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「MERMAID PANIC!(1)」
written by hydra
「海〜〜〜!!」
美沙は人影一つないプライベートビーチを見ながら、力いっぱい叫んだ。
「なんだよ、海ぐらいで」
美沙にツッコミを入れたのは年の離れた弟の雪人だ。
「うっさいわね! アンタみたいな穀潰しと違って私は忙しいのよ! この間だってアメリカが変な法律作って対応ウザかったし!」
「お陰の徹夜で鬼のように眠いんだけど…俺、……何でこんな所にいるんだろ?」
美沙の隣で息子の悠がゾンビのような顔色で呟いた。
「何言っているのよ! ようやく抜け出してきたのに! さあ、放電しまくるわよ〜」
「…ここでしたか、ボス」
「さ、冴葉ちゃん! ど、どうしてここが?! 草薙は今アメリカ大陸上空のはず!」
「こんな事もあろうかと無臭の水型発信器を付けておきました」
「…くッ! で、でも、こんな所じゃお仕事なんて…」
「今月試作したFTI製ホログラムモニタに仮想端末です。低軌道小型衛星のレーザー中継で機密性、通信速度全く問題無しです。それでは、まずこのファイルから…」
「ううう…ハイテク嫌いいいいい(シクシク)」
何故か、ばっちりハイレグ水着を着込んだ冴葉に促されて、泣きながら仕事を始める美沙。
「それじゃ、俺は寝る…」
「よお〜し、ガッチリ泳ごうぜ、悠!」
「……泳ご?」
「ルナ、リム?! どうしてここに??」
「私が呼んだのよ、悠! あっちの方に良いカンジの岩場があるからね、ビシッと決めるのよ、ビシッと!」
「…何をだ」
仕事をしながらグッと親指を立ててウィンクする美沙に、悠は体中から力が抜けるのが分かった。
「……でも、あそこ愁君が引きずり込まれてたし…」
「…見たなら助けてやれよ」
「………何で?」
首をかしげて不思議そうに言うリム。
何故助けるのか、本当に理解できないようだった。
「よし! ガンガン泳ごうぜ、悠!!」
「……泳ごう、悠」
「ぐあああ…お前ら引きずっていくなあああ…」
抗議にも力がない悠であった。
その微笑ましい様を見ていて、雪人はふと傍らの年の離れた妹に目をやった。
草刈美魚。
歳は、小学生の高学年になったばかり。
身長は130cmほどだろうか。
瑪瑙石のようなつぶらな瞳、長い睫、スッと通った鼻、形の良い小さな唇。
美貴の血を間違いなく継いだ、超A級の美少女である。
髪はフロントをアップにしたポンパドールとかいう髪型である。
サイドは三つ編みにした後、お団子にアップしていた。
コレを編み込んだのは何を隠そう美貴様である。
「だって…他の娘、髪の毛弄らせてくれないんだもん…」とは、他ならぬ美貴様の御言葉だ。
美魚もえらくお気に入りであり、朝の度にねだりに来る。
いわば、母娘のコミュニュケーションであった。
そのため、美魚はその髪型を大切にしており―――以前、雪人はリーゼントか? とか言って真剣で斬りかかられたことがあった。
まあ、それはともかく。
雪人が気になったのは彼女の水着だった。
「…なあ、美魚」
「なに? 雪人にーちゃん」
「小学生でビキニというのは問題があるような気がするぞ? 第一、必要ないだろ? 上」
「え〜〜だって美緒ねーちゃんもビキニだし」
「うふふふふ…それってどういう意味かしらあ? 美魚ちゃん?ン?ン?ン??」
「いひゃいいひゃいみひょへえひゃん」
青筋浮かべた笑顔で、美魚のほっぺたを両手で思いっきりつねくる美緒。
