|
第六章 死神との邂逅
「守護者のおじいさんはこの西北麓洞穴群にソ―マが奉られている大空洞への入り口が
あると言ってたわ、富士の地下深く約20k歩いた所にその大空洞があるって。ミュージアムは既に
地下に潜った筈、私達はシリウス達を追撃し奴らより先にソ―マを回収するわよ!!」
美沙の激に全員が気を引き締める、屋敷の惨状を目の当たりにし全員が激しい怒りを感じていた。
そして、敵の強大さも。
「それじゃ、入るわよ。」
美沙の号令の下、全員洞穴に入る。勿論、先頭は美沙である。
彼女は絶対的な方向感覚と抜群な記憶力を誇り、探索には最適なのである。
守護者の長老に教えられた通り、美沙は迷路と化している洞穴群を迷わず進む。
その後ろに樫緒が続き、冴葉、フォーチュンのスタッフ、最後に鷲士が続く。
暗い洞窟を油断無く、全員、辺りを警戒しながらライトに照らされた道を進む
洞窟は緩やかに曲がりくねり、普通の方向感覚では当の昔に迷子になっていただろう。
だが美沙に取ってそんな迷路など有って無きが如しであった、鷲士に会うまでも
トレジャー・ハンターとして数々の成功を収め、難解な古代遺跡の謎を解き明かす
最強の宝捜し。 それを支えるのは天性の才能なのである。
「この先にちょとした広場が在るわ。」
美沙の言葉どうり、間もなく洞窟が開け広場に出る。
だが鷲士が広場に足を踏み入れようとした美沙を鋭く制す。
「まって美沙ちゃん!!奥に誰か居る?それも複数。」
鷲士の言葉に全員、身構える。
「あら、判っちゃたようね。」
突然、闇の奥から声が掛かる。
「誰よ!?」
美沙の問いを無視し、声が続ける。
「こんな所に観光って訳じゃ無いんでしょ?どうやら目的は私達と同じのようね。」
声のする方角から複数の気配がする、20人前後だろうか?
「けど、オリジナル・ソ―マは私達にこそ相応しい、貴方達には過ぎた物よ。」
「なに。勝手ほざいちゃてんのよ!!あんたシリウスでしょう!?あの屋敷に居た人を気持ちの悪い
石像に変えた狂気の芸術家、私はアンタを絶対に許さない!!」
美沙は怒りを込めた眼差しで声のする方を睨みつける。
「元気の良い子供ね。お仕置きが必要かしら?」
そう声が言うより早く、突然鷲士が美沙を自分の方へ引き寄せる。
突然、暗闇の奥から蒼い光が美沙目掛けて放たれた。だが間一髪、光を避けた美沙だったが
次の瞬間、光は後ろに居たフォーチュンのスタッフを直撃した。
「な!?」
その光景に美沙は下より鷲士も絶句した、光を受けたスタッフは光の当った場所から石になり
全体が石に覆われるまで数秒も掛からなかった。
「あら?上手く避けたわね。」
そう言いながら闇の奥より一人の女性が姿を現す。
「貴方がシリウスですね?」
美沙を背中に庇いながら、鷲士がそう問う。すでに眼鏡を外し、完全に戦闘態勢である。
「そうよ、私がミュージアム最高の芸術家シリウス・スコールよ。」
「何が芸術家ですか、悪趣味な殺人狂ではありませんか!」
樫緒の言葉がいかにも心外であるといった顔をしてシリウスは鷲士達に近付く。
「真の芸術は無知な者には理解できない様ね、美の探求者は孤独なものよ。」
無造作に近付くシリウスに鷲士は美沙達を庇う様に前に出る、その時シリウスの歩みが止まった。
「そこの貴方?良く見ると私が捜している人物と特徴が似てるわ。身長180cm半ば、
痩せ型の東洋人、そしてその闘気。 なるほど貴方がダーティ・フェイスね!!」
鷲士に向かってシリウスは凄惨な笑みを浮かべながら言う。
「会えて嬉しいわフェイス!ソーマを捜しに来て、こんなにも早く我が友・桐古の敵を撃つ機会に
めぐり合うなんて!!」
「桐古、あのハイ・キュレーターの?」
鷲士が桐古の事を思い出した時、シリウスは右の人差し指の指輪を見せる。
「フェイス、貴方がいかに伝説の拳法使いだろうがこの指輪、私のハイ・アート―メドーサの吐息
には敵わない。ここに不敗の神話が幕引きとなる、この私の手によって!」
己がセリフに酔いながら、芝居掛かった動作で人差し指を向けた瞬間
「鷲士くんどいて、くたばれサイコ女!!」
突然、鷲士を押しのけ、美沙が手に持つアサルト・ライフルを乱射する。
だが銃弾がシリウスを射抜こうとした時、指輪から彼女を覆うように蒼い光が放たれる
その光に触れた途端、銃弾は鈍い音をたて地面に落ちる。
「メドーサの吐息は全ての物を石にしてしまうのよ。」
絶句する美沙達を尻目にシリウスは再び鷲士に指輪を向ける。
だが鷲士もそれを難なくかわす、そして一気に距離を詰め右手が霞む―九頭・右竜翔扇―
必殺の気合を込めた一撃だったが、突然鷲士の目の前に蒼い光が溢れる。
「な!?」
間一髪、光を避けた鷲士が見た物は蒼い光に包まれたシリウスであった。
暗い洞窟の中を蒼い輝きが映し出す、その光景は余りに幻想的だった。
蒼い光に映し出されるその姿は、その美貌にあいまって神々しく、だが人して何かが欠けた
ふいんきを感じさせる。
人は彼女を見てこう言うだろう、死神と。
第七章 師匠登場?
