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序章
ニュヨークにそびえる摩天楼、その中の超高層ビルの最上階。
百万ドルの夜景とまで称された景色を見ながら一人の女性がグラスを片手に立っていた。
その青き瞳は煌びやかな夜景を写しながらもどこか虚ろだった。
「美しい夜景と言えど私の心の虚しさを癒してはくれない。」
そう呟き、女性はテーブルにグラスを置き、その横に在るタバコを手に取り火を付けた。
「友を亡くし、その敵さえ取れずに虚しき日々をおくる私の嘆きが判る?」
女性は煌びやかな装飾を施された部屋の中央に向かって言う。
そこには一人の男が立っていた。
ドアが開いた気配は無くその場に突然現れた様な唐突な登場の仕方。
しかも、その男の顔には古代の仮面が着けられていた、中南米の太陽王を象った仮面を着け
黒いスーツを着こなす風変わりな男、だがその男が放つ気配は美しい湖を思わせるほど静かさを
思わせるが、それで居て目を離す事を許さない。
「いつから其処にいたの?女性の部屋にはノックをして入るものよ。」
女性はそう言いながら男に向き直る、20代前半だろう端正の取れた肢体をナイト・ドレス
で包み美しい金髪を靡かせながら男に近付く。
「何か用?と言っても貴方が来ると言えば館長からの伝言ぐらいしか思い浮かばないわ
ねえ、シェピロ。」
シェピロと呼ばれその男、シェピロ・ダンストンは初めて口を開いた。
「日本国にてソーマ(神酒)が見つかった。」
「日本で!?ソーマはインドの神話じゃ無かったかしら?」
そう言って女性は優雅に髪を靡かせる。彼女はまたグラスを手に取ってワインを飲み始める。
「インドにあるコピーされた物では無く、オリジナルが発見されたのだ。」
その言葉に彼女は持っていたグラスを手から滑り落とした。
「何ですって!?オリジナル!あの神と同じ力を得ると言う、あの伝説のオリジナル・ソーマが!!」
「館長はお前にソーマ探索を命じられた。この任務ならシリウス、お前の望みも叶うだろう。」
シェピロの言葉に女性、シリウスは凄惨な笑みをこぼした。
「つまり、あの顔の無い男が出て来る訳ね。」
「そうだ、究極の情報網を持つあの男が見逃すはずが無い。」
シェピロの言葉にシリウスは嬉しそうに微笑む。
「館長に伝えてちょうだい。ソーマと共に我が友―桐古の敵、
ダーティ・フェイスの首も取ってきましょうと。」
そう言うシリウスの足元には先ほどのワインが血の様に広がっていた。
話題に上がった本人は、娘と共に久方ぶりの平和を満喫していた。
平和な風景とは日常的に生活できる事を指すのだろう、その日もその場所、
風苅町駅前フラワー通りは平和な日常を謳歌していた。
誰もが気軽に歩き、子供達の声がする、いつもと変わらない光景。
「ほら鷲士くん、このお魚美味しそうだよ!」
平和な町の魚屋の軒先で少女の声が聞こえる。
栗毛色の髪、メノウ石のような瞳、そこらのアイドルなど足元にも及ばない美貌
ハイテクちび魔王こと結城美沙であった。
「ほんとだ、美味しそうだね。今日の晩御飯はこれにしようか?」
美沙の隣に立つ青年はそう言って魚を買っていく。
青年を評すると、とにかくみすぼらしい、なにがみすぼらしいって
持っている買物袋がみすぼらしい、かけた眼鏡がみすぼらしい
そのみすぼらしさは溢れ出る生活感に起因するのだが、昔の侍が持っていた潔さ、
武士は食わねど高楊枝を地でいっている様な潔さ。そんな物を感じさせる
―美沙の無敵パパ育成計画で寿命と引き換えにみょうなやぼったさが消えつつある―
我らが主人公、草刈鷲士であった。
魚屋にて買物を済ませ、家路についた二人を一人の男が尾行していた。
身長190cm、歳の頃は三十前後、髪を短く整え、鋭い眼光を持ちこの暑い日にも関わらず
黒いコートを着こなし、はたから見れば変質者に間違われてもおかしくないのに
誰も関心を示さない、不思議な男。
「あれが結城美沙か。幸せそうな顔をしているな、父親と共に居るからか。」
そう男は言い、幸せそうな親子の後ろを付かず離れずの位置にて尾行していた。
第一章 平和な風景を奪う者
