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第十四章 明日を手にする為に
その者は大空に浮いていた。月明かりに照らされ、まどろみの中にいる様に漂っていた。
ほのかな光りに包まれ、白き翼を休めて当て所も無く漂っていた。
金色の髪が風に流れ眠っている様に漂う、そしてその者はまどろみの中で思い出す。
血溜まりの中に一人の人間が倒れていた。そして目の前にいる人間を空間の刃で切り裂きそのまま溢れる力のままに大空に飛び立った。
何故、自分はここに居るのだろう?その者は考えた。
大切な物、己が居場所を壊された怒り―それゆえに力を振るい切り裂いた。
だが、今のその者に取って最早どうでもいい事だった。
知覚を広げれば切り裂いた人間が生きている事が判る。
物事はやり遂げねばならない。かつて結城美沙と呼ばれた者は翼を広げ、闇夜の空を飛ぶ。
程なく、その者は目的地に辿りつく。
「あれだけの傷なら何処かの病院に収容されている筈、そこを探し出して……・・」
自分がダーティ・フェイスのとどめを刺す瞬間を夢想しながらシリウスは満面の笑みを浮かべている。
だがその夢想は唐突で終わった、天井の破壊音と共に。
「何!何が起こったの!?」
突然、天井が崩れ落ちシリウスは座っていたソファーから立ち上がる。
そしてシリウスが見た物は、淡い光に包まれた翼を持つ者だった。
「お前は!?あの時の小娘!!」
シリウスの顔に驚きが浮かぶ、どうやってこの場所を特定したのか?
「ふん、フェイスの敵討ち?律儀なことね。」
精一杯の虚勢を張りながらシリウスはメドーサの吐息を起動する。
「すぐに後を追わせてやるわ!」
シリウスは己が勝利を確信して蒼い光りの鞭を振るう。
だが彼女は忘れていた、その者はメドーサの吐息のシールドをたやすく切り裂いた事を幾つもの蒼い鞭があらゆる方向から襲いかかる。
しかし、その全てが淡い光に弾き飛ばされる。
「そんな!馬鹿な!?」
その光景にシリウスは驚愕する、エネルギー体である蒼い鞭を全て弾くなどあり得ない事である
シリウスは己が最大の―唯一の武器を封じられたのである。
驚き後ずさるシリウスを尻目に、その者は氷の如き表情でゆっくりと近付いてくる。
焦るシリウスの眼に後方に鎮座するタロスが映った。
「起きなさいタロス!この娘を捕まえるのよ!!」
タロス・タイプは使用者の声紋が登録され、音声入力にて起動、行動する。
すでにシリウスの声紋は登録済みであった。彼女の声を受け、数十体のタロスが起動し侵入者を捕まえるはずだった。
「どうしたの?早く捕まえなさい!!」
焦るシリウスは再度命令するが、タロスは一体も起動しなかった。
そして、その者はシリウスの前に降り立つ。
「この!!」
シリウスは腰にあった銃――ワルサーPPK/Sを抜き放ち連射する、だが銃弾の全てがその者を捉える前に虚空に消える。
その光景にシリウスは初めて恐怖を感じた。
途端、シリウスは在らざる力を受け身体中から青白い火花を散らしつつ浮かび上がる。
「これは…放せ!化け物!!」
宙高く持ち上げられ、シリウスは見えざる力に抵抗しようとするが無駄だった。
数十分後、鷲士達はとある漁村についた、アルモスが付けた発信機の反応を追って。
車から降りた鷲士に樫緒、冴葉と鈴木それにアルモスの五人は村の外れにある倉庫にやって来ただがその倉庫は既に瓦礫と化していた。
「これは一体?」
その光景を見て、冴葉は驚きに声を上げる。
一同は瓦礫と化した倉庫に警戒しながら近付く、何か爆発したのだろうか?
