DADDYFACE NEXT ShortStories
「銃を持ったケダモノ(参)」
written by アルディー



歩けるようになることが、悠のリハビリの第一歩だった。 数ヶ月間寝たきりだったのだ。
全身の筋肉は弱り、歩くことさえもままならなかったが、家族の協力もあって松葉杖を支えになんとか歩けるようになったのだ。 
今日も今日とて長い長い廊下をゆっくり歩いて行くと、急に体が軽くなった。 
不思議な力で体が宙に浮いているのだ。
さらに後ろから伸びていた手によって優しく抱きしめられる。
「大丈夫?悠ちゃん」
手の主は草刈美貴であった。 悠にとっては祖母に当たる存在なのだが、とてもそうは見えない。
美女は年をとっても美女なのだ。 
「美沙がぶ〜たれてたよ。 一緒に寝てくれないって・・・悠ちゃんもがんばりすぎないで、たまには甘えないとダメだぞ」
「うん、わかってるよ。 おばあ・・・」
ミシ、と自分の骨の軋む音がする。 抱きしめる力と殺気が増している。 
「・・・・・・・・・美貴さん」
「よし♪」
手が離れ、体も無事地面に降りる。 
美貴はがんばって、と肩をポンとたたくと鷲士のいるリビングルームに向かうべく、階段を下りていった。
「危なかった・・・もう一回リハビリはごめんだからね・・・」


毎度毎度騒がしい夕食を済ませ、悠は庭でぼんやりと空を見上げる。 最近、一人で考え事をする時は決まってここにいた。 
月は三日月、優しい光を降り注がせている。
「あ・・・」
帰ろうとしたときに、バランスを崩してしまう。 今の悠には転ぶ事も、そこから起き上がることも一仕事だ。
だが地面とキスすることなく、また何者かが悠の襟を掴み、引っ張りあげる。
「大丈夫か?」
「はい・・・・・・ヴァンさん」
闇に融けてしまいそうな漆黒のスーツと月夜に映える銀髪。 
長身痩躯の男、彼の名をヴァン・カーター。
「リハビリの具合はどうだ?」
「ええ、順調です・・・・けど・・・」
「不安・・・か?」
彼の心を見透かしたような質問に、驚きながらも素直にうなずいた。
「お前は強くなりたいのか? それとも護れるようになりたいのか?」
その質問を悠はよく理解できなかった。 強い者と護れる者は一緒だと思っていたからだ。
「・・・・・・ただ悪戯に強さを求めても、大切な物を護れるようにはならん。だがな、一途に何かを護りたいと思っている人間は
強くもなれる。 力だけを求めるのだったら、ミーミルの水でも飲めばいいのだ・・・我のようにな・・・」
「そんな・・・ヴァンさんは!」
ヴァンが何故、現在のような境遇にあるかの事情を美沙から聞いていた悠は、その言葉を首を振って強く否定した。 
しかしヴァンは自虐的に笑う。
「確かに・・・・彼女の魂を救う事は出来たかもしれない・・・しかし、彼女の現し見を救う事は出来なかった。 
・・・・・・一回しか言わん、よく聞け、悠よ」
「・・・・・・・・・・・」
「我のようには・・・なるな。 我のように、長い時を悲しみと共に生きて欲しくはない。 護れる物、護りたい者が生きている。 
その幸せと共に・・・己の誇りのままに・・・護れるように・・・強くなれ」
悠は胸がいっぱいだった。 いつも冷たい印象の彼からこんな言葉をかけられるとは思わなかったからだ。
「・・・・・・・・・はい! がんばります!」
力強く、その言葉に答える。
「・・・・・と、長々と講釈を垂れておいたが、本題はこれからだ。 お前に渡す物がある、お前にとって奥の手になりうるものだ」
ヴァンはそう言って、悠に赤いガラス球のような一個の石を渡す。 大きさはビー球を少し大きくした程度で、不思議な光を放っている。
「お前の母親、そしておまえ自身のプライドに反するものだとは思うが・・・奥の手とは本来そういうもの。プライドも意地も
かなぐり捨て、それでも欲する最後の一手・・・」
「もしかして・・・・・・これって・・・」
「そう、ハイアートだ。 名を『キルケの宝玉』という・・・これが持つ能力を知ったとき、お前は絶対に負けない存在と
なるだろう・・・」
「キルケってあの、ギリシアの?」
「後は自分で調べろ、じゃあな」
それだけ言うと、ヴァンは闇の中に消えていった。 以来、その宝玉は悠の義眼の中に仕込まれているという。