だが鷲士はその光景をゆっくりと見ている時間は無かった
次の瞬間、蒼い輝きは爆発的に広がった。
「なに!?」
シリウスを包む光は幾つのも鞭のように鷲士を襲う、その蒼い鞭を何とか避け鷲士は距離を取る。
「驚いた?このメドーサの吐息は付けている者を自動的に守ってくれるの、それこそ意志を
持っているかの様にね。そして蒼い光に触れた物は全て石と化してしまう。」
近付けば自動的に発動し、遠くから狙えば蒼い光に迎撃されるという正に死角が無かった。
鷲士が近づけないでいると、美沙達が援護射撃を掛ける。
「鷲士くん、離れて。」
シリウスに向かい、暗い洞窟にコルトM16A1のマズル・フラッシュが光る、それに対し
ミュージアムの戦闘員も応戦する、その光景はさながら闇夜に飛び交う蝶の如き鮮やかさであった。
「ザコの分際で!!」
美沙はM16に装着されたグレネード・ランチャーのトリガーを引く。
「ボス!こんな所でM203グレネード・ランチャーを使ったら危険です!!」
冴葉が制止するより早く、美沙はグレネード・ランチャーを発射する。
「おらおら、死んじゃえ〜!・・……え!?」
洞窟に美沙の嘲笑が響く、だが次の瞬間グレネード・ランチャーは指輪より放たれた蒼い光の鞭
に絡めとられ石化した。
「うふふ、残念ね、私に銃は効かないわ。」
シリウスは美沙に向かって嘲る様に言う。その時、一瞬の隙を突き鷲士はシリウスに接近し必殺の
技を放つ。 ―九頭・左竜雷掌―
必殺の掌底がシリウスの腹部にめり込む瞬間、鷲士の頭に強烈な危険信号が鳴り響き
とっさに身を翻した。
シリウスから距離を取った鷲士が見た物は指輪から無数の蒼い光の鞭だった、あのまま攻撃
を仕掛けていたら鷲士は無数の鞭に絡め取られていただろう。
「言ったでしょう?このメドーサの吐息は自動的に私を守っているって、この指輪がある限り
私に死角は無いわ。」
シリウスはゆっくりと鷲士に向かい歩き出す、美沙達が援護射撃をするが全ての銃弾が
メドーサの指輪により石にされてしまう。
その悠然と歩く様は、己が優位を知り獲物に向かう肉食獣さながらの如き姿だった。
「終わりね、フェイス!今こそ我が友の敵取らせてもらうわ!!」
指輪より無数の光の鞭が沸き起こる、己が勝利を確信し微笑を浮かべるその姿は蒼い光に照らし
出され妖艶な美貌をかもしだす。
対して鷲士は近付く事が出来ず攻めあぐねていた時、突然シリウスに向かい雷撃が襲う。
「な!?」
予想だにしなかった攻撃に慌て反射的に避けたシリウスは攻撃の来た方向―美沙達と
ミュージアム側の中間辺りを見る、そこには何時の間にか一人の初老の老人がいた。
「愚か者ほどよく吠える、どうやら本当の事じゃのう?」
「何者だ!?」
突然の乱入者にシリウスが鋭く問い掛ける。
「お前さん達の敵じゃよ。」
老人は獰猛な笑みを浮かべシリウスの問いに答える、途端ミュージアム側から無数の銃撃が殺到
するが銃弾は手刀により全て弾かれる。
「ザコか、受けてみるか―九頭・右竜翔扇―」
途端、老人の姿が霞みミュージアム側の陣営に襲いかかる、次の瞬間その場に居た男達は天井に
激しく激突した。
「九頭竜!?何なのよあの爺さんは?」
鷲士の側に来た美沙はその光景を見て聞く、だが鷲士は娘の言葉を聞いていなかった。
「さっきのは九頭双竜・雷撃掌!まさかお師匠!?」
「ええ!?鷲士くんの師匠?」
ミュージアムの戦闘員を吹き飛ばした老人は鷲士達のいる所にゆっくりと歩いていく。
「ひさしぶりじゃの鷲士、又厄介な事にまき込まれておる様じゃの?」
側に来た老人は、穏やかな笑みを浮かべ鷲士達を見る。
「思わぬ邪魔が入ったわね、フェイス!命は預けるわ。」
地上最強の陸戦生物と言われる九頭竜の使い手が二人も出てきた以上、シリウスとしても
態勢を立て直す必要が有った。
「あ、逃げる気ね!逃がすか〜!!」
シリウスが身を翻し洞穴の奥に逃げ出すのを見て、美沙はM16を構える。
だがそれよりも早く、シリウスの姿は闇に消えた。
「くそ〜OICWさえ修理中じゃなかったら仕留めていたのに!!」
シリウスを逃し、子猫さまは悔しそうに言った。
その姿を見て苦笑しながらも鷲士は目の前にいる師匠に礼を言った。
「お師匠、助けていただき有難う御座いました。……ですが何故ここに?」
ミュージアム達の処理も済み、冴葉達がやって来る。
「ボス、ミュージアム側に生存者はいません。・…そちらの方は?」
「こちらは僕の師匠、鈴木師匠です。」
鷲士がそう答えると、皆驚いた顔をした。
「初めましてじゃの、儂の名は鈴木哲郎。そこのまぬけな弟子の師匠じゃ。」
そう言って鈴木は鷲士の頭を小突く。
「全く、あの程度の敵にてこずりおって、お前も修行が足らんな。」
「はは、面目ないです。けれど師匠、何故ここに?」
突然、ほのぼのとした師弟子の会話を始めた二人に引きつった笑みを向けながら
美沙は鈴木に話し掛ける。
「おじいちゃん、さっきは有難う。けど何か登場のタイミングが良くない?」
美沙はジト目で鈴木を見る、あまりのタイミングの良さに不信感を持っている様だ。
「ほほ、そうかの?」
美沙のジト目から逃れる様に視線を逸らしながら、鈴木は近くに居た冴葉の形の良い
お尻を撫で上げる。
「な!!」
その光景に美沙の柳眉がつり上がる、だが冴葉は悲鳴の一つも上げず、代わりにM16を
腰だめに構え鈴木に向かってトリガーを絞る。
「うお!?」
至近距離からの銃撃に鈴木は驚きながらも銃弾を全て弾く。
「・………冴葉ちゃん?」
冴葉の過激な行動にさすがの美沙も汗ジトになりながらも鈴木に一発も当っていない
事を知り、安堵と驚きを感じていた。
「仮にも九頭竜です、死にはしないでしょう。」
お尻を触られた所為か、普段に増して無表情に冴葉が答える。
「ほほ、怖いの。 どれ、儂は先の方を見て来るとするか。」
「ああ、師匠!待ってください!!」
そう言って洞窟の奥に進む鈴木を鷲士が慌てて追いかける。
「あれが鷲士くんの師匠!?只の助平ジジイじゃないの。」
そう言って美沙は暗闇に消えた二人を見送った、その時樫緒がため息をつきながら
「上手く誤魔化しましたね。」
そう言ってこめかみを押さえた。
第八章 暗闇の奥を照らす物
暗い洞窟を二人の男が進む、足元すら見えない暗闇でも二人は転ぶ事無く確かな足取りで
先に進んで行く
「師匠、何故此方にいらしたのですか?」
鷲士は先を進む老闘士に声を掛けた。
九頭竜の闘士にとってこの程度の暗闇など真昼も同然であった。
「なに、儂の携帯にお前からのメッセージが入っていたからの。」
「僕のメッセージを聞いてくれたのですか。」
「ああ、気になる事が入っておったからの、お前の気を辿り急ぎ追ってきた訳じゃ。」
二人が話しながら歩いていると洞窟が開け、広場のような場所に出た。
「鷲士よ、あの子供達がお前の?」
「え、ええ。美沙ちゃんと樫緒くんです。僕の一番の宝物ですよ。」
突然、双子の話になり鷲士は戸惑ったが、あの双子の話になると自然に顔がほころんだ。
「少々無茶な所も有りますが、ゆうちゃんが残してくれた大切な宝物ですよ。」
鷲士の惚気話を聞いていた鈴木の口元に笑みがこぼれる。
「鷲士よ、良い顔になったな。」
「え?」
突然、鈴木にそう言われ鷲士はびっくりした顔になった。
「昔のお前は悲しみを背負い、満たされぬ思いで常に何かに渇いておった。
だが今は違う、あの双子のおかげかの?」
鈴木の言葉に鷲士は何時になく真剣な表情で師匠に向き直り
「確かにゆーちゃんと引き離された時、僕の中には悲しみと怒りが在りました。
それは自分の不甲斐なさに対する怒りでした、だからこそ僕は力が欲しいと思ったのです
大切な物を守れる力を、もう二度と失わないで済むだけの力を。」
鷲士はそこで一旦言葉を切った。
「お師匠、僕にも守るべき家族が出来たんです、それも双子の子供が。
ゆうちゃんが残してくれた大切な宝物です。」
「そうか、良い家族ができたの。」
「はい!」
鈴木の言葉に鷲士は嬉しそうに答えた。
「鷲士よ、どうやら敵も近くに居ない様だし、此らで休息を取った方が良くないか?