「一体何が有ったんだろう?」
その光景に鷲士は疑問の声を上げる、だがその問いに答えられる者は居なかった。
辺りを見まわす鷲士達の目に大きな影が写る、瞬時に身構えるがそれは彫像のようだった。
「タロス・タイプ?やはりここはミュージアムの拠点の一つだった様ですね。」
目前に居並ぶタロスの大群に冴葉は冷静に観察していた。
冷静に観察していた冴葉の目に一体のタロスにもたれ掛かる人影が写った。
「あれは!?」
冴葉の声に辺りを調べていたみんなが集まる
「シリウス・・…」
一同が目にしたものは全身をズタズタに引き裂かれたシリウスの姿だった。
美しい美貌は血にまみれ、右腕と両足が歪な形に曲がっていた。
「まだ息はある。」
シリウスの側に行き脈を診た鈴木はそう言った、だがもはや虫の息だった。
「誰がこんな事を・…」
そう言いながら鷲士に脳裏に一人の少女の顔が浮かんでくる。
「やはり・・…美沙ちゃんが…」
鷲士の顔が苦悩に満ちる、自分の娘がこんな残酷な事をしたなど考えたくなかったのである。
気落ちする鷲士に掛ける声が見つからない一同に気まずい雰囲気が流れていたその時。
「…!?上だ!!」
突然のアルモスの言葉に一同上を見上げる、そこには何時の間に現れたのか淡い光に包まれた美沙の姿が在った。
「美沙ちゃん!!」
「姉さま!!」
鷲士と樫緒があらん限りの声で叫ぶ、だが美沙の姿をした者は何ら反応を示さなかった。
「まずいな、あの娘自我を失ってるぞ。」
アルモスはそう分析しながらも身構える。
「とにかく、捕まえなければ話にならん!」
鈴木の言葉に冴葉が捕獲用の弾を装填したグレネードランチャーM79を構える。
グレネードランチャーから発射された捕獲用の網はその者に向って飛んでいく。
だが、寸前で網は青白い火花を散ら破れ散る。
「ならば!」
樫緒が力を使い押さえ込もうとする、しかしそれをアルモスが止める。
「やめろ!力ではあっちの方が上だ!!」
「じゃあ、どうすれば!!」
焦りのあまり鷲士が叫ぶ。その時、その場に置かれていた数十体のタロス・タイプが動き出す。
「これは、一体?」
その光景に冴葉が驚く。
「元々、タロスは訪い人が造った物、あの娘が制御しているのだろう。」
アルモスはそう言ってタロスを迎え撃とうとした。
「フェイス!それに御曹司、お前達はあの子に呼びかけろ!あの子の精神を呼び覚ますんだ!!
邪魔物は俺達が引き受ける。」
そう鷲士と樫緒に言って、アルモスと鈴木はタロスの大群にむかっていく。
「哲郎、一人が五十体前後ってとこか?フェイス達に近付けるなよ。」
「誰に向って言っとる、まずは邪魔者から片付けようぞ。」
オリハルコン製のタロス・タイプの大群を前に二人は会話に余裕すら感じさせながら各々が獲物と定めたタロスに技を繰り出す。
―九頭・右竜徹陣―
先頭を行くタロスに鈴木の一撃が決まる。途端にタロスは粉々に粉砕される、だが技の威力はそれだけにとどまらず衝撃波となって後続のタロスを吹き飛ばす。
アルモスも又もう一体のタロスに右正拳を繰り出す。
―破理拳流泰山拳―
その一撃を食らったタロスは粉々に粉砕されながら後続のタロスを巻き込みながら瓦礫の山となっていく。
「ふん、訪い人の災厄と戦って来た我ら封印者が編み出せし破理拳流格闘術!木偶人形ごときには勿体無いわ!!」
高らかと言い放ちアルモスは次の獲物に向う。タロスが放つ鉄拳を掻い潜り、懐にもぐり込んだ
アルモスの右腕が光りを放つ。
―破理拳流残光拳―
右正拳を受けたタロスは胴体に大きな穴をあけ崩れ落ちる、だがその残骸を飛び越え数体のタロスが襲い掛かる。
繰り出される鉄拳を飛び越えニ体目のタロスに回転しながら踵落としを掛け叩き落す。
―破理拳流星空脚―
気によって強化された踵落としがタロスを迎撃、地上に降りていた一体目のタロスを巻き込み衝撃により粉々になる。
その破片を掻い潜り、鈴木がタロスの群れに接近する。