 一年後、日本のとある国際空港。 そこにキリィ一家が降り立つ、ルナもリムもどこか自信に満ちた、晴れやかな顔をしている。
「悠は草刈の家にいると思うから、早く行ってビックリさせようぜ!」
「うん♪」
「ちょっと待ちなさい、二人とも」
アリスが真面目な顔で、二人向かって言う。
「悠のリハビリは、がむしゃらにがんばればいいってわけじゃないの・・・だから・・・もしかしたら、まだ治っていないのかもしれない
・・・二人は悠の事、応援してあげられる?」
「・・・・・・大丈夫じゃねえか?」
キリィが入り口の方を見て、ニヤニヤしている。 その笑顔に、ルナとリムはまさか、と胸を高鳴らせる。
四人の元に走ってくる、一人の少年。 一年前より背が伸びたが、後は昔と何も変わらない。
片方は偽者になってしまったが、メノウの瞳。 長く、黒い髪。
「「悠!!」」
瞳から喜びの涙を流して、二人の少女が少年、草刈 悠に飛びつく。
「どうして今日だってわかったんだよ・・・」
「そんなの乗客名簿見れば、一発だろ?」
「悠・・・もう・・・・・・体・・・・大丈夫なの?」
「見りゃわかるだろ?」


大きく息を吐くと悠は二人を引き離し、少しはにかんで・・・
「お帰り、みんな」
その笑顔はいまだに二人の少女を魅了しつづけている。

 意識が現実に引き戻されていく。 目を覚ました悠は枕もとにあったデジタルの置時計で現状を把握する。 
撃たれてから、丸一日が経過していた。
ドアが開き、缶コーヒーとあんぱんを手にした虎雄が入ってきた。
無事に目を覚ました悠を見て顔を綻ばせる。
「良かった・・・美沙が泣きながら連絡してきたときはどうなるかと思ったぜ、体、大丈夫か?」
「ん・・・まあ・・・」
長い夢から解放された悠はよろよろとベッドから降りる。
「まだ寝てろ・・・傷はふさがったばっかりなんだぞ」
虎雄の勧めに悠は苦笑いを浮かべる。
「う〜ん、ちょっと勘弁・・・かな?  ここにいると・・・苦痛なんだ。 
『あの時』もこの病院だし、ずっと見てきた天井見てると・・・いろいろ思い出しちゃって・・・さ」
「そうだったな・・・」
悠は虎雄の事件のその後を聞いた。 首謀者、ジェス・リグマンの話も。 現在居場所はフォーチュンが徹底調査していることも。
「そっか・・・・場所はまだわからないのか・・・」
「焦ってもしょうがない事は、わかっているだろ? 悔しいけどさ・・・」
「うん、わかっている・・・つもり。 とにかく、寝る。 いざと言うときに動けなくなっちゃったら問題だもんね。
ほんと、ごめん。 迷惑かけちゃったみたいで・・・」
「あほ、子供は親に迷惑かけてこそ・・・だろ?」
拳で結うの額をコン、と叩く。
「うん・・・ありがとう」
照れながらも悠は素直に礼を言った。 
 その後、手続きや薬をもらうために残り、悠は一足先帰ることにした。 一人、タクシーに乗る。
「お客さん・・・どちらまで?」
「ここに・・・向かってください」
渡した地図は、東京湾の一角にあるとある港であった。

ヨットハーバーに荷物を抱えた二人の少女が姿をあらわす。 普通のヨットの二倍ほどの大きさの黒のクルーザーに向かって走る。
「遅せ〜ぞ、ルナ、リム」
船から出てきた悠の顔を見て、彼女たちは顔を輝かせた。 
リムはすぐに悠の腕に飛びつき、ルナは素直に喜びを表した事が恥ずかしかったのか、頬を赤くしてそっぽを向いてしまった。
「それじゃ、行くか」
「行くってどこに?」
「旅人を助けに・・・だ」