丁度、後の者達も追いついてきた様だしの。」
鈴木がそう言った時、後方から幾つ物ライトが照らされた。
「ああ〜〜!鷲士くん、こんな所に居た!!」
鷲士が振り向くと、美沙がライトを片手に近付いてきた。
「も〜二人でドンドン先に行っちゃうから心配したじゃない!!」
娘がそう言って若い父親を叱り、父親は困った顔をして謝った。
「ボス、この場所は湧き水も湧いていますし、ここで休息を取っては?」
冴葉の提案に美沙は暫し考え、ここで休息を取る事にした。
程なく全員に携帯食料とコーヒーが行き渡り、久方ぶりに一息ついた。
「さて、一息付いた所で……おじいちゃん、そろそろ吐いて貰いましょうか?」
「ほ、何をじゃ?」
コーヒーを飲み干した美沙が鈴木にジト目を向ける、対して鈴木はとぼけた表情で答える。
「あまりにもタイミングが良すぎるでしょう?」
「今度は誤魔化しは効きませんからね。」
樫緒も冷めた目を向ける、冴葉は腰のベレッタM84Fを膝の上に置き無言のプレッシャー
を掛ける、先ほどの事が尾を引いている様だ。
「みんな、落ち着いて・…」
周りの反応に鷲士がおろおろしながらも何とか収め様としていると、
鈴木が鷲士に向かって語り出した。
「鷲士よ、先ほども言ったが儂がお前に会いに来たのはお前のメッセージに気になる事が
有ったからじゃ。 お前が戦った相手アルモスの事じゃ。」
鈴木から美沙の命を狙う男アルモスの名が出た時、その場に居た者に緊張が走ったが
鷲士一人だけが冷静だった。
「やはり、ご存知だったのですね。彼は九頭竜の技を知っていました、鬼神が使う蝦夷の技と
お師匠、あなたは彼を知っているのですね?」
「奴とは昔、戦った事が有るんじゃ。」
「おじいちゃん!アイツは一体何者なの!!」
美沙が物凄い勢いで訊いて来る、自分を殺そうとする正体不明の男の情報はFTIや結城の
情報網ですら掴めなかったのだ。
「あやつの名はアルモス・エム、訪い人の残せし災いを封印する一族の者じゃ。」
「訪い人の残せし災いを封印する?」
「そうじゃ。儂もむかし訪い人の遺産をめぐって奴と敵対した事が有るんじゃ、遺産は今の世
には過ぎた物じゃからの、我ら九頭竜は対仙術―この世ならざる物を討つ者、それゆえに
訪い人が残せし負の遺産も葬らねばならん。」
美沙の問いに鈴木は鋭い眼光を向け答える。
「奴とはある遺産をめぐり対立した。その時は封印者の一族とは知らんかったからの。」
「お師匠と戦って生き残るなんて、かなりの使い手なんですね。」
「どういう事?」
「お師匠は九頭竜の歴史の中でも鬼神とまで呼ばれる使い手なんだよ。」
鷲士の説明に一同驚きながらも内心「このエロジジイが?」と突っ込みを入れていた。
「けど、何で封印者が私を狙うのよ!?」
美沙の疑問はもっともである、鈴木の説明では封印者は来訪者の遺産が目的のはずである
美沙の命を狙っても意味がない様に思える。
「恐らく姉さまがフォーチュンの会長だからでしょう、姉さまはトレジャー・ハンターとして
来訪者の遺産を数多く回収していますからね。」
樫緒の言葉に美沙達フォーチュンの関係者に衝撃が走る、FTIは来訪者の様々な遺産を解析
し業績を伸ばし、それ故にミュージアムを始め様々な組織と敵対してきた。
だが、封印者の一族など確認されていなかったのである。
「私達は会長を襲った者はミュージアムの手の者だと思っておりました。」
「博物館の奴らと封印者の一族は昔から敵対しておるよ。」
鈴木の言葉に冴葉達は驚いた、FTIのみならずミュージアムとも敵対している
即ち第三勢力と言う事になる。
「ま、考えていてもしょうがない。今度会ったらボコボコにしてやるわ!」
M16を持ち美沙は立ち上がりながら不敵に笑う。
「さあ、ソーマの在る場所まで後すこしよ!みんな行きましょう。」
美沙の号令の下、鷲士達は洞窟を奥へと進み始めた。
先へと進む一行の最後尾に付いた鈴木は、M16を肩に掛け先頭に立つ美沙を眩しそうに
見ながら呟いた。
「強い子じゃ、じゃが奴の言う通りなら儂は・……」
第九章 地底の密林
暗闇の洞窟をライトで照らしながらFTI一行は奥に進んで行く。
洞窟に入り既に十数キロは下っただろうか、富士山は昔から幾度と無く噴火を繰り返し
無数の溶岩洞が入り組み富士の地下は大迷宮となっていた。
「美沙ちゃん、かなり下りてきたけど目的地はまだ遠いの?」
あの悪夢のようなオブジェのあった家を出て、西北麓洞穴群に着いたのが明け方前
時計は既に午後四時を指していた。
「ん〜〜かなり奥まで下りてきたからもうすぐだと思うんだけど、守護者のお爺さんの話だと
洞窟の最深部に大空洞が有ってそこにソーマが奉られているらしいわ。」
鷲士の問いに美沙は歩きながら答える。
先ほどの襲撃以降ミュージアムもなりを潜めているが長時間の強行軍に一行に疲労の色が窺える
「樫緒、あんたの力で何か判らない?」
美沙は双子の弟に向かい声を掛ける、彼の持つ力―結城の血統に受け継がれる来訪者の力
樫緒は一族の中でも最強ランクの力を持っている――空間を操り、見えざる物をも動かす――
自分には無い力、その力で洞窟の先に何が有るのか探れないかと考えたのだ
「そうですね、この先3キロくらい先に大きな空間を感知できます、恐らく姉さまの言う
目的地ではないかと。」
これまで沈黙を守ってきた樫緒がそう答える。
その答えに美沙は樫緒の力に凄さに羨望と嫉妬を感じる。
結城一族の中でただ一人、何の力を持たず生まれ厄介物扱いされて育ってきた自分
その劣等感から来る羨望と、双子の弟が持つ自分の能力"トレジャー・ハンター"としての適性を
上回る力、結城の力に対する嫉妬。
彼女に取って宝捜しとは、自分の存在意義を捜す事でもあるのだ。
(何!?この感情は、私は嫉妬している?樫緒に!)
