DADDYFACE ShortStories
「時の狭間を逝く弱者」
written by 光輝



 何処までも広がる砂漠。 
照りつける太陽は否応無しにこの地に住む生物の命を削っていっている。
もちろんまわりには草木一本どころか、どんな小さな生物の姿も見えない。
そんな中をひとつの影がフラフラと歩いているのがわかる。
「…ったく、なんで俺がこんな目に…」
その人影はブツブツと文句を言いながら―何処を目指しているのか―ぼんやりとした表情で砂漠の道無き道を歩いていた。
いかな理由でこの砂漠を渡っているのかは知らないが…まあ何処から見ても遭難者漸とした風貌である。
しかしこの少年、服装が異常…と言うかいささかこの地には不釣合いである。
体を覆っている掠れたような肌色のマントはいいだろう、陽射しが強く湿度の無い砂漠では当然の格好である。
だがその下に来ている物が…学生服なのである、しかも詰め襟の冬用。
その日本にいる学生なら納得のいく格好をしている少年は…だがその服を脱ごうともせずにただひたすら歩いている。
やがて力尽きたのか少年はバタリと地面にうつ伏せで倒れ伏した。
そのまましばしの時が過ぎる。
「くそっ!!、なんで俺ばっかりこんな目にあうんだぁ?これで今年何回目だよ…」
やがて少年は毒づくとゴロリと寝返りをうち空を見上げた。
そこに広がっている光景は雲ひとつ無い青空…ではなかった。
まず目に入るのは天空に浮かぶ巨大な…それこそこの星を覆うほどの輝くリング。
そして2つの太陽と大小4個の月、空の色は濃いい紫だった。
あきらかに地球と呼ばれる星の空とは異質な存在。
…つまりここは地球では無いのだろうか?
しかし少年の使っている言葉はれっきとした日本語だし着ている服もなんの変哲も無い学生服である。
ハッキリ言って訳のわからない事だらけである。
「ふぅ、いつになったら帰れんのかなぁ…俺」
少年は深い溜息をつくと掛け声とともに上半身を起こした。
「しかしこのまんまじゃホントに干乾びちまう……」
少年の言葉は唐突に途切れた、変わりに少年の後方から淡い緑の光とうぉんうぉんと言う不思議な音がなり始めた。
それを聞いた少年は嬉々として立ちあがりそちらの方向を見る。
そこには半径2メートルぐらいの魔方陣が壁に立てかけた絵の様に浮かんでいた。
魔方陣の中は不思議な幾何学模様が浮かんでいる。
それを見た少年は顔中に笑みを浮かべその魔方陣に手を伸ばした。
「これでココともおさらばか…」
右腕が魔方陣にめり込むこの時もしこの光景を真横から見ていた者がいたならその異常さに気がついただろう。
魔方陣にめり込んで行った手がそこでスッパリ掻き消えていたのだ。
それでもなお少年はその魔方陣の中に入ろうとする。
やがて少年はその魔方陣の中に完全に入って行ってしまった。
跡に残ったのはまだ空中で静止を続ける魔方陣だけであった。
やがてその魔方陣もうっすらと掻き消えて行くとこの砂漠にはどのような影も形も残らなかった…。

時の狭間を逝く弱者

ある晴れた日曜の午後。
ここはホテル・ラマダン地上40階に位置するオフィス。
プレートには燦然と煌く『特殊対策課』の文字が。
…しかし中はまるで泥棒でも…いや嵐でも過ぎ去ったかのような散らかりようである。
机、棚、床、場所を選ばずこの部屋には奇妙な形の品物となんの変哲も無い日用品が散乱していた。
その散乱する奇妙な物の方がすべて超古代遺産の産物であるハイ・アートだと知りうる人間がいたなら目を剥く光景だろう。
言うならば核兵器のような物が床に無数に散らばっているのだから…
そんな中ゴソゴソと動く小さな人影がひとつ。
この特殊対策課を束ねる…と言っても社員はこの一人だけなのだが…伊吹希そのヒトである。
もう日も高いと言うのに起きぬけなのか寝ぼけ眼にぞうさんプリントのピンク色のパジャマを身につけている。
体はまだ半分布団の中だ。
希はそのゴミ溜めのような場所から頭を出し辺りをキョロキョロと見まわすと…
「……………zzz」
…また眠りに落ちて逝ってしまった。
「いいかげん起きろ―――!!」
そこへ鈴を転がしたような可愛らしい声がしたかと思うと希の頭部に小さなハイ・アートがヒットした。
希はまたモゾモゾと布団から這い出てくると頭をさすりながら。
「…痛い」
と言って入り口の方を見た、そこには小さな美貌が…結城美沙である。
「痛いじゃなーい!!希ちゃんまた部屋こんなに散らかしてぇー!!この前掃除したばっかでしょうがー!!」
…が今は少々ご立腹のようだ。
その美沙をボッーっと眺めていた希はやがて…
「…あ、おはようざいます」
と外れた事を言い、頭を下げた。
ガクッと美沙はコケ脱力する。
「希ちゃん…もうお昼過ぎてるよ」

なんとか少し片付いた机に希と美沙は希の入れた紅茶を啜りながら対面で座っている。
ズズズーっと音を立てて紅茶を飲み干した美沙が喋りだす。
「やっぱ希ちゃんのいれた紅茶はサイコーね、そんじょそこらのヒトじゃあ足元にもおよばないわ」
と御満悦の美沙を希がねめつける様に見ていた。
「美沙さん、来るのは良いのですが…鷲士さんはどうしたんですか?」
すでに服装はパジャマではなくきっちりとした服装になっている。
「それがさー、希ちゃん聞いてよー、今週も鷲士くんウチのガミガミ魔王に連れ去られちゃってねー、もお、暇で暇でしかたが無いのよー」
「…良いことでは無いですか?」
あの事件以来美沙は暇が出来るとちょくちょく特殊対策課のオフィス、つまり希の住居に遊びに来るのであった。
そのたびに茶飲み話に付き合っているせいで希は草刈家の諸事情についてはもうだいぶ知り得ていた。
「そのまま仲良くなればあなたのお母様も事情を話しやすくなるでしょう」
「うー、でもさー、鷲士くんが遊んでくれないのはやだなー」
「…わがままですね」
もうこの二人はかなり砕けた関係になっているようだ…
「ところで希ちゃん…どうしてこんな破滅的な汚れ方をしてるの?」
そう言って足場も見えない部屋を見まわした。
「…普通に暮らしてるだけなんですが」
「…だとしたらこれ一種の才能だよ」
さすがの美沙も辟易して言う。
「よしっ!!、じゃあ今日はこの部屋の大掃除でもするか」
「……はい」
希にしては珍しく嫌そうな顔で返事をしていた。
かくして特殊対策課の大掃除が始まった。

「ちょっと希ちゃんコレ…」
美沙の目に黄金で装飾されたオモチャのようなライフル銃が入ってきた。
「…ああ、ブラマダッターですか日本支部の倉庫に眠っていたので持ってきました」
「そ、そうなの、でもこれって役に立つ?」
「うーん、少々扱いに困ってますねぇ、恒星を破壊できる兵器なんて」
「はぁ!?、どういうこと、それにそんな威力無かったわよ?」
「ええ、ですが何かのはずみでリミッターがイカレタらしくて…おかげで日本支部で保管するハメになりました、ハイ・アートの本来の威力はみんなこんな物ですよ?」
「そ、そうなの…」
リミッターがかかってない状態で桐古連と戦ったって無かったことを喜ぶ美沙であった…が。
「そんな危険なもん布団の横に置いとかないでよ…」
ごもっともである。