小型クルーザー内、操舵室。 部屋の中央にモニターを兼ねた机の前に悠が立つ。 
カーボンナノチューブを繊維化したカーゴパンツ、シャツ、その上に着ているポケットが多くつけられたベスト。
オープンフィンガータイプのグローブ、最後にコート。 何から何まで黒で統一されていた。
「悠、こっちも準備万端だぜ」
部屋の中にルナとリムも入ってくる。 彼女らの格好は体にフィットしたレザースーツ。
腕や足、胸の部分にはプロテクターを装着している。 そのしなやかなイメージは『黒豹』と呼ぶにふさわしい。 
「あのさ、助けに行くのは全然構わないんだけどさ、俺も旅人にひどい事しちまったし・・・でもよ、居場所はどうすんだ?」
「・・・・あのな、俺が一週間、ただほえほえしていたと思うか? この船中に特別なレーダーを仕込んでおいた。相手の居場所が
わかる・・・・・・な」
と言って悠は二人に小さなガラス瓶の中に入った泥の塊を見せる。 
「俺を襲ったフェイクの体の一部・・・要するに海洋の壷の泥、だな。 あの時失敬しておいた」
「いつの間に・・・」
ルナが感嘆とも呆れともつかない声をあげる。 
「これはな、壷じゃなくて泥がハイアートみたいなもので、固有のの特殊電波を発している。 これにより、持つ者の意思に応じて
泥自体が変化して人形を作り上げるんだ。 これもその一部、今も電波を発し、旅人が持っているコピーの壷に戻ろうとしている。 
ということは、この電波が強くなる方へ向かったら?」
「旅人の元へ・・・・・・たどり着く? 」
「そゆこと。 とりあえずの地点を算出した場所付近に無人島があったから、多分そこだと思うんだけど・・・どのみち海上だから
鳥船を用意しておいた。 ・・・・・・そんじゃ、発進」
クルーザー、鳥船を起動する。 
「あのね・・・あのね・・・悠・・・気になる事があるんだけど・・・」
リムが悠の袖をクイクイと引っ張る。 
「海洋の壷のレポートに・・・・・・・あったんだけど・・・・海洋の壷の最悪の使用方法・・・」
その言葉に悠は眉間に皺を寄せる。
「ああ、そういう『可能性』もあるかもしれない・・・気をつけておいてくれ」
「うん・・・・・」
「今回は俺に吹っかけられた喧嘩である以上、俺がケリをつける。」
「違うよ、悠。 俺たち・・・・でしょ?」
リムが笑顔で悠の手を握る。
「悠とルナとリムはチームを・・・『八咫』を結成したんだから・・・一緒だよ」
「そうだな・・・三人でがんばろうって決めたんだよな」
モニターが切り替わり、そこに三人のチームのマークが映し出される。 三本足のカラスの絵。
日本では賀茂建角身命が天照大神の命によってカラスに転じた姿だと伝えられ、神武天皇の東征の際は道案内役を務めたとされている。
悠はダーティ・フェイスを勝利に導く道案内役になる事を願い、この名前をつけた。
そして八咫烏に関してはこういう言い伝たえがある。
『見る資格の無い者がこの鳥を直視すると、気が狂う』・・・・・と。

「俺のダチを傷つけやがって・・・どういうことか思い知らせてやる」

この場合、『気が狂う』で済むかどうかは・・・別の話ではあるが。


『てめえが、ジェスか?』
太平洋上に浮かぶ名もなき島、その中心には大きな洋館が建てられている。 洋館内のジェスの部屋。 彼の持っているPCのモニター
に悠の顔が写る。
「場所が特定され次第・・・衛星からのリアルタイム・ハッキング。 さすがですね、クロックワーク・ラヴァー」
『旅人は・・・無事なんだろうな・・・』
怒気のこもった声で悠が尋ねる。
「ええ、無事ですよ。 今後、彼らはゲームの景品ですから」
『ゲーム?』
「はい。 あなたが数々の困難を突破し、私の元までたどり着くという・・・ね。 そうすれば、旅人君は返してあげましょう・・・
あなたは・・・別ですが」
『その言葉・・・・・・忘れるんじゃねえぞ』
回線が切れる。
「ええ、そうしなければおもしろくありません」
「なぜ・・・人質を有効利用しない?」
部屋の中には三人の人影があった。 一人は、茶髪で左耳に三連ピアスをしたギターケースを担いだ男。 
二人目は学生服に軍刀をしょった少年。 最後は赤い髪とそれに負けないほどの紅の瞳。 メリハリのきいたボディラインを誇り、太
ももの付け根まで露になるスリットの入ったロングスカートが印象的な美女。
声をかけたのはその女性のようだ。
「今回はあくまで通過点です。 より良い人形を揃え、個々の技術を上げるためのものですからね。 さあ、相手はペテン師です。
正門から入ってくることはないでしょう。 手練の兵を連れて三方に散ってください。 正門は残りの戦闘員と私の人形を配置させとき
なすから・・・・・・さあ、働いてください。 あなた方が私に逆らう事はできないのですから」
三人は舌打ちをしながら、部屋を出て行く。 一人残った部屋でジェスはほくそ笑む。
「意志を持つ手駒はやはり面倒くさいですね・・・。 まあ、いいでしょう。 今回の作戦で生き残る『人間』は・・・・・・私だけの
つもりですから」


