DADDYFACE ShortStories
「異伝弍 世界を継ぐ者」第1部(5)
written by SOUL

この話は、DFの世界に、菊池秀行氏のエイリアンシリーズと、
皆川亮二氏のスプリガンが登場します


第二十一章 遺跡  
 眩い光が収まった時、美沙達は大理石の様な物で出来た通路に立っていた。
「ここは、何処?」
 プレートを手に取ったままの格好で、美沙は辺りを見まわす。
「テントじゃないのは確かだ」
 御神苗は油断無く銃――H&K G3を構え、周りを警戒する。
「周りの状況を考えれば、ここは"彼方の門"の中ってとこかな」
 MCRの磁気強度と加速度を最小レベルに落とし、八頭は辺りを警戒する。
「どうやら、そのプレートが鍵になっていた様ね」
 普段の雰囲気は消えうせ、封印者の紅蓮としての顔を見せるメリッサ。
「皆、気を付けて!妙な気配がする!!」
 眼鏡を外し、戦闘態勢を取る鷲士。
 美沙達の居る通路はかなり広く、天井の高さは二十Mは有るだろうか。
 素材は大理石のようにすべすべしている。
 しかもそれ自体が発光していてかなりの明るさを放っていた。
 樫緒が美沙を庇う様に前に出る。
 だが、美沙は腰のホルスターからグロック26を抜き放つ、やる気満々の様だ。
 通路の先はかなり長く、奥の方は暗くて何も見えない。
「一つじゃないな、しかも人の気配じゃない」
 鷲士と共に最前列に立った鈴木は油断無く構え、気配を探る。
 その後ろには八頭と御神苗が武器を構え、警戒する。
 右手でいつでも炎を操れる様に構えるメリッサ。
 そして樫緒に守られる形になっている美沙は、拳銃を手に後方にも気を配る―挟撃されぬ様に。

 パタ、パタ、ぱた。
 最初に聞えてきたのは何かが羽ばたく音だった。
「何?」
 その音を聞き、美沙は前方を見る。
 暗闇の奥から何か小さい物が飛んでくるのが判る、しかも一つや二つじゃなく十個ぐらいの何かが飛んでくる。
「何だ?」
 銃を構えながら、御神苗は近付いてくる物を凝視する。
 銃を構えていた美沙は、飛んできた物を見て、呆気に取られる。
 飛んで来た物、それはキューピット、飛んで来た物は愛の天使と呼ばれる者だった。
………。
 余りの光景に、美沙達は絶句する。
 絵画に描かれるままの姿、赤子の様な体に小さな羽根。
 その小さな手には、ご丁寧に小さな弓を持っている。
 転移してきた先の通路で、キューピット達が舞い踊る。
 あまりに幻想的な光景に、何と反応すれば良いのか?
 だが、幻想的な光景の中に銃声が響く。
「だああああああああ!?何やってんのよ!!」
 突然、八頭と御神苗がMCRとライフルを乱射する。
 宙を舞うキューピット達に向い、銃弾と衝撃波が襲いかかる。
 だが、それだけでは終らなかった。
 メリッサが右手を振るうと、その軌道に沿って10センチ程の火球が現れ、キューピットを攻撃する。
「メリッサさん!?」
 メリッサまでも攻撃を仕掛ける、その光景に美沙を始め鷲士や樫緒は驚きを隠せなかった。
 次々とキューピットが撃ち落されたり焼き尽くされたりしていく。
 銃声が止んだ時、十人いたキューピットは全て通路に落ちていた。
「一体、何なの?」
 通路に落ちている天使の死体を見ながら、美沙は八頭と御神苗に訊ねる。
「何も、殺す事は無いじゃないですか」
 鷲士は、非力そうなキューピットを撃った二人に反感を感じたようだ。
 だが、そんな二人を八頭は冷ややかな目で見る。
「知らねえのか?」
 その言葉に鷲士と美沙はお互いを見やる。
「あれは、来訪者が作ったガーディアンよ」
 美沙達を見ながら、メリッサはそう答える。
「ガーディアン?」
 その言葉の意味を考える美沙。
「つまり、この場所―遺跡を守る防御兵器って事?」
「古代の遺跡の中でも特に重要な物には、あんな下級天使が配備されているのさ」
 美沙の疑問に御神苗が答える。
「あんな非力そうな物が?」
 樫緒は少々驚きながら、御神苗を見る。
「ああ、アーカムは今までいろんな遺跡を封印してきたからな、アイツら下級天使は見かけと違ってかなりの戦闘力を持ってるんだぜ」
 直には信じられない事だった。
 キューピットが出て来た時、樫緒は何の力も感じなかった。
 だが、御神苗優がアーカムでも有数のスプリガンである事は、双子の姉から聞いていた。
 そのプロが言っているのだから、本当の事なんだろう。
 混乱している樫緒達に向って説明を続ける御神苗。
「奴らはナノマシーンで構成された半自立型の戦闘人形なのさ、奴らの持っている弓から放たれる矢は、物質を構成する原子結合を分解する力が有る」
 危険な物なのさ、そう言って説明を締め括る御神苗。
「しかも、アイツらには奥の手が在るからな〜」
 何故か、嫌そうな顔をする八頭。
「奥の手?」
 だが、八頭は美沙の疑問に答える気は無いらしい。
 そして、メリッサは美沙達に言った。
「本当に恐ろしい物は、そうとは判らない物よ」
 