そんなこんなで美沙達の作業は進む。
…とその時美沙がキラキラと光る綺麗な指輪を見つけ出した。
「わぁー、きれー、ねえねえ希ちゃん、コレいらなかったらちょーだーい」
猫撫で声の美沙だがその指輪を見た希が驚愕の表情を浮かべる。
「美沙さん、それを捨ててください!!」
「ほえ?」
いつもの希からは信じられないくらいの声量が流れる、おかげで美沙の行動はしばらく止まってしまった。
その間にも指輪の輝きは消えるどころか益々増している。
「え、いや、ちょっと、の、希ちゃ〜ん、た、助けて」
美沙の悲痛な叫び声が聞こえてきたがそれはすでに周りが見えないくらいの指輪の輝きに掻き消されてしまった。
希が思わず目をつぶる。
やがて輝きが収まると、美沙は学生服を着こんだ少年になっていた!?
「いててて、今度は何処に落ちたんだ?」
その少年になった美沙は辺りを見まわしながら言った。
「…美沙さん?」
希がその少年を見ながら問いかける。
「…ん?あんただれだ!?」
「…ん?じゃないわよ!!あんた退きなさいよ!!」
その下からいなくなったと思われた美沙の叫び声が聞こえてきた…

「でぇ!!あんたいったいなんなのよ!!」
…何処かで聞いたようなセリフだがまあ気にせず話を進めよう。
ここは特殊対策課のオフィス、その机を囲んでる影は3つ。
まず希と憤激した美沙が並んで座っている、
その対面には学生服姿の少年が…
年は希とそう変わらないだろう、
黒髪黒瞳、強い意思を感じさせる大きな瞳、服装は先程も述べたとおり詰め襟の制服だ。
その少年に轢かれた事を憤激している美沙は今にも噛みつきそうな勢いでその少年を尋問?している。
だが少年はそんな事は異にもかいして無い様で希のいれた紅茶をうまそうに飲んでいる
やがてその紅茶を飲み終えた少年はプハッーっと一息つくと。
「いや〜、うまい!!こんな紅茶を飲んだの生まれて初めてだ」
「…それはどうも」
絶賛の賛辞を受けた希はペコリと頭を下げ礼を言う。
だがそんな少年の行動を見てついに美沙の堪忍袋の尾が切れてしまった。
「だっー!!あんた、何者かって聞いてんのよ!!」
グロッグの銃口を突き付けながら言う美沙の表情は悪鬼羅刹の様だ…
さすがにこれには気圧されたのか少年は両手を上げカクカクと頭をなんべんも下げる。
「わ、わかった、言う、なんでも言うからさ、とりあえずそれ下げろよ、な?」
銃口を突き付けられても陽気な口調で言う少年に、さすがの美沙も尻込みしてしまう。
「よしOK、つっても俺もこの状況ちょっとよくわかんねえんだけど…とりあえず自己紹介でもしとくか」
と言うと少年はいきなり立ちあがり親指を立て自分を指差す。
「俺様の名は皇世 優斗(コウセ ユウト)夢は世界征服!!」
優斗と名乗る少年はそれだけ言うと満足した様にふんぞり返っている。
それを唖然と見ていた美沙と希はやがてヒソヒソと耳打ち合う。
(ちょ、ちょっと希ちゃんどうするこいつ、馬鹿よ、それも真性の…)
(…でももしかしたらあのハイ・アートのせいかもしれませんし…そうハッキリ言うのはどうかと…)
二人ともずいぶんと失礼な事を言っているが聞こえていないのか優斗はベラベラと自分の身の上話をしていた。
「…しっかし、どう言うわけか、俺って小さい頃から特異体質ってゆーの、そういうのがあってさー…」
と長々喋り始めた優斗を少し頭がおかしいと思っている二人は止める事も出来なく延々と聞かされる羽目になった。

…そして30分後
「…てー訳なのさ、まあ俺が知ってるのはこんぐらいだな」
「はあ、つまり…あなたは"時渡り"なのですね…たぶん」
…簡単に説明するとこの少年14の頃から、神が基本的に使える"時虚門"を開く事の出来る能力者…希の言葉を借りれば"時渡り"と呼ばれる者なのだそうだ。
ただしこの力、優斗の場合暴走しており自分で時空門を開く事は出来ないと言うのである、しかも勝手に開き、優斗をまったく別の世界へ連れて行くと言う始末。

…ここで時渡りに付いて簡単な説明をしよう
これは時と書いてあるが実は別次元への扉のことなのである
一度、別次元へと入りまた再びもとの世界へ戻ってくると言う物である、この別次元に入った時にそ この事象を変えることでまったく別の時間、別の場所、別の世界へ行くことができるというものである
神が基本的に使う移動手段である
だがまれに人間にもその能力を有する者が生まれる、それが優斗なのだと希は言った

「ふーん、まあそれはよくわかって…無いけど、まあいいわ、ところでなんでこんなのが私の上に降ってきたわけ?」
優斗を指しながら美沙は言う、それを受けた優斗は良い顔はしない。
「こんなのあつかいかよ・・・だから、俺も行き先は決められないんだよ、この前でたとこなんて何処まで歩いても砂漠だったんだぜ」
「ああ、それは…」
そこまで言って希は口を噤む、それに美沙が詰め寄る。
「何!?、希ちゃん何か知ってるでしょう!?」
美沙の剣幕に希はつい口を滑らす。
「ええ…実は先程美沙さんの持っていた指輪、アレは使い捨ての"時虚門"を開けれるハイ・アートだったんですよ…」
「…じゃあ、何?アレのせいでこいつはここに来た…と」
「はい…たぶん…」
それを聞くやいなや美沙は希のバックに素早く回りこみ頭をゲンコツで鋏んでグリグリと…
「の・ぞ・み・ちゃんがきちんと掃除しないから〜!!」
「痛いです…美沙さん」
あまり顔に表情を出さない希だがさすがにしかめっ面になっていく。
その光景を見ていた優斗は溜まらず噴き出してしまう。
「ブアッハッハッハ、おもしれーなお前等」
「面白いじゃなーい!!、いったい誰のせいでこんな事になってると思ってんのよ!!」
そう言って希を解放すると、次は優斗のバックに行きグリグリと…
「イテテテ、わかった、謝るってば、ところでさあここって日本か?」
あたりに鬱憤を撒き散らしたおかげか美沙の機嫌はまあまあ治って来た。
「そうよ、ここは日本の東京、ちなみに西暦200×年よ!!」
「そーかぁ、てー事は俺が元いたとこと殆どかわんねえな」
そこで美沙と希は事の重大さに気がつく。
「そっか…あんたってちっさい時からいろんな所に跳ばされてんのよね…両親とかは?」
「ん?ああ、オフクロは俺がこんな事故に遭う少し前に病気で死んじまった…親父は俺が赤ん坊の時に死んじまったらしい」
「そうですか…悪い事を聞いてしまいましたね」
「いいって、いいって、それにたびたび行方不明になる息子持つほうが気が気じゃないだろう?」
「…そんなことありません、生きていたほうがきっと良いに決まってます」
何故か希は表情を固くしてそう言い返した、それを美沙は不思議な顔で見る。
「…まあ、何でかは知れねえけど一年に一度はこうやってもとの時代に戻れるんだ、大規模な旅行みたいなもんさ」
それに対し優斗は取り繕うかのように話を楽しくさせようとする、案外いい奴かもしれない。
「でもさ、あんたそんないろんな所に勝手に跳ばされてよく今まで生きてこられたわね」
「ああ、それはなんか変な兄ちゃんにしこまれて…」
「兄ちゃん?」
「そ、ありゃあ確か2回目ぐらいだったかな?変な遺跡みたいなとこに飛ばされたんだ、そこで馬鹿でかい真っ黒な大剣担いだ兄ちゃんの真上に落ちちまってな、最初殺されるかと思ったんだが事情を話すとこうなんかいろんな道具をくれてよう…まあ、今俺が生きてこられたのはこの道具のおかげだな」
と言って優斗はポケットから掌で包めるぐらいの小さい球を取り出した。
「これがその道具ですか?」
「いや、これは入れ物だ、これをこうするとな…」
そういって優斗はその球をグッと握ったするとそれが発光し、再び優斗が掌を広げるとそこには洗面器のような物と刃の部分が異様に長いナイフがあった。
美沙と希はそれを目を丸くして見ていた。
「えーとこっちの洗面器が『むけーからゆーけーを作り出す』とかよくわかんねえけど食べ物や水が勝手に出てくるんだ、で、こっちが自衛手段だって持たされたもん、これでもけっこう修行させられたから強いんだぜ」
その言葉もあまり美沙達の耳には入ってなかった。
再び二人は耳打ちしあう。
「の、希ちゃん、アレってハイ・アートよね?」
「ええ、それもかなり高度の…」
「おおーい、聞いてんのかお前等?」
二人の行動を不審に思って優斗が希達を除きこんできた…