美沙が己の心の闇を感じ揺れているに気付いたのは最後尾を行く鈴木だけであった。
鈴木の美沙を見る目はたとえ様の無い悲しみに満ちていた。
暫く無言で歩くこと数十分、突然洞窟の先に明りが満ちる。
「何?」
既に地底深く下りており、自然光とは考えられなかった。
一行は用心の為、武器を構え油断無く先に進む。
そして一行の前に大空洞が姿を現した。
「何なの、ここは!?」
大空洞に足を踏み入れた美沙は目の前に広がる光景にあらん限りの声で絶叫した。
彼女達の前に現れたのは、明りに照らされた密林だった。
直径五キロぐらいの空洞に見渡す限りの熱帯雨林。恐らくマグマに近いのか、
かなりの気温と湿度が有りジャングルも鬱蒼と生い茂っている。
天井も高く、良く見ればそれ自体が発光していた。
「ここは地底深くでしょう?何でこんな所にジャングルが在るのよ!!」
その光景に、美沙は誰とも無く疑問を投げ掛ける。
「どうやら天井自体が光を放っている様ですね。密林が在る以上、降雨らしき物も在る筈
どうやら人工的な空間の様ですね。」
一同が驚きに包まれる中、一人冷静な冴葉が分析する。
「お嬢ちゃん、どうやらあそこが目的地のようじゃの。」
何時の間にか美沙の横に来た鈴木が密林の中心を指差す。
密林のちょうど中央部は円形の空間が有り、その真ん中に小さな社が建っていた。
「どうやらあそこが目的地のようね。」
そう言う美沙の顔に静かな闘志が宿っていた。
「さあ、みんないきましょう!」
一行は洞窟を出て、密林へと足を踏み入れた。
密林の中に入ってみると周りの植物がただの熱帯植物では無いのが判る。
大きな葉っぱを茂らせるシダ系の植物、ここは時間が止まっている様に感じられる。
「周りの植物には現在では絶滅した種も有る様です、どうやら早い時期に外界と
隔離されたようですね。」
周りを観察に、冴葉はそう結論づけた。
「なんか嫌なふいんきね。暑いと言うか、何と言うか。」
先頭を行く美沙がそう評する、熱帯雨林とまでは行かないがかなりの湿気があり、
不快指数を増幅させる。
「ですが、何故このような場所が在るのでしょうか?」
常に冷静な樫緒にしては珍しく、周りの状況に興味を持った様だ。
彼もまだ12歳の少年、好奇心は旺盛なのである。
「宮下文献て知ってる?別名―富士文献、紀元前に中国秦朝の学者・徐福が日本に渡来し
神代文字で書かれた記録書を収集、編纂し、残した物とされているわ、そこには大昔、
富士山の麓には古代文明―富士山麓文明が在ったとされているわ。」
もっとも誰も信じていないけどね、と美沙は言葉を続ける。
「では、この大空洞はその富士山麓文明の名残りだと?」
美沙の話を聞き、樫緒が興味深そうに問う。
「多分ね、こんな頻繁に地震だの噴火が起こるような場所にこれだけの閉鎖空間を作るなんて
並みの技術じゃ出来ないわ、経済的じゃないしね。」
美沙は樫緒にウインクしながら答える。
その表情に樫緒は赤くなりながらも勤めて平静を保ちながら歩く。
すでに密林の半分を抜け、一行は中心部を目指し進む。
「やっぱり、この大空洞を作ったのは来訪者なのかな?」
天井を見ながら鷲士が訊いて来る、天井はかなり高くそれ自体が真昼の如き光量を放っていた。
「どうかな〜来訪者が作ったにしてはチャチイし,たぶん富士山麓文明を作ったのは
アスガルドの神々のようなテクノロジィを受け継いだ人間だと思うけど、
けどオリジナル・ソ―マを作ったのは間違い無く来訪者だと思う、
飲んだ者を神と同じにするなんて人間に作れる訳無いからね。」
「確かに訪い人が好みそうな代物ではあるな。」
美沙の説明に続き、鈴木がそう言う。
「思い起こしてみるがいい、訪い人が残した遺物はその殆どが何らかの武器じゃ。
仮にそうでなくても今の人間には過ぎた物じゃ、訪い人は明らかに儂ら人間の事を玩具か
実験動物程度しか思ってはおらん」
鈴木はそう吐き捨てる様に言った。
「儂ら九頭竜はこの世を乱す邪仙を滅ぼす為の対仙術・仙術じゃ、それゆえに儂らは邪仙の残し
この世の災いを封じてきた。 それゆえに儂は知っておるのじゃよ、遺産に関わった者の悲劇を
それこそ嫌と言う程にな・・…」
鈴木の言葉には重みが在った、悲劇を目の当たりにした者にしか無い重みが。
「おじいちゃん・・…」
美沙は悲しげな声を出す鈴木を気遣い声を掛けようと鈴木の居る方を向いた、だがそこに
鈴木の姿は無く何時の間にか美沙の背後にいた。
「儂も九頭竜の闘士、心配無用じゃ。」
そう言って鈴木は子猫さまの可愛らしいお尻を撫で上げる。
「き、あああああああ〜!!」
「な!!」
「お師匠!?」
悲鳴を上げる美沙、樫緒と鷲士はあまりの早業に唖然としてしまった。
「ほほ、もう少し肉を付けた方がよいの。」
そう言って鈴木は笑う、だが周りの者はそうはいかなかった。
「この――!!」
「姉さまに不埒な事をするとは!!」
美沙は怒りのあまり目に涙を浮かべ、真っ赤な顔をしながらM16を乱射する、樫緒は結城の力で
鈴木を締め上げ様と力を向け、冴葉も16を鈴木に向け発射する。
だが鈴木は銃弾を軽々と避け、涼しげな顔して立って居た。
「な、力が効かない!?」
樫緒が驚愕する、結城の力が打ち消されたのだ。
「ほほ、少年。中々の力じゃがその程度の空間干渉力では儂には勝てんぞ。」
鈴木は樫緒にそう笑いかける。
「なんてジジイよ!覚えてなさい地上に出たら草薙で焼き尽くしてやる!!」
美沙の怒りはまだ収まらなかった、だが鈴木は飄々として笑っていた。
「ほれ、目的地が見えてきたようじゃ。」
鈴木がそう言った時、密林の向こうに小さな社らしき物が見えてきた。
第十章 悪夢は光と共に
密林を抜けた一行は、この閉鎖空間の中心にある社を目の前にしていた。
「あれが守護者のおじいちゃんが言っていたソ―マが奉られている社ね。」
社を見ながら美沙は油断無く辺りを見回した。
「スムーズに行き過ぎるわね、普通なら何か防衛機能が有ってもいい訳だし。
何より、あのミュージアムが出て来ないのが気になるわね。」
確かに、これだけの地底空間を創り出したのだから何らかの侵入者に対する対策が取られる
筈である、そしてミュージアムがたった一度の襲撃で諦めるとは考えにくい。
一行は油断無く構えながら社―中心部に向かって歩を進める、社を中心として五百Mほどの
空白地帯が在り、近付く者があれば直に察知できた。
「みんな、気をつけてね!」
先頭に立つ美沙が油断無く構え声を掛ける、まだ少女とはいえ今までも数々の遺跡を探索
(破壊?)してきたプロである。
周りに気を配りながら進む一行であったが異変は唐突に起った、周りの空気が変ったのである。
「何か、息が詰まりそうだ。」
FTIの隊員の一人がそう言って喉を撫でる。
「!!」
「これって!?」
「師匠!?」
「少年!防壁を!!」
突然、美沙と鷲士、鈴木が声を上げ樫緒がそれに応える。
一行の周りに不可侵の防壁が張り巡らされる。
「ボス?」
「危なかったわ、もう少し気付くのが遅れたらみんな死んでたわ。」
突然の行動に冴葉が問いかけると、美沙はそう言って額の汗を拭いた。
「お師匠、今のは?」
「恐らく邪気!ここら辺には強い邪気が満ちておる。」
鷲士と鈴木もまた額の汗を拭いていた。
「遺跡の中でもタチの悪い奴にはこんな侵入者の精神を侵す防衛機能が在るの。
あのままだったら、みんな発狂していたわ。」
美沙の説明にみんな言葉を失った。
「なるほど、だからこの密林には動物の姿が見えなかった訳ですね。」
防壁でみんなを覆いながら樫緒が納得した様に頷く、これだけの邪気の感じれば
周りの環境に敏感な動物達は寄り付かない訳である。
「樫緒、悪いけどこのままみんなを包んで社まで行ってくれる?」
「判りました。」
一行は防壁に守られながら社を目指す、見た目には何ら変わり無いのだが防壁から出た瞬間、
発狂してしまうだろう。
そうしている内に一行は社に到着した、美沙は社を丹念に調べ。
「どうやら他に仕掛は無い様ね、扉を開けるわよ。」
そう言って開き戸を開けた――途端、不快感が消える、防衛機能が停止したようだ。
そして、其処には一つの古ぼけた小さな壷があった。
「これが古代インドにおいて神の酒、ソ―マの中のソ―マ、オリジナル・ソ―マね!」
さすがの美沙も興奮を隠しきれない様だ。
(飲めば神と同じ力を得ると言う、結城の力以上の…絶対の力・・…)
ソ―マの見つめる美沙の瞳に虚ろな光が宿る。先ほど見た樫緒の力、自分の培ってきた物を
越える力、それを双子の弟が持つと言う残酷な現実。
「どうしたの美沙ちゃん?」
心配した鷲士が声を掛ける。途端、美沙は我に返る。
(私は自分の力だけでやっていくと決めたんだ!人から貰った力など虚しいだけよ!!)