 それからキューピット―下級天使は現れなかった。
 御神苗優を先頭に、美沙達七人は取り合えず先に進む。
 もっともこの順番が決まるのに一悶着あったのだが。
『この先700Mは直線です』
「どうだい!この高性能!?」
 腕時計のメカ・ボックスを三次元レーダ―にして、通路の先を走査した八頭大は踏ん反り返って威張っていた。
「何よ、そんな玩具!私のヴェアラブルPCの方が高性能よ!!」
 そう言って、子猫様は黒い長めのリスト・バンドの三次元映像を立ち上げる。
「見なさい!三次元レーダーは元より、空間湾曲率まで計測出来るのよ!!」
 その後も、お前のはシステムの安定性が悪いだの、アンタのは装備がちゃちいだの、お互いのシステムを貶し遇っていた。
 その光景に樫緒はこめかみを押さえ、鷲士は只、おろおろしていた。
 鈴木とメリッサは、その光景を楽しんでいるらしく、止める気が無い様だ。
「へん!たかが民間企業の作ったもん、当てになるかよ!?」
「何ですって!落ち目のハンターが使う物が当てになる訳、無いでしょう!!」
 二人の口喧嘩に肩を振るわせながら聞いてた御神苗は遂に爆発した。
「うるせえ!!ここを何処だと思ってやがる!」
 
 先頭を行く御神苗優、その後ろには美沙と八頭が憮然とした表情で続き、その後ろには鷲士と樫緒が苦笑しながら続く。
「ねえ哲郎、気が付いている?」
 最後尾を行きながら、メリッサが前を行く鈴木に密やかに声を掛ける。
「お嬢ちゃんの事じゃろ?」
 振り返りもせず、鈴木は前に聞えない位の声で答える。
「僅かじゃが、お嬢ちゃんから力が漏れ出しているを感じる」
 鎮痛な趣で、鈴木はメリッサにだけ聞える様に呟く。
「このプレートは美沙ちゃんに反応した……」
 そこで一旦、言葉を切り、メリッサは意を決した様に続ける。
「恐らく、このプレートは鍵の役割を持っていたのね、それが美沙ちゃんの力――訪い人の血に反応した…つまりリミッターが外れかけているわ」

第二十二章 遺跡内にて待つ者
「つまり、リミッターが外れかけている」
 意を決した様に、メリッサは言葉を続ける。
「アルモスの使ったリミッターは精神に障壁を作り力を抑えるもの、精神的衝撃には弱いと聞いているわ」
 最後尾に位置し、美沙達から少し離れた所を歩くメリッサと鈴木は美沙達に聞えない様に話す。
「鷲士から聞いたのじゃが、お嬢ちゃんは誘拐されたらしいな?」
 何の感情も読み取れない声で鈴木が尋ねる。
「ええ、ミュージアムのハイ・キュレーターに・…その時、美沙ちゃんは精神を侵されてしまったの、恐らくその時の精神的ショックでリミッターの障壁に綻びが出来たと思うわ」
 鎮痛な趣でメリッサが答える、美沙の身を心から案じているのだ。
 暫く二人の間に沈黙が続く、そして鈴木がおもむろに振り返る。
「なあメリッサ、鷲士は儂に取って息子の様な物じゃ。アイツの子供は儂に取って孫も同然、儂はあの子を救ってやりたい」
 強い決意を覗かせる鈴木の瞳を真正面から見据え、メリッサも頷く。
 決意も新たにする二人に美沙の呼ぶ声が聞える。
「メリッサさーん!おじいちゃーん!何してんのよ!?置いて行くわよ!」
 見ると、美沙達との間にかなりの距離が開いていた。
「ごめんなさーい、すぐ行くわ!」
 話に夢中になり、距離が開いてしまった様だ。
 鈴木とメリッサは美沙達の所へ向う――守るべき者達の所へ。