…そしてあれから3日がすぎようとしていた。
優斗は美沙の好意によりホテル・ラマダンに住んでいた。(もちろん希とは別室である)
彼は久々の快適な暮らしに幸せを感じベットで健やかに眠っていた。
そこへ柔らかな朝の陽射しが差し込まれ、優斗はうっすらと目を開ける。
見えるのは豪奢なシャンデリアが飾られている天井。
優斗はムクリと半身を起こすと大きく伸びをした。
「いや〜やっぱ天井があるところで寝れるってーのは、いいなぁ」
変なところで感動している優斗であった。
その優斗が立ち上がろうと布団に手をついた時…

ふよん。

何か奇妙…と言うか気持ちのいい感触があったのでふとそちらの方を見る。
そこで優斗はいる筈の無い者を目にして真っ白な灰と化し動きを止めてしまった。
果たしてそこにいたのは絶世の美少女と言っても過言では無いだろう…希がいた。
ピンク色の可愛らしいパジャマは前のボタンがかけられておらずかなり際どいところまでめくれている。
ウェーブのかかった黒髪はベットに大きく広がっておりまるで絵画の一場面の様だ。
そこに更に「う…うぅん」などと言う寝言が加わっており並の男なら一瞬で悩殺される事間違い無しだろう。
補足すれば優斗の腕はちょうど希の胸の上へ置かれている。
…ちなみに世の中には起きたら自分のベットに美少女が寝てるという幸運に恵まれる物もいるが、最大の不幸に見まわれる人物もいる、それが次の瞬間からの優斗だ。
優斗の部屋の扉が唐突に開く、出てきたのは美沙だ。
「コラ〜、バカ優斗!!頼まれてた………」
美沙の言葉が唐突に切れた、視線はベッドに寝ている希とその胸に掛けられている優斗の手…
そして美沙と優斗の視線が合う。
冷やかな沈黙が部屋を包んだ。
美沙はワナワナと震えながら手をジャケットに差し込む。
「ま、待て、おまえ、何か、激しく勘違いしてるだろ…こ、これはだな、そう、事故なんだ」
優斗は必死に弁解するが…
「…じゃあ、その手はなんなの?」
美沙の聴く者を凍りつかせるような問いにあわてて手を引っ込めるがもう時すでに遅し、ジャケットから取り出したグロッグの銃口はまっすぐに優斗の眉間を狙っていた。
「あんた…死になさい」
マジな殺気を感じたのか優斗は思いっきりベッドから転がり出たその直上を三発の銃弾がかすめて行く。
「お、落ちつけ!!お、俺はなんにもしてないぞ!!たぶん…」
「いいから、死になさい…」
すでに無表情にトリガーを引き続ける美沙に優斗は全運動神経と反射神経を駆使し避けるしか道は無かった。
その時、希が銃弾の飛び交う中ムクリと起き上がる。
「よ、良かった、ちょ、ちょっとそこの乱射女に事情を…」
天の助けが起きたのを確認してそれにすがろうとした優斗だったが…
希は優斗と美沙を交互に一度ずつ見た後。
「…眠いです」
とだけ言って再びベッドに沈んで行ってしまった。
この後、優斗は数十分にも及ぶ銃弾の雨の中生き延びなければいけなくなった。

「良かったぁ〜、ほーんと、希ちゃんが無事でぇ」
美沙は希を後ろから抱きしめ頬をすりすり。
その対面にはもはやボロ屑となりうなだれている優斗の姿が…
全気力を使い美沙の猛攻から逃げ切った後遺症だろう、しかしよく生き延びれたものである。
結局あの後希が起きるまで銃撃戦を続け、希が言った言葉…『部屋…間違えたみたいです』でとりあえず優斗の命は救われる事になった。
ゼーハーと荒い息をつきながら優斗は美沙を恨めしそうにねめつける。
「だ、だから…勘違いだって言っただろうが」
「うっさい、痴漢、変態、希ちゃんが起きないのをいいことに胸触ってたくせに」
「ぐっ、だからそれはだなぁ……」
何とか言い返そうとするが一応事実なのだから言い返しようが無い。
しばらく黙考していると、希が無表情のまま。
「…変態?」
と首をかしげながら聞いてくる、こちらの方が精神的に大ダメージをこうむる事だろう
案の上優斗はがっくりと机に突っ伏し動く事はでき無かった。
それに美沙が更に追い討ちをかける。
「そーよ、希ちゃん、男なんて鷲士くん以外みーんなケダモノなんだから、今度から部屋に入る時は注意しないとダメよ」
精神的ダメージに耐えきれなくなった優斗は顔を上げてなんとか話題を別の方向へ持って行こうとする。
「そ、そんな事より、お前なんか用があってきたんじゃねえのか?」
「ア、話し逸らした、ひきょーものー…まあ、いいわ、これよあんたから頼まれたもん」
そう言って美沙は1枚のメモを取り出した、そこには住所がつらつらと書き連ねてある。
「はい、これがあんたの両親のお墓があるお寺の住所、FTIが調べたから間違い無いわよ」
「そうか…ありがとな」
優斗はそのメモ用紙を受け取るとポケットに突っ込み以外と素直に礼を言った。
「それじゃあ、私達は学校に行くけど、いい、希ちゃんの部屋に忍び込んだりしたら今度こそ本当に殺すわよ…」
希の手を引き部屋を出て行こうとする美沙に優斗はぞんざいに手を振って答えた。
やがて二人がいなくなりしばしの時間がたつと優斗は立ちあがり出口の方向に歩き出した。
「墓参り…行ったこと無かったんだよな…」