美沙の心の葛藤を知らず、鷲士と樫緒が心配そうにしている。
「さあ、これでお宝もゲットしたし!後はあの殺人狂をぶちのめすだけね。」
だが異変はすぐに起った、密林の中から大きな土偶が沢山湧き出てきたのだ。
「ボス!?あれを!!」
FTIの隊員と共に辺りを警戒していた冴葉が警戒を促す。
「なに、あの遮光土器の化け物の大群は!?」
その光景に美沙は唖然となる、そこにはあの特徴的な大きな瞳もち宇宙服を思わす土偶の大群が
密林から現れた――全長3m程の土偶が約40体。
「なるほど、第二の防衛機能という訳ですね。」
「あんた!なに落ち着いてんのよ!!」
冷静に分析する弟の耳を引っ張って美沙が怒る。
「嬢ちゃん、姉弟喧嘩をしている場合では無いぞ!あれは護法土器、ヒヒイロカネ製の
少々厄介な代物じゃ。」
「おじいちゃん、知ってるの!?」
「昔、やり合った事が有るんじゃ。」
驚く美沙に向かって鈴木は胸を張り、エッヘン。
大人気無い・…そこに居る全員が突っ込んだ。
「奴には銃は効かん。少年、お前さんはみんなを守ってくれ。」
そう言って鈴木は鷲士と共に遮光土器を迎撃に向かった。
「鷲士、奴はかなり硬いから打撃は効かん、関節部分を狙うのじゃ!」
「はい!」
短く言葉を交わした後、九頭竜の師弟コンビは襲い来る敵の真っ只中に飛び込んだ。
最初の一体が鷲士に向け拳を繰り出す、鷲士はその拳を受流し加速を付けて返す。
―九頭・左竜輪剄―
己が拳力以上の力を加えられ、土偶は腰の関節に過負荷が掛かり火花を散らしながら二つに
折れる、そしてそのまま跳躍、もう一体の首に左の掌底が放たれる。
―九頭・左竜雷掌―
首の関節から高圧電流を流され、あらゆる関節から火花を散らし倒れる。
あらゆる筋力を意識の制御化に置き、肉体を100%活用する九頭竜ならではの離れ業である
鷲士が飛ぶ度に遮光土器が又一体と火花を散らし崩れ落ちる。
十体ほど倒しただろうか、ふと鷲士は己が師匠に目を向ける。
その光景に鷲士は目が点になった。
「うおおおおおお!」
掛け声一閃、鈴木は右正拳を放つ。
―九頭・右竜徹陣―
その威力は鷲士の比ではなく、一度に数体の土偶を吹き飛ばした。
しかも土偶の腹部には大きな亀裂が入り、機能を停止していた。
「うそ、神の金属と言われるヒヒイロカネがあっさりと・…むちゃくちゃなジジイね。」
M16を乱射し土偶を近付けない様にしていた美沙もその光景に呆れた。
「やはり、九頭竜は人間では無い様ですね。」
やはりM16を乱射しながら冴葉がポツリと呟く。
味方の筈の美沙達に無茶苦茶言われながらも鈴木の進撃はとどまる事を知らなかった。
土偶の群れに飛び込み向かい合わせの土偶に触れる。
―九頭双竜・雷激掌―
体内の生体電流を拳の一点に集約し放つ左竜雷掌をグレードアップし、両腕から左竜雷掌以上
の電流を放つ必殺技である。
その電圧に耐えられず土偶は火花を散らしながら倒れる。
そしてその場で腰を低く落とし右腕を一閃。
―九頭・右竜翔扇―
一度に数体の土偶を吹き飛ばし、飛ばされた土偶達は10m以上飛ばされた後地面に激突する。
異様にひしゃげ動かなくなった土偶を尻目に鈴木は正面の土偶の両脇に両腕を入れる、
滑り込ませた両腕の筋肉が以上に張る、途端に土偶は全身に無数の細かいひび割れを起こし
砕け散る。
―九頭双竜・骸―
両腕を一秒間に数千回振動させ、相手の分子結合を崩壊させる人外の技―仙術である。
「さすが九頭竜の闘士、対仙術・仙術とは良く言ったものです。」
美沙達を防壁で守り、近付く土偶を力で弾き飛ばしながら樫緒は素直に感心した。
鷲士が十体の土偶を破壊する間に鈴木は20体以上の土偶を破壊してのけた、九頭竜の闘士
と言えど生身の人間、その気の容量には限界がある。だが鈴木に疲れた色は無く無尽蔵の体力
を持つが如く戦っていた。
「さすが師匠、あれが精力絶倫と言うものか。」
などどボケた事を言いつつ鷲士は襲いくる土偶をかわしその後ろ膝に向け態勢を低くして
膝の関節部に左の掌底を放つ。
―九頭・左竜落崩―
掌底を受けた土偶の右足が関節部から切断、土偶はバランスを崩し前のめりに倒れ込む。
そして鷲士は土偶の頭部に近付き首筋の関節部を足で踏み抜く。
それだけで土偶は機能を停止した。
周りを見ると、土偶達の姿は無く今のが最後の一体だったようだ。
「どうやら終わったみたいね。」
周囲を見まわし美沙は危機が去った事を確認した。
「お師匠、お疲れ様です。」
鈴木に近付いて鷲士はそう声を掛ける。
「お前も中々強くなったな。」
鈴木は微笑して鷲士に言った。
「これなら我ら九頭竜の真髄も習得出来るかもしれんの。」
「真髄?」
師弟が語り合っていると突然、後ろから殺気が起こり二人はその場を大きく跳躍した。
「な!?」
空中で鷲士が見た物は蒼い光の鞭だった。
「ミュージアムか!?」
第十一章 覚醒
着地した鷲士達が見た物は、無数の蒼い光の鞭だった。
「ミュージアムか!?」
鷲士の鋭い声に導かれる様に密林の中からハイ・キュレーター シリウス・スコールが
ミュージアムの戦闘員を連れて姿を現す。
「案内ご苦労様、それに大掃除もしてもらった様ね。」
美沙達の所まで跳躍した鷲士達を見ながらシリウスはそう言ってのけた。
「私達を露払いに使うとは良い度胸じゃないの!」
シリウスの言いぐさに子猫様は青筋を立てて言い返した。
「もう、貴方達の役目も終わりよ。」
美沙の怒りを受けながらシリウスの表情は恍惚のそれだった。
「ふざけんじゃないわよ!このナルシスト!!」
美沙はM16を放つ、だが全て蒼い光に絡め取られ石化した。
「慌てないで、折角フェイスにプレゼントを持ってきたのだから。」
そう言ってシリウスは密林に目を向ける、途端そこから幾つ物の大きな青銅の巨人が
幾つも現れた。
「どう、このプレゼントは?貴方の為にタロス・タイプにオリハルコンの外装を取りつけた対フェイス用の特別製よ、精神感応物質たるオリハルコンには流石の九頭竜も効かないでしょう?」
オリハルコンとは並みの物質より硬く、九頭竜の本髄たる打撃技は元より気を扱った技ですら
精神感応物質たるオリハルコンには通用しなかった。
「なるほどの、オリハルコンで儂等の気を受け流す訳じゃ。」
密林より20体ほど現れたタロス・タイプを見ながら鈴木は関心した様に言った、
「じゃが、その程度では九頭竜は倒せんぞ!」
そこには鬼神の名に相応しい獰猛な笑みを持った闘士がいた。
「どうやらこれがラスト・バトルのようね!!」
そう言って美沙はM16に取りつけられたM203グレネード・ランチャーのトリガーを引く、
バレルの下に取りつけられたランチャーが火を吹く。