 一行はかなりの距離を歩いていた。
『この先、一キロの所に大規模な空間が有ります』
「見たか!?この高性能!!お前の所の玩具とは出来が違うんだよ!」
 腕時計型のセンサーをこれ見よがしに見せ、大は美沙に威張り散らす。
「何いってんのよ!ヴェアラブルPCの方が高性能に決まってんでしょ!!何よそんな成金趣味!文字盤にダイヤモンドを鏤めちゃって!?悪趣味ったらありゃしない!!」
 ぺ、ぺ、と美沙は唾を吐く真似をする。
 既に何度目かの口喧嘩をしながら、二人は歩いていた。
 既に周りの人間は諦めてしまった様だ。
 先ほどなどは、俺のMCRの方が凄いだの、私のOICWの方が優れている、と言って最後には『だったら勝負!』と言って銃を構える始末。
 もっとも美沙はグロック26だったが。
 その時には、鷲士は大焦りで二人を止めたのだが…。
 だが、本当に仲が悪いのかと言えばそうでは無く、どうやら八頭は美沙を相手に遊んでいる様だ。
 また負けず嫌いの子猫様も、八頭を言い負かそうと燃えている様だった。
 周りの者は大迷惑だが・…。
「いい加減にしやがれ!!手前らには緊張感がねえのか!?」
 既に突っ込み役となった御神苗優の怒声が通路に響く。
「ここが何処なのか判ってんのか!?見ろ、この不自然な大理石を!石自体が発光して、継ぎ目も一ミリも隙間がねえ、プレートにより俺達はこの遺跡に転移させられた!つまり、ここが教授の言う竜脈を操る遺跡なのは間違い無いんだ!」
 だがら下級天使が居たんだ、と優は締め括る。
     そんな時だった。
 突然、前方の方から爆発音が聞えてきた。
「何だ!?」
 その音に優が振り返る、美沙と八頭も口喧嘩を止め前方を見る。
「どうする?」
 八頭は御神苗に問いかける。
「状況が知りたい、ここは俺が先に様子を見てくる」
 そう答える御神苗をメリッサが止める。
「待って、分散するのはまずいわ。何が有るか判らないからね」
 油断無く構えながら、一行は爆発音のあった方――前方の広い空間に向う。

「こりゃ、一体!?」
 先頭を行く、御神苗優が広間に出た時、そこには無数の下級天使がいた。
「何よ!これ〜!?」
 鷲士や樫緒と共に広間に入ってきた美沙は、ドーム球場ぐらいの広さがある大きな空間に無数のキューピットが飛び交う姿を見る。
「……壮観ですね」
 余りの光景に樫緒は、ただそう言うしか出来なかった。
「哲郎!?あれ!!」
 メリッサが指し示す方向、そこには一人の男が下級天使達と戦っていた。
 身長190センチ、黒いコートを着こなし、鋭い眼光にて天使達を見据える。
「アルモス・…」
 黒き刃を生み出す独鈷杵"虚空"を構え、下級天使達を切り伏せている。
 アルモス・エム、メリッサと同じ封印者の一族の戦士だ。
 彼はかつて覚醒の兆しを見せていた美沙を監視、或いは危険ならば排除する為に鷲士達の前に現れた。(異伝 力を継ぐ者)
 暴走する美沙を救いたいという鷲士と樫緒の姿に打たれ、鈴木と共に美沙を救う手助けをしたのだった。
「うおおおおおお!」
 襲い来る天使に向い、凄まじき咆哮を上げながらアルモスは迎え撃つ。
 天使達は弓を引き、物質の原子結合を阻む矢を放ってアルモスを攻撃する。
 だが、無数の光の矢を避け、或いは虚空で切り払い、アルモスは上空で羽ばたく天使達の集団に向い跳躍する。
 天使達を飛び越え、真上から天使を両断する。
 そして、その下にいた天使を足場にして飛び、真横にいる天使達を切り伏せる。
 一気に数体の下級天使を葬り、アルモスは美沙達の前に降り立つ。
「久しぶりだな、お嬢ちゃん」
 息一つ乱さず、アルモスは美沙に笑いかける。
「アンタは!?アルモス・エム!何でここに?」
 驚く美沙にアルモスは右の人差し指を振り。
 企業秘密だ、と言ってニャっと笑う。
 美沙達の登場により、下級天使達の動きが止まる。
 突然の侵入者達に、戸惑っているのだろう。
「誰だい、コイツは?」
 突然に現れたアルモスに、八頭と御神苗が美沙に問う。
「この人はアルモス・エム、メリッサさんと同じ封印者の一族よ」
 美沙の説明に、二人は納得したように頷いた。
「なるほどね」
 そう言って、御神苗はアサルト・ライフルを迫り来る天使に向かって発射する。
 撃ち落される天使を尻目に、後続の天使達が弓を引き矢を放つ。
 だが、光の矢は樫緒の不可侵の障壁により弾き返される。
「まったく、貴方は何処からともなく現れるのですね」
 冷ややかな視線を投げ掛ける樫緒に向かい、片手を上げながら。
「よう、御曹司。まあ、これが仕事だからな」
 そう言った後、アルモスは広場の奥に在る一本の石の橋を指差し。
「どうやら、あの橋の向こうがこの遺跡の中枢のようだぜ」
 メリッサに言った言葉に、一同は驚いた。
「あそこが中枢だって!?」
 御神苗の驚きに、アルモスは天使をたたっ切りながら。
「ああ、間違い無いぜ」
 そう確信を込めて断言する。
 