そのお寺はホテル・ラマダンから電車で2時間ほど行った場所にあった。
なんの変哲も無い普通のお寺だ。
優斗の目の前には『芳野家之墓』(母親の旧姓)と書かれた石墓が立っていた。
優斗は線香を上げ、両手を合わせ目を閉じる。
そうすることによって自分の境遇を少し思い出す。
こんなことに巻き込まれる前の自分は普通の母子家庭の息子だった。
親父の顔は全然知らない、物心ついた頃親父のことをオフクロに尋ねたら。
「あなたのお父さんはあなたが小さい時にもう…」
それだけしか言わなかった。
だがオフクロは親父の話をする時、いつも嬉しそうな顔をしていた。
きっと本当に愛していたのだろう。
…………
つと不思議な音が耳に聞こえてきた、それはほんの少し前に聞いた"時虚門"の開く音
優斗はいつものことなので別段驚きもしない、ただ世話になったあの2人に礼が言えないのはつれえな…とは思った。
今まで試したがこの力からはどうやっても抗えなかったのだ…
そこで振り返るといつもの魔方陣が浮いている…はずだった。
だがそこにあったのは黒い、何処までも続く深淵の黒き穴だった。
優斗の顔が驚愕に歪む。
次の瞬間穴の中から炎が吹きあがり死者が眠る墓場を蹂躙する。
「なっ!!」
突然の炎の急襲に優斗は勢いよく背後へ跳び何処のどなたかもわからない墓の上に着地した。
だが時虚門から噴き出した炎はまるで意思があるかのように優斗の方向へ一直線に収束してやってくる。
優斗は舌打ちすると例の収納球からナイフ…『ヴェルクライド』を取り出し、逆手に持つと縦一文字に炎を"切り裂いた"。
ヴェルクライドで二つに切り裂かれた炎はそのまま優斗の脇をかすめ霧散して行く。
一安心する優斗だが背後から異様な殺気を感じ、後ろ回し蹴りを殺気の元へ叩きこむ。
だが優斗の蹴りはそこにいた男に片腕で止められていた。
驚愕に優斗の顔が歪むが咄嗟の判断でその場がら飛び離れる。
その元いた空間を男の蹴りが薙ぐ、空振りはしたものの風圧で地面に落ちているゴミが天高く舞うほどであった。
男は蹴った脚を元に戻すとその紅く輝く瞳で優斗を睨みつけた。
「貴様が…コウセの息子…か?」
刈り上げた白髪、顔に刻まれた皺はそんなに若くは無いだろうと感じさせる。
精悍な顔つきの男だ。
身体は漆黒のマントに覆われておりよくはわからないが貧弱な身体では無いようだ。
優斗はヴェルクライドを男の正面に構えたまま問いただす。
「おっさん、あんたなにもんだ?、親父の知り合いにしてもいきなり殺そうとするのはちょっとどうかと思うぞ」
あくまでも軽い口調を装う優斗に男は口を歪ませ、凄惨な笑みを浮かべる。
「我が名はサラドル、おぬしと縁深き者だ、我を崇める者は神とも言うがな…」
「ハッ、神…ねぇ、そーだとしたらえらく罰当たりな神様だな」
そう言うと優斗はヴェルクライドを構え直す、そしてそれを軽く振るとヴェルクライドの柄の部分が伸 びあっという間に優斗の身長おも越す槍…いや薙刀へと変化した。
「別に信じろとは言わん…ただ貴様は、汚点たる貴様は今ここで消えるのだ」
こちらもそう言うと同時に両の腕から炎が吹きあがり、その肘までを燃え盛る炎で覆った。
これに対し優斗は腰だめに構えていたヴェルクライドを振り上げ頭上からサラドル目掛けて振り下ろし た。
「勝手に人を汚れ物扱いしてんじゃねぇ!!」
かくして時を駆ける少年と神とのバトルが始まった。
カトレア女学館中等部3年D組の教室。
4時間目終了のチャイムが鳴り皆がそれぞれお弁当を持って散り散りになって行く。
そんななか希はお弁当を机の前に開けずに起きっぱなしにして何かを待っている。
何人かの生徒が希に声を掛けるが希はそれをやんわりと断る。
どうやら仲間はずれとかそういう目に合ってるわけではなさそうだ。
そこへ盛大な靴音が響いてきだし教室のドアが勢いよく開かれた。
「希ちゃ〜ん、おべんと食べよー!!」
満面の笑みを浮かべている美沙だ、その姿を確認すると希はほんの少しだけ顔の表情を緩めお弁当を持って美沙の元へ行った。


美沙と希は屋上でそれぞれのお弁当を広げ箸をつついていた。
なんとも微笑ましい光景である。
「しっかしあのバカ優斗はホントにもうどうしようもないわね〜」
だがどうやら美沙はまだ今朝のことで憤慨している様だ。
「本人のいない所でそんなこと言うのはあまり…それに私にも非があった様ですし」
「希ちゃんあま〜い!!あんのバカは隙あらば希ちゃんやこのキュートな私を狙って、一匹のケダモノになるわよ、絶対に油断しちゃダメ」
「はあ、そういうものなんですか…」
「そおよ、いい、希ちゃん、あいつが襲ってきたら構わずプラマダッターでフッ飛ばしちゃいなさい」
「…消し飛んじゃいますよ?」
「いいのよ、それがこの世の為だわ」
「いえ、優斗くんではなくて地球が…」
しばし沈黙があたりを包む。
「…希ちゃん、もしかして本気でやる気だった?」
「…ちがうんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

そんなこんなでもうちょっとで地球が壊れることになりそうな会話がもあったが終始2人は楽しそうに喋っていた。
だがそんな2人の会話が唐突に途切れた。
その原因は希のつけている腕輪…ハイ・アート『ミッシング・リング』が振動する音だった。
その音を耳にし希の表情が硬くなる。
「の、希ちゃん、どうしたの?」
「この近くに時虚門が…神が現れたかもしれません」
「な、何ですってぇ!?、ちょ、ちょっとどうするの、希ちゃん?」
「…ここから時虚門が開いたであろう場所に飛んで調べてきます」
そう言うと希はミッシングリングを振る、そうすることによって出来た空中の穴に入っていこうとする。
「ちょ、ちょっとまって、私もいくわ…」
内腿のホルスターからグロッグを抜いた美沙が希を引きとめる、それに対し希は険しい顔をしたままだ。
「先日の阿修羅と違い、非情なる神かもしれません、殺されるかもしれませんよ?」
「その点なら大丈夫、もう、ミュージアムとの諍いでなれてるから」
それを聞くと希は薄く微笑んで美沙の腕をとった。
「では、行きましょうか…」
美沙は己を鼓舞する様に首を激しく縦に振ると空中に出来た黒い穴に身を投じた。


「うおぉぉぉぉ!!」
雄叫びとともに優斗が飛ぶ。
唐竹割り、横一文字,袈裟切り。
回転しながら美しい舞いのような神速の3連撃。
たがそのすべてをサラドルは半歩自らの身体をずらすだけで避けきった。
最後の一撃を振りきり、がら空きになった右腹部にサラドルの燃える炎の拳が打ち込まれる。
咄嗟にヴェルクライドで防御しようとするが時すでに遅し。
派手な音を立てて優斗は墓石へと突っ込んで行った。
その墓石があまりの威力に砕け散る。
その崩れた石を掻き分けながら優斗が立ちあがる。
「いってーなー、オッサン手加減ってもんをしらねえのか?」
その腹部、服は破れている物の肌に何ら損傷は見られない、どうやら服に炎が燃え上がった瞬間ヴェルクライドで切り取った様である。
それを見てサラドルはニヤリと笑う。
「ふん、脆弱なるヒトがワシの攻撃を絶えきるとはな…しかし切れぬ物を"斬る"太刀とは面白い」
そう言うが早いサラドルは己の両の拳を突き出すとそこから炎で形成された蛇を優斗目掛けて撃ち出した。
「って、おい、そんなのアリか!!」
文句を垂れながらも優斗はヴェルクライドを薙刀形態からナイフ状に戻しそれらを打ち払おうとする。
一匹目の蛇を縦に切る、炎の蛇はその余波を残したまま宙へと掻き消える。
そして次の目標に目をつけたとき、優斗は異常に気がついた。
先程までの場所にサラドルがいないのである。
だが優斗は迫りくるもう一匹の蛇の迎撃で手の出し様が無かった。
案の定その蛇を消滅させたところで背中にものすごい衝撃を食らい優斗は前のめりに突っ込んで行ってしまった。
数瞬の隙に目を付け、後ろに回ったサラドルは優斗の背をしたたかに蹴り上げていたのである。
「がはっ!!」
吐血しながらまたしても頭から墓石に突っ込む優斗。
墓石から這い出し立ちあがろうとするが膝が折れ力なくうつぶせる。
そのまま彼は起きあがってこなかった…


