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「う・・・うん・・・・ここは・・・・?」
そう言いながら樫緒はゆっくり目を覚ました。
「・・・どうやら、寝てしまっていたようですね・・・」
樫緒は回りを見渡した。
目の前に広がっていたのは、鷲士のアパ―トの一室だった。
「確か、病院に行って、それから・・・・」
そこまで思い出した所で鷲士の言葉が頭の中を掠めていった。
――たまには、父親らしい事をさせてくれないか?――
・・・そうだ、それで父さんに背負われて・・・・
――重い訳ないよ・・・ゆうちゃんとの間の子供だもの・・・世界一大事な息子だもの・・――
「・・・・・・・・・」
そこまで思い出すと樫緒は僅かに口元に笑みを浮かべた。
・・・・そうだ、それでそのまま寝てしまって・・・
・・・・でも、父さんの背中は大きくて暖かかった・・・・
・・・・母さまの暖かさとはちがう・・・大きく包んでくれるような暖かさだった・・・
「・・・・意外でしたが・・・・」
思わず口から出た言葉に苦笑すると、樫緒は自分が汗だらけになってる事に気がついた。
「・・・ベタベタして気持が悪いですね・・・・・・確か浴室はあっちだったような・・・・」
樫緒はそう言いながら浴室に向かった。
ザァァァァァァァ・・・・・
樫緒が脱衣室に入るとシャワ―の音が聞こえてきた。かごの中の服からして
どうやら 鷲士が先に入っていたらしい。
「・・・・父さんが入っているようですね・・・・後にしましょうか・・・・」
樫緒は脱衣所から出ようとした、しかしその時、ふと阿漕浦で鷲士の言った言葉を思い出した。
――君と樫緒くんは、特に一番の宝物だ――
樫緒はフッと表情を緩め僅かに笑みを唇を浮かべると
「・・・・まあ、男同士ですし、別々に入ると効率が悪いですから・・・」
――それに、少しは息子らしい事も・・・してみましょうか――
そう思いながら樫緒は浴室に入っていった。
ちょうど 鷲士はシャワ―で頭を洗って、体を洗おうとしていた所だった。
「・・・・父さん・・・・」
鷲士は慌てて後ろを振り向くとそこには全裸の樫緒が立っていた。
鷲士はニッコリ笑うと
「あ、樫緒くん、起きたんだね〜、そこじゃあ寒いから、湯船に早く入ったほうがいいよ〜」
「・・・・じゃあ、失礼します・・・・」
樫緒はそう言うと 鷲士の隣を抜けかかり湯をすると、湯船の中に体を沈めた。
「・・・・・・・ふう・・・・・」
ゆっくり息を吐きながら、前をみると 鷲士の背中が目に入った。
そこには大きな傷跡があった。
・・・・これが、母さまを助けた時に出来た傷か・・・・話には何度も聞いてはいたけれども・・・
自分が想像したよりもかなり大きな傷がそこにはあった。
樫緒はその傷をじっと眺めていたが、ふと口から自然に言葉が出た。
「・・・・父さん、傷を負った事、後悔してないんですか本当に・・・・」
鷲士は一瞬驚いた顔をしたが、樫緒の顔をみてゆっくり湯船に近づきながら、
「・・・・どうして、そう思ったんだい?」
と、静かに聞いた。
「・・・もし、その傷が無ければ半身が不自由でなかったでしょう、無理して九頭竜をする事も無かった筈ですし、もっと
いろんな事が 出来た筈それに・・・母さまの事で無理して一年棒に振るような事も無く、姉さまや僕の事の問題も無く、
もっと違う生き方が・・・・」
「それは違うよ、樫緒くん・・・・」
そう言って 鷲士は樫緒の頭をそっと撫でた。
「・・・・しかし、以前姉さまから聞いてはいますが・・・・後悔は無かったのですか?」
「・・・・後悔なんてするはずが無いよ・・・するはずが無い・・・、樫緒くん、僕は小さい頃孤児院にいたのは知っているね・・・」
「・・・ええ・・・」
「その頃いつも寂しくてね・・・なんで捨てられたんだろうって思ってね・・・あ、これは美沙ちゃんには内緒だよ・・・、
心配するからね・・、で、いつも孤児院の窓から見える近所の家は、楽しそうに家族が揃って笑ってるんだ・・」
そこまで言うと 鷲士は苦笑しながら言った。
「・・・うらやましかったなあ・・・みんな揃って笑ってる家が羨ましかった・・・・だから、いつも思ってた。いつか大好きな人と
皆が笑ってる家を作ろう・・・みんなが楽しくすごしてる、誰よりも幸せな 家庭を作ろうってね・・・・」
そう言いながら 鷲士は樫緒の頭をゆっくり愛しげに撫でた。
「その時にゆうちゃんに出会って、好きになって・・・・結局離れ離れになっちゃったけども今こうして、樫緒くんと美沙ちゃん
がいて・・・ゆうちゃんがいないのは辛いけど・・・、こうして2人も大好きな家族が出来て・・・・・だから、後悔なんて全然していない。
美沙ちゃんと買い物したり、ご飯食べたり、今こうして樫緒くんとお風呂に入ったり・・・・それが僕の一番の幸せなんだから・・」
鷲士はそう言って樫緒に笑うと、自分の体を洗い始めた。
・・・・・父さん・・・・・・
樫緒は湯船から上がると
「・・・・父さん、背中でも流しましょうか・・・・」
と言った。
「樫緒くん?・・・・・それじゃあお願いしようかな」
鷲士は泡のついたタオルを渡すと樫緒に背中を向けた。
・・・これが父さんの背中・・・・
良く見ると、背中一面だけでなく体全体に傷がついていた。
「・・・父さん、この細かい傷は・・・?」
「いやぁ・・・僕ドジだったから九頭竜の練習の時に何度も怪我しちゃって・・・」
そう言って 鷲士は苦笑を浮かべた。
「・・・・・・・・・」
・・・・父さんのこの傷は・・・母さまを・・・僕たちを・・・守る為についた傷なんだ・・・
・・・・もし、僕が同じ立場なら・・・・力が無かったら・・・父さんと同じ事が出来るだろうか・・・
樫緒はそう思いながら鷲士の背中をゆっくりとタオルで擦りはじめた。
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ・・・・
「・・・・いやあ、樫緒くんに背中流してもらうなんて、うれしいなあ・・・・お父さんって感じだね〜」
「・・・・なにを馬鹿な事を言ってるんです、はい、終りましたよ」
樫緒は少し顔を赤くしながら、鷲士に桶でお湯をかけ泡を流すと再び湯船に戻った。
「あ、ありがとう樫緒くん、じゃあ、僕は先にあがって晩御飯作っておくからお風呂ゆっくり温まるんだよ〜」
そう言うと鷲士は風呂場から出て行った。
「・・・・父さんの背中・・・大きかったな・・・・」
樫緒はだれもいなくなった湯船の中でそっと幸せそうに呟いた。
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