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四日目――任務遂行期限まで後二日
日付が変わって間もない午前1時。
パリ郊外の廃墟と化した古城に、二人は居た。
「え…?話って?」
鷲士は戸惑った様子で聞き返す。
鷲士の問いに、ヴィンセントは淡々と、
「…お前らが最も知りたがっている内容。何故俺がミュージアムに与するか、だ」
「!」
「勝手で悪いが、お前が話を聞いてくれるという前提でここへ連れて来た。
もし断るなら、冗談抜きで死んでもらう事になるが?」
「…いえ。元々そのつもりでしたから」
「…そうか」
その後しばらく沈黙が続いたが、やがてヴィンセントが、
「お前らも知っているとは思うが、4年前、俺の妹がミュージアムにさらわれた」
「…」
「最初は身代金目的だと思っていたが、いつまで経っても犯人からの電話が無い。警察は
『手がかりが無く発見は難しい』なんて言って事実上の捜査打ち切り。これが俺が日本に
”留学”と称して宝探ししてる間に起きた話だ」
やりきれないような思いで淡々と語りだす。
「けど、どこでミュージアムが?」
鷲士の問いに、ヴィンセントの顔が怒りに染まっていく。
「俺がミュージアムと関わる様になったのはつい1年前だ。メリー・アンに加盟して間もない頃、
一通の手紙が届いた。シェピロと名乗る男からな」
「…」
「それからだ。ジャンヌを盾に、連中が俺にハントや人殺しの仕事を持ってくるようになったのは。
”メリー・アン”に所属しながら”ミュージアム”に与するなど、他のみんなに申し訳がたたんよ」
「…そ、それじゃあ、あなたの妹――ジャンヌちゃんがさらわれた理由は?」
「すまんが俺にもわからん。下手に勘繰るとジャンヌの命が無くなるからな、だが――」
ヴィンセントが突然黙り込んだ。だが鷲士が、
「…今回の”フェイス抹殺”に乗じてジャンヌちゃんの救出を?」
「ああ。今、連れに頼んでジャンヌの居場所を探らせてるところだ。どうやらお前とも面識があるみたいだが?」
「僕と…?」
どうやら鷲士は心当たりが無いようだが、恐らく”メリー・アン”の誰かであると思っていた。
「ああ、いつしかお前たちに――」
言い終わる前に、二人は揃って辺りを警戒し始めた。
「連れにしては、人数が多くないですか?」
「ああ。恐らく俺の行動が連中にばれたらしい」
ヴィンセントが刀を抜き、鷲士が構える。
それと同時に正面から銃撃を受ける。
――が、二人には当たらなかった。
鷲士がアーマーグローブで銃弾を弾き返し、ヴィンセントも同様に、刀を振り、弾道をそらしている。
マズルフラッシュが途切れると同時に、鷲士とヴィンセントが正面に踏み込む。
黒服たちは、弾倉を取り替えようとするが、この二人が相手では間に合うわけがない。
決着は、一瞬でついた。
鷲士は構えをといたが、ヴィンセントは、一人の黒服の喉元に刀を突きつけ、
「貴様らのアジトはどこにある?」
この状況で答えぬものはいない。だが、黒服は答えない。
そして、信じられない行動に出る。
何と、手に持っていたナイフで自分の喉を突き刺したのだ。
「なっ…」
これには二人揃って絶句する。ハイキュレーターがその場にいるならともかく、黒服のみの部隊で
自ら口封じに走ることが信じられなかったのだ。
「…どうやら強力な催眠術のようだな。それ以外に考えられん」
”催眠術”、という言葉に鷲士は動揺し、
「…まさか…。けどあいつはあの時に――」
「心当たりでも?」
「ええ、けどあの時確かにあいつは死んだ。…それなのに」
「まさか、ミス・サイレンか?」
ミス・サイレン――ウルスラ・ダリアン――の存在はヴィンセントも気づいていたようである。
しかし、彼女は伊勢湾でいづなと海坊主の手によって絶命している。
「今考えても仕方がない。とりあえず休もう」
ヴィンセントの提案により、交代で仮眠をとることになった。
お互い、エッフェル塔での戦いで消耗していたので、鷲士もこれに同意した。
最初にヴィンセント、次に鷲士が休む事になった。
そして、12時間後――。
焚き火がパチパチと音を立て、何やら物音がする中、鷲士は目覚めた。
「起きたか。もうじき飯が炊ける。少々待っていろ」
焚き火の周りには逆さまに置かれた飯盒、そして使い捨ての食器類が置かれていた。
そして出された食事はというと、ご飯、味噌汁、目玉焼きに漬物――
一般的な日本の朝食と呼べるものだったから驚きだ。
「口に合うかどうかわからんが…、食ってくれ」
「は、はい。いただきます」
さすがに半日以上も飲まず食わずでは、味など関係なく――かどうかは分からないが――貪る様に
出された食事を口に運んでいく。
そして食後に出されたお茶――何と緑茶だ――をすすって大きくため息。
そしてヴィンセントが唐突に、
「ところで、お前と一緒にいた子供。あれは兄弟か?」
その質問に鷲士は苦笑し、
「へへ…、あのコたち、実の娘と息子なんです」
「…何?」
鷲士の答えにヴィンセントは絶句する。
「僕、小さい頃施設にいたんですけど、その時に…」
「にわかに信じがたいが…。年はいくつだ?」
「12歳、双子です」
その答えにヴィンセントは顔をほころばせ、
「そうか…。ジャンヌと同い年か…」
そう呟いた直後、入り口付近から轟音が鳴り響いた。
鷲士は身構えたが、ヴィンセントは動じない。
「安心しろ、連れが戻ってきたようだ」
轟音が静まり、足音がこだまする。
そして次の瞬間、鷲士の脳裏にある人物がリストアップされた。
「…プシュー」
その人物とは――何とスプレイである。
「…よお」
抑揚のない声でそう言うと、ヴィンセントが、
「ご苦労だったな。で、どうだった?」
「ああ、見つかったぜ。って言っても先にフェイスの連れが見つけていたがな」
「それで?」
「あんたの妹がいる場所は、リヨン郊外の研究施設――表向きはフランス軍部のもの――だ」
ヴィンセントとスプレイのやり取りに目を点にする鷲士。
「えええ?ヴィンセントさんの連れって、まさか…」
「まさかも何も、この男だが」
動揺を隠せないボケ青年を尻目に、二人は会話を続ける。
「リヨンか…。少々遠いな」
「ああ、それに関してはこいつの連れが」
と、スプレイは鷲士を指差す。
「となればここには用は無い。行くぞ」
「えっ?あっ、はい」
三人は揃って外へ向かう。
やがて、外にローターの出す爆音が響き渡る。
ヘリから降り立ったのは――冴葉である。
「ボスと樫緒さんは既にリヨンに向かいました。時間がありません。急いでください」
「時間?」
鷲士は尋ねるが、それに対しヴィンセントは、
「今回の”フェイス抹殺”の期限があと1日少々しかない。…これが最初で最後のチャンスだ」
「そういうことです。さあ、乗って」
冴葉の声に、三人は揃ってヘリに乗り込む。
向かう先は――リヨン。
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