空間の穴から飛び出てきた美沙と希が最初に見たものは荒れ果てた墓地とその只中に立っている男、そしてその男に片手一本で首を捕まれ宙に浮いている優斗の姿だった
「…貴様等何者だ?」
突然の来訪者にサラドルは冷めた眼差しで希達を見やった
「…その手を離しなさい…でなければ痛い目に合いますよ…」
言うなり希はまだ空中に出来ている穴に右手を入れる
再び出てきた希の手には竜のレリーフが刻まれたブレスレットがはめられていた。
だがブレスレットと言ってもそれは手の甲から肘の少し先ぐらいまで覆う物で篭手と言ったほうがしっくりしていた。
「希ちゃん…アレも神なの?」
横でグロッグを構えている美沙が希に小さい声で問うてきた。
「ええ、・・しかし詳細まではわかりかねますが」
それを見ていたサラドルはその顔を嗜虐の笑みで満たした。
「そうか…貴様、神狩士だな、まさか落とし子を追っていて貴様等に会えるとはな、つくづく今日のワシはついている」
笑みを更に深いものにするとサラドルは優斗を放り出し、希達の方へ向き直った。
「いいだろう、女、まず貴様から殺してやろう」
「美沙さん、私があの男を引きつけます、その間に優斗くんを」
美沙に耳打ちし希は戦闘態勢に入る…篭手のついている右手を思いっきり後方に引き左手は掌を相手に向ける独特の態勢、その姿はまるで弓を射る者のかまえの様だ。
美沙は一度後方に引きそこから回りこむように優斗の元へと向かう。
サラドルも当面の敵を希に決めたのか彼女の方をひたと見据えジリジリと間合いを詰めてくる。
緊張の糸が最大限に張り詰めたまま時だけが過ぎる。
結局二人が本格的に動く前に美沙は優斗の元へとたどり着いた。
「大丈夫、バカ優斗!!」
「いきなり来てバカ扱いはねえだろ」
意外にも元気な声で返してきた優斗は自らの力だけで飛び起きた。
「畜生!!気絶してたみたいだな…ってなんで希がヤツと戦ってんだ!?」
今向き合っている2人を見て優斗は訝しげな態度をとる。
「大丈夫よ、希ちゃんは神様に対抗できる者なんだから」
「つってもヤツは半端じゃなく強い、今のうちに挟み撃ちに…」
と意気込みヴェルクライドを持って参戦しようとしたがその瞬間戦いは始まってしまった。
最初に動いたのはサラドルの方だ、右の拳を炎で包み特攻を駆けて来る。
あまりの速さに通過した後の大地がえぐれるほどだ。
だが希はそれをひたと見つめたまま動こうとしない。
そしてあっという間に2人の距離は1メートルぐらいのところまで近づいた。
サラドルは己の拳を振り上げそのまま力任せに振り下ろす。
単調な攻撃だがその加速スピードと合わせるとガードしたとしてもそれを突き破るほどの攻撃だ。
そしてその瞬間希が動いた。


音速


そんな言葉でも表しきれないほどの速さで希の右拳が突き出された。
まるで一瞬希の腕が消えたかのようだ。
撃ち出される瞬間篭手に装飾されてある竜のレリーフが光りそれ自身が巨大な残像となり希の腕を包む。
炎の拳と半実体の竜が打ち合わされる。
弾かれたのはサラドルの方だった。
しかし吹き飛ばされたサラドルはそれでも空中で身体をひねり墓石の上へ着地した。
サラドルの右腕からは鮮血が飛び散り力なく垂れ下がっている。
「ふふふ…ハーッハッハッハ、強い、その武具は強い…だが!!」
何故か負傷した方のサラドルが高笑いした瞬間、異変は起こった。
希がその場に膝をつき激しく咽たのだ、その中には血も交じっている。
撃ち出した腕は紫色に変色している。
「だが強すぎる!!おそらく一撃で決めるつもりだったのだろうが…惜しかったな」
そのまま希は意識を失いうつ伏せに倒れた…。
希に止めをさすべくサラドルは少女に歩み寄る。
…が、そこへ優斗が薙刀状のヴェルクライドを振りかぶりサラドルを襲った。
「らあっ!!」
しかしその攻撃もアッサリと避けられる、だが希への接近は免れたらしくサラドルは後方ヘ跳躍する。
サラドルにむかって優斗はヴェルクライドをつきつける
「…てめえはなんで俺等を殺そうとする?」
「フッ、死んでなかったか…、しぶといヤツだ」
それに対し優斗は激昂する。
「俺の問いに答えろつってんだ!!」
するとサラドルはしばし言葉を発さなかったがやがて観念した様に喋りだす。
美沙もその様子に唾を飲みこみながら耳を傾ける。
「先程も言った通り貴様は汚点なのだ、禁忌である神とヒトとの間に生まれし子、それが貴様なのだ」
美沙と優斗の表情に衝撃が走る。
「俺が…神から生まれた子供?なんだ、じゃあ俺の親父は神様ってか?」
口調はふざけているがその声は動揺で震えている。
「そうだ、そしてコウセはワシの兄でもある」
「は、はっ!!、か、神様ってーのは冗談がうまいみたいだな…」
「冗談では無い、貴様にとってワシは叔父にあたる、もっともそのような事実すぐに抹消させるがな」
サラドルの抹消という言葉に優斗の顔から焦りが消え冷静さだけが残った。
「…親父は、親父はどうしたんだ」
「ふん、あの一族の恥さらしならワシが殺したわ」
歯軋りの音が美沙の元まで届いた。
鬼のような形相をした優斗がそこにはいた。
「てめえだけは…てめえだけは殺してやる!!」
「ワシも貴様を殺したいところだが…この傷ではワシの方が不利か」
言うがはやいサラドルは踵を返し一直線に走り出した。
向かう先は…美沙のいる方角。
「い、いやっ!!…こないで!!」
美沙は叫びグロッグから銃弾を撃ち放つがそれはあっさりと弾かれる。
美沙の目の前まで迫ったサラドルは美沙の首筋に手刀を一つ、それだけで美沙は意識を失いサラドルの腕にもたれかかる様に堕ちて行った。
「だが逃げられては困る、この少女は預かっておこう、なにこの少女に興味は無い、殺しはせんよ」
「美沙を離しやがれぇぇ!!」
優斗は激昂し襲いかかるがすでに空間に溶け込んで行ったサラドルにその攻撃は当らなかった。
「今宵の零時、風刈神社へ来い」
空中から声が木霊する、だが次の瞬間にはその気配すらも欠き消えていた。
「くそっ!!」
悪態をつくがどうすることも出来ない、そんななか希の唸り声が聞こえ優斗は急いでそちらのほうへ向かった。
「おいっ!!、大丈夫か!?」
うっすらと目を空けた希が優斗の顔をじっと見る。
「神は…神はどうしました?」
それに対し優斗は悲痛な表情を浮かべた。
「ヤツは逃げた…美沙はあいつに連れ去られた」
「…そうですか」
驚いた様子もなく希はその言葉を淡々と聞いた。
「今夜零時、風刈神社…やつが指名してきた場所だ…」
優斗が突然自分の拳を地面に叩きつけた。
「結局…誰も守れなかった、何が世界征服だ…女の子を助けるどころか、かばってもらっていて、ほんとどうしようもないバカだよなぁ…弱いくせに虚勢張ってさ…」
優斗の瞳から涙が流れ落ちた。
くやしかった…その思いが優斗の胸のうちを駆け巡る。
そんな優斗の涙を、ひとつの小さく白い手が拭う。
「あなたは弱くない…大丈夫…その思いがある限りあなたは強くなれる、今この瞬間も、これからも」
その言葉を呆然と聞いていた優斗はやがてヴェルクライドを握り締め立ちあがった。
「ありがとう…お前は休んでな、俺がケリをつけてくる」
その言葉に希は優しく微笑んだ…が、その顔が突然驚愕に塗り変えられた。
「逃げて!!」
希が叫ぶ、優斗はその声に反応し咄嗟に振り返る。
優斗の目に映ったのは無数の緑色の手。
優斗は持っていた薙刀でそれを薙ぐが手はすぐに再生し優斗を捕まえ様と追って来る
それは力が暴走した"時虚門"だった。
また優斗をあらぬ場へと引きずりこもうとする…決して逃れられない運命。
「くそっ!!、なんでこんな時に!!」
優斗の顔が絶望に歪む。
決して抗う事は出来ない力に優斗は必死で抵抗するがいくら斬ろうとも手はすぐに再生し時間がたつにつれ増えて行った。
やがて一本の手が優斗の足首を掴んだ途端に優斗の全身が手に絡めとられる。
優斗はヴェルクライドを地面に突き刺しその場に留まろうとするが手の異様な力に少しずつ魔方陣のほうへ引きずられて行く。
「まだ…ダメなんだ、終わってないんだ…ここで終わらせちゃいけないんだ!!」
ついに地面からヴェルクライドが外れ優斗は時空門へと引きずり込まれてしまった。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
やがて優斗の存在事態がこの空間から消え去ってしまった。
希はただ呆然と倒れ伏したままそれを見ているしか出来なかった…