―九頭・右竜翔扇―
右腕が霞み、次の瞬間十体以上のタロスが舞い上がる。そして地表に激突し砕け散るタロスを尻目に鈴木は次の獲物に襲い掛かる、その様は正に鬼神の名に相応しい様だった。
(さすがは九頭竜において鬼神とまで呼ばれた男、凄まじい技の切れ味だ。)
鈴木の快進撃を見ながらアルモスはかつての敵に惜しみない賞賛を贈った。
襲いかかるタロスを打ち砕きつつアルモスは鷲士達に方を見やる。
「美沙ちゃん!そんな力使っちゃいけない!!」
「姉さま!貴方はやっと掴んだ幸せを捨てるつもりですか!?」
その耳に鷲士と樫緒の悲痛な、そして必死な声が聞こえる。
「急げよ、暴走状態のまま力を使えば彼女の身体は持たない…時間が無いぞ!」
そう呟きながらアルモスは鷲士達にタロスを近付けない様にしていた。
第十五章 絶望を振り払い
「うおおおおおおお!」
鬼神の如き雄たけびを上げ鈴木は近付くタロスの大群に突っ込んでいく。
―九頭・双竜雷撃掌―
突き出された両手より稲妻が迸る、人の持つ生体電流を遥かに越えた雷撃にタロス・タイプは火花を上げて崩れ落ちる。
既に数十体にタロスは二人によって破壊されている。
常人ならば限界がきている筈だが二人には疲れの色は見えない、幾ら気を操る闘士と言えど人で在る限り限界が有る筈なのに。
「ここから先は通さんぞ!!」
鈴木の叫びに意志を持たない筈のタロスが怯えた様に躊躇する。
厳密には戦術を練っているのだろうが、その隙を二人は見逃さなかった。
―九頭・左竜閃刀―
本来は手刀に気を乗せ敵の気を迎撃する防御系の技だが鷲士の使う技とは気の密度が違う、気の刃は数体のタロスを両断した。
その光景に鷲士達の側でライフルを構える冴葉は才女にしては珍しく驚きを通り越し、半ば呆れたような顔をした。
「二人共・…人間とは思えませんね。」
彼女の後ろでは鷲士達が美沙を正気に戻そうと必死になって語り掛けていた。
本来なら自分もそうしたかった、だが美沙の精神に揺さぶりを掛けるなら肉親の方が効果的である、自分の出る幕ではない。そう判断し、冴葉はサポートに回った。
(鷲士さん、樫緒さん、ボスを。私が認めた只一人の人を必ず取り戻してください。)
冴葉はそう願いながら敵を近付けない様にライフルを構える。
「姉さま!貴方は自分一人の力でここまでやって来たんじゃありませんか!!」
「美沙ちゃん!!お願いだ!正気に戻ってくれ!!」
鷲士と樫緒の悲痛な叫びを受けても美沙と呼ばれし者に何ら変化は無かった。
その麗しい美貌は氷の様に冷たく、目の前に立つ二人を無感情に見下ろしていた。
「美沙ちゃん!僕は諦めないぞ!!僕達が諦めたら誰が君を救うと言うんだ!!」
絶望的な状況の中、だが鷲士も樫緒も決して諦め様としなかった。
「哲郎!これでけりを付けるぞ!!」
アルモスは鈴木に合図を送り、タロスの大群に突っ込む―その数40体。
―破理拳流絶技円空乱舞―
タロスに向け泰山拳を撃ち込む。粉砕されるタロスだがそれに留まらず次のタロスに向い星空脚を叩き込む。
そして身体は独楽の様に弧を描きながら次々と技を繰り出す。
破理拳流格闘術
強大な力を持つ訪い人の遺産を封印する為に編み出された封印者の一族に伝わる技である。
円運動を中心として気脈を操り、身体能力を極限まで高め、超絶的な技を繰り出す。
その中でも、この円空乱舞は独楽の様に回転しながら次々と技を繰り出す必殺技である。
弧を描き回転が速くなれば速いほど遠心力により技の威力も増していき敵を倒すまで止まる事が無い死の円舞である。
アルモスの円舞により態勢を崩されたタロスに鈴木の九頭竜が止めを刺す。
―九頭・双竜激竜牙―
鈴木の両手刀が淡い光を放ち態勢を崩されたタロスの大群に突っ込む、円舞によりその数を減らされたタロスに手刀が襲う。
オリハルコン製のタロスを袈裟切りにしながら次々とタロスを切り裂く。