洋館は正門以外は森で囲まれている。 そこには一本道があるだけで後は見晴らしのいい平地だった。
「お〜いるいる」
スコープを構えた悠が、口笛を吹く。
「今回は俺自身をご指名だからな、きっと森の中に重点に配備していると思ったらビンゴだね。 中央突破したほうが良さそうだ・・・
そんじゃ、デカイ花火いきますか! そのあと『舞闘』で俺を洋館の中に・・・頼むな」
「「了解!!」」
悠が担いでいるのはドイツ軍で使用されているバズーカ、『RPzB43』。 狙いを正門に定め、トリガーを引く。
装填されていた88mm口径のロケット弾がまっすぐに飛び、待機体制をとっていた戦闘員の群れに着弾する。
爆音が開戦の合図となった。
爆発から逃れた戦闘員たちが銃を連射しながら突っ込んでくる。 しかし彼らはその途中で異変に気づく。
「霧が・・・・・・でている?」
そう、さっきまで快晴だった島に霧が立ち込めているのだ。 さらに耳に聞こえるのは美しい笛の音と

ちりん・・・ちりん・・・・ちりん・・・ちりん・・・

と一定のリズムで鳴る鈴の音。 それに呼応するように流れる笛の音。
戦闘員たちは自分の体が自分のものでなくなってしまったかのような錯覚に陥る。
「よそ見してて・・・いいんですか?」
後ろからの声に
慌てて振り向くと、そこには笑みを浮かべた悠が。 引き金を引く、銃弾はあっさりと悠の眉間に突き刺さり、彼の顔を破砕する。
仰向けに崩れ落ちる悠の体。
戦闘員が快哉の声をあげようとしたその時、悠の体が消え、かわりに出てきたのは・・・・自分と同じ服を着た戦闘員。
「う・・・・これは・・・一体」
彼はそれ以上喋る事はなかった、正面に突然現れたルナに首を切り落とされたのだから・・・

「相変わらず・・・すげえよな」
悠は先陣に切り込み、妖艶な笑みを浮かべながら独特のリズムで動きながらシザーハンズを振るうルナを見てつぶやく。
彼女は現在両手両足に鈴のついた輪をはめている。 それがちりん、と音をさせているのだ。
悠の隣ではリムが古ぼけた横笛を吹いている。 
ハイ・アート『セイレーンの笛』、笛の音を媒介に任意の相手を催眠状態に陥らせる事ができる能力を持つ。
そしてその催眠状態をルナの一定のリズムで鳴りつづける鈴の音がより深く、確実なものとしていく・
これが『舞闘』、二人で最強の彼女達の必殺技。 セイレーンの笛は、任意の相手にだけ効果を示す事ができるため対集団に関して
は絶対の効果をもつ。
ルナが舞を踊るように、戦闘員の間を移動する。 そのあとに次々に咲く紅の華。

「それじゃ、俺も行きますか」
悠は急ぐことなく。ただゆっくりと歩き出した。 混乱しているとはいえ、銃弾は銃弾は飛び交っている。
その中を・・・ただのんびりと歩いていた。
「うるさいなあ・・・・このすばらしい音が聞こえないじゃないか・・・」
ニヤリと笑うとコートの中から二丁拳銃を取り出す。 出てきたのはサイレンサーを装着したグロッグ17。
水平うちで銃弾を発射する。 まったくしない発射音の川かわりに、短い戦闘員の声。 
悠の銃弾は確実に戦闘員を捉え、死に至らしめる。
門の前で目を血走らせながら周囲を見ている戦闘員も悠の存在を知ることはなかった。 
二人の間に立ち中を二人のこめかみに押し当てる。
「「ひっ・・・・・・・・!!」」
男たちはそこで初めて催眠から解かれ、自分達が置かれている境遇に恐怖する。 悠は彼らの顔を見ずに平然と・・・
「お勤めごくろーさん・・・・これ、チップね」
銃弾が男たちの顔を貫いた。