恋人である麟太郎が、急遽決まったコンクール出典用の絵を描くためにドタキャンしたので、美緒はかなりご機嫌斜めであったのだ。
触らぬ神に祟りなしとばかりに、そこからコソコソ逃げ出し、美月達と合流する雪人。
そう、今日はタマの休日(一部除く)を利用した草刈家総出の2泊3日の海水浴に来ているのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「えい」
パスンと音を立てて、美花がビーチボールを宙に跳ね上げた。
「おりゃ!」
美月がそのボールを巧みに美緒に繋ぐ。
「たあ!」
「やらせるかよ!」
美緒の渾身のアタックを、愁が横っ飛びで受ける。
「任せて!」
沙貴がそのボールをコート中央にパス。
「でかした! 行くぜ、今、必殺のユキト・スペシャル!!」
「えい。」
「あ゛。」
美月のブロックに阻まれたボールは、無常にも雪人のコートに着水した。
「V!」
「なにやってんのよ! このダメ兄貴!」
「全くだ。俺の超ファインセーブを無駄にしやがって」
「うううう…たかがビーチバレーでここまでボロクソにけなされる俺って…」
雪人は滝のような涙を流しながら、海水の上のボールを拾い上げてサーブの位置まで移動した。
「…毎度のことだけど、シュールだよな」
「……うん」
「……どーでもいいから…いい加減…俺をリリースしてくれい…」
リムは海面の上でビーチバレーをしている一同を見つめながら、(泣きを入れている悠を完全に無視して)ルナの台詞にうなずいた。
そう、彼らは海面に立ってビーチバレーをしているのである。
これは、熱くなりすぎて海岸の形が変わる…といった事態を憂慮した結果だった。
蓮華歩舟、あるいは結城の力で海面に浮くことに集中すれば破壊力は格段に下がるのである。
また、少々力が入りすぎても派手な水柱が上がって高めの波が来る程度だ。
「……なんだかなあ」
鷲士は浜辺で俯せになって、ぼんやりと子供達の姿を見ながら言った。
幼いときに憧れ、夢見ていた『家族』…いま、それは彼の手の中にある。
だが、それは昔に想像していたのと若干―――いや、かなり違う気がする鷲士だった。
「いいのかなあ?」
「何が?」
鷲士の背中にサンオイルを塗りながら、美貴が聞いた。
「うん…別に…あ、美貴ちゃんいいよ、後は自分で…」
「だぁ〜め♪ さ、仰向けになって♪」
「う…うん」
「……しゅーくんの腹筋って相変わらず凄いね」
「そう? あ、くすぐったいよ…ん? 美貴ちゃん??」
「はあはあはあ…もう辛抱たまらん!!」
「うわああ、美貴ちゃんが切れたああ助けてえええ」
「コラあ! 盛るなソコおおお!!」
鷲士の悲鳴に、仕事疲れでキレかけの美沙の叫びが轟く。
「へっへっへっへ…うぶなネンネじゃあるまいし…観念なさい!!」
「あああ、昼間だし、子供達の前だし! 落ち着いて美貴ちゃん!!」
「ああああああああ! うるさああああいいいい!!」
「問答無用!! 頂きま〜ムグ!」
「……お母様、美貴さんの鎮圧を完了しました」
手際よく美貴をロープでグルグル巻きにして猿轡を噛ました紗慧が、無表情で冴葉に報告する。
「ご苦労様。後は適切な処置を」
「はい、分かりました」
「むぐ!むぐうう!!むううううう!!!」
「さて、仕事に戻りましょう。EUの新規格についてですが」
「……あ、アンタら親子って…」
色々、考えさせられる美沙であった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「むにゃむにゃ…」