幸せそうな親子を尾行する謎の男はその親子―鷲士と美沙に気付かれないように後を付ける
そして二人が町の角を曲がったのを見てそれに続く、だが次の瞬間男は二人を見失った。
「参ったな、気付かれていたか。」
そう男が愚痴を言っていると、横の工事現場から声が掛かった。
「当たり前でしょ!それだけ怪しいカッコをして目立たない訳ないでしょ!!」
男が横を見るとそこには美沙と鷲士が待ち受けていた、美沙は愛用のグロック
(既に初弾は装填ずみ)を向け、鷲士も戦闘態勢を取っていた。
「そんなに変か?けっこう気に入ってるんだがな。」
男はそうとぼけると、鷲士が鋭い眼光を放ちながら訪ねる。
「貴方はミュージアムですか?」
「いいや、違うよ。」
「ならば、何故僕達を付けていたんですか!?」
鷲士の問いに、男は困ったような顔をして頭を掻いた。
「やれやれ、ばれていたか。」
そう言って男は鷲士達に向き直ると無造作に近付いていった。
「自己紹介をしよう、俺はアルモス、結城美沙、君を殺しに来た。」
男はそう言い放ち、鋭い眼光で美沙を見た。
「な!ふざけんじゃないわよ!!」
そう言って美沙はグロックの引き鉄を引いた。
だが、グロックから放たれた銃弾は男の手前で弾かれた。
「本気でやんな、さもなきゃ死ぬぞ!」
「そんな事はさせない!!」
「やる気だね!娘を守る為か。」
鷲士の気迫のこもったセリフにそう言うと男、アルモスは軽く膝を曲げ右手を引き、
左の手のひらを鷲士に向け構えを取った。
先に仕掛けたのは鷲士だった、アルモスに向かって大きく踏み込みながら低い態勢から右手を
つきだす−九頭・右竜翔扇−だがアルモスは鷲士の右手を左手で掴み身体を回転させ
そのまま鷲士の顔めがけ右の肘打ちを放つ。
だが鷲士もアルモスの左手首を掴むとそれを支点に身体を回転させ側頭部に膝げりを放つ。
お互いの技が絡み威力を半減させた。
美沙にとっては一瞬の出来事であった、次の瞬間二人は距離を取って対峙していた。
次の瞬間、今度はアルモスが仕掛けた。一瞬にして鷲士の懐に飛び込み右肘を撃ち込む
鷲士がそれを肘で迎え撃つ、だがアルモスの攻撃はそれだけで終わらなかった。
肘打ちの勢いを利用しそのまま回転し左肘を顔目掛け撃ち込む。
鷲士はその肘打ちを受流す−九頭・左竜輪剄−だがそれすらもアルモスは身体を回転させ
向きを変えられた力の流れに逆らわずそのまま身体を流した。
「九頭竜の技を流した!?」
鷲士は少なからず衝撃を受けた、間違い無く相手は九頭竜を知っている。
そして自分の仕掛けた技は全て返された。
「ふ、ふははは!こいつは驚いた、九頭竜か!鬼神が使う蝦夷の技を受け継ぐ者がいると
聞いていたがお前の事か!? 草刈鷲士!!」
そう言って再び構えを取った時、彼等が戦場とした工事現場に置いてあった資材が突然
幾つも浮き上がり、アルモス目掛け突っ込んで行った。
「これは?樫緒くん!?」
鷲士が辺りを見まわすと工事現場の入り口に高級リムジンが停まり、その前に美沙の双子の
片割れ結城樫緒が立っていた。
「あんた!いつの間に!?」
鷲士の戦いに気を取られていた美沙は、樫緒の存在に全く気が付いていたかった。
「実は、姉さま憧れの『余裕だニャンさまの肉球』とやらの新製品が手に入りまして、
お持ちしてみようと思って来たのですが。」
来てみて正解でしたね、と樫緒はスクラップと化した資材の山を見る、幾つもの資材は
アルモスを完全に押し潰していた。
「先ほどから一部始終を見ていました。父さん、姉さまを助けるのは結構ですが
もう少しスマートに助けられませんか?」
そう言って樫緒は美沙の側に行く。
「なんにせよ、助かったよ樫緒くん。」
双子の側に来て鷲士は樫緒に笑いかける、だが樫緒は少し頬を赤らめ
「僕は姉さまを助けただけです。」
と言った。
その態度に鷲士が苦笑していた時、突然瓦礫と化した資材の山が崩れた。
「中々やってくれるじゃないか!え、結城の御曹司。」
瓦礫の中からアルモスが出てきた。
「無傷!?」
瓦礫から出てきたアルモスは全くの無傷だった。
鷲士と樫緒は美沙を背中に庇い、アルモスと対峙した。
樫緒は再び力を使おうとしたが、それを鷲士が止めた。