悠は戦闘時、自分の心にある『甘え』や『優しさ』を塗りつぶす。 『覚悟』という黒い絵の具で・・・・
ポッカリと抜け落ちたその部分に悠は『冷酷』という色を塗る。 優しく、お人よしな悠はそこにはもういない。


哀れみもなく、慈悲もなく・・・・・・銃を持ったケダモノは戦場で笑う・・・


洋館内一階渡り廊下。 悠はグロッグを別の銃に持ちかえる。 今度は『モーゼル ミリタリーM712』。
1916年にドイツ陸軍がモーゼル社に対し、フル・オートマチックピストルを依頼し、1932年に完成したハンドガン。
独特のグリップが有名だ。
廊下を歩いているのは数人のナイフを持った男。
モーゼルが火を噴き、銃弾が男たちの頭を飛ばすが彼らは全く同ぜずに直進してくる。 
「くそ、もう出てきたか・・・泥人形」
泥人形、ジェスが持った海洋の壷で生み出された人形。 
彼らには重火器を持たせる必要はない。 そんなものがなくても相手を殺せるからだ。
吹き飛ばされた泥が再び男たちの首に戻り無表情な顔を形成する。
「どっかのゲームじゃないんだぞ・・・」
舌打ちをしながら、モーゼルを撃ち、的確な射撃でナイフを破砕する。 
懐からもう一丁のモーゼルを取り出し連射しながら前に進んでいく。 
四肢を破壊され、身動きが取れなくなった瞬間に走り抜ける。
「エヘへ・・・おにーさん♪」
天井から落ちてきた泥の塊が一人の少女を形作る。 フリルのついたドレスの可愛らしい少女が。 
「こっちに来ちゃったら・・・ダメ♪」
少女が手を振り上げると、男たちが泥に変化しすばやく悠を飲み込んだ。
「わ〜い 泥のお饅頭、中身は人肉だよ♪」
少女は笑いながら、泥の塊をペシペシと叩いた。


ルナとリムの二人にも泥人形は襲いかかってきた。 あらかた戦闘員は倒したが、今度は泥人形が相手だった。 
こちらの人形は人間やドーベルマンを多数配置していた。 
人間を含め生物には効果があるが、無機質には『セイレーンの笛』も通用しない。
リムもシザーハンズに装備を変え、前線に踊りこんでいく。 
「くそ、キリがねぇ!」
ルナがいらだたしげに叫ぶ。 なにしろ彼らは泥人形。 斬っても斬っても元通りになってしまうのだ。 
「ルナ・・・洋館の中に・・・行こう・・・」
「そうだな!」
二人が前方の敵を斬りつけながら疾走する。 そして、跳躍した。 
全身がまるでバネであるかのような二人のジャンプ力は軽々と泥人形たちの輪を飛び越えた。 
そのまま門に向かって一直線・・・と思ったそのときだ。 
あたりにギターの鋭い音が響いた。 空中になにかが反射する。 
二人の少女に向かって数個のメダル大の金属片が飛んでくる。 
とっさにルナはリムを庇いながら地面に伏せる。 
金属片が今まで二人の顔があったところを通過する、ルナはよけきれずに肩口を軽く切ってしまう。
悲鳴をあげるひまもないまま二人の体が浮き上がる。 
全身は金縛りにあったかのように動けない。 
「ヒャハハハハ!!  つ〜かま〜えた〜」
手にギターを持った茶髪男。 ネックストラップには小型のアンプがついていた。 先程の音の発生源はこれだ。 
彼の周りには先程の金属片が飛び交っている。
「かわいい女の子が二人・・・もう一匹の坊やがいないわね?」
紅の瞳を淡く光らせた魅惑的な美女。 
そして・・・
「無抵抗な者を斬るのは気がすすみませんね、でも仕方ないか」
と言って背中の軍刀をに手を伸ばす学生服の少年。 彼らの周りには多くの泥人形、しかも今度は重火器できっちりと武装している。 
銃口を彼女たちに向ける。
((悠・・・!!))
二人の少女が死を覚悟したそのとき・・・