それが戦いの狼煙となった。
待ちかねた様にシリウスの光の鞭が鷲士を襲う、みんなを巻き込まない様に慌てて距離を
とる鷲士、シリウスは鞭を振るいながら追いかける。
「逃がしはしないわフェイス!」
蒼い鞭は幾重にも分かれ、鷲士を捕らえ様とするが鷲士はその全てを避ける。
そしてミュージアムの戦闘員が銃を乱射している間にタロス・タイプはFTI陣営に近付く。
「おらおら死んじゃえ〜!!」
美沙はライフルを乱射しながらグレネードを発射、敵に向かって攻撃を掛ける。
樫緒もまた力を使い敵の武器を暴発させ戦闘力を奪っていく、だがその間にタロスが近付いてくる。
「デク人形が!」
樫緒はタロスを目標に力を放つ、だがタロスは何事もなかった様に歩みを進める。
「!?」
力が通じなかった事を訝しむ樫緒に向かって。
「少年、相手はオリハルコン製じゃ!直接の精神波は反らされる、人形本体ではなく
周りの物を使って止めるのじゃ!!」
鈴木はそう言い放ちタロス軍団に向かって突進する。
「無茶です!!」
その光景を見て冴葉が叫ぶ。だが次の瞬間、冴葉達は声を失う。
先頭を行くタロスに突進し、敵のパンチを掻い潜り懐にもぐり込む。
―九頭・右竜金剛撃―
右の手刀に気を集中し、その密度に応じてあらゆる物を貫く。
手刀は易々とタロスの腹部を貫く、内部の歯車を引き出しながら背後に迫ったもう一体に向かい
右腕を一閃。
―九頭・右竜翔扇―
歯車ごとタロスは宙に弾け飛び、別のタロスを巻き添えにして地面に激突する。
鈴木により先陣を崩されたタロス軍団は内部より撹乱され浮き足立つ。
樫緒は再度、結城の力を放つ。先程はタロス自身に向け放ったが精神感応物質たる
オリハルコンにより空間を操る精神波を反らされて失敗したが、今度はタロスがいる地面ごと
宙高く持ち上げ他のタロス目掛け、叩き付ける。
そうしている間にもシリウスは他には目もくれず、鷲士ただ一人を攻撃目標にしていた。
「死になさいフェイス!我が友桐古の敵!!」
シリウスの瞳に狂気が宿る。
「く・…」
執拗なまでの攻撃に反撃の糸口を掴めず、鷲士は防戦一方となる。
「なんだ、この気迫は!?」
凄絶なまでの気迫に鷲士に戸惑いの色が現れる。
「桐古は私の芸術を理解してくれた、たった一人の友!それを貴方は殺した!!
許さない、絶対に殺してやる!!」
シリウスの叫びに鷲士は
「誤解です!彼を殺したのは僕じゃありません!!」
「世迷言を!!」
既に己が狂気に酔いしれているシリウスに何を言っても無駄だった。
シリウスの蒼い鞭はその数を増し、縦横無尽に襲い掛かる。
鷲士はギリギリの所で避け地面につま先をめり込ませ地面をひっくり返す、地層返しだ。
ひっくり返された10M程の地層は物凄い勢いでシリウスに向かって飛んでいく、
だがシリウスのハイ・アートー メドーサの吐息は主を守るべく全ての鞭を地層に振るい
石化させ粉々に砕いていく。だが破片で視界が覆われた瞬間、鷲士はシリウスに向かい大きく
跳躍した。
―九頭・右竜徹陣―
必殺の右正拳突きはシリウスを襲う、だが寸前の所でかわした。
「く!」
大きく跳躍したシリウスの左腕から血が流れる、完璧には決まらなかったが掠ったようだ。
左腕を押さえながらも蒼い鞭を展開し、彼女はまだ戦うつもりの様だ。
その時シリウスの背後から銃撃が彼女を襲う、だがその全てを蒼い鞭が自動的に弾き落とす。
「もうお終いね、けどアンタのやって来た事は許される事じゃない!!」
そう言ってM16を構える―美沙に瞳に明らかな殺意が沸き起こる、昨日の守護者の一族の
惨たらしい惨状が彼女の中で怒りとなり、冷徹な殺意となる。
それは不幸な出来事だった。
鈴木と樫緒によりタロス軍団もあらかた片付き最後の一体が破壊された時、その破片
胴体部分が飛ばされ、美沙の背後から襲いかかった。
重量数百kの胴体部は弧を描き、美沙の頭上に降りかかる。
その光景を見た鷲士はすぐさま美沙の元へ駆け寄る、間に挟むシリウスの横を通って。
無防備な鷲士にシリウスは歓喜の表情を浮かべ、蒼い鞭を振るう。
鷲士はその鞭を避けようともせず、一目散に美沙の元へ向かう。
普段の美沙なら背後の危険にすぐさま気が付いただろうが、怒りに駆られた美沙は気付くのが
数秒遅れた、それは致命的だった。
胴体部が落下し、大きな地響きと共に土煙が巻き起こる。
「姉さま!!」
樫緒の顔が蒼白になる。今まで共に生きてきた己が半身が、自分を受け入れてくれる
たった一人の双子の姉が、それがこんな事で失われる!!
「ボス!!」
冴葉はその光景に最悪の事態を想定しながらも駆け出した、樫緒と共に。
土煙が収まると、其処には大きくひちゃげた胴体部と鷲士に抱きしめられ難を逃れた
美沙が転がっていた。
「ん、鷲士くん?…・助けてくれたんだ。」
美沙を抱き締め、激突前に跳躍し難を逃れたのだった。
「ありがと、けど重いよ〜。」
自分を救ってくれたパパに感謝と嬉しさから甘えた声をだし父親に声を掛ける、
だがその父親から返事は無い。
「ん、鷲士くん、どうしたの?」
その時、美沙の身体に生暖かいものが付いていた。
「姉さま!ご無事でしたか!!…・・!?」
美沙の元に駆け寄った樫緒と冴葉はその光景に息を呑んだ。
樫緒と冴葉の表情を見た美沙はその時自分を抱える鷲士が左腕だけで右腕が感じられない
事に気が付いた。
「まさか!?…・・!!」
鷲士の下から這い出た美沙が見た物は右腕と両足を切断された鷲士の姿だった。
「うそ……・」
茫然自失となる美沙の目に石化した右腕と両足が目に入る。
「嘘よ、こんなの嘘よ…・・」
血が絶え間無く流れ落ちる傷口を必死に押さえる美沙の目は虚ろだった。
鷲士は自分の身を省みず美沙を助けた。その結果、鷲士は右腕と両足を失った。
必死に傷口を押さえる美沙の姿に樫緒も冴葉も声の掛け様が無かった。
(父さん・…まさか・・こんな…・)
冷静な樫緒も目の前に広がる光景に呆然となり力で傷口を止める事すら失念していた。
冴葉は何とか立ち直り、近くのFTIのスタッフに応急処置を命じ、呆然としている樫緒に
力で傷が塞げないかと提案する。
だが、その傷口から溢れる大量の血が、その傷が致命傷であると告げていた。
「ははは、遂にやった、フェイスを倒したわ!!」
唐突に笑い声が木霊し、シリウスが満面の笑みを称えながら笑う。
「馬鹿な男、小娘一人を救う為にこの私の前に隙を見せるなんて!」
その嘲笑は樫緒と冴葉の激怒を誘った。
「貴様!!」
怒りに身を焦がす樫緒が不意に戸惑った顔をした、彼はあり得ないことを感知したのだ。
後ろから結城の力を、自分と同じ力を感じたのだ!