手刀を気で包み、文字どうり敵を焼き切るのだ。
その二人のコンビネーションを崩すことが出来ず、数十体いたタロスは瓦礫と化した。
「さて、あとはあの娘じゃの。」
鈴木はそう呟き美沙を見つめる、それこそが最も大変な事である。
タロスの大群が全滅する様をみてその者は翼をはためかせ大地に下り立つ。
「美沙ちゃん!!」
鷲士と樫緒の顔に喜びが溢れる、自分達の声が届いたと思ったのだ。
だがその喜びは一瞬で消え去る、その者は鈴木とアルモスに向け念動力による攻撃を仕掛けた。
「む、」
その攻撃を避けつつ二人は戦闘態勢を取る。
「やはり、無理だったか。」
「悲しい事じゃが、仕方ないの。」
攻撃を仕掛け様とする二人に鷲士が叫ぶ。
「待って下さい!!美沙ちゃんは必ず元に戻します!!」
その言葉に一瞬躊躇するが二人は構えを解かない。
その二人に呼応する様にその者はゆっくりと二人に近付いて行く。鷲士達の横を無表情な趣で通り過ぎ様とした。
「姉さま!」
「美沙ちゃん!」
鷲士と樫緒は近付く美沙を止めようとした。だが近付こうとした瞬間、巻き起こる凶風に切りつけられる。
樫緒はとっさに力で防いだが鷲士はまともに受けた、皮膚を切り裂かれ血だらけに為りながらも鷲士はその者に近付く。
「美沙ちゃん!僕達はやっと出会えたんじゃないか!!」
鷲士の悲痛な叫びにその者の動きが止まる。
「姉さま!貴方はやっと手に入れた居場所を捨てるつもりですか!!」
その者に瞳に感情の色が現れる。
「フェイス!もう一息だ!!」
アルモスの声が響く。
第十六章 希望は求める者に
その者は混乱していた。
やるべき事を成し、大空に舞い上がろうとした時。
彼等はやって来た。そして彼等はその者を捕獲しようとしたのだ。
それゆえに下僕を使い彼等を排除しようとした、だが人の子であるはずの彼等は下僕を全て破壊してのけた。
人の子としては驚異的な力を持っている、その者は自らの力で排除しようと大地に舞い降りた。
力を使い排除しようとした時、先程からその者に語り掛けていた者達が近付いてくる。
かつて弟と呼び、父親と呼んだ者達――もはやそれは些細な事であるが。
その者は近付く者達に力をぶつけた。
だがその者達は怯むことなく近づいてくる。
「美沙ちゃん!僕達はやっと出会えたんじゃないか!!」
かつて父親と呼んだ者の声に――その者の意志に反して体が止まる。
「姉さま!貴方はやっと手に入れた居場所を捨てるつもりですか!!」
弟と呼んだ者が必死になって叫ぶ――その者に不思議な感情が宿る。
「美沙ちゃん!止めるんだ!!」
かつて父親と呼んだ者が抱きつき止めようとする。
「姉さま!!」
弟と呼んだ者が必死になって止めようとする。
「美沙ちゃん!僕達はやっと家族になったんじゃないか!?僕達はこれから幸せを掴むんだ!三人で幸せになるんだよ!!」
その言葉に、その者の中に不思議な感情の揺らぎが起こる――それは心から求めたもの…
「姉さま!僕達の人生はこれからじゃないですか!?求めたものを手放すおつもりですか!!」
その言葉に、感情の揺らぎが大きくなる――それは心から求めたもの、自分の居場所…
「君たちは僕達の生きた証なんだ!だから君たちには幸せになって欲しいんだよ!!」
その言葉に、感情か大きくうねる――それは心から求めたもの、自分の居場所―存在理由…
「鷲士くん……樫緒・…わた…し…は…」
二人に抱き止められたその者の瞳に感情の渦が巻き起こる。
「美沙ちゃん!!」
「姉さま!!」
「私は…ここに・…居たい…みんなと・・一緒に・・居たい。」
三人の瞳から止め処となく涙があふれる。己が愛した家族が帰ってきた事に。
己が半身が帰ってきた事に。己が居場所に帰ってきた事に。
「奇跡だ…あの子の意識が帰ってきた。」
抱き合う親子に近付きながらアルモスは感嘆深げに呟く。
「奇跡とは、決して諦めない者に起こる天からの贈り物なのじゃろう。」