徹夜の上、ルナリムコンビに引きずり回された悠は、あえなく意識不明に陥り、浜辺のシートの上で至福の表情を浮かべながら惰眠を貪っていた。
当のルナリムは悠を引きずり回すことに飽きたのか、ドーラや瑚露那、伊織達と一緒に(こっちは普通の)ビーチバレーをしている。
と、そんな悠に忍び寄る影があった。
美魚である。
その手には絶対日焼け止めクリーム『色白君』( made in FTI )があった。
美魚は悠のお腹をキャンバスに『色白君』を垂らしていく。
「ミッション・コンプリ♪」
悪魔の微笑を浮かべて走り去る美魚の背後には、『色白君』でお腹に顔を書かれた悠が取り残されていた。
このまま日に焼かれると、さぞかし愉快な日焼けをすることだろう。
「ウシシシ…」
悪魔の含み笑いをする美魚に、後ろから誰かが声をかけてきた。
「持ってきたよ〜美魚ね〜ちゃん」
彼女の弟、鷲矢である。
父である鷲士に似て温厚な鷲矢は、押しの強すぎる姉には絶対に逆らえないのであった。
「よしよし…でかしたよ、鷲矢♪」
そう言って美魚が鷲矢から受け取ったのは……手榴弾だった。
何故、海水浴に手榴弾が必要なのかは謎だが、美沙を筆頭とするメンバーを鑑みると、その問いは愚問といえるのかも知れない。
ともかく、彼女は邪悪な笑みを浮かべながらピンを抜き、『力』を集中させた。
手榴弾に紫のスパークがまとわりつき、そして消えた。
その代わりに海水が、手の中でばしゃっと散る。
そして…
どむっ
「きゃ!」
海中の爆発で急激に膨らんだ海面に足を取られ、美緒がスッ転ぶ。
精神集中が途切れたのか、美緒はそのまま藻掻きながら海水にゴボゴボと沈没してしまった。
そう、美魚は海水と手榴弾の位置を交換したのだった。
美魚の『力』は強くもなければ弱くもないが、このような特殊な使い方『アポーツ&アスポーツ』を得意としていた。
「きゃははははははは!」
爆発で右往左往するみんなの様を見て、指を差して大笑いする美魚。
だが…
「みいいいいうううう〜〜〜!!」
ざばああっと海水を押しのけ、亡者さながらに重低音の呻き声を上げたのは、美緒だった。
「大人しくしてりゃつけ上がりやがて! 覚悟はいいな? ああ?!」
「あ……美緒ねーちゃん、もしかして…スイッチ入ってる?」
「くたばりゃあああああああ!!」
美緒の怒りの九頭・右竜砕陣が、美魚に容赦なく叩き込まれた。
「ひゃああああああああああぁぁぁぁ……」
ドップラー効果を残しつつ、海面で何度か跳ねて水柱を上げながら水平線の彼方に消えていく美魚。
中学生の姉が小学生の妹を水平線の彼方に吹き飛ばすという、まさにドメスティック・バイオレンスな、恐ろしくショッキングなシーンである。
あったのだが…
「ああ! 美緒のスイッチが入ったぞ!」
「幸貴は何処だッ?!」
「逃げろ! みんな早く逃げろオオオオ!!」
「いやああああああ! お、お父さん、助けてええええ!!」
みんな、それどころではなかったのだった。
美魚のぉ…
『Let’s play a trick!!』
- 美魚
- 「さあ、章と章の合間で始まりましたこのコーナー! 早い話が『みんなで悪戯しようよ』という趣旨の私の悪戯指南コーナーでぇす!」
- 美魚
- 「まずは初級編。用意するものは美味しいシュークリームと、とっても辛いマスタード…もう分かるよね? シュークリームの一つに、クリームを入れる穴からマスタードをムリムリっと入れちゃうだけ…簡単でしょ?」
- 美魚
- 「みんなあ〜オヤツ持って来たよぉ〜♪」
