瞬で肉薄する!
「もらった!」
人体など粘土のように引き裂く拳がドーラに叩き込まれた。
「
悲鳴すら上げられず、壁に叩きつけられるドーラ。
そのまま体が崩れ落ち・・・ようとする前に、ドーラは顔を上げて叫んだ。
「…痛ぁイ! 何すんのヨ!!」
頭を押さえながら―――涙目で―――元気に喚くドーラの姿に、ベルグマンが舌打ちを打った。
攻撃の瞬間、ドーラは咄嗟に左手で鞭を巻き取り、少し弛ませてベルグマンの拳を受け止めたのだ。
正確には運動エネルギー全てを受け止めることは出来ずに、吹き飛んだのだが・・・
いや、ドーラは軽すぎて吹き飛んで『しまった』のだ。
吹き飛んだ分、力が逃げてしまい、壁の衝突の際も受け身を取ったらしくダメージらしいダメージは受けていないようだ。
若干、受け身を失敗したらしく、後頭部にタンコブくらいは出来ているかも知れないが。
打撃はさほど有効ではない。
彼女は軽すぎるし、反応速度も速い。
ならば。
「むうううウ〜もう怒っタ! 手加減無しヨ!!」
ドーラはそう叫んで鞭を力一杯振った。
鞭が大きくしなり、力をその身に蓄えながら波打つ。
そして、その波が音すら超える速度にまで先端を加速させるのだろう。
だが。
「遅い!」
その音速にまで達した鞭の先端が壁を削り、床に食い込む。
ベルグマンは、あっさりと鞭を躱していた。
鞭はしなりによって先端を音速にまで加速させる脅威の武器ではあるが、そのしなりの為、トップスピードに至までに若干のタイムラグがあり、軌道も読みやすい。
勿論、これは並はずれた動体視力と運動能力を持ったベルグマンだからこそなのだが。
ベルグマンは、ドーラが鞭を持っている右手側に一気に踏み込んだ。
この角度ならば、先程のように鞭で受けることはできないし、何より――・・・
――――この間合いでは鞭は使えまい!
ベルグマンの左手が空気を掴み取るかのように力が籠もり、パキパキと乾いた音が響いた。
「まず…その小生意気な目を抉りだしてくれる!」
左の抜き手を放とう…として、ベルグマンとドーラの視線が一瞬、合った。
クスっと、ドーラの口元に笑みが浮かぶ。
「…ッ?!」
得体の知れぬ寒気を感じて、ベルグマンが咄嗟に飛び退くのと、右から彼に向かって何かが直線的に叩き込まれたのは、ほぼ同時だった。
「うお!」
予想外の攻撃に悲鳴を上げながらも、ベルグマンは何とか右手でそれをガードした。
「…棒だと?!」
その叫び通り、ベルグマンが受け止めたのは鞭ではなく『棒』だった。
鞭を巻き取るのならば、あのタイミングには間に合わなかっただろう。
だが、棒をテコの原理で横殴りに叩きつけるのならば…
ベルグマンが呆気に取られて動きが止まった瞬間、『棒』は硬度を失い、蛇のような動きで彼の右手に巻きつく。
「まさか…その鞭は棒にすることもできるのか…?!」
「そう、『鞭』から『棒』に変幻自在ってわケ♪ …それじゃ、いくわヨ!」
ドーラはそう叫ぶやいなや、身を翻してダッシュすると、大きく宙返りをした。
その運動と捻りが鞭を伝わり、増幅されて右手に伝わる。
手首が極まり、肘が極まり、肩が決まって―――…!
「うお?!」
ベルグマンは為す術もなく宙を舞い、空中で身動きのとれないベルグマンを今度こそ金属鞭『シュヴァンツ』が捕らえた。
ベルグマンは、そのまま地面に叩きつけられ、そして。
「こ…これは…!」
全身の関節という関節を極められていて、身動きが取れなくなっていた。
「ドラゴナー…『ドラッヘ・ベラィディグングスグリッフ』」
「…………一つ聞いて良いか?」
「なニ?」
「…なにゆえこんな…恥ずかしい格好で固められているのだ…?」
「知りたイ?」
そう言いながらドーラはデジタルビデオカメラを取り出し、ニヤリと笑った。
「な…何だ…お前は一体、何なんだ?!」
「…SURT」
「…何…?! …SURTとは何だ?」
「無力かつ善良な小市民に成り代わって、アンタらみたいな法で裁けないようなロクでなし共をお仕置きする正義の味方のことヨ♪」
「な!?」
「殺す気はないワ…大丈夫ヨ〜痛くしないからア♪」
「! や、やめ…?!…コラ! 何撮ってやがる! 止めろ! 止めないか! …止めて下さい! お願いしますううう!」
「いいわよオオ…次はこのポーズヨ!」
「はああああ!更に、この格好は…!イヤああ撮らないでえええ!」
「まだまだア〜! Seien Sie ein Gespott, solange Sie es zu Schrei machen…!」
泣いて謝るベルグマンに、ドーラが嬉々とした表情で叫んだ。
◇◆◇◆◇◆
北海を航行中の空母ライトニング・レディに、最新の戦闘ヘリ『アイン・ホーン』が着艦した。
コクピットから姿を現したのは、カトレア女学館中等部のベージュ色のブレザーを身につけてた少女だ。
後ろに流したロングの黒髪、切れ目の美貌。
中学生のクセに、すでに大人の色気を漂わせる恐るべき少女…片桐紗慧である。
「…あの…」
整備員の一人が、恐る恐る彼女に声を掛けた。
「整備をお願いいたします。整備、及び消耗部品の請求は『スルト』の方に…」
「いや…そーじゃなくて…」
そう言いかけたとき、グワシ!と紗慧の肩を何者かが掴んだ。
「さあああああええええええ〜よくも見捨ててくれたわねえエ!!」
「おや、ドーラ。そこはかとなくズタボロですね」
「ああ、そーヨ! 私がいるってアレほど言ったのに、まんべんなく機銃弾やらスタングレネードやらを鬼のよーに撃ち込まれた挙げ句、サッサと反転して帰るヘリに数時間もぶら下がってりゃあ嫌でもズタボロになるワ!バカタレえええ!!」
「…ひょっとして、泣いていますか?」
「うるさいやイ!大体アンタ!」
「余りにも嬉しそうにお仕置きをしていたので、邪魔をしたら悪いかと気を利かせたのですが」
「…うっ」
「あと、ジェット機の準備が出来ているはずです。今からなら、なんとか古文の小テストに間に合うかと」
「…次は絶対美緒に押しつけてやル…」
紗慧と違って古文がピンチなドーラは、ブツブツと呪詛の呟きを漏らしながら紗慧の後をついていったのだった。
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SURT…いつの頃から、そんなサイトがネットで噂されるようになった。 |
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