少々、頬を赤らめながらも鈴木は優しい目で三人を見た。
「これで、全てが終わりましたね。」
才女にしては珍しく目に涙を溜めていた。
だが、ここに居る全ての者が失念していた。シリウスがまだ生きている事を、ソ―マが何処に行ったのかを。
(私はこん・・な事で…死ぬと言うの?…・この最高の芸術家たる私が…)
タロス達の残骸に半ば埋もれながらも、シリウスは驚異的な生命力で生きていた。
だが、美沙に右腕と両足をへし折られ。 風前の灯火と言ったところだった。
虚ろなシリウスの目に神の奇跡か、悪魔の悪戯か、小さな小壷が写る。
(飲めば神の力を・・…得ると言うオリジナル・ソ―マ…)
渾身の力を込め、左腕を伸ばし小壷を拾い上げる。
(これさえ……飲めば・・)
だが、その事に気付いた者は居なかった。
「鷲士くん〜!」
鷲士の胸で泣きじゃくる美沙を優しく抱き締める、普段の表情からは想像も付かないその光景は正しく親子の証である。
その横で、樫緒も安堵した表情をしていた。
「さて、後は宴会じゃの?」
鈴木はアルモスにそっと囁く。
「ああ、しかし何か忘れているような?」
首を傾げるアルモスの耳に突然、女性の声が響く。
「ほほほ、その小娘にも味合わせなければね!神の力を!!」
その声に一同が振り向く、其処には傷の癒えたシリウスが立っていた。
「!?」
その姿に驚きが走る、先程まで虫の息だったのだから。
その疑問に答える様にシリウスは小さな壷を放り出す。
「あれは!ソ―マの壷!?」
壷を見て冴葉は驚きの声を上げる。富士の大空洞の時、壷は回収出来なかったのである。
その壷をシリウスが持っていた、つまりシリウスは中身を飲んだ事になる。
「ソ―マを飲んだか…愚か者は何処まで行っても愚か者だな。」
優越感に浸るシリウスにアルモスはそう毒づく。
「神を侮辱する愚か者達!神の鉄槌を受けるがいい!!」
その言葉と共に力の衝撃波が襲う、だがその衝撃波も樫緒と力と鈴木とアルモスの気によって防がれる。
「無粋な奴め、今度こそ引導を渡してやりましょう!」
美貌を怒りに染め、樫緒はシリウスに向い一歩踏み出す。だがその樫緒をアルモスが止める。
「?何故止めるのです!」
怒りに染まる樫緒はアルモスに食って掛かる、しかしアルモスはその問いに答えずシリウスを哀れみのこもった目で見る。
「愚か者が…人は神にはなれん。」
第十七章 愚者の末路
「愚か者が…人は神にはなれん。」
哀れみのこもった目でアルモスはシリウスを見る。
「?何を世迷言を!神の力を思い知るがいい!!」
シリウスが再度力を使おうとしたその時、突然シリウスは胸を押さえ苦しみだした。
「な!?…ぐ・・が…がぁあああああぁあああぁぁぁ…」
胸を押さえもがき苦しむシリウスの姿に、樫緒を始め其処に居る者全員が驚く―アルモスを除いて。
「これは一体?」
その光景に、樫緒が疑問の声を上げる。
「知ってるか?良薬も過ぎれば劇薬となる…」
そう答えるアルモスの表情はシリウスの愚考を哀れんでいた。
「そう言えば、竹取の翁を倒した時も・…」
美沙を冴葉に預け、戦闘態勢を取りながら鷲士は富士の地下で戦った竹取の翁の事を思い出した。
「うぐ・・…ガァゴアァァァァァ!!」
その美貌に満ちた体が無残にも崩れ、傷口から肉芽が出てきて異形の者に変貌させる。
肉芽が増殖を続け全身が数倍に膨れ上がり、その口から漏れる声は人のそれとは別のものになる。
そこには醜悪な肉骸が在り、全身が腐りながら増殖していった。
「あの薬は訪い人が作った物…人には毒でしかない。」
そう言うアルモスの表情は限りなく冷たかった。
聴くに耐えない絶叫を上げながらかつてシリウスだった肉骸は鷲士達に向け突進してきた。
「これがラスト・バトルですね!?」
「いいや、違うぞ。古来より外道を屠る時はこう言うのじゃ!イッ・ア・ショー・タイム!!」
構える鷲士に向け、鈴木は高らかに宣言した。