- 沙貴
- 「あ、シュークリームじゃない! 頂き!」
- 愁
- 「む。一個もらうぞ」
- 翔
- 「あ、美琴さん…あ〜んして♪」
- 美琴
- 「ば、莫迦者! み、みんなが見ておろう! あ…」
- 美沙
- 「そこ。イチャつかないよーに(と言いつつ自分の分を確保)」
- 雪人
- 「お。美味そうじゃん。一個もらい!(ひょいパク)・・・・・・・・ぐはあッ!!」
- 美魚
- 「ミッション・コンプリ♪ コツはね、マスタード入りを奥の方に置いておくことかな? 次は中級編だよ!」
- 雪人
- 「・・・ぴくぴく」
第二章 《 Boy meets girl 》
「全く、キミは! 女の子なんだから、もっとお淑やかにしなくちゃ!」
―――神威―――を睨み付けていた。
「そうだよ、悪戯されて怒る気持ちは分かるけど、もう少し節度をわきまえて…」
「ごめんなさい…母上、父上…」
しゅ〜んとなって、鷲士とドサクサで縄抜けした美貴のお説教を正座で聞く美緒。
その後ろでは、爆発物を無断で持ち出しテロリスト(註:美魚の事である)に横流しした容疑で鷲矢も正座させられていたりした。
「な、何で僕まで…(さめざめ)」
草刈鷲矢。
彼の苦難に満ち満ちた人生は、まだ始まったばかりだった。
「………。」
白いワンピースの水着を身につけた女性が浜辺に立っていた。
ゲルマン系と見られる彫りの深い美貌に、完全に日本人離れしたスーパーモデル顔負けのプロポーション。
見事な栗色の髪はゴムでくくられた後、金色のバレッタでアップにまとめられている。
彼女の名はドーラ・シュライヒャー…これでまだ中学生だと言ったら、多くの人は詐欺だと言うことだろう。
だが、その美女は…何とも言えない間抜け面をしながら、目の前の光景をただポカ〜ンと眺めていた。
「………………。」
「え〜〜い」
美花が放り投げたフリスビー目がけて、神威が走る。
ジャンプして…
「秘技、地層返し!」
雪人の右足が砂浜に食い込み、蹴り上げられた。
固い地盤なら捲れ上がる程のエネルギーが、爆発のように砂を巻き上げる。
「きゃうううう…ん」
砂嵐に巻き込まれて、思わず悲鳴を上げながら吹き飛ぶ神威を尻目に、雪人はフリスビーをキャッチした。
「ふふふふ…どーだ、人間様の力を思い知ったか! この犬畜生め!」
「き、汚ねえぞ…テメエ!」
「おやあ? 負け犬の遠吠えが聞こえるなあ? …勝負の世界は非情なものなのだよ、負け犬クン」
「ぐそおおおお〜次は取ってやる!」
「次…行くよお〜」
「「よし、来い!!」」
美花の声に、同時に答える神威と雪人。
「………あノ……これっテ……」
神威と同レベルで張り合う雪人の有様を見ながら、汗ジトで傍らの美月に問いかけるドーラ。
「……お願い…言わないで…」
頭を抱えるしかない美月だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……ん…」
身じろぎをして、美魚が目を開けると…そこはベットの上だった。
「あれ…ここは…?」
「ああ、気が付いた?」
そう言ってお椀を乗せた御盆を持った男性が、笑った。
年の頃はハイティーンといった所だろうか…明るいブロンドに目鼻立ちもスッキリとした美少年である。
鼻の上にはダブルブリッジの眼鏡があった。
「良かった…このまま目を覚まさなかったら、どうしようかと思ってたんだけど。あ、そうそう、今、お昼にパスタ作ってだけど…食べる?」
と、少年は屈託のない笑みを浮かべた。
ここは何処で、彼は何者なのか?
