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三日目――任務遂行期限まで後三日
鷲士・美沙・樫緒――フォーチュン・結城――サイド
”最初の接触”より27時間経過――
その間、叢雲・草薙を駆使してヴィンセント捜索に当たらせたが、未だ発見には至っていない。
どうやら彼の刀――菊一文字則宗――が意図的にジャミングをかけているらしい。
一方、鷲士はと言うと、どうやら肉体的な疲労より精神的な疲労のほうが上回っている。
相手が日本刀――加えて妖刀――を使うというのが原因らしいが、『勝てない相手』と言うほどではない様である。
――となると、今回の件の最大の謎は、『何故ヴィンセントが鷲士を狙うのか』、だけである。
「うーん、こういうのは本人に聞くのが一番なんだけどなぁ」
鷲士のぼやきに少々イライラ気味な美沙は、
「その本人がどこにいるかわかんないんだからぁ。もー、あったまに来る!」
「しかし彼がミュージアムに与する理由が判れば――」
樫緒が言い終わる前に、部屋に戸を叩く音が響きわたる。
そこに現れたのは、会長秘書、片桐冴葉である。
「ボス、お待たせしました」
秘書の登場にも美沙はしかめっ面で、
「んで、何か分かったの?」
「ええ、恐らく今回の件の核心と思われる要項が」
「核心…?」
樫緒の呟きに、冴葉は淡々と答える。
「彼の妹、ジャンヌ・S・ミルストリアがミュージアムによって拉致されている事が判明しました。
拉致の理由に関しては、一切不明です」
「ふーん、それで妹助ける代わりに鷲士くんを殺せ、って言うのがミュージアムの命令ってわけね」
「恐らくその通りです。それに関して現在、叢雲でミュージアムのアジトを捜索中です」
「んじゃあ、ミュージアムのアジト探しながらヴィンセントの説得、ってわけね?」
「ええ。ただ問題なのは――」
冴葉の説明が終わる前に、異変は起きた。
突然、鷲士が辺りを警戒し始めた。
刹那、窓を突き破り、刃渡り10センチ程度の短剣が飛んできた。
鷲士がこれを受け止め、ついていた手紙をはずし、これを読む。
文面は、
午後10時、エッフェル塔下にて待つ。
草刈鷲士、貴様一人で来い。
尚、時間に遅れた場合、もしくは人をつれてきた場合、貴様の連れを殺す。
ヴィンセント・S・ミルストリア
「…僕一人で?」
「彼の説得が目的である以上、条件を飲むしかないでしょう。まして相手は人外の力を持っています」
「私たちが遠くの物陰に潜んでてもバレバレって事?なんかヤダなぁ」
「それでは僕と姉さまは留守番、ということですか?」
一同、揃って沈黙するが、しばらくして鷲士が口を開く。
「…僕一人で行ってきます」
「ま、今回はそれしかないかぁ」
美沙が半分諦めた様に呟く。
「あんまり自身は無いけど、まあ何とかしてみるつもりです」
数時間後に待ち受ける激突を前に鷲士は言った。
ヴィンセント――ミュージアム――サイド
”最初の接触”より27時間30分経過――
鷲士によって与えられたダメージがまだ残っているのか、ベッドの上に横たわっている。
「草刈鷲士――、奴が貴方の妹君を救う者だと?」
刀の問いに、ヴィンセントは少々戸惑ったように、
「ああ、恐らくな」
「貴方と”あやつ”、二人で何とかなりませぬものか?」
「いや、やはり二人では少々心もとない。それに――」
「それに?」
「…いや、何でもない」
それっきり、部屋の中を沈黙が包む。
やがて、ヴィンセントが、刀に聞こえぬ小声で、
「草刈鷲士――、あいつは俺と同じ目をしていた。あいつは一体…」
ヴィンセントはそう呟くと、静かに目を閉じた――。
午後9時45分、エッフェル塔下――
すでに鷲士が到着していたが、そこにはまだヴィンセントの姿は無い。
「あと15分…」
鷲士が吐き捨てるように呟く。
そして鷲士が振り向いたとき、鷲士を上回る長身痩躯の影が立っていた。
