DADDYFACE ShortStories
「アイアイガサ」
written by ウミボンズ



 とあるアパートの一室で、何やら読み漁る人物・・・・・草刈鷲士の実の娘である子猫さまである。そんな子猫様が手にする一冊の本―――――――何やら少女漫画らしいタイトルが見て取れる。
「・・・・・・・これだ、これしかない♪」
“パタン”と、読んでいた本を閉じ、すっくと身を起こす・・・・・その目には、何かの計略が満ちていた。
「にゃははははは・・・・・我ながら完っ壁♪」
 すぐに行動に移すのがこの娘の長所・・・・・携帯を取り出すと、数名に連絡を取る。そして・・・・・・・
「あとは・・・・いつ行動に移すかよね」
 すっとカレンダーに目を移す・・・・・その上を視線が彷徨い―――――――――――そして、その瞳が一箇所で止まる。運命のその日に―――――――――――――――

 所変わって、そんな計略の数日後のとある街角。
空にはどんよりと黒い雲が垂れ籠める午後の帰り道・・・・・彼、草刈鷲士は木陰で途方に暮れていた。
「まいったなあ・・・・」
 そう言って空を眺めるが、一度降り始めた雨はなかなか止む気配を見せようとはしない。
深々と溜息をつき、『突っ切って帰るしか無いか』と覚悟を決めかけた・・・・・丁度その矢先。
「あれ・・・・鷲士じゃないか・・・・・こんな所でどうしたんだ?」
 聞き慣れた声・・・・・・振り返った鷲士の目に映りこんで来たのは、赤と白のコントラストも綺麗な傘―――――――雨の中に一人佇む美貴の姿。
「あ、美貴ちゃん・・・・・」
 全身ズブ濡れのまま、苦笑する鷲士に―――――――
「傘・・・・持ってこなかったの?」
 そう言いつつ、鷲士の隣に―――――傘を折り畳んで立ち並ぶ。
『今朝はあんなにいい天気だったのに・・・・』そう言って、美貴も空を覗き見る。
その瞳に映し出されるのは・・・・・つい1時間程前までの晴天が嘘だったかのように、相変わらず泣き止もうとしない漆黒の空。
 鷲士もそんな美貴につられて、いまだ降り止まぬ空にしばらく見入っている――――――と、急にその視界をふさぐものが映り込む。
赤と白のコントラストが織り成す色合い―――――美貴が、広げた傘を鷲士の頭上にも・・・・・
「えっと・・・その・・・・・・・きっ、キミがそれで良いんだったら、アパートまで送っていってあげても良いんだぞ!―――――まあ、アイアイガサって事にになっちゃうけど・・・・・その点に関して、今回に限っては特別に目を瞑ってあげてもいいから!!」

 最初こそ多少口篭っていたものの、そのあとは早口で終わりまで一気にまくしたてる。そんな美貴を見て目を白黒させる鷲士だが、すぐに首を横に振りたくる。
「そ、そんな悪いよ・・・・・・それに相合傘なんて、美貴ちゃん迷惑でしょ?」
「だ・・・・だから、そこの所は今回は特別に目を瞑ってあげるって・・・・・」
「う〜ん・・・・でも――――――」
「と・・・・取り敢えず、迷惑なんて事は全然無いんだから――――キミはそんな事気にしなくてもいいの!」
しばらくの間考え込む鷲士・・・・・だが、美貴のその表情を見て断りきれる筈も無く、
「う〜ん・・・・じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「だから、最初っから送ってくって言ってるだろ?」
 苦笑してそう言う鷲士に対し、そんなふうに言って強がって見せる美貴―――――――――そんな美貴を何気に微笑ましく見ていたりする鷲士に気付き、美貴の頬が朱に染まる。
「と、取り敢えず雨も止みそうもないし・・・・・・行こうか、鷲士」
「そうだね・・・・・」
そう言って歩き出そうとした美貴の手から、鷲士が傘をひょいと取り上げる。

「え・・・・・・・?」
 突然の出来事に思考が追随し切れていない美貴は、鷲士の表情を見て顔を更に赤くする、
「傘に入れて貰うんだから、せめてこのくらいはしないと・・・・・」
言ってにっこりと微笑む――――――――――そんな何気ない表情に。
「さて・・・・行こうか、美貴ちゃん。雨も止みそうに無いし」
「あ、うん・・・・そうだね」
 二人肩を並べて歩き出す―――――――何気に美貴には雨がかからないように、傘の位置を調整していたるするのだが・・・・・
 そんな二人を待ちわびたかのように、雨が小振りになり・・・・暫く歩いていく内に、ぴったりと降り止む。そして、漆黒の雲の隙間から差し込む光の―――――――乱舞。2人のちょうど正面には、大きく浮かび上がる一筋の虹の輪。
「きれい・・・・・・・・」
 思わず足を止めて見入る美貴が、ただ一言そう口にする・・・・・幻想的なほどに綺麗で、神秘的な程に優雅なその光景に―――――――――
「ほんとに・・・・・それしか言葉が出てこないね」
同じく足を止めた鷲士も、その光景に見とれる。
「これは、神様に感謝だな―――――しゅーくんと一緒のときに、こんな素晴らしい光景に出会えたんだから・・・・・」
 無意識のうちに“しゅーくん”と口にしているが、この光景を前にして、二人共に全く気付いていない。そして・・・・・・・

――――――どれだけの時間が経っただろうか。ふと空を見上げる鷲士・・・・・・その目に映り込む空の色は、すっかり元の青さを取り戻していた。
「雨・・・・・すっかり止んじゃったね」
そう言って傘を畳もうとする鷲士に、美貴が―――――――
「も、もうちょっとだけ・・・・・・だめ?」
「え・・・・・でも、もう雨上がっちゃってるよ?」
そう言って、青く澄み切った空を見上げる・・・・美貴も同じように空を見る――――――そのまま
「だって・・・・・・せっかくのアイアイガサだったから」
ポツリと・・・・呟く。その声は、只々青い空に吸い込まれていって―――――――――――

―――――後日談

その次の日、滅多に風邪など引かない双子が、2人揃って仲良くお風邪を召したんだとか―――――
“ドタドタドタドタ・・・・・・・・・バタンッ!!!”
「おじょ〜さま〜、おぼっちゃま〜・・・・・ワタクシ山岡銅介が参ったからには、もう安心ですぞ〜〜〜!!!」

――――――――――――――――合掌

                                              完


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