普通の女の子ならそんな疑問で一杯になり、彼のことを警戒して食事どころではなかっただろう。
だが。
「うん!」
人見知りしないのが、美魚の良いところだった。
「あ〜〜美味しかった! 有り難うお兄ちゃん!」
「うん…ああ…良いんだけど…よく食べるんだね…」
そう言って、少年は空になった大鍋を見ながら言った。
初めの内は二人前だったのだが…余りにも猛烈な勢いで食べる美魚のために十人前ほど追加し…そして、彼女はそれら全てをアッサリと平らげてしまったのだ。
「私、草刈美魚って言うの! お兄ちゃんは?」
「……物怖じしない娘だね〜…いいけど…僕はネルソン・ビックス」
「ねるそん…ガイジン?」
「……うん、一応イギリス人だけど」
「ふ〜ん。日本語上手だね」
「…まあ、それは良いとして…何だってこんな所に? ここは陸から結構離れた無人島で…そこの海岸に打ち上げられたけど…船から落ちたの?」
「え…とね、美緒お姉ちゃんに『どか〜』って殴られて、『ぴゅ〜』て飛ばされて…」
「??」
これは普通の人の、ごくごく普通の反応であろう。
パンチ一つで人を数十kmも吹き飛ばす存在など、想像すら出来ないに違いない。
「よく分からないけど…お父さんとかお母さんは近くにいるの?」
「うん。あっちの方にだいたい100kmくらい行った所かな?」
「分かるの?」
「うん!」
「じゃあ、連絡しないと」
「いいよ、すぐ帰れるし」
「帰れるって…」
そう言って美魚の方を向いたネルソンは、そこに誰もいないことに気が付いた。
慌てて見回すと、テコテコと奥の方に走っていく美魚の後ろ姿が辛うじて見えた。
「あ、ちょっと、そっちの方は…」
ネルソンは慌てて美魚の後を追った。
「ぴゅ〜〜」
美魚は嬉しそうに海に向かって、貰った水鉄砲を撃っていた。
ネルソンは玩具を与えて室外に連れ出すという高等技術を用いて部屋の中の資料を守ったのである。
「ふうう〜危ないところだった…」
「ねえ、お兄ちゃん」
「な、なんだい?」
「こんな所で何してるの? 無人島なんでしょ、ここ」
「うん、まあね。ちょっとフィールドワークをね…僕は、こう見えても海洋生物学で博士号を取ってるんだ」
「かいよう…?」
「うん。そうそう、聞いたこと無いかな? ここら辺で人魚を見たって話」
「…!!」
思わずトリガーを引いてしまい、美魚はネルソンの顔のど真ん中に水を命中させてしまった。
「あ…だ、大丈夫?」
「うん…いいよ、僕こそ急に変なこと聞いちゃって…」
「人魚…探してるの?」
「そうなんだ。僕の父さんの形見でね…人魚を映したビデオテープがあったんだ。…死んじゃった人魚だったんだけど。最近ここら辺で人魚を見たって情報があったから来てみたんだ。一度で良いから、生きた人魚が見てみたいってね」
「…………。」
美魚はその話を汗ジトで聞いていた。
最近目撃された人魚というのは…多分、美緒か自分のことだろう。
昔、何度かここに来たことがあり…美緒と美魚は海中レースをしたことがあったのだ。
人に見られないようにとは釘は差されていたが、正直、夢中になりすぎて余りよく覚えていないのだ…目撃されたかも知れない。
「み、見付かるといいね…はははは…」
何とも乾いた笑いを浮かべつつ、美魚はそう言った。
一方その頃…
その島にゆっくりと近づいてくる一隻の船があった。
「ここか…ネルソン博士の居場所は…」
船の上で、目の前の島を見ながら黒服の男は隣の男に言った。
「ああ、そうだ。博士には我々の元にお帰り願うことになっているが…」
「抵抗された場合は?」
「少々手荒になっても構わんそうだ。最悪、博士が持ち出した資料だけでも始末すればいい」
「了解」
男達は押し黙り、大きくなっていく島をジッと見つめていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「はあはあはあはあはあはあ…」
雪人は肩で息をしながら、敵
その手には半分に割れたフリスビーがある。
「ハーッハーッハーッハー…」
神威はもう片方の割れたフリスビーをくわえながら、雪人の視線を返す。
「引き分け…だな?」
「そう…だな…これで…35勝35敗1引き分けか…」
「あ、ようやく口喧嘩終わったみたいネ」
「47分かあ…ま、早い方ね」
「「よし、次だ!」」
同時に叫ぶ雪人と神威に、美花は…
「私、疲れちゃったなあ…あ、ドーラちゃん、やってみる?」
「え?! いいノ!?!」
「…………。」
飛び上がって、明らかに嬉しそうに美花に走り寄るドーラを見ながら、美月の片方のマユがピクッ!と跳ね上がったが、彼女は結局、何も言わなかった。
「…………………………………。」
美魚のぉ…
『Let’s play a trick!!』
- 美魚
- 「さあ、目出度く2回目を迎えましたこのコーナー! 『みんなで悪戯しようよ!』的悪戯指南役の美魚でぇす!」
- 美魚
- 「今回は中級編。用意するものは鍋、白米、水です」
- 美魚
- 「それじゃ、Methodを言うね! まず鍋に白米を入れて、少なめに水を入れます。そして、極限まで研ぐ! 内角に抉りこむように研ぐべし!研ぐべし!!研ぐべし!!!