「姉さま!?」
樫緒は驚きのあまり言葉を失った。
第十二章 残酷な運命
「姉さま!?」
樫緒の驚きはもっともだった、いままで美沙は結城の中でただ一人何の力も持っていなかった
だが、いま樫緒が感じている物は明らかに結城の力そのものだった。
「ボス!?」
冴葉もまた異変を感じていた、突然うしろから熱気が沸き起ったのだから。
二人は揃って異変の元、美沙を見た。そこには淡い光に包まれた美沙がその場に居た。
風になびく金色の髪、光に包まれた美沙に普段の表情は無く。
禍禍しくも神々しい、人を越えた存在感が有った。
「これは一体?」
何の力も持たず、其れゆえに苦難の道を歩んでいた美沙が力に包まれている。
その光景に樫緒は混乱した。
「よくも、鷲士くんを・…」
何の感情も感じさせない声の下には血だらけの鷲士が横たわっていた。
「これは一体どう言う事!?」
突然の変化にシリウスも又混乱していた、狂気に包まれながらも人としての最後の部分が
生命の危機を感知していた。
突然、シリウスに向かい凶風が吹きつけシリウスを切り刻む。
「ぐ!!」
メドーサの息吹がシリウスを守ろうとシールドを張るが凶風は易々とシールドを切り裂く。
「許せない…・」
そう呟き、美沙はシリウスに向って歩き出した、だがその肩を男の手が掴む。
「よせ!これ以上お前の力を使うな!!」
その手は真剣な趣の鈴木だった。
「はなして…」
美沙がそう言うと鈴木は不可思議な力に吹き飛ばされた。
「姉さま!」
「近付くな!危険だ。」
樫緒が近付くのを鈴木が止める。
「何故です!?」
樫緒が激しい勢いで詰め寄る、だが鈴木は黙って美沙を指差した。
美沙を包む光は点滅を繰り返している。
「お嬢ちゃんの力は不安定なんじゃよ。」
その言葉に答える様に突如、美沙の背中の戦闘服が裂け、光に包まれた翼が生える。
「翼?」
「本物じゃない、溢れる力が具現化した物じゃ・・…じゃがまずいぞ!このままではお嬢ちゃん
は暴走してしまうぞ!!」
その言葉どうり、美沙は光の翼を生やし、身を包む光の繭は激しく光りだす。
そして唐突に美沙は地表を離れ、天井に向い飛び立った。
「おお!」
衝撃に吹き飛ばされない様に鈴木達は地面に伏せた、そして美沙は天井を突き破った。
「まずいぞ!完全に我を失っておる!!」
鈴木の言葉が終わらぬ内に天井が衝撃により崩れ始めた。
「まずいの、此の侭では生き埋めじゃ!」
天井の崩壊のスピードは徐徐に早まり、とても入り口に辿りつけそうも無い。
しかも重傷の鷲士も居る、冴葉は現状を考えベストの選択をする。
「樫緒さん、鷲士さんを連れてここを脱出してください。」
冴葉の提案に樫緒が目を剥く、つまり自分達は犠牲になると言うのだ。
「此の侭では鷲士さんは出血多量で死んでしまいます、そしてボスを止められるのは
貴方だけでしょうから。」
冴葉は冷静に判断していた、美沙を救うベストな選択を。
「鈴木さん。申し訳ありませんか、そう言う事ですので。」
鈴木にそう話す冴葉の口調が全然申し訳無さそうじゃないのは何故か…
「なに、弟子の為なら仕方ない・・…じゃが心配無用の様じゃぞ。」
鈴木はそう言って密林の方を指差す、そこには一人の男が立っていた。
「お前は!!」
男の顔を見た樫緒が声を荒げる、その男は美沙を襲った、アルモスと名乗る男だった。
「よ、どうやら遅かった様だな。」
その男、アルモスは鈴木に向い軽く手を振って言った。
「ああ、最悪の状況と言う奴じゃの。」
「貴方達は知り合いですか?」
二人の会話を聞き、冴葉はそう問いかける。 銃を構えて
「ああ。奴とは妙な縁があっての、今回のお嬢ちゃんの事も奴から聞いたんじゃ。」
鈴木はそう言ってのける。
「ネタばらしもいいが、ここは危険だ。取り合えず場所を変えよう。」
そう言ってアルモスは戦闘服の胸ポケットから奇妙な小箱を取り出した。
「みんな、俺の近くに来てくれ。」
半信半疑ながらアルモスの言葉に従い、鷲士を背負った鈴木を最後に全員が揃う。
「よし。転移するから全員目をつぶって!」
そう言うとアルモスはマッチ箱程度の箱を空高く掲げる。
途端、その場にいた全員の姿が消える。
次の瞬間、樫緒達は富士の裾野に転移していた。その時、富士山に地鳴りが起こった。
「崩れたようじゃの。」
鈴木がぽつりと呟き、そして傷だらけの鷲士を見る。
「血圧低下、体温が下がっていきます!」
「とにかく傷口を塞いで!ヘリの用意と病院の準備を早く!!」
「片桐女史、僕が傷口を塞ぎます。」
「お願いします。」
大量に失血した鷲士はショック状態になり、危険な状況だった。
「なあ、コイツは儂の可愛い弟子での、助けてやりたいんじゃ。」
鈴木はそう言ってアルモスを見る、その言葉を受けアルモスが鷲士に近付く。
途端、樫緒達が警戒する。
「まあ待て。こいつを救いたいんだろ?俺に任せてみないか。」
アルモスの言葉に樫緒は暫し考るが鷲士の様態は一刻を争った。
「貴方なら救う事が出来ると?」
「ああ、任せて貰おう。」
そう言ってアルモスは応急処置をするFTIのスタッフと入れ替わり、鷲士の側に座った。
「顔色が悪い、かなりの血液を失ったな。流石の九頭竜もこの状態はまずいな。」
そう言って背中に背負ったリックから小さな小瓶を取りだした。
「フェイス、これを飲め。」
鷲士の頭をもたげ、アルモスは小瓶の中身を鷲士の口に注いだ。
何とか鷲士に飲ませて待つ事数分間、鷲士の右腕と両足の切断部から血が止まり
肉が盛り上がってきた。
「これは?」
「生命の水と呼ばれるO―パーツだ。北欧神話にある復活の葉、正確にはナノ・マシーンの
集合体だが、それを水で煎じて飲みナノ・マシンで欠損した肉体を再生する優れものだよ。」
冴葉の驚きに律儀に答える。
鷲士の様態は安定し、一行は取り合えず空母ライトニングに向う。
今後の対策を練る為に、鈴木とアルモスも共に。
ライトニングに到着したのは真夜中だった、一行は作戦室に集り今後の対策を練っていた。
「なんですって!姉さまを殺すですって!!」
作戦室に樫緒の怒りに満ちた声が響く。
「そうじゃ、我ら九頭竜はこの世に災いを招く物を屠る為に生み出されし技。
あの娘を此の侭にしておけばこの世は災厄に覆われる。」
樫緒の怒りを正面から受け止め、鈴木は静かに答える。
「待って下さい!何かボスを救う方法が在る筈です!!」
冴葉もまた美沙を救いたいと思っていた。
「あの娘、もはや人としての感情など持っておらんじゃろう。ちょうど崑崙の邪仙の様にの。」
そう答える鈴木の表情は氷のように冷たかった、これが鈴木の本来の姿―鬼神なのだろう。
「そんな事!この僕が絶対許しません!!」