――ヴィンセントだ。
「…時間にはまだ早いが、始めるとしようか」
「…仕方ない…。行きます!」
鷲士が眼鏡を外すのと、ヴィンセントが刀を抜くのが同時。
鷲士が構えるのと、ヴィンセント髪と瞳の色が変わるのもまた同時。
そして、沈黙が訪れる。
恐ろしく長く感じる膠着を破ったのはヴィンセントだった。
鷲士に向かって踏み込み、刀で斬りつける。
鷲士はそれを紙一重でかわし、左手を突き出し、攻撃する。
九頭・左竜雷掌――
ヴィンセントはとっさにこれをかわした。
だが、完全にかわすことは出来ずに、鷲士の左手が脇腹をかすめる。
「ぐあぁっ!」
わずかだが、気によって増幅された生体電流が身体に流れ、ヴィンセントは膝をついた。
「やったか?」
鷲士はそう言いながらも構えを崩さない。
だが、次の瞬間、更なる異変が起きた。
ヴィンセントは立ち上がり、呼吸を整えると、
「…やはり一筋縄ではいかないようだな」
刹那、ヴィンセントの髪と瞳の色が瞬く間に変わっていく。
――燃えるような赤へと。
「なっ…!」
鷲士は絶句した。そして、
「これが俺の本気だ!行くぞ!」
鷲士が一瞬ひるんだ隙に、ヴィンセントが斬りかかる。
鷲士はこれをかわしたが、次の瞬間、とんでもない事が起きた。
カーボンナノチューブ製のコートが切り裂かれていたのだ。
コートの電気系統から火花が散り、鷲士は慌ててコートを脱ぎ捨てた。
「くそっ!」
鷲士は吐き捨てるが、次から次へとヴィンセントが攻撃を繰り出す。
――しかし今度は、斬撃が見えない。速すぎるのだ。
しかもヴィンセントが斬撃を繰り出すと同時に、周りの街路樹が倒れていく。
「(このままじゃやられる…)」
そう思った鷲士は、意を決したように、見えない斬撃へと飛び込んでいく。
これには、ヴィンセントが動揺した。
「何だと?!」
この一瞬の差が、明暗を分けた。
鷲士の正拳が、ヴィンセントに向かって突き進んでいく。
「うおおぉぉぉぉぉっ!」
鷲士の絶叫に共鳴するように、鷲士の右腕が膨れ上がる。
九頭・右竜徹陣 無双――
硬気功によって右腕を強化して放つ”右竜徹陣”、究極の力技だ。
通常の右竜徹陣ではヴィンセントを倒せないと判断した鷲士は、この一撃に賭けた。
この一撃をまともに食らったヴィンセントは、何と住宅街にまで吹き飛ばされた。
「…これで、…立ち上がれないはず――何っ?!」
鷲士は絶句した。
”立ち上がれないはず”のヴィンセントがそこに居たからだ。
こうなった以上、最早鷲士に勝ち目は無かった。
鷲士は、”徹陣 無双”以上の威力を持つ技を持っていないからである。
絶望の色に覆われた鷲士だが、ヴィンセントは意外な行動をとる。
――何と、刀を鞘に収めたのだ。
そして、ヴィンセントはただ一言、
「…ついて来い」
そう言い放ち、走り去った。
「…え?」
鷲士は思わず言葉を失うが、今はヴィンセントに従う他無く、後を追う。
走り続ける事1時間、ヴィンセントは立ち止まった。
――そこは、中世に立てられたと思しき古城だった。
「入れ」
ヴィンセントは呟き、奥へと進む。
すでにヴィンセントは、元の金髪碧眼に戻っていた。
ヴィンセントに従い奥へと進むと、程なくして玉座が見えた。しかし様子が違った。
石造りの王の間には、意図不明の配線や、予めヴィンセントが担ぎ込んだ荷物が置いてあったのだ。
ヴィンセントはおもむろに荷物の中からあるものを取り出した。
――小型のリモコンだ。
「耳を塞いでおけ」
そう言い放つと、リモコンのボタンを押した。
同時に、城内のあらゆる地点から爆音が轟いた。
「なっ…」
爆音が収まると、ヴィンセントはリモコンを投げ捨て、その場に座り込んだ。
そして、意を決した様に、
「草刈鷲士――、俺の話を、聞いてくれ…」
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