―九頭・左竜雷掌―
先に鷲士が仕掛ける、体内の生体電流を一点に集約させ放つ。
しかし肉骸の表面を焼いただけに止まる。
―九頭・双竜雷撃掌―
鈴木の放つ稲妻にも似た雷撃に肉骸が波打つ、肉の焦げる嫌な臭いをさせつつも肉骸は増殖しながら止まる事は無かった。
「無限の再生能力か…ちと厄介じゃの。」
もはや正常な思考を持たぬ肉骸は腐臭を漂わせながら近付いてくる。
「ならば、これはどうだ!?」
アルモスはポケットから金属の棒を取り出す、密教において独鈷杵と呼ばれる物だった。
襲い来る肉骸に向け独鈷杵を構えた途端、何も無い先に黒い刃が現れる。
「うおおおおおお!」
掛け声と共に跳躍し、黒い刃が肉骸に向け振り下ろされる。
「グビイイイイイイイィイイイイィィ!?」
黒い刃は難なく肉骸を切り裂き、耳障りな絶叫を上げながら肉骸は後退する。
「どうだ虚無の刃は?」
油断無く構えるアルモスの側に鈴木と鷲士が近付く。
「何じゃその武器は?」
「これか?コイツは虚空、Oパーツさ。マイクロ・ブラックホールを内蔵し虚無を刃とする黒き独鈷杵さ、この虚無の刃に切れない物は無い!!」
空間は元より時間すら切ることが出来るとアルモスは誇らしげに言う。
「哲郎!俺が奴の注意を引く、その間に奴のコアを探し出して破壊してくれ。」
そう言ってアルモスは虚空を手に肉骸に向っていった。
「コアを捜せと言ったって、お師匠!?奴はすぐに再生してしまいます!」
鷲士の指摘はもっともだった、無限の再生能力を持つ肉骸の奥深くにコアは有る筈だ。
慌てる弟子に鈴木は鷲士の顔を見ながら。
「落ち着け鷲士よ、今のお前なら判る筈じゃ!我ら九頭竜の真髄、この世ならざる物を屠る為に森羅万象の理を持ってそれを成す!
渇きを癒し愛を知るお前なら判るはずじゃ!この世は生命で満ちておる事を!世界の力を感じるのじゃ!!」
戸惑いながらも鷲士は鈴木の言葉に耳を傾ける。
「気を操る者なら判るはずじゃ、耳を傾けよ!どんな所にも生命は溢れておる。
思いをぶつけてみろ!きっと答えは在る!」
鈴木の言葉に鷲士は気を落ち着け、気を探ってみる。
「僕は守りたい、大切な物を、愛する者を…」
気を探る鷲士は、ふと周りに小さなほんの小さな気の流れを感じる。
「これは?暖かい・…これがお師匠の言う生命の力・・…」
そしてその力は少しずつ大きくなっていく。
「力が溢れてくる!暖かい力が!!これが世界の力、世界の理!!」
傷だらけだった鷲士の身体に活力が戻る、その気は正に溢れんばかりだった。
「鷲士よ、我ら九頭竜はこの世界を守る剣よ!この世の為に拳を使うなら世界は我らに力を与えてくれる!あの邪悪なる者を滅ぼすぞ。」
「はい!」
溢れ出る力を感じながら鷲士達は邪悪な肉骸を滅ぼすべく向う。
アルモスにより外観は傷付けられているが傷口は再生し始めている。
「鷲士!まずは奴の動きを止めるぞ!!」
「はい!」
鷲士はそう答え、左手に気を集める。
―九頭・左竜閃刀―
今までとは桁が違う気が込められた手刀は肉骸を容易く切り裂く。
「凄い!桁違いだ!!」
己が放った技の威力に鷲士自身が驚いた。
「やるじゃないかフェイス!じゃ俺も一丁いきますか!」
そう言うなりアルモスは虚空で青眼の構えを取る。
「破理拳流には抜刀術も在るんだぜ!」
虚空を水平に構え己が気を込める。
―破理拳流山崩撃―
身体能力を極限まで高め電光石火の突きを放つ、その突きは肉骸に大穴を穿つ。
―九頭・右竜徹陣―
鷲士の正拳が肉骸を捉えその巨体を吹き飛ばす
歪に形を歪ませた肉骸が肉片を撒き散らせ10Mは吹き飛ぶ。
―九頭・左竜輪剄―
吹き飛ぶ先にいた鈴木は肉骸の下半分の勢いを別方向に変え、肉骸が捻れ曲がる。
三人の技を受けた肉骸には大きな亀裂が幾つも入っていた。
再生が追いつかないのか、傷は中々再生しなかった。
「僕の出る幕は無い様ですね。」
樫緒は美沙達を庇いながら呟く。