 物語は佳境へと進む。

第二十三章 極悪非道の必殺技  
「どうやら、あの橋の向こうがこの遺跡の中枢のようだぜ」
 広場に犇く下級天使の後ろを指差しながら、アルモスは言った。
「なるほど、それでこの数か。派手にやったみたいじゃの?」
 襲い来る天使を叩き伏せ、鈴木は呆れた様に言った。
「けど、どうやって先に行くんですか?」
 放たれる光の矢を掻い潜り、鷲士の右腕が天使達をなぎ払う。
―九頭・右竜翔扇―
 一気に十体以上の天使を吹き飛ばしながら鷲士は広場の先に在る橋を見る。
 そこには無数の下級天使が犇いていた。
「流石にあの数じゃ、私の力でも燃やしきれないわね〜」
 少なく見積もっても、百体は軽く居るだろう天使の群れを見ながらメリッサは先に行く方法を考える。
 その時、天使達の間に異変が起こった。

「え、何!?」
 美沙達の前で無数に居た下級天使達が1箇所に集まり始めた。
 て〜んし、てんし、てん〜しー。
 天使の体を構成するナノ・マシーンが分解して、1箇所で再構築する。
「う!うそぉぉぉぉぉ!?」
 再構築された物を見た美沙が絶叫を上げる、そこには筋肉隆々といった感じの巨大天使が存在した。
 何故か、ボディー・ビルのポーズを取っている天使・……。
「いやあああああああ!何よ!あの筋肉達磨は!?あれが天使なんて嘘よ!!」
 絶叫する美沙に、巨大天使は後ろを向き背中の申し訳程度に生えた羽根を見せる。
 パタ、ぱた。
 小さい羽根を動かし、自分が天使であると主張する筋肉天使。
「嘘よ!あれが天使だなんて私は絶対見とめない!!見とめるもんですか!!」
「姉さま・・…落ち着いて」
 現実に傷ついている美沙を樫緒が宥める、しかし樫緒の額にも一筋の汗が流れていた。
「出やがった」
 心底嫌そうな顔をして八頭は呟く、見ると御神苗を始め、鈴木や封印者の二人も嫌そうな顔をしている。
 そうしている間にも巨大天使は此方に近付いてくる。
「何とかしてよアルモス!あの筋肉おばけ、アンタの親戚みたいなもんじゃない!!」
 子猫様の、余りといえば余りの言葉にアルモスの額に青筋が浮かぶ。
「・……実は、新必殺技が有るんだが?」
 額に青筋を立てながらアルモスは美沙の背後に回る。
「いいから!何とかしてよ!?」
「では」
 美沙の背後に回ったアルモスが必殺技を使う。
「必殺!美沙アタック!!」
「んきゃあああああああ!!」
 アルモスは美沙の背中に蹴りを一発入れ、背後から蹴られた美沙はそのまま近付いてくる巨大天使の前に倒れる。