「先ほど鬼神って言いましたが、まさか師匠の事を知っているのですか?」
だがアルモスはそれに答えず鷲士達から距離を取ると、身体に付いた埃を払い
「此方から仕掛けておいて申し訳無いが、ここは退散させてもらう。」
そう言ってアルモスは身を翻し工事現場の囲いを飛び越えた。
すぐさま鷲士も後を追いかけるが、囲いを越えた時男の姿は無かった。
「一体何者なんだ。」
だが、鷲士の問いに答える者は居なかった。
第二章 彼方より禍きたる
先の襲撃を退け、鷲士達三人はアパートに戻り今後の対策を練った。
「あの男!!姉さまの命を狙うなど、今度会ったらバラバラにしてやります!!」
「その前に草薙で骨も残さず蒸発させてやる!!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。」
激怒する二人を落ち着かせようと宥めながら鷲士は先ほどのアルモスが言った言葉を
思い出していた。
『鬼神が使う蝦夷の技を受け継ぐ者がいると聞いていたが』
あの男は九頭竜を知り戦い慣れていた。
「結局、あの男は何者なんでしょう?」
樫緒がそう疑問を投げ掛ける。
本人も答えを期待してなかったが、以外にもその答えのヒントが鷲士からもたらされた。
「彼は九頭竜を知っていた、鬼神が使う蝦夷の技と。」
鷲士の言葉に双子は揃って怪訝な顔をした。
「つまり、あいつは九頭竜を知っていたって事?あんなマイナーな拳法をよく知ってるわね。」
美沙の情け容赦無い言葉に、鷲士は汗ジトになりながら言葉を続けた。
「九頭竜の歴史の中でも鬼神とまで呼ばれるほどの使い手は数少ない、けど僕は一人ほど知っている。」
「それは?」
「僕のお師匠−鈴木哲郎さ。」
「鷲士くんの師匠!!?」
鷲士の言葉に双子が驚いている頃、成田空港に一人の女性が到着していた。
ロビーを横切るその肢体、流れる金髪、外国人など見慣れた人々ですら思わず目を奪われる
白いワンピースに身を包み流行りのサングラスを掛け歩く姿は圧倒的な存在感を与えた。
「ここが日本、我が友の最後の地、顔のない男がいる所。」
そう言って、サングラスを外した顔は紛れも無くシリウスだった。
そのシリウスに向かって複数の黒服の男達が近付く、その中の一人が進み出て低頭した。
「お待ちしておりました、ハイ・キュレーター ミス・シリウス・スコール様。」
「出迎えご苦労様。」
そう言ってシリウスは男達を従え、出口へと向かう。
「で、何か進展は?」
「は、例の物を守護する一族を発見しました。現在別働隊が向かっております。」
「そう、時間が惜しいわね私達もすぐ向かいましょう。どうせあの男も
気付いているでしょうから、ホント楽しみね。」
そう言ってシリウスは楽しそうに微笑んだ。
一方、我らが主人公は双子に急かされ数年振りに師匠に連絡を取ろうとした。
電話をして待つこと数秒、そして鷲士はおもむろに顔を上げ。
「留守電サービスだ。」
「な、九頭竜の師匠がピッチを持っているだけでも驚きなのに、留守電さーびす?」
「美沙ちゃん、一体九頭竜を何だと思ってるの?」
親子がボケボケの会話をしていた時、安っぽい軍艦マーチが鳴り響く。
「もしもし、冴葉?どうしたって言うのよ?」
『ボス、成田空港にハイ・キュレーター シリウス・スコールが現れました。』
「シリウス!?まさかあの狂気の彫刻家って言われる!!」
『そのまさかです。すでに彼女は空港を出て高速に乗りました、現在目的地を調査中です。』
「どうしたの美沙ちゃん?」
美沙の様子から只ならぬ気配を感じた鷲士はそう問いかけた。
「実は、とんでもないハイ・キュレーターが来日した様なの。」
美沙の顔にはっきりと嫌悪の色が見受けられる。
「シリウス・スコール、とてつもない悪趣味なハイ・キュレーターよ。
そいつはメドーサの息吹って言うハイ・アートーを使い
数百人の人間を生きたまま石の彫刻にした芸術家気取りのサイコ女なのよ。」
美沙はそう吐き捨てるように言った。
「ミュージアムが動き出した以上、私達もこうしちゃ居られないわ。
鷲士くん!すぐに出発しましょう!!」
美沙の言葉に鷲士と樫緒は度肝を抜かれた、先ほど命を狙われたばかりだと言うのに!