そして、研ぎまくったら、その研ぎ汁をコップに注ぐと、偽カルピスの出来あがりぃぃ!! ちょっと大変だけどチャレンジしてみてね♪」
- 美魚
- 「みんなあ〜カルピス持って来たよぉ〜♪」
- 美貴
- 「ちょうど喉が乾いたところだったのよね〜気が利くね美魚は(ナデナデ)」
- 美魚
- 「えへへ」
- 幸貴
- 「(じっと見つめて)…これなら飲めるか…」
- 愁
- 「一つもらうぞ」
- 美月
- 「あ、兄さん、カルピス有るよカルピス!」
- 雪人
- 「お、ホントだ! 頂き!(ごきゅごきゅごきゅ)・・・・・・・・ぐぼはあッ!!」
- 美魚
- 「ミッション・コンプリ♪ コツはね、ニセを中心のほうに置いておくことかな? 今度は上級編だよぉ!」
- 雪人
- 「…お、おのれ…またしても……がく」
第三章 《 It breaks out 》
「あああ…平和だな〜」
そう囁いて、幸貴はその場でゴロンと寝転がった。
海岸近くにある宿の一部屋。
見かけは普通の民宿だが、FTIの最新ハイテク技術が惜しげもなく注ぎ込まれている。
完全無人化は勿論、山から引いてきた温泉や地下には映画館などもあるらしい。
まあ、それはともかく。
幸貴はだらしなくゴロ寝しながら、呟いた。
「そうだよ、始めっからこうすれば良かったんだよ」
古人曰く。『君子危うきに近寄らず』…しかし、ただイヤだと言っても無視して引きずられていくことは必至。
最近『中和』能力なるものが発現して以来、彼の存在は家族間で最重要視されるようになってきた。
と、言っても、以前の扱いがおざなりだったわけではなく、単に彼の需要度が高まっただけの話だが。
何せ、妄想のままに突っ走る美貴、美花のことで暴走する樫緒、ふとした弾みでスイッチが入り暴れ出す美緒などを、被害が拡大する前に止める事ができるのだ。
世界平和の観点から見ても、重要な役目だ。
それは分かる。
しかし。
騒動が起こるたびに『投擲』されるとゆーのは如何なものか。
「俺は物じゃないっつーの。やってられんぜ、全く。まあ…今日みたいに仮病も使っていけば…」
ジャラっと仮病用の薬が入った瓶を手に持ち、眺めていると…その瓶に自分以外の人影が映っていることに気がついた。
恐る恐る振り向くと…
「さ…紗慧さん」
片桐紗慧。FTI会長秘書『片桐冴葉』の娘であり、姉である美緒の同級生である。
淡いブルーのセパレートタイプの水着に、迷彩柄のパレオを身につけていたが…そんな事よりも、幸貴は彼女が手に持っているデジタルビデオカメラの方が気になっていた。
物凄く。
「お気になさらず、続けて下さい」
「あの…そのカメラは…ひょっとして…ずっと撮ってた、とか?」
「勿論です」
「……それを…どうするつもり…ですか?」
「どうして欲しいですか?」
「……………。」
ふと。
大丈夫? とか心配そうに声をかけてきた、美沙や美緒の姿を思い出す。
もしも。
彼女たちがこのVTRを見たらどうなるか…幸貴は漠然と想像した。
「困ッタ事ガアッタラ何デモ言ッテ下サイネ」
カクカクと、油の切れたロボットのようなぎこちない動きと声で幸貴は紗慧にそう言った。
「有り難うございます」
そんな紗慧の微笑みとともに。
幸貴の貴い幸せなひとときは終わりを告げたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ネルソン博士…探しましたよ」
突然、背後からかけられた言葉にネルソンと美魚は振り返った。
そこには、黒服にサングラスという、いかにもな格好をした男が立っていた。