「誰を斬るって・・・?  ああ! いいかげんにしろよ!」
両方のシザーハンズを具合を確かめるように叩き合わせながら、口にくわえていたタバコを吐き出した一人の男。
「あれ? 悠がいねえぞ・・・もう中入ってんのか?」
九頭流使いの象徴でもある、カーボンナノチューブのグローブはめ、身構える別の男。
バチ、と音がするとルナとリムを縛っていた見えざる鎖が解かれる。 地面に着地した二人。
「ほう・・・『本物』がいるようだな・・・」
先程の女性と同じようにくれないの瞳を光らせる銀の髪を持つ男。
「さ〜て、しっかり『お返し』に来たわよ・・・兆倍返しで・・・POF・・・OICWモード」
そうコールしたメノウの瞳を持つ美女。 
「それじゃ・・・行けーーーーーー!!」
「「「おお!!」」」

「あ〜あ、つまんない」
少女が悠が入った塊を残し、その場をあとにしようとする。 後ろを向いた瞬間、泥の塊から赤い光が伸び、彼女の腹を貫く。
「う・・・うわあああああ」
少女の体が炎に包まれる。 赤い光はそのまま上に動く。 その光の発生源は泥の塊からだった。 
「泥人形如きで・・・俺の歩みを止められると思うなよ・・・」
二つに割れた泥饅頭の中から悠が起き上がる。 手にしていたものはフォーチュンの銃型兵器、『POF』。
そのなかでも最高の攻撃力を持つ『ソードモード』高圧力のレーザーブレードを銃口から発生させ、敵を焼き斬ることが出来る。 
ただし使用時間は十五秒、その後は五分ほど使用不能になってしまうというデメリットがあるが。
「十五秒・・・今だ! 奴は無防備だ!」
曲がり角から数人の戦闘員がサブマシンガンを手に現れる。 だが、彼らが銃口を引く前にサブマシンガンは破砕されていた。
「お前ら・・・バカか? 無防備なわけないだろ? これでも二つ名持ってんだ・・・あんまり馬鹿にすんなよ」
悠の手には『S&W M19コンバットマグナム 4インチ』 Kフレームというミドル・サイズの軽快なフォルムのリボルバー。 
驚くべき早撃ち、これも悠の特技だった。 まるでこの銃を持つ者が早撃ちを運命づけられていたかのように・・・

クロックワーク・ラヴァー・・・ぜんまい仕掛けの恋人、機械に愛された存在・・・
それは・・・銃器も例外ではない。


三人の男が、じりじりとミュージアム側へ間合いを詰める。 
「行きなさい! 泥人形」
赤い髪の美女の号令と共に武装した泥人形、そして各々が連れていた戦闘員が前進する。 
中央にはへたり込んでいるルナとリムが、戦闘員のアサルトライフルが火を噴く。 
しかし、二人の姿が消え、門の前で再び姿を見せる。 眼帯の男、キリィに抱えられた状態で。
「「父さん!!」」
「・・・ったく、心配かけさせやがって・・・おら、悠が先に行ってるんだろ? 早く行って助けてやれよ・・・な」
背中をバン、と叩く。 二人は軽く咳き込みながらも洋館の中に消えていく。  
戦闘員が二人の少女に銃口を向ける。 
「何やってんの? アンタ」
眼前に現れるキリィの顔、彼の拳が顔面にヒットする。 背負っていたシザーハンズを装着する。 
ルナリムのものより長く、重い。
「いまさら武器装着ですか! 」
大きく跳躍した学ランの少年が背中に背負った軍刀を抜き、キリィの脳天めがけ振り下ろす。 
彼の軍刀には目玉のような紋様が刻まれている。
「朧・・・斬・・・月・・・」
軍刀がキリィの体を二分・・・したように見えた。 だが斬った瞬間に霧のように消えてしまった。 
「どこを斬っているんだよ?」
背後からした声に少年は振り返る。 キリィは彼の後方で笑っていた。 シザーハンズからは血が流れ落ちている。
軍刀の少年の直線上にいた戦闘員と泥人形が倒れていた。 体を切り刻まれて・・・
「残像・・・ですか・・・楽しめそうですね。 僕の名前は鷹刃 征太郎・・・相手にとって不足はないですね」
「ふん・・・俺はてめえ程度の人間じゃ、燃えないけどな・・・クレイジー・スモーカー、キリィ・・・ファミリーネームはねえぞ、
あるのは血の連なりと、『誇り』だけだ・・・」