「ち、ちょっと待ってよ美沙ちゃん!?君は命を狙われているんだよ!今、下手に動くのは危険だよ!!」
「そうです姉さま!相手が何者か判らない以上ここはもっと情報を集め対策を練るべきです。」
「二人とも何言ってんのよ!ミュージアムの好き勝手にさせる訳には行かないのよ!!」
美沙はアパートを飛び出しそうな勢いだったが、結局鷲士と樫緒の懸命な説得に合い
最後には美沙が折れた。
だが、鷲士と樫緒はまだまだ甘かった、それはその日の夕食の場で証明される。
「美沙ちゃん、今晩は肉じゃがと焼き魚だよ。」
「は〜い♪」
鷲士の呼びかけに嬉しそうに美沙が答える。
二人はちゃぶ台の上にある鷲士の手作り料理を食べながら親子の会話は昼間の出来事に流れる
ちなみに樫緒は大切な会議が在るとかで夕飯の招待を辞退した。
「美沙ちゃんミュージアムの事も気になるけど、今は君の事を狙っている人がいるんだから
もっと慎重にしなきゃ。」
「分ってるわよ、鷲士くん心配性なんだから!それよりもお茶が無いんじゃない?
入れたげる。」
美沙はそう言って鷲士の湯呑にお茶を注いだ。
「ありがとう、美沙ちゃん・・あ・れ・・」
お茶を飲んだ途端、激しい眠気に襲われ鷲士はその場で眠りこけてしまった。
「こめんね鷲士くん、でもミュージアムの勝手にはさせられないのよ。
と・く・に・あのサイコ女はね。」
そう言ってちび魔王は携帯電話で連絡を取り、ミュージアム追撃の準備を始めた。
第三章 狂気の芸術家
その頃、シリウス達は山梨県の人里離れた地を目指していた。
富士の樹海に近い山間に一軒の屋敷が建てられていた。
「ここね、守護者の一族が住む屋敷と言うのは?」
「は、ミス、シリウス。」
黒服の男達を従えたシリウスは屋敷の門をくぐり中に入った、そこは既に黒服の男達により
制圧された後だった。
「で、守護者の一族は?」
「は、大広間に集めております。」
男の答えを聞き、シリウスは屋敷の中央部にある20畳ほどの部屋に入っていった。
「こんばんは、守護者の方々。」
そうシリウスが声を掛ける。だが守護者の者達は皆、口を閉ざし憎悪を込めた眼差しで睨みつける
その中には年端も行かぬ子供までいた。
「まあ、随分嫌われたようね。」
そう言ってシリウスは守護者の一族に近付く。
そして、その中でも一族の者を庇う様に先頭に立つ老人の前に行き
「貴方が長の様ね、私達の目的は一つ。神酒(ソーマ)のある場所を教えていただけませんこと?」
「断る!」
シリウスの申し出に老人は即座に拒否した、だがシリウスは笑みを絶やさず
「神々の遺産、それは私達にこそ相応しい。そうは思いませんこと?」
「あれは古の時代よりいつか帰られる神の為の物!貴様等如きには触れる事叶わぬわ!!」
老人はきっぱりと断った、その場に居る全ての者が覚悟を決めている様だ。
「そうですか、仕方ありませんわね。」
そう言ってシリウスはそばに居た黒服の持つ銃を手に取り、無造作に子供を撃った。
「うぁあぁぁぁぁ!」
子供は腹部を撃たれ、血を流しながら倒れ込んだ。
「貴様!!子供を撃ったな!!!」
激怒する守護者の一族に対し男達はライフルを向け威嚇する。
そして、シリウスは血まみれになっている子供に向かって指にはめた古い指輪を向ける
その指輪から放たれた淡い光が子供を照らす、子供は見る間に石化していき首から下は完全に
石に成ってしまった。
「どう、私のハイ・アートー メドーサの吐息は?素晴らしいでしょう!でもねこの指輪の凄いところは
石化しても生きているって事なの。勿論痛みも感じるわ、永遠にね!」