その手には黒光りする拳銃が握られている。
「お…お前は…?!」
「ほえ?」
緊張した声をあげるネルソンと、全く緊張感のない美魚の声が同時にあがる。
「探しましたよ。博士。無断に資料などを持ちだされると困るのですよ…何処にあるんです?」
「あ、あれは、父と僕の集めたデータだ! お前達の物じゃない!」
「ほえほえ」
「ならば、一緒に帰ってくれば宜しい。上は予算の倍増を検討中です。また研究三昧ですぞ」
「うるさい! 僕は…あんな…非人道的な…酷い実験の片棒を担ぐつもりもなければ、兵器を作る手伝いをする気もないんだ!」
「ほえ〜〜」
「困りましたな。なら…これを使わざるを…」
そう言って拳銃を向けようとして、男は拳銃をマジマジと見つめながら時折つついてくる少女の存在に気付いた。
「ねえねえ…これってどういう玩具?」
「………この娘は?」
「……その娘は漂流してきた……とにかく関係ない!」
「? まあいい!」
そう言って男は美魚を羽交い締めにすると、銃口を頭に押しつけた。
「この娘の命が惜しければ…」
「ねえねえ、ねるちゃん」
「ねる…ちゃん?」
いきなり変な愛称で呼ばれて戸惑うネルソンに美魚が言った。
「うん。この男って悪い奴?」
「え…と、まあ…悪い奴かな?」
「じゃ…やっちゃっていいんだね」
「コラ、さっきから何を言っている? この銃が怖くないのか?!」
「うん。だって、それ玩具じゃん」
「何を馬鹿な…」
これだから日本の子供は…と言いかけて、その男は愕然となった。
自分の手の中にあるのが、長年慣れ親しんだオートマチック拳銃G19ではなく、プラスティック製の水鉄砲だったからだ。
「ね? 玩具でしょ?」
「お前…一体…?」
男が戦慄しながら、腕の中の少女に問い掛ける。
彼女は答えようとして、いきなり海の方を向いて言った。
「あ…」
「あ?」
そう言いかけたとき …海が割れ、そして、爆風が周囲全てを吹き飛ばした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「………。」
「………。」
神威と雪人は無言のまま、ゆっくりと背後を振り返った。
海が割れ、遠くの方に見える島から土煙らしきものが立ち上り、そして、ドーンという音が遅れて聞こえてきた。
「…チッ!」
投げ終えたフォームのまま、美月が忌々しげに舌打ちを打った。
「くぅら! 美月! 何だ、そのチッってゆーのは?! 当てる気だったのか?!」
「うん」
「うっわ、あっさりショッキングな事言いやがった!」
「をい、こら! あんなの当たったら死ぬだろ、普通!」
口々に言う雪人と神威の文句を受け流しつつ、いけしゃあしゃあと美月が嘯いた。
「だって、ドーラちゃんじゃ弱いからって事で私になったんでしょ? 少々強めに投げたって」
そうなのだ。
美花にフリスビーの投擲役を代わってもらったドーラだったが、雪人の熱視線(ドーラ主観)に力が入らず、へろへろ玉ばかりだったので代わりに美月になったわけなのだが。
ちなみに、ドーラは後ろの方で冷や汗を垂らしつつオロオロしていた。
美月が恐くて近寄れないらしい。
「『力』を乗せて投げる奴があるか! 音より早かったぞ、今の!」
「限度ってモンがあるだろ?! 限度ってモンが!!」
「でも、ほら。よく言うでしょ? 親しき仲にも容赦なしって♪」
「「言うかあああ馬鹿タレええええッ!!!」」
「あ〜も〜五月蠅い!」
そう言った美月の周りに、幾つものフリスビーがふわりと宙に舞う。
