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ドカッ――
横手からの一撃、恐らくその男にとってはなでるような一撃だったんだろう。でも僕には十分だった。その一撃でボロボロの体はすぐに動かなくなる。
ブロロロロッ
そして車が去って行く、その窓にゆうちゃんがはりついている。涙を流して・・・。
僕は動かない腕を必死に伸ばす。あきらめないように、祈るように、でもその手は届く事は無かった。
―――ツヨクナリタイ―――
たぶん僕は生まれて初めて心から願った。次は絶対離したくない、ゆうちゃんを泣かせたくない、だから――――。
「お願いします!! 僕を弟子にしてください!!」
そういって少年―鷲士―が自分に土下座までして頼んだのはいつだっただろうか? 自分に向かって拳を繰り出す鷲士を見ながらふと青年はそんなことを考える。
「よしっ。今日はここまでだ。」
「ありがとうございます! 師匠。」
少年らしい痩せた体だが健康そのもの。今の鷲士を見て少し前まで片足を引きずっていたなど思うものはいないだろう。その体に刻まれた傷さえ見なければ――。
それにしても―――。
「先生? どうしたんですか?」
青年が苦笑しているのを見て鷲士が首をかしげる。
(いくら名前を教えなかったからって先生とはね・・)
青年の過去を鷲士は知らない―――。
(単なる空手かなんかだと思ったんだけどなぁ)
地獄、と言っても差し支えないほどの訓練の帰り、鷲士は少々そのことを後悔していた。でもそのおかげで足が動くようになったのは本当によかったと思う。
(次に会ったとき自分の足が、まだ動かなかったらきっとゆうちゃん、自分を責めるだろうから)
――もう2度と大切な人を失いたくないんです。悲しませたくないんです。だから・・だから・・――
弟子入りの時の言葉は今だに覚えている。それがソレが今の鷲士を動かしているのだから。そしてその時の先生の顔も彼の心に刻まれている。
「先生も昔なにかあったのかなぁ?僕が何とかできればいいんだけど・・・。先生だって僕の大切な人だもんね。・・ん?」
ふと鷲士は足を止める。道から少しそれたところで何か光ったような・・・。九頭竜でチューニングされはじめた鷲士の感覚が普通なら気がつかなかったであろうそれを見つけた。ふと気になった彼はそれを確かめようとし、そして―――。
青年は大岩の上に立ち、その神経を一点に集中させていた。ここニ・三日の間、彼はある違和感をずっと感じていた。それを確かめようと一層神経を集中させる―――。そして・・
(鷲士君を一人で帰したのは失敗だったか!!)
自身の失策に歯噛みしながら青年は大岩の上からふっと降りる。
―――破壊が起こった。
彼が一瞬前まで立っていた大岩が跡形も無く砕け、砂となって周りに舞う。
「破亜ッ!!」
そして同時に放たれた”気”の嵐によって晴らされた視界。そこに立つ敵、それは・・・鷲士だった。いやそれを鷲士といっていいものか、彼の上半身が生物的なぬめりを持った鎧に覆われている、その中心には、血のように赤く不気味な光を放つ石が見える。
「OPARTS(オーパーツ)・・・・」
青年が呟く。その形状は彼の遠い記憶の中で確かに見覚えがあった。
―――当時の彼は古代の超技術を集めることに多くを傾け、そしてコレのに出会った。装着者のもっとも大切なモノの幻を見せ、自身の力と鎧の力を合わせて戦い続ける・・。当時の彼も敵わず、すべてを破壊するソレを倒したのは――――。青年は考えるのをやめた。今の自分には彼に、”ヒトの神”に助けてもらう資格など無い。自らの力で大切なモノを守るために彼は九頭竜を学んだのだ。この身が滅びようとも守ってみせる
――――――今度こそ。
青年の体が戦闘体制に入る。夜が震えた――――。
鷲士は夢の中にいた。あの日の夢、ゆうちゃんが泣いている。車に連れて行かれる。鷲士は動けない。動く事ができない―――。
――くそっ、なんのために僕は強くなったんだっ!! 大切な人を守るためだろっ!! 泣かせたくないからだろっ!! だったら・・だったら動けよ!動いてくれよ!!―――