そう言って老人を見るシリウスは本当に可笑しそうに笑う。
「次はどの子が良いかしら?」
「貴様!」
嬉しそうに笑うシリウスを老人は憎悪のこもった目で睨みつける。
「そろそろ神酒のある場所を教えていただけませんこと?それとももう二、三人
彫刻にしてみましょうか?」
シリウスの言葉についに老人が折れた。
「まて、神酒は富士の大空洞に安置されておる、地図はそこの隠し扉の中じゃ。」
そう言って老人は壁の隠し扉を開け、中から一枚の古ぼけた巻物を差し出した。
「望みの物は手に入ったはずじゃ!早あの子を元に戻せ!!」
「残念だけど、私には元に戻すなんてできないわ。」
「なんじゃと!?」
シリウスの言葉に驚く老人を見て彼女は凄惨な笑みで答えた。
「もう、貴方達には用は無い。そうだ!私が素晴らしい役目を与えましょう!!」
まるで素晴らしいアイディアを思いついたような笑顔でシリウスは身の凍るような事を言った。
「貴方達には、我が友、桐古鎮魂のオブジェになって貰いましょう!!」
そして狂乱の宴が始まった。
その頃、フェイス一行は高速を乗り継ぎ富士の近くまで来ていた。
「冴葉ちゃん!ミュージアムの動向は?」
「現在、叢雲にて監視中です。ですがボス、そもそもミュージアムは何が目的なのでしょう?」
「さあね?あのカルト集団だから、どーせろくな物じゃないわよ。」
移動用に改造された大型トレーラ内にて我らがちび魔王、結城美沙は片腕の片桐冴葉と共に
監視衛星"叢雲"にてミュージアムの動向を探っていた。
叢雲の監視システムにより東京から離れたミューシアムを追い、現在山梨県に差し掛かっていた。
「ま、行ってみれば分るでしょう。みんな、武器の準備はいい?」
美沙の側には完全武装したフォーチュンのスタッフ総勢20名が待機していた。
だが彼女達は樹海にておぞましき物を目の当たりにする事となる。
第四章 それぞれの決意
富士の樹海にて凶行が行われれ居た頃、結城樫緒は自宅の執務室にて今日最後の仕事を
終え、身体を大きく伸ばした。
父親の家にて夕食の誘いを受けたがどうしても外せない会議があり、結局彼は辞退せざる
おえなかった。
(姉さま達との食事、惜しい事をしたかな?)
普段は滅多に顔に出さないが、あのボロアパートに行くとき樫緒は妙な心地よさを感じていた。
樫緒は席を立ち、何気なく夜景を眺めていると不意にドアがノックされた。
「失礼します、坊ちゃま。」
そう断って部屋に入ってきたのは結城家の筆頭執事、山岡銅介だった。
「どうしました、山岡さん?」
「はい、実は美沙様の会社の方で何やら妙な動きが。」
「なんですって?」
山岡の報告に樫緒は眉をひそめた。その表情は理知的で美しく、もし女性がこの場にいたら
思わずため息を付いただろう。やがて樫緒は一つの考えに至った。
「山岡さん、車を出してください。父の家に向かいます。」
「はい。」
「まさか、姉さま・・…」
樫緒ははやる心を押さえ、車で鷲士のアパートに向かった。
数十分後、鷲士のアパートに着いた樫緒は自分の考えが正しかったと知った。
「居ない、まさか姉さま!あのシリウスとか言う女を追いかけたのか?
まったく自分の命が狙われていると言うのに、無茶にも程がある!!
山岡さん、FTIの本社に向かってください。」
そして山岡があやつるリムジンがFTIの本社に向かっている間、樫緒は美沙の心配を
していたが、いつしかそれは美沙を止められなかった鷲士に対する怒りに変わっていった。
「まったくあの男は!姉さまの命が狙われていると言うのにどうして止めないんだ!!