日は沈みあたりは暗闇へと移りゆく。

―風刈神社。
郊外にある小さな神社である。
夜になると誰もいなくなり真相の無い噂のたつ心霊スポットになっている。
だがそんな錆びれた神社に今は2つの人影があった。
境内に座る小さな影は美沙である。
拉致されたと言うのに拘束のひとつもされていない。
だが全身から不機嫌なオーラを放ち傍らに佇むサラドルを見上げている。
その右腕はすでに傷ひとつ無い物になっている。
「ねえ、そこのあんた」
「………」
「ねえったら!!」
「……なんだ?」
今までずっと何も無い宙を見上げていたサラドルだが観念した様に美沙のほうを向
いた。
「まったくこんな美少女無視してんじゃないわよ…まあ、どうでも良いんだけどさ、
本当に優斗って神様と人間の間に生まれたの子供なの?」
「…それは、神とヒトの間に生殖能力はあるか?…と問うているのか」
「うっ、こんな少女にそーゆー質問の仕方する?普通」
「普通では無いがな…ヒトは勘違いしている様だが、神と言うのはひとつの"種"だ、
ただ別の存在、別の世界、別の次元に生きているだけのひとつの存在なのだ…"例外"
もいるがな」
「…人間が宗教とかで敬っている神様とはちがうって事?」
「いや、それもまた神だ、言っただろうひとつの"種"なのだすべての神が同じ思念の
もと動いているのでは無いのだよ…虚構の者もあるがな」
「ふーん、じゃあ、あんたはヒトを恨んでいて、自分の兄弟や甥をなんの躊躇も見せ
ずに殺せる非情な神様ってとこ」
美沙の辛辣な言葉にもサラドルは表情ひとつ変えず答えを返す。
「…ワシはヒトを恨んでいるわけでは無い…興味も無いがな、だから貴様も生きてい
るだろう」
「じゃあ、なんでヒトと交わった自分の兄弟を殺したの?、なんでその間に産まれた
優斗を殺そうとするの?」
帰ってきたのは沈黙だった、淀み無く喋っていたサラドルの声が止まる。
「まあ、そんなことはどうでも良いんだけどね、なんかムカツクのよあんた」
美沙は憤慨しながら立ちあがった。
「私を生かしてるからヒトは別にうらんでない?、ったくエゴの塊みたいな神様ね、
言っとくけど私はあんたにメチャクチャむかついてんのよ、希ちゃんを殺そうとした
し、優斗も…!!」
サラドルはその言葉をただじっと聞いていたがふと美沙から視線を外し神社の入り
口の方を見た、美沙もそれにつられて言葉を中断しそちらを見る。
そこに立っていたのは右腕をだらりと下げた希だった。
「神狩士か…ヤツはどうした?」
「…彼なら"跳んだ"わ本人の意思と関係無くね」
「…フッ、また逃げられたか…で貴様はどうするのだ?」
「私は神狩士…けどその前にあなたのような神は見逃してはおけない」
「…ワシも貴様は殺さねばならんからな、いち神として」
言うがはやい、二人は戦闘態勢に入り円を書くようにジリジリと時計回りに動き出
す。
希の手には全体的に青の装飾の施された短剣が握られている。
まず先ほどの戦闘のようにサラドルからけしかける。
燃え上がる炎の拳での攻撃。
だが希はその攻撃を受けも返しもせずバックステップ、その距離では希の武器の射
程は見た目では遥かに届かない。
「『ウィンディーネ』発動・解放」
だが希がボソリと呟きその手に持つ短剣を振るうとそこから水が出てきた。
半端では無い量だ、鉄砲水のように押し寄せる水にサラドルは飲みこまれる。
その圧倒的な水の量にサラドルの動きが止まる。
「『ウィンディーネ』結合・剣状」
そこで希は再び剣を振るう、次の瞬間溢れ出していた水は線のように収束し短剣に
繋がる一本の長剣と化した。
音はしなかった、ただ一泊たった後それが落ちる音だけが響いた。
「なるほど…厄介な武器だ」
サラドルは左腕"だけ"で再び構えを取る。
「一撃で決めるつもりだったのですが…」
自らの背をも越す長剣になったウィンディーネを希は挑発する様に振る。
二人の間には肘の部分から切れている右腕が転がっていた。
再び2人はお互いの間合いを計ろうとする。
サラドルが動く。
「『ウィンディーネ』解放」
希は先程と同じ戦法でしとめようとする。
だが洪水のような量の水がサラドルを飲みこむ瞬間、サラドルは己の左腕を振り下
ろした。
巨大な炎が巻き上がり水の壁を叩く。
打ち合わさったところから大規模な爆発が起き蒸気の煙があたりを包む。
急激な温度変化による水蒸気爆発である。
おかげで希は視界と聴覚を失う。
その噴煙をくぐりぬけサラドルが脇から飛び出てくる。
「くっ…『ウィンディーネ』結合・盾状」
咄嗟に希がウィンディーネに命令しサラドルのいる方向に水の幕を作る。
サラドルの拳は水の幕に阻まれるが、白い煙を拳と水の間から発しさせながら少し
ずつめり込ませて行く。
「希ちゃん!!避けてっ!!」
その瞬間、美沙の声が希の耳に届いた。
「『ウィンディーネ』捕縛状」
水の盾を水の網に変換させ希は後方へ跳躍する。
サラドルは水の網に絡め取られ一瞬だが身動きが出来なくなる。
そこへ天空から赤い光の矢が降り注ぎ天空とサラドルと大地とを縫い付けた。
草薙による衛生からのレーザー攻撃である。
一泊置き打ちこまれた場所が大爆発を起こす。
もうもうと立ち込める煙が晴れた時、照射された場所には巨大なクレーターが出来
ておりサラドルの姿は跡形も無く消えていた。
「ニャハハハハハ!!この美沙様を無視してるからこーゆー目に合うのよ!!」
勝ち誇っている美沙が胸を張りながら高らかに宣言する。
「あ…そう言えば希ちゃん巻き込まれなかったかしら?…い、生きてる希ちゃ〜ん」
汗ジトになりながら美沙は境内から降り立ち希の姿を探す。
すぐに希の姿は見つかる、見たところ怪我らしい怪我も右腕以外、見あたら無い。
だが希は爆発の衝撃による物か意識を失っていた。
「よ、よかった〜いきてる…」
その姿を見て美沙は嘆息する。
そしてその場に座りこみクレーターの方をふと見つめる。
「優斗…何処かに行っちゃったんだ」
感慨深げに自然にそう呟いていた。
少し間を置き自分が言った事を美沙は激しく後悔する。
「ち、ちがうのよ、美沙、別にあんな奴いなくても寂しくないし…」
いったい誰にフォローしているのか美沙は激しく動揺していた。
そして何故か涙が出てきた。
美沙はそれをゴシゴシとこすると顔を上げた。
「よし、かえろ…希ちゃんも病院に連れて行かないと行けないし、鷲士くんも心配し
てるだろうしね」
そうここにはいない誰かに言い聞かしミサは携帯電話で冴葉の番号を押そうとし
た。
だがその時美沙は出来あがったばかりのクレーターの中心で異常が起きている事に
気づいた。
中央の空間が陽炎のように揺らめいていて、向こう側の景色がよく見れないのであ
る。
そしてそれは始まった。
まず脚、次に腰、そして体、腕、頭。
人間のパーツが下から順々に空間から染み出してきたのである。
そして出てきたものに美沙は驚愕した。
それは傷ひとつ無いどころか切られた腕も再生しているサラドルであった。
「あ、あんた…生きていたの?」
美沙の震える問いにサラドルはうっすらと目を開いた。
「人形(ひとがた)は完膚なきまでに壊れたよ…だがそれでワシ等は殺せない、また
作りなおせばよいだけなのだからな」
そして笑う。
「そこの神狩士から聞いてなかったのか?ワシ等は精神体でこの肉体は作られし人形
であることを」
「あ、あ、あ」
美沙は驚愕に声も出ない。
「しかし、貴様をただのヒトと侮っていたな、まさか人形を潰されるとは思いもしな
かった…先程も言った通り人に興味は無いがワシに仇為す力を持つなら消えてもらお
う」
サラドルは腕から炎の蛇を出し美沙達のいる方へ飛ばす。
美沙は震えながらも引き金を引くが炎の奔流に飲みこまれアッサリと消えて行く。
美沙は銃を投げ出し希の身体を覆いかぶせるように抱いた。
自分は助からないと踏んでの行動だった。
だが無情にも2匹の炎の蛇はひるみもせず直進する。
美沙達と蛇が激突する。
その瞬間…


