DADDYFACE ShortStories
「DADDYFACE-OLD MASTER-FACE」
written by 星野洋



 山の手線から少し離れているものの東京ドーム50個分。
 そんな冗談のような場所にそれは建っていた。
 結城。世界でも有数の巨大コングロマリット。その本邸である。その中の中心部。そこに彼はいた。
結城醍醐。現在結城の全権を握る男である。そんな男が闇を背景に一人、たたずんでいる。
 スッ。彼の腕が突然上げられる。すると闇の中から魔法のように数枚の書類─報告書─が彼の手に握られる。そこには彼の孫娘に手を出した少年が載っていた。もっとも彼が怒りを感じているのはその事ではなく、結城の血を汚されたことだが・・・・。
 そして彼の目が少年の現住所に移った瞬間、その目が大きく見開かれた。その場に彼の部下がいれば驚いただろう。もともと感情を表に出すような男ではない。いや、感情がないのか・・・。しかし次の瞬間、彼があげた声を聞かなかった事は幸運だったと言える。
 「・・・・九頭めがっ!・・・・。」
 それは重い怨嗟の声だった。万人を震え上がらせるような感情の嵐。今の彼を支配するのは圧倒的な憎しみだった。そして悟る。部下はおろか、自分でも手は出せないであろうことに・・・・。彼の手から報告書が落ちる。そこにはこう書かれていた。
 
        草刈 鷲士
     現住所
        ○○県△△市
     養護施設”青葉学園”在住
 
 なお特記事項として当代九頭竜、────。に師事している模様。


 話は十年ほど前に遡る。
 その時彼はその○○県△△市にいた。
 何の事は無い。結城が行うリゾート建設、その予定地がここだったのである。本来なら彼が行くまでもない場所であったが、なにかを感じた。とでも言えばいいのだろうか?そしてその予感は当たっていた。そこで出会ったのだ・・・・・・ソレと。
 「結城家当代、結城醍醐殿と見受ける・・。」
突然、彼の背中に声がかけられる。しかし彼は振り向かない。声はかなり若い男のものだ。彼の秘書やSPで十分だろう。彼はそのまま歩き続ける。そこにさらに声がかかる。
 「この地の開発計画を取り止めて頂きたい。さもなくば・・・・・・。」
それでも彼は振り向かない。だが次の一言を聞き、彼は振り向いた。
 「力ずくでも聞いて頂く・・・・・。」
いや、声で振り向いたのではなかった。殺気、いや、闘気ともいうべきモノを感じて振り向かされた時、すでに彼の十数人いたSPは全員地に伏せていた。しかし彼に動揺はない。所詮SPなど飾りでつけているに過ぎない。一族の中で屈指と言われる彼の”力”は直接的な力などは物の数ではない。
 「動かないで頂きたい・・。」
だから彼は背中に声を聞いたときにもまったく動ぜず、一族の中でも彼のみが操る空間移動を使い、敵の目の前に立ち・・・・・。そこで初めてその顔を歪めた。
 彼の前に立っていたのは12・3歳ほどの細面の少年だった。しかし彼が真に驚いたのは少年の瞳・・。その瞳はその年頃の少年には見えない程深く、数十年生きた彼以上の経験を秘めているかのようだった。
 「滅びしモノ達の力・・・・結城の噂、真実だったか。」
少年が落ち着いた声色で答える。目の前で起きた人外の事象に驚く様子は無い。
 「何者だ・・・・・。」
醍醐が問う。そして少年が答える。
 「師に刃を向けし時、過去を捨てた・・・・・。大切なモノを守りきれなかった時、今も捨てた・・・・。今の自分は贖罪のため、九頭竜を操るモノに過ぎない・・・・。モノに名など・・・・不要。」
言うと少年の姿がかき消える、次の瞬間、少年がいた場所に青い火花が飛び散る・これに醍醐は驚嘆を隠せない。彼の力は一定範囲・特に視覚に写るモノなら大抵の事を可能とする。ソレは視認不能の力、結城の力だ。それを避けるとは・・・・。
 しかし彼は結城だ。結城が負けるわけにはいかない。そのプライドに突き動かされ、彼は自分の足元に現れた少年の拳を避けるべくその”力”で空中に浮かび上がった。──どんな力があろうと所詮格闘技の一派に過ぎない。空中に浮かぶことなど不可能だろう。逆にこちらが空中にいれば相手がいかに速かろうと倒す事は容易・・・・。
 だがそんな彼の思惑は次の少年の行動に打ち砕かれる。少年は地を蹴るとそのまま空を蹴り、彼の元へと駆け上がる。

      九頭・飛竜演舞──。

 自分の気によって大気圧を変え、そこを足場にして飛ぶ──。空をも駆けた仙人を屠るために作られた対仙術・仙術!!
 「破ッ!!」
 少年が裂白の気合を上げる。そしてそれが衝撃となって空間移動をしようとした醍醐の動きを阻害した。
 そしてその一瞬で勝負は決まった。少年が醍醐の胸に両の手を重ねる。すると次の瞬間、彼は血を撒きながら少年の元から落下する──。

      九頭双龍・旋

 中国気功などで耳にする発剄、つまり全身の回転運動に気を加えて放つ一撃だが、不随意筋すら操る九頭竜のそれは桁が違う。本気ならば相手の五体はバラバラだったろう。そう、本気ならば・・・・。
 だが醍醐はそれを知らずとも自分が手加減された事がわかった。それは彼に初めての屈辱を与える。 ──結城の当主たる自分が!年端もいかぬ子供に!──
 彼が初めて味わう敗北、だがそれを悪くないと思う自分がいるのも確かだった。
 ──只の少年ではない。なにかを感じる。──
それでも自分の敗北を許せず、彼のプライドはその感情を自分の底に封じた。
 「・・・・九頭めがっ!・・・・。」
 そして彼は地面に落ちる前に・・・消えた。


 それを最後に辺りは静まりかえり、地面に降り立った少年だけが残った。
 「アデリン──。」
少年がそっと名をつぶやく。それは永遠の片割れ、少年の贖罪の相手──。
 ───私ね。この学園が大好き。周りの自然も大好き。だって──。二人が出会った場所だもの。フフッ・・・・・いつまでも、この学園を二人で守ろうね。───
 そう言って少年に笑いかけた少女。その言葉を思い出して少年は───遠い過去、ナルギスタイと呼ばれた男の魂は───心から微笑った・・・。



 それからしばらくして結城のリゾート計画は立ち消えとなった。数年後、その学園で、草刈鷲士・結城美貴の二人が出会い、物語の始まりが動き出すが・・・・。

 それはまた、未来の話───────。
 


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