娘を危険に晒すなど父親としての自覚が無さ過ぎる!!もし姉さまに何か有ったらどうするつもりだ!!」
樫緒にとって、双子の姉は己が半身であり最も心が許せる相手だった。
もし、それが失われたらと思うと、その怒りは鷲士に向けられた。
数分後、樫緒の剣幕にFTIの社員は美沙達の行く先を教えるのだった。
「富士ですか。」
「坊ちゃま!直に参りましょう!!」
「いえ、時間が惜しいので僕一人で行きます。それと明日の予定は全てキャンセルしておいてください。」
そう言うと樫緒の姿は目の前から掻き消えた。
一方、我らが主人公は娘に一服盛られ、やっと目を覚ました。
「う・うううん・…あれ、ここは?」
寝起きなので間の抜けた事を言いながら鷲士はトレーラーの中で目を覚ました。
「お目覚めですか、鷲士さん。」
「あれ、冴葉さん?ここは一体?そうだ美沙ちゃんからお茶を注いでもらって飲んだ後、
急に眠たくなって・・……もしかして、また!?」
意識がはっきりして来るにつれ鷲士は自分が置かれた状況が判ってきた。
美沙がまた一服持って自分を無理矢理連れてきたんだ。
「まったく美沙ちゃんは!なにも自分の命が狙われている時に、わざわざ危険に飛び込む事も
無いだろうに!!」
鷲士はそう怒っていたが、冴葉の顔が青いのに気が付いた。
「どうしたんですか冴葉さん?」
鷲士は起き上がり、冴葉に近付いていった。
「大丈夫です、それよりも鷲士さん一緒に来てください。ボスが何故ミュージアムを
許さないのかその目で見てください。」
冴葉の言葉は重く、鷲士に有無を言わさぬ程に迫力があった。
鷲士達がトレーラーを降りると、目の前に一軒の大きな屋敷があった。
「?」
鷲士が不審に思っていると、冴葉が一つの方向を示した。
「鷲士さん、あの大広間にボスが居ます。そして私達がミュージアムを許せない訳も。」
鷲士は冴葉に言われるがままの大広間に向かった、障子を開け鷲士は息を呑んだ。
その大広間には20体程の人の形をした石像が置かれていた、石像は完成度が高く
まるで生きている様だった。
だが、その石像群を創った者の感性は最悪だろう、一体は両耳と鼻が欠け
また一体は身体を真っ二つにしていた。中には腹を大きく開き内臓を出している物まで在る。
石像が生々しいだけにそれは不快を通り越し恐怖すら感じる程だった。
「美沙ちゃん、これは一体?」
部屋の中心に美沙を見つけ、鷲士はこの異様な光景を聞いた。
「この石像、物凄くリアルでしょう?当たり前よね、さっきまで生きていたんだから。」
美沙の言葉に鷲士は絶句した。
「ここに居たのは守護者の一族なんだって、そこのおじいさんが教えてくれたわ。
富士の地下に眠る秘宝、ソーマを代々守ってきたんだって。
けど、シリウスがここにやって来てみんなをこんなグロテスクな石像にしたんだって。」
美沙は淡々と説明したが、その肩は震えていた。
「美沙ちゃん。」
鷲士は美沙の肩にそっと手を乗せる。すると美沙は振り返り、泣きながら鷲士の胸に飛び込んだ
「鷲士くん!!みんな…生きていたんだよ!!!……あいつに生きたまま八つ裂きされて…そのまま
石像に…されて。けど、痛みはずっと感じて!!…・ここに来た時!みんな苦しそうな声を出して
けど…死ねないの!…・ずっと痛みを感じたまま石になっているの…」
鷲士の胸で泣きじゃくる美沙を優しく抱きしめ、鷲士は再び石像を見た、その中には子供までいる たとえ石像から戻ったとしても、この傷では死んでしまう。
だから、FTIのスタッフは石像となった人達を永遠の苦しみから解き放つ為、彼等に死を与えた 何とも後味の悪い作業・・……美沙達はつらい仕事をしたのだ。
「美沙ちゃん・…」
鷲士に出来る事は、ただ傷ついた娘を抱きしめる事だけだった。
第五章 ソ―マへの道
フォーチュンのスタッフが屋敷の惨状を処理し、一行は一路富士を目指す。