一陣の風が吹いた。


風の正体は黒きヒト。
黒きヒトは美沙達と蛇の間に滑りこみ手に持つ巨大な薙刀を振るった。
蛇達はアッサリとその一撃に消えて逝く。
そして黒きヒトはこちらを振り向きニヤリと笑った。
「わりい、遅れちまった」
そのヒトは美沙の方向から見ると黒いシルエットしか見えなかった。
だが呆然と見つめていた美沙はその目に溜めた涙をこぼしながらむせび泣く様に叫
んでいた。
「遅いわよぉ…バカ優斗!!」
美沙の瞳からは大粒の涙がボロボロとこぼれている。
それを見て優斗は困った様に苦笑する。
「逃げたと聞いていたがな…わざわざ殺されに戻ってきたか」
サラドルは突然出てきた優斗に辛辣な言葉を投げかける。
優斗はもう一度美沙達に微笑み振り向いた。
「ちょっと寄り道してただけだ、勝手に卑怯者呼ばわりするな、ボケっ!!」
ヴェルクライドを突き付け優斗は戦闘態勢に入る。
「口だけは達者になったようだな…」
「うっせえ、吠え面かくなよ!!」
優斗の足元から爆裂の様な音が響き、突撃する。
神速を誇る速さだが、その直線的な攻撃にサラドルは嘲笑う。
「ふんッ、馬鹿が、ただの猪戦法でワシにかなうと思うなぁ!!」
サラドルはそれをアッサリとかわし、すれ違いざまに一撃必殺の手刀を叩きこもうとした…が。
「バカはてめえだ、クソヤロウ」
優斗ははき捨てる様に言うと方向転換、その勢いのままヴェルクライドを真下から真上に一直線に振り上げた。
「開け!!」
その声と同時にヴェルクライドの先端…刃の部分が縦に割れた、ちょうど二又の矛のようになる。
その間には碧に光る電気のような物が帯電している。
変化はそれだけでなく柄の部分もなにか幾何学的な模様が浮かび発光している。
「断ち切れっ!!」
そしてその場に在る物すべてが"斬れた"。
断裂が生まれ風・闇・空気・存在さえもすべてが無になる。
サラドルは危険を感じ打ち放とうとした手刀を中途で止め、後方へ跳躍する。
だがそのタイミングが少し遅かった。
腕は空間に出来た断裂に飲み込まれ跡形も無く消えうせる。
「あ、がああああああ!!」
いままで腕を切り落とされても苦鳴のひとつも漏らさなかったサラドルがその痛みに絶叫あげた。


「な、なんであいつ痛がっているの?」
その光景を見た美沙が不思議に思う、草薙で爆砕しても平然とよみがえった相手がうめいてるのだから当然である。
その声に希はうっすらと目を開き意識を戻した。
希は今、自分を取り巻いている状況をとりあえず観察する。
「戻ってこられたのですね…優斗くん」
いきなり希の声がしたので美沙はビクッと震え振り返る。
「希ちゃん!!、よかった、回復したんだ…ところでアレ…どうなってるの?」
美沙はまだ痛みにのたうつサラドルを指差した。
「"本体"にダメージがあったみたいですね…しかし"私達"以外でそんなことが出きるなんて」
驚愕に打ちひしがれる希。
そんな中、優斗はサラドルにとどめをさすべく再びヴェルクライドを構えた。