しかし彼の体が動くことはない、だからかわりに彼は叫んだ――
「ゆうちゃ――――ん!!」
「っ!!・・・・・」
結城美貴は誰かに呼ばれたような気がして目を覚ました。
「しゅーくんが呼んだ気がしたんだけどな・・・・。」
鷲士と離されてからの自分の事を考えると”幻聴”の一言で片付けらてしまうかもしれない。しかし確かに彼女は鷲士の、”しゅーくん”の声を聞いた気がした。
「そうだね、しゅーくん。私がしっかりしなきゃダメだよね。私、お母さんなんだもんね。しゅーくんと私の子供なんだもんね。ね、美沙、樫緒。」
そういって隣で熟睡する双子に微笑む。よく似た顔をした二人の赤ん坊は幸せそうに眠っている。それぞれの未来に待つものを知らず――
「しゅーくん、絶対に・・・また会えるよね・・・・。」
少女の願いはかなう。だがそれはまだ未来の話。また別の物語――。
「しゅーくん・・・・」
そして彼女は祈る。願いが天に届くように・・・。
――強い――
青年はあせっていた。鷲士に才能があるのはわかっていた。しかしここまでとは――。既に彼の体にはいくつもの裂傷が刻まれ、あばらもニ・三本は折れているだろう。しかし彼はあきらめない。九頭竜は肉体が完全に破壊されるまで100%の力を振るう事ができる。自らがいくら傷つこうが最後まで大切な者を守ることができる。あの後悔を2度と繰り返させないために自分は九頭竜を学んだのだ。だから――。
(一瞬。一瞬でいい。チャンスがあれば――――。)
神は彼を助けてはくれない。だから彼は信じる事にした。ヒトの力を―――。
無限に続く悪夢の中。鷲士は声を聞いた気がした。懐かしい声。聞きたかった声――。
――――――――――しゅーくん―――――――――
その一言が、この世界を引き裂いた――。
青年は鷲士がその動きを止めるのを見、そして疾風のごとく踏み込んだ――。
九頭連撃・疾風(はやて)
数多い九頭の技の中でも最速の技が決まる。踏み込んだ青年の左腕が神速をもって鎧から胸の石を外し、次の瞬間、文字通り疾風の速さをもって飛んだ右腕が赤く光る石を微塵に破壊した。それですべてが終わった――。
鷲士は力を振り絞って差し出された手をつかんだ――。2度と離さないように。しっかりと、強く。
――ゆうちゃん。僕、君を守れるくらい強くなれるかな―――
呟く問いに答えはない。しかし鷲士は目の前の少女が優しく微笑んでくれたような気がした。
目を覚ますと鷲士は地面にあお向けに倒れていた。眼前には一杯の星空と彼の師の顔が見えた。自分が何をしたのかはおぼろげに覚えていた。――自分で大切な人をキズツケタ。自分はまたなにもできなかった。それでも彼は目の前の青年に聞いた。
「僕は本当に強くなれますか? 目の前の人を、大切な人を守れるだけ強く―――。」
その瞳には今まで以上の決意が込められている。だから青年は頷いた、目の前の少年の決意に答えられるだけ、強く。
「なれるさ、君がその決意を、その優しさを忘れなければ必ず―――。」
そう言って青年は笑った。なにかを吹っ切ったような笑み。青年が囚われている心の闇。その一片を自分が払ったことを鷲士は知らない――。
「んっ? 鷲士くんどうしたの? いきなり立ち止まったりして?」
そういって目の前のツインテールの少女―美沙―が声をかけた。
「んー。ちょっと昔のことを思い出してね。」
そういって鷲士は笑いかけた。
「ねぇ美沙ちゃん、僕はちゃんと守れてるかな? 君を―目の前にいる人たちを―ちゃんと守れてるのかな?」
「ちょっと鷲士くんいきなりなにを・・・・?」
そういって軽口でも言おうとした美沙はだが眼前の父親の真剣な眼差しを見てそれを止め、にっこりと微笑んだ。
「・・・うん。」
鷲士にはその笑顔が少女の母親と重なって見えた気がした。
(僕は強くなれたかな。ゆうちゃん―――。)
青年の呟きに答えがかえるのはいつになるのか―――。
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