そして、フリスビーはスパークを纏い、ヴイイィィィンというヤバげな音を立てて高速回転を始めた。
「分かったわよ。ルール変更! スピードは音速以下。ただし高速回転でホーミングさせるから。それを、数多く取った方が勝ち。じゃ、頑張ってね〜」
「………!」
「………!」
美月の台詞に雪人と神威が引きつり、何かを言おうと(恐らく命乞いだと思われる) 口を開いたが。
「GO!」
美月が殺人フリスビーを放つ方が早かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「コホ…コホ」
咳き込みつつ、ネルソンは何とか体を起こした。
爆風で吹き飛ばされたらしい。
怪我とかはないようだったが…
「これは…一体…?!」
景色が一変した辺りを見回しながら、呟くネルソンの手を誰かが握った。
それは…
「み、美魚ちゃん? 無事だったの? え? アイツは?」
「ん〜…あっち、だと思う」
「あっち?」
美魚の指差した方向を見るが、少々薙ぎ倒された森林が見えるだけで、人影はなかった。
「行こ!」
「あ…ちょ、ちょっと!」
抵抗する間もなく、ネルソンは美魚に連れられて走り出した。
その背後の茂みの中で…
「きゅう〜」
美魚に投げ飛ばされた黒服の男が目を回していた。
【つずく】
美魚のぉ…
『Let’s play a trick!!』
- 美魚
- 「さあ、いよいよ佳境に入ってきましたこのコーナー! お馴染みの『みんなで悪戯しようよ!』的悪戯指南役の美魚でぇす!」
- 美魚
- 「今回は上級編。用意するものは普通のチョコレートとアメリカなんかで売っている《non−sweet》チョコレートを用意します。
《non−sweet》チョコレートは文字通り砂糖が入ってないチョコレートのこと。肥満大国アメリカらしい商品だけど、存在価値あるのかなあ?
だって、カカオって不味いんだよ? 物凄く。
メキシコのアズテック族とかいう人たちが作った《苦い水》が元なんだから、そりゃ、マズイの何の。
見つけたら、一度食べてみるのは良い経験かもよ?
私は二度とゴメンだけど」
- 美魚
- 「方法はね、まずチョコレートを一口サイズに割っておいて、一切れか二切れくらいだけ《non−sweet》チョコレートを紛れ込ませておくだけ。簡単でしょ?」
- 美魚
- 「みんなあ〜オヤツ持って来たよぉ〜♪」
- 美緒
- 「あ、チョコレートじゃない! ちょうど甘いものが欲しかったところなのよね〜」
- 愁
- 「うむ。一つもらうぞ」
- 鷲矢
- 「こうなるとお茶が飲みたくなるよね〜」
- 美魚
- 「そんな変なのはアンタだけ。」
- 美沙
- 「そこ。喧嘩しないよーに(と言いつつ自分の分を確保)」
- 雪人
- 「お。いいモノあるじゃん。もらい!(ひょいパク)・・・・・・・・ぐぎゃああああはあッ!!」
- 美魚
- 「ミッション・コンプリ♪ コツはね、なるべく中心のほうに置いて置く事だよ♪」
- 雪人
- 「・・・うがあああああああっ! いつもいつもいつも!! お前と言う奴はあぁ!!」
- 美魚
- 「お兄ちゃん・・・美魚のこと苛める?(涙目)」
- 雪人
- 「くっ・・・嘘泣きだと分かっているのに、分かっているのに・・・! 畜生・・・ッ!(ガックリと膝をつく)」
- 美魚
- 「まあ、こんな風にフォロー(?)も忘れずにね! ぢゃ、またねぇ〜ばいばい」
- 雪人
- 「ぶつぶつぶつ・・・」
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