…………………。

 突然の出来事に鷲士や樫緒と始め、巨大天使すら動きを止める。
「いまだ!」
 アルモスは虚空を構え、巨大天使の胸板に向かって跳躍する。
「グギャアアアアアア!?」
 虚空は巨大天使の胸板を貫いた。
 だが、それでも巨大天使は倒れなかった。
 そしてアルモスは虚空を握る手に力を込める。
「虚空!マイクロ・ブラックホール限定解除!!」
 その言葉を受け、虚空の黒き刃が揺らぎ巨大天使を刃が飲み込んでいく。
「事象の彼方に消えうせろ!」
 その言葉の通り、巨大天使は黒き刃に呑み込まれていった。

「戦いは何時も虚しい」
 虚空の刃を収め、アルモスはそう呟く。
「な・に・が・む・な・し・い・よ!!!」
 振り返る先、そこには鼻の頭を赤くした、怒りに燃える子猫様がいた。
「可憐な乙女に何てことすんのよ!!」
 両手に"吹っ飛べ君ばーじょん1,25"を持ち、美沙はアルモスに向かい振りかぶる。
「可憐な乙女ね…もう少し成長してから言った方がいいぞ」
 美沙が振りまわす二本のハリセンを巧みに避け、アルモスはそう感想を述べる。
「なんですって!」
 巧みに避けるアルモスを、美沙は執拗にハリセンで追いかける。
 余りの出来事に、鷲士を始め樫緒やメリッサは呆然としている。
 御神苗は頬を掻いているし、八頭と鈴木は向こうを向いている。
 既に広場の中ほどを過ぎても、まだ美沙は追いかけていた。
「ははは、まだまだ甘い」
 美沙の攻撃を全て見切り、アルモスは笑っていた――だが。
「ん!うをををおおををを!?」
 攻撃を避ける為、橋の近くにまで来ていたのが災いした。
 足を踏み外し、アルモスは広場の端から暗闇に落ちていった。
「オイ!やばいんじゃないか!?」
 その光景を見て、八頭達が駆け付けて来る。
「ちょっと、それ貸して!」
 美沙は八頭が持つ、MCRを指差す。
「何言ってやがる・・………はい。」
 一度は拒否したが、美沙の顔を見た途端、八頭は素直に差し出す。
 そして美沙はMCRの磁気強度と加速度を最強レベルにしてアルモスの落ちていった暗闇に向けフルオートで撃ち込む。
 関東大震災クラスの衝撃波を黙々と撃ちこみ、数秒で六百発を暗闇に叩き込んだ。
 暗闇の奥で何やら物が崩れる物凄い音がしてくる。
「美沙ちゃん・……ちょっとやり過ぎなんじゃ」
 そう言ってくる鷲士に美沙は顔を向け。
「大丈夫よ、アイツはあれぐらいで死にゃしないわよ」
 美沙の言葉を聞き、メリッサが困った様な顔をしている。
「さあ、行きましょう」
 そして美沙は橋の先に見える入り口に向かって歩き始める。
 その後に続きながら、八頭と御神苗は思った。

 "怒らせないようにしよう"と。

第二十四章 神の熱と呼ばれし者  
 広場から奥の入り口へと架かる石の橋を渡り、美沙達は奥へと進む。
「あの警備の厳重さから、多分、この奥が遺跡の中枢ね」
 先頭を進みながら美沙は己の見解を述べながら、石造りの通路を進む。
「ここが、メリッサさんの言う竜脈を操る遺跡なら、制御中枢が有るはずだもんね」
 既に、アルモスの事は頭から抹消されている様だ。
 そうして一行が通路を歩いていると、通路の先が明るくなってきた。
「どうやら目的地の様ね」
 