「あれがコアだ!」
崩れつつある肉骸の中心に淡い光を放つ物が見える。
「最後の仕上げと行くか!俺が奴を切り裂く、お前達はコアを破壊してくれ。」
そう言うとアルモスは精神を集中する。
―破理拳流抜刀術絶技星空破砕斬―
天高く跳躍すると、アルモスの姿が九つに分かれる。
身体を九つに分け、それぞれが超絶技を繰り出す。
その破壊力は星を砕くと言う名に相応しい破壊力だった。
「いまだ!」
星空破砕斬を食らい、肉骸はその身を崩しコアを露出していた。
「ゆくぞ、鷲士!」
「はい!」
コアを目指し、鈴木と鷲士が駆け出す。
―九頭・左竜雷掌―
―九頭・双竜雷撃掌―
二人の放つ電撃は数百万ボルトになり、コアを焼き尽くすには十分だった。
最終章 未来を求めて
戦いは終わった、だがその場に流れる雰囲気は喜びに満ちた物では無かった。
「この羽根・…私は人間じゃ無くなったのね…・」
金色の髪をなびかせ、美沙は己が背中に生えた翼を撫でる。
その一言はとてつもなく重みを持ち、鷲士を始め樫緒、冴葉には掛ける言葉が無かった。
「私ね…覚えているんだ。鷲士くんが倒れた時、私の中で何かが弾けた。
あの時だって、みんなの事判っていたんだよ!けど・…私はみんなを傷付けようとしたんだ・…」
その独白に一同は美沙の心が深く傷ついている事を改めて感じ取った。
「私…もうみんなと一緒に居られない…・みんなの迷惑になっちゃうよ。」
言葉を掛けるのは容易い、だが今の美沙にどんな言葉を掛けようとその心を救う事は出来ない。
「美沙ちゃん…」
掛ける言葉が見つからず、鷲士はその名を呼ぶ事しか出来なかった。
「ありかとう、鷲士くん、樫緒それに冴葉ちゃん。私みんなと一緒に居られて楽しかったよ。」
その言葉に樫緒が何か言おうとするが言葉が出なかった、力を持つ者の孤独は自分が一番良く知っているのだから。
悲しい雰囲気に包まれる一同だが。
突然、それは破られる。
「いいかげんにしろ。」
何時の間にか美沙の後ろに回ったアルモスが、何処からか取り出したハリセンで美沙の後頭部を張り飛ばす。
「いったああああああああいいいいいい!!何すんのよ!?」
後頭部を抱えながらも美沙はアルモスに向って怒鳴り付ける。
「やかましい!黙って聴いていてりゃ、つまんない事をウダウダと!!」
右手にハリセンを持ち、アルモスは美沙にそう怒鳴り返す。
余りの出来事に、一同は唖然として二人を見ていた。
「アンタに何が分るっていうのよ!!私は人間じゃ無くなったのよ!?化け物になったんだよ!!」
その悲痛な叫びに鷲士達は目を伏せる。
美沙の瞳から取り留めなく涙が溢れる、涙に頬を濡らす美沙をアルモスは優しく見つめる。
「なあ、美沙ちゃん。姿形がそんなに大切か?」
突然の言葉に美沙はその意味が分らずアルモスを見る。
「人間とは優しさを知り、愛を知っている者の事を言う。それに君には帰る場所が、待っている人が居るじゃないか?他に何が必要と言うんだ。」
その眼差しは限りなく優しく、美沙はその眼差しが示す方向を見る。
そこには優しい笑みを浮かべた鷲士が、樫緒が、冴葉が居た。
「心が繋がっている限り、お前さんにゃ帰る場所が在る。」
「そうですとも姉さま!貴方は僕のたった一人の姉さまです!!」
鈴木の言葉を引き継ぎ、樫緒が心からの言葉を掛ける。
「ボス!貴方は私が認めた、たった一人の人です。」
冴葉の言葉に力がこもる。
「美沙ちゃん!例え君が何者であろうと、君が僕の大切な娘である事に変わりはないよ!!」
鷲士の言葉に美沙の顔に笑みがよぎる。
「樫緒!…冴葉ちゃん!・・鷲士くん!!」
美沙は泣きながら鷲士の胸に飛び込む、美沙を優しく抱き締める鷲士の顔に笑みがこぼれる。
その光景に樫緒と冴葉それに鈴木の顔に笑みが―本当に優しい微笑がこぼれる。
そしてアルモスが言葉を続ける。