別働隊が一人の男に向かってアサルトライフルを撃ちつづけている。 
その男は両手を広げ笑いながら彼らに向かって歩みつづけている。 
銃弾は確かに彼に命中している。 そのはずなのに、銃弾は彼の体に飲み込まれるばかりで効果はない。
輪の中央でその男、長身痩躯、黒衣の男ヴァン・カーターは止まり、硬質化した手のひらで自分の長い銀髪を切ってしまう。 
それを空高く投げる。
彼の美しい髪の毛は、一本一本が意思を持つものであるかのように地面に吸い込まれていく。 
「・・・・・・・ブラド・ツェペシュ・・・」
右腕を伸ばし、パチン・・・と指を鳴らす。 
その瞬間、地面から無数の銀の槍が出現し、まわりにいた男が串刺しにされている。 
再度もう一回鳴らすとそれぞれの槍が発火する。 泥人形は水分を失い、砂になっていく。
「砂になってしまえば、そう早くも復活できまい?」
ヴァンが低く笑う。 
「その力・・・貴様、ヴァンだな・・・」
紅の瞳の女性が、怒りに顔を歪ませヴァンを睨みつける。 
「貴様・・・『本物』の気配を持っているが、何故日の光の下を歩ける?」
「黙れ! まがいもの! 貴様のせいで我ら本家の吸血鬼は、惨めな思いをする事に・・・我ら全ての吸血鬼の始祖! 
パートリーの者は!」
「ふん、過去にばかり目を向け、他者を支配する事しか考えない・・・他の者たちは強く生きているというのに・・・
日本にもいるな・・・」
「黙れ黙れ黙れ黙れ〜〜〜〜!! このクライネ・パートリーの名にかけて、貴様を滅す」
二人の間に禍々しい気が交錯した。

「二人とも、下がって!」
突然の美沙の声にキリィとヴァンは、後ろに大きく跳ぶ。 
美沙はそれを確認するとPOFの銃口に何か大きな筒のようなものを装着し、射出する。
砲弾は空中で弾ける。 網状のものが降り、戦闘員たちに覆い被さる。
「と〜〜〜ら〜〜」
「任せろ!」
虎雄はネットの端に左手の掌底を叩き込む。 加圧した己の生体電流と共に・・・
九頭・左竜雷掌
「ふふん♪ 電気抵抗ゼロの特殊金属で作ったネットよ。 どういうことかわ・か・る?」
電流は網の全てを駆け巡り、残りの兵士を気絶させるに至った。 
「なんだよ、相手は決まっているみてえだな、おいそこのケンポー野郎! 俺の名前は仁科 タケル! せいぜいこのハイアート、
『バッカスの余興』を楽しませてくれよ!」
ギターをかき鳴らすと、彼の周りを飛んでいた丸い金属片が高速回転し、虎雄に向かっていく。 
「うるせえ! 九頭竜だ! プッツン野郎!」


洋館内、一回と二階の間の踊り場。 
「ぐあ!」
一人の戦闘員を壁に叩きつけ、悠は襟を掴み締め上げる。 
「動きすぎて疲れちゃった・・・めんどくさいから、あんたらの親玉の居場所教えてくれる?」
「誰が、てめえなんかに!」
「あっそ」
悠はホルスターから銃を抜く、『コルトS.A.A45』、通称ピースメーカー。 
銃身長が7と2分の1インチのキャバルリーサイズ。
 六発全てに銃弾が仕込まれているシリンダーから一発だけ残し、全て捨てる。
シリンダーを回した瞬間、戦闘員の目をふさぐ。 そして、男の口に銃身を突っ込むや否や。
カチ! カチ! カチ! 
三回ハンマーを押し、三回トリガーを引く。 音が戦闘員の寿命を縮める。
「さて・・・と。 あなたはこれからどうすれば良いでしょうか? 1、ジェスの居場所を素直に教える 2、黙っている。 
ちゃ〜んと考えて下さいね。 さもないと・・・」
カチ!
「・・・あ、また引き金引いちゃうよって言おうとしたら、ほんとに引いちゃった。 ゴ・メ・ン・ネ♪ 
さ〜て当たりはこれで五〇%。 答えは?」
声を出せない戦闘員は、必死で人差し指を上げて答える。 『1』と。


「ファイナルアンサー?」
戦闘員は何度もうなずいた。

銃を持ったケダモノ(肆)
TOP
アルディーさんへの感想は掲示板へ