そう言って樫緒は鈴木を睨みつける、普段の冷徹な少年が激情に身を焦がしていた。
「ならばどうする少年?恐らくあの娘は己が力に取り込まれ正気ではないだろう、
力に溺れ、暴走しているあの娘の行く手は自滅しかない。」
樫緒と鈴木は一触即発の状態でにらみ合う、アルモスは壁にもたれ事の成り行きを見守っている。
その時、扉が開いた。
「待って下さいお師匠!」
そこには自らの足で立つ鷲士がいた。
「鷲士さん、もう良いのですか?」
冴葉がそう訊いて来る。生命の水を投与された後、失った右腕と両足は五時間程度で再生した
今まで医務室にて検査を受けていたのだ。
「ええ、もう大丈夫です。それよりもお師匠!美沙ちゃんを殺すなんて止めてください!!」
鷲士は鈴木にそう嘆願する、だが鈴木の答えは無情だった。
「あの娘は危険じゃ、我ら九頭竜の役目を果たすのみ。」
「美沙ちゃんは絶対に救って見せます!僕の生命に変えても!!」
鷲士は己が決意を鈴木にぶつける。
「鷲士・…」
それまで静観していたアルモスが近付いてくる。
「哲郎、お前の負けだ。言っただろう?フェイスならそう言うって。」
「貴方は、どうして僕を助けてくれたのですか?」
「なに、最初から殺すつもりは無かったのさ。」
鷲士の疑問にそう答える。
「俺の目的は見定めること。訪い人の血を色濃く受け継ぐ者、結城美沙嬢をな。」
第十三章 思いを胸に
「俺の目的は見定めること。訪い人の血を色濃く受け継ぐ者、結城美沙嬢をな。」
アルモスはそう言って鷲士達を見る。
「俺は封印者の一族の者だ、神代の時代より訪い人が残せし厄介な物を消し去る事を
生業とする者だ。今回の目的は訪い人の血を色濃く受け継ぐ者、結城美沙嬢を見定める事
そして危険なら排除する事だ。」
「美沙ちゃんが訪い人の血を色濃く…」
「本来なら敵対すべき九頭竜の闘士が父親とは、さすがに驚いたよ。」
混乱する鷲士に、にやっと笑いながらアルモスは言葉を続ける。
「だが、姉さまは今まで何の力も持たなかったのに…」
鷲士のみならず樫緒も混乱する、美沙は一族の中でただ一人何の力も持たなかったのに
それなのに、何故今更こんな事が起こるのか!
「それは、彼女が単なる幼年期だからに過ぎない。今まで我らが結城を放置していたのは
訪い人の血が薄れ、それほど脅威とは考えなかったからだ。
だが彼女は違う、訪い人の血が覚醒した時点で、彼女は人とは比べ物にならない
力と寿命を得た、それと人とは違う価値観も…今までは人としての血が強かったから
あれほど感情豊かだったが、もはや彼女は人ではない。」
アルモスの言葉に鷲士は衝撃を受ける、愛娘が人間じゃないと言われたのだから。
樫緒もまた衝撃を受けていた、今まで双子の姉は力を持たない故にかなりの苦労をしていた
だが彼女は逆境にもめげず、己が居場所を作ろうと必死になっていた。
樫緒はただ美沙の幸せを願っていた…だがその結果、美沙は人ならざる者として
覚醒したと言う。一体彼女は何の為に頑張ってきたと言うのだ!!
「彼女は既に暴走している、此の侭では彼女の身体は持つまい。本来ならまだ幼年期だからな
恐らく強い精神的な衝撃により覚醒したんだろう。」
その言葉に鷲士は目に涙を浮かべながらも言い放った。
「そんな…それじゃ美沙ちゃんは何の為に生まれてきたんです!これじゃ・・こんな結末じゃ
悲し過ぎるじゃないですか!!
僕は美沙ちゃんを救ってみせます!この生命に変えても!!」
鷲士の叫びは、打ちひしがれた樫緒や冴葉に絶望から立ち上がる力を与えた。
「鷲士さん…」
「父さん…!」
その鷲士の決意を見て、鈴木とアルモスは頷き合う。
「どうじゃ、儂の自慢の弟子は?」
「確かに、フェイスならそう言うと思ったよ。」
「!?」
二人の会話を聴き、鷲士は顔を上げた。
「ああ、さすがに此の侭じゃ目覚めが悪いからの。」
鈴木の言葉に鷲士に笑顔がこぼれる。
「フェイス。あの子は恐らく覚醒時の強い衝撃、お前が傷つけられた時の感情に引きずられている
はずだ。あの子は必ずシリウスの元に現れる!その時がチャンスだ!!」
アルモスの言葉に冴葉は
「ですが、あの崩落ではシリウスも巻き込まれたのでは?」
地下の大空洞が崩れ落ちる時、シリウスは暴走する美沙の力をまともに受け満身創痍となっていた
あの崩落の中、生き延びているとは考えにくい。
「それなら心配無い、あの女は生きているよ。」
アルモスの言葉に、全員が驚いた。
「どうやって、あの崩落を?」
「あの時、アイツは己がハイ・アートを使い周囲に壁を作っていた。恐らく崩落を受け止める
気だったんだろう、それでアイツに発信機を取り付けておいた。その発信機が先程から
アイツの居場所を送信してくるのさ。」
その言葉に一同絶句した、あの状況でよくそんな余裕が有ったと。
「あの女の居場所はここからそう遠くない所に居るようだ。」
「では!」
「ああ。あの女をとっ捕まえれば、必ずあの娘は現れる筈だ。」
アルモスの言葉に、全員が身構える。
みんなには判っていたのだ、これが美沙を救う最初で最後のチャンスだと。
その頃、シリウスは太平洋側に在る小さな漁村にある倉庫に居た。
富士山の大崩落の時、シリウスは己がハイ・アート メドーサの吐息を使って落ちてくる
岩盤を分解しながら脱出したのだった。
"メドーサの息吹"、石化フィールドにて対象物を包み分子変換をさせるハイ・アートである。
それからの事はあまり覚えていない。全身を包帯で包みながらシリウスは傷の痛みに耐えていた。
そして彼女の前には小さな壷が置いてあった、ドサクサに紛れ持ってきたのだ。
「まさか、フェイスにあんな隠し玉があったとは。」
彼女の傷は美沙の暴走に巻き込まれた時の傷だった。
「まあ、オリジナル・ソ―マは手に入ったし。それにさすがのフェイスと言えどもあの傷なら。」
シリウスの唇が笑みを浮かべる。
「馬鹿な男…あんな小娘を助ける為に、隙を見せるなんて!」
あの時。タロスの胴体部が美沙目掛けて飛んできた時、鷲士は美沙を助ける為に全力で走った
シリウスの脇を通って。
その隙をシリウスは見逃さなかった、彼女は歓喜の表情で鷲士に蒼い鞭を振るった。
鷲士はその殆どを避けたが、右腕と両足に鞭を受けた。
「けど、念には念をいれて。」
シリウスの視線の先にはオリハルコン製のタロス・タイプが数十体以上も鎮座していた。
「あれだけの傷なら何処かの病院に収容されている筈、そこを探し出して……・・」
自分がダーティ・フェイスのとどめを刺す瞬間を夢想しながらシリウスは満面の笑みを
浮かべる。
だがその夢想は唐突に終わった、天井の破壊音と共に。
|