「美沙ちゃん、君は人間じゃ無くなった…だが訪い人でも無い、君は人の心を持っているからな、我ら封印者の口伝には訪い人の遺産の中には人の在り様を変える物が在ると言う。」
「本当てすか!?」
その言葉の意味する物をいち早く理解した樫緒の声が響く。
「それじゃ!それさえ見つければ!!」
「ああ、彼女は人としての生をまっとう出来る。」
その答えに、鷲士を始め樫緒や冴葉それに美沙の顔に希望の光がさし込める。
「美沙ちゃん!!」
「鷲士くん!!」
喜びのあまり、二人はキツく抱き締め合う。
その場を覆っていた暗い雰囲気が吹き飛び、そこに居る全ての者に笑顔が溢れる。
涙を流しながら抱き締め合う二人を見て、樫緒の顔に―クールな少年にしては珍しく暖かな笑みがこぼれる
アルモスは、抱き合う親子に近付き。
「フェイス、その子の力は俺が封印する。だがその封印は長くは持たない、だからその前に遺産を見つけるんだ!」
アルモスは懐から小さな光る玉―オーブを取りだし、鷲士の胸に顔をうずめる美沙の首筋に当てる。
そのオーブは首筋に吸い込まれる様に消えた。
「今のはリミッターの様な物だ、彼女はまだ幼年期だから強い力に身体が耐えられないからな、このオーブである程度までなら力を押さえる事が出来る。」
己が首筋を擦りながら美沙はアルモスに向い礼を言う。
「ありがとう。」
鷲士もまたアルモスに向い礼を言う。
その光景に満足そうに頷き、アルモスと鈴木は別れを述べる。
「鷲士よ、お前なら大丈夫じゃ。」
「お師匠!本当に有難う御座いました!!」
「じゃあなフェイス、もう会う事も無いと思うが。」
「え?」
その言葉に鷲士が疑問の声を上げる。
「俺は封印者の一族だ。もし出会う事が有ったならば、それは今度こそ彼女が覚醒し我らの敵と為る時……だがフェイス!君が居る、君なら彼女を元に戻せるさ!!」
「アルモスさん・…」
じゃあな。
そう言って二人は各々が居場所に戻る。
この世に災いを持たらす物を屠るべく。
鷲士の心に堅い決意が起こる、未来を掴み取ると言う決意が。
その時、不機嫌そうに片眉を吊り上げた樫緒が冷めた眼差しを向ける。
「何時まで抱き合っているつもりですか?」
しかし、その言葉は子猫様の逆鱗に触れたようだ。
「うるさいわね!親子で何が悪いって言うのよ!!」
先程までのしおらしさも何処へやら、二人は喧嘩を始める。もっとも一方的に美沙が樫緒の頬をつねっているのだが。
「二人共、喧嘩はよそうよ?」
そして、ダーティ・フェイスは古代の遺跡を駆け巡る。
己が根源を捜す為、そして未来を切り開く為に。
草刈鷲士。天涯孤独の学生でありながら、実の娘との出会いにより、やがて本当に世界最強の宝捜しになってしまう恐るべき青年。
人は彼を顔の無い男―ダーティ・フェイスと呼ぶ!
エピローグ
鷲士達に別れを告げ、アルモスと鈴木は漁村を離れ大きな道に出た。
「ここらで別れるか。」
鈴木を見遣り、アルモスは別れの言葉を言った。
「ああ、またやり合う時を楽しみにしておるぞ!」
鈴木の顔に獰猛な笑みがよぎる。
「そうだな、十五年前の決着を付けないとな。」
アルモスの顔にも底冷えのする笑みが浮かぶ。
そして、二人は片手を上げ別々の道を行く。
ふと、鈴木は背中越しにアルモスに問い掛ける。
「お主、何故あの娘を助けた?お主に取ってあの娘は訪い人の血を引く敵であろうが?」
その言葉に足を止める。
「確かに訪い人は憎んでも憎み切れない大敵だ……だがそれはあの子には関係の無い話さ。」
背中を向けながら、そうアルモスは言った。
「それに、あの親子を見てると幸せに為って欲しい…そう思えるのさ。」
「確かに、じゃがあの娘が本当に覚醒した時は?」
その言葉に、暫し沈黙が続く。
「その時は封印者として、己が責務を果たす・……それだけさ。」
二人は振り返る事も無く、朝霧に消えていった。
END
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