「きさまぁぁ!!、やはり赤子の時に殺しておくべきだった!!」
右腕を押さえサラドルは憤怒の声を上げる。
「へっ、地が出て来たって感じだな…お前が俺の親戚だってだけで反吐が出るぜ」
「黙れ!!、汚点である貴様ごときが神の列に入ろうとするのが間違いなのだ!!」
今やサラドルの皺の刻まれた顔は憤怒の感情に塗りつぶされ悪鬼のように化している。
「貴様ごときがぁぁ!!神たるワシに刃向かうなどぉぉ!!」
雄叫びを上げサラドルは己の左腕を振るう。
そこからは天高くまで舞いあがる炎の渦が発生し優斗を飲みこもうと逃げ場の無い様四方から攻め立てる。
優斗は動かない、炎は地面をすべる様に優斗に接近してくる。
「な、なにボケっとしてるの!!避けなさい!!」
美沙の激が飛ぶがそれも聞こえていないのか優斗は動かない。
やがて四方から迫った炎の渦は優斗を中心にお互いぶつかり合い、爆散した。
その場にいた全員が呆気にとられる。
技を放ったサラドルでさえも破られる事態を見越して次の一手を考えていたのだから。
やがて炎の渦が晴れた、そこには何も無い。
「は、ははは、なんと脆弱な、あのような物で散るとは…」
やがてサラドルは笑い出した。
そうだ…やはりヒトの血を持つ者如きがワシに勝てるわけが無いのだ。
そんな思いがサラドルの脳裏を駆け巡る。
…何故この時、この神を名乗る男は半信半疑と言う言葉を知らなかったのだろう?
やはり彼が優斗の事を"脆弱なる者"と思っていたからだろうか?。
「そう俺は"弱い"、でも…だからこそ"強くなれるんだ"!!」
美沙達は見ていた夜空に浮かぶ魔方陣を、そしてそれが長大な薙刀に斬られる様を。
弾け出てきたのは優斗。
神は咄嗟に天を仰ぐ。
だが遅い。
優斗の振るったヴェルクライド『すべてを断つもの』は袈裟切りにサラドルを真っ二つにしていた。
「あ、がああ!!、何故、何故ワシがヒト如きに!?」
「それはお前が…自らを"強者"だと思っていたからだ」
「黙れぇ!!わしは死なん…ワシは死なんぞぉぉぉ!!」
なにかを感じ取り優斗がサラドルから離れる。
次の瞬間サラドルの身体は切られた下半身も含め爆散した。
「くそっ!!、本体になって逃げるきか!!」
何も無い空中から声が染み出してくる。
『ふふふ、ハーハッハッハ、貴様のせいで本体もかなり傷ついたがまだ死ぬ程では無い、この傷を癒し、また貴様を殺しに来るぞ』
サラドルは時虚の狭間に逃げようとする、そうなればいくらすべてを"斬る"ことのできるヴェルクライドでもお手上げである。
「待ちやがれこの野郎!!」
『フッ、いずれまた殺しに来る、その時は神狩士もそこの少女も一緒だ』
そしてサラドルは高笑いを残し時空の狭間に溶け込もうとした。
…その時だ。
サラドルの肩を何者かがガチリと掴んだ。
サラドルの動きが止まる。
彼は失念していた、もちろん精神体であるサラドルに触れれる物などいない、そう、"神"を殺せる力を持つ者以外は。
「あなたを逃がすわけにはいけません…優斗くんの為にも」
希がそこに立ち目に見えないサラドルの肩を掴んでいた。
『は、離せぇ…脆弱なる輩がぁ!!』
サラドルは必死に抵抗する、だが瀕死の重傷を追っている今では希を跳ね返す力も出なかった。
「あなたは本当にわからなかったのですね…」
希は少しさびしそうに呟いた。
「我は神のイブキにより創られし神狩士"希"、今この名を持って…あなたを狩ります!!」
そして突き出された希の手刀がサラドルの本体を貫いた。
「ぐぎゃああぁぁぁぁ!!」
そして神の男は悲鳴だけを残し存在を消して逝った…。
戦いは幕を閉じた


「ん〜!!、ああ!!」
やっとすべてが終わり大きく伸びをする優斗だが…
「う〜う、このぉ、バカ優斗ぉ!!」
「へっ?…ぐほっ!!」
いきなり横合いから飛んできた美沙の右ストレートに優斗は景気よく吹っ飛んだ。
悲鳴を後に残し二回転半のひねりを加え頭から地面に突っ込む優斗。
そのままピクリとも動かなくなった。
「うっ〜、心配したんだからねぇ、いっぺん死んで来い!!」
だが優斗にそんな怒声は聞こえてはいない様だった。
しばらくして死の淵からかえって来る優斗。
ムクリと置きあがり美沙を睨みつける。
「お〜ま〜え〜な〜、せっかく帰ってきたのに俺を殺す気か!?」
「うるさいっ!!、まったくどこ行ってたのよ?」
その美沙の瞳に涙が溜まってるのを見て優斗は言葉に詰まる。
そしてその場にあぐらをかくと頭をボリボリと掻いて思案顔になってしまった。
「う〜ん、実はあの後3ヶ月前の北海道に飛んだんだよ、そこで"偶然"にも俺の師匠
に会ってな、これの本当の使い方を教えてもらってたんだ、ついでに少し修行もした
し…」
そう言われれば髪も少し伸びてるし、服もなにかボロボロだなと美沙と希は思った。
「だ、だとしても連絡ぐらい入れなさいよぉ」
「え、いや、俺連絡先知らないし…だいいち3ヶ月前に会ったってお前等、俺のことわかんなかっただろうが」
「で、でも1週間前なら…」
「俺が2人同じ世界にいたらこの世界が崩れるんだよ、法則ってヤツだな…だから1
週間前から今日まで"跳んだ"って訳」
「跳んだって、あんたの力は暴走してるんじゃなかったっけ?」
「開くぐらいなら出きるようになった…後は"こいつ"で行きたい場所に穴を開ければ、自分の好きな場所へ行けるようになったんだ」
と言って優斗はヴェルクライドを掲げる。
「う〜、でもでもっ…」
まだなにか言おうとする美沙の頭に優斗の手が乗った。
「ま、いいじゃねえか、帰って来れたんだから…」
 健やかな笑顔を美沙に見せるが、ボグッ!!と形容できない音がしたかと思うとその顔がふと歪んだ。
「か、かっこつけてんじゃないわよ、希ちゃんかえろ!!」
 その場によろよろと苦悶の悲鳴を上げ崩れ落ちて逝く優斗。
 美沙はそんな優斗をほったらかしにし、希を引きずりながらサッサと帰路についてしまった。
「あ、あのアマァ〜、人の大事なところを…」
 恨めしい声を出し優斗は気を失った。


 希達が去った神社。
 その回りにある木がざわめき出した。
「…何故、殺さない?」
 そんな木の一本から声がした。
 いや木の枝にたっている男が発したものだった。
 男の傍らには女が座っている。
 2人ともきらびやかな異国の民族衣装のようなものを着ている。
「前回の阿修羅の時といい…あの少年も殺さねば生けないのに」
 女が男の言葉に続く様に喋る。
「「彼女は…希は何故殺さないんだ?」」
 二人の声が同時にした瞬間、強烈な風が吹いた。
 木々が豪勢な音を出し、あたりから音を奪っていく。
 それが納まった時、木の枝には2人の男女の姿は無かった。


 ある晴れた日曜日の昼下がり。
 優斗が美沙の頭上に落ちてきてから一週間がたとうとしていた。
 今日も今日とて特殊対策課は騒がしい。
「こんのぉ…バカ優斗!!」
「うるせぇ、アホ美沙!!」
「あ、アホだとぉ、あんた誰のおかげで就職決まったと思ってんの」
「お前じゃなくて希だな、確実に」
「なに希ちゃんのこと呼び捨てにしてんのよぉ!!」
 希は目をこすりながらパジャマ姿のまま、特殊対策課のオフィスにやって来た。
(希の部屋とオフィスは別々になった)
 目の前に繰り広げられている激烈な戦いをまだボーっとした頭で眺めている。
「…お茶っ葉…何処にあるかしら?」
 二人が争うたびに特殊対策課のオフィスは荒れてくる…お茶っ葉を探すだけで一苦労である。
 希はいつも通り2人を止めもせずにゴソゴソとお茶っ葉の入った缶を探す。
 やがてお目当ての物を探し当て台所に行く。
 帰って来た時にはお盆の上に三つの湯気が立つティーカップが載っていた。
 二人はまだぎゃんぎゃん騒いでいる。
「…好きなんだったら喧嘩しなければ良いのに」
 2人の喧騒の中なら絶対に聞こえないだろう音量で希はボソリと言う。
 だが二人は言い合いをピタリと止めると希の方を凄い勢いで振り向き。
「「誰がこんなヤツ好きになるか!!」」
 とむちゃくちゃ息の合った声で返してきた。
「…はいはい、紅茶を入れましたから飲みませんか?」
 と言った途端2人は今までの諍いが嘘だったかのように、目を輝かせる。
 まるで尻尾を振る犬と猫だ。
 急に騒がしくなった特殊対策課のオフィスは今日も柔らかな午後の陽射しがさしている。


 ホテルラマダンの四十階に位置する特殊対策課のオフィス。
 今のメンバー、伊吹希課長、皇世優斗の二名。
 そろそろ物語が始まろうとしている。

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