 美沙達は通路を抜け、広い空間に出た。
 かなり広い場所だった。奥行きは百Mは有り、天井自体が発光して真昼並の明るさだった。
「何・…これ……・・」
 目の前に広がる光景に、美沙は驚きを隠せなかった。
 通路や先ほどの広場とは異なり、この場所には緑が溢れていた。
 床一面に芝生が生え、中心には鬱蒼とした巨木が生えていた。
 圧倒的な存在感を持つ巨木に引かれる様に近付く美沙達。
「凄いなー、樹齢は何百年、いや何千年経っているんだろう?」
 巨木の下に来た鷲士は、鬱蒼と生い茂る枝を見ながら感想を述べる。
「確かに、しかし何故この様な所に?」
 鷲士の隣で樫緒が疑問を述べる。
「さあな?」
 辺りを警戒しながら、御神苗が答える。
 八頭とメリッサは巨木を丹念に調べる、だが不意に鈴木が何かに気付いた様に巨木を凝視する。
「どうしたの、おじいちゃん?」
 鈴木の態度が変ったのを不審に思い、美沙が訊ねる。
「この巨木は、自然の物では無いな。気の流れが異常に速すぎる、まるで破裂寸前の様に」
 その言葉にメリッサは思い当たる事が在った。
「生体コンピューター・…」
「何だ、そりゃ?」
 メリッサの呟きに八頭が尋ねる。
「細胞を演算装置に使うシステムよ、塩基配列を代用して使う物らしいわ。」
「来訪者はバイオ・テクノロジィーも発達しているらしいからね」
 美沙はかつて目にした世界樹を思い出しながら言った。
「このシステムの良い所は、木自体が成長するから無限に近いデーターが保管出来るし、演算機能も容易く増やせる所ね。」
 そう言ってメリッサは説明を締め括り、巨木の表面に在る金属のプレートを指差す。
「これが制御システムみたいね」
 メリッサは逆三角形の金属プレーに触れる、すると周り一面に半透明のスクリーンが現れた。
 「何?何よこれ?」
 突然、周りに浮かぶスクリーンに美沙が驚きの声を上げる。
「何も書かれていない…・?」
 スクリーンを見ながら、樫緒は何も映していない事に気が付いた。
 驚きながらも興味を持ったらしく、鷲士はそのスクリーンに触れてみる。
 そうすると、スクリーンから膨大な情報が鷲士に流れ込んできた。
「うわぁ!?」
「大丈夫!鷲士くん!?」
 驚いて手を離した鷲士に美沙が心配そうに近付いてくる。
「うん・・…大丈夫だよ。突然、頭の中にイメージが流れ込んできて…」
 軽く頭を振りながら、鷲士はそのイメージに付いて話し出す。
「ここは来訪者達の文明のエネルギー源なんだ、南極を中心に世界にはあと三つの遺跡が有って合計五つの遺跡で竜脈を制御しているんだ」
 鷲士の説明を聞き、一同は驚いた。
 つまり、ここは来訪者の文明を支えていた事になる。
 しかも、まだ稼動しているのだ!

「これは、一体どう言う事!?」
 メリッサの驚いた声に一同が振り向くと、メリッサは巨木の幹に近い所のスクリーンに手を当て、イメージを読み込んでいた。
「どうしたの、メリッサさん!?」
 焦りを含んだメリッサの声に、美沙が駆け寄りながら声を掛ける。
「この遺跡、暴走してる!!」
「何ですって!?」
 衝撃の事実に、美沙達は驚愕した。
「ココだけじゃないわ!ほかの遺跡も暴走している!!」
「何とかならないのか!?」
 最悪の事態に御神苗はメリッサに詰め寄る、しかしメリッサは首を横に振り。
「無理ね、この暴走は予め誰かが仕組んだ事よ。この遺跡を全力稼動させ、オーバーロード寸前にまで追い込んでいる、しかもこの遺跡だけを止めてもほかの遺跡に過負荷が掛かり、致命的な事態に為りかねないわ!」

「いけませんね、勝手にこんな所まで来てしまっては」
 突然、声を掛けられ、美沙達は驚いた。
 幾ら驚愕の事実を聞かされたとは言え、周りに警戒はしていたのだ。
 一同は声の主を捜して、辺りを見まわす。
 だが、辺りには誰もいなかった。
「ここですよ」
 突然、上の方から声を掛けられ、反射的に全員が上を見上げる。
 そこには一人の男が枝に腰掛けていた。
 先ほどまで、全く気配を感じなかったのに!
 長い金髪をなびかせ優雅な雰囲気を身に纏う、正に麗人と言った趣である。
「誰!?」
 思わず美沙は問う、だがその人物が人間で無い事はその背中に生えた翼が物語っていた。
「よっと」
 背中から生えた6対の翼を優雅に広げ、男は枝から飛び降り、一行の中心に降り立つ。
 そして、立ちあがると同時に、圧倒的な存在感が辺りを支配する。
 まるで突然、その場に現われた様に。
 甘い芳香を漂わせ、男は