あの後、突然屋敷に空間を渡った樫緒が現れた。
樫緒は表に出ていた鷲士を見るなり、烈火の如く怒りをぶつけた。
「貴方と言う男は!!貴方は姉さまの保護者でしょう!?姉さまの身が狙われていると言うのに
何故、止めなかったのです!?」
樫緒は鷲士に向かってそう詰め寄る、だが鷲士が何ら無反応な事に訝しむ。
その時、大広間から美沙が現れ樫緒の顔に安堵の色が現れた。
「姉さま!このままでは貴方の身に危険だ及ぶかもしれません、ここは一旦戻りましょう!」
だが美沙は首を横に振った。
「あたしは帰れない、このまま帰る訳にはいかないの。」
美沙は淡々と、だが強い意思を感じさせる声で言った。
樫緒は美沙と鷲士の態度を不信に思い、美沙が出てきた大広間を覗き見る。
そこには石像にしては生々しすぎる物が在った。
「見たでしょう?あたしはこんな事をするアイツを許せない!!この報いを必ず受けさせてやる!!」
美沙の声は最後には怒りで震えていた、その怒りの激しさに最終的に樫緒も折れた。
屋敷の処理をスタッフに任せ、一行はシリウス達の後を追った。
富士の裾野に広がる原始の森をぬけ、西北麓洞穴群を目指す。
敵のハイ・アートの性質から少数精鋭で構成された追撃部隊。美沙を先頭に冴葉、樫緒、鷲士
後、フォーチュンの社員5名。
道中、ミュージアムに出会う事無く樹海を進む、この辺りは登山道として整備されている。
歩いている内に美沙も落ち着いてきた様だった。
「ねえ美沙ちゃん、ソ―マってあのインド神話の?」
鷲士はあの惨状から美沙の気を紛らわそうと目的地やソ―マについて質問を重ねていた。
「ソ―マって言うのはヴェーダ神話に出てくる神々が飲む天上界のお酒よ、飲む者に無限の活力
を与え、病魔を払い、心身を強壮し、かつ子孫繁栄をもたらすと言う伝説のお酒。
この効能は物凄く、雷神インドラが悪竜ヴリトラを倒す為にソ―マを飲んだとされるわ。
その後、地上にもたらされたんだけど原料のソ―マ草が絶滅してしまい以来、
代用品が使われているらしいわ。
守護者のお爺ちゃんが言っていたんだけど、富士の地下に安置されているソ―マは古来の神々
が飲んでいたオリジナル・ソ―マと言って特別なお酒なんだって。
飲めば不老不死は勿論、神々と同じ力が得られるんだって。」
「ふ〜ん、なんか凄い物の様だね。」
美沙の説明を聞き、鷲士は感心した様に言う。
「あ〜〜緊張感がないなぁ!オリジナル・ソ―マと言ったら物凄い代物なんだよ!?
普通のソ―マは飲む者に人を超える力を与えるけど、オリジナルは飲む者を神と同じステージに
立たせる力が有るっ言う伝説のソ―マなんだよ!?
そんな物をミュージアムなんて奴等に渡すなんて出来ないわ!!。」
実の父親の間の抜けた返答に、うが〜と唸って美沙は鷲士に詰め寄る。
自分から振っておいて鷲士は汗ジトになりながら首を縦に振る、その時黙って同行していた
樫緒が口を開く。
「姉さま、お怒りは判りますが今の貴方は謎の男に狙われています!もっと慎重になるべきなのでは?」
「判ってるってば、心配性だね樫緒ちゃん?いざとなったら頼りにしてるわよ、いとしの弟よ!」
苦笑しながらも樫緒は安堵した、先ほどの光景が美沙のトラウマになるのではと危惧していただけに
美沙が本来の調子を取り戻しつつある事を素直に喜んだ。
ただし、みんなの前で抱き付かれるのは 困ったが。
そうしている内に、一行は森を抜け目的地についた。
「ここが西北麓洞穴群!かつての噴火で出来た地下迷宮への入り口。」
美沙は目の前に広がる無数の入り口を前にみんなに言った。
「すでにミュージアムは先に進んでいるはず、私達も後を追うわよ!」
美沙の号令の下、一行は洞穴に進んでいく。
だが、その洞穴の中で彼女達を最大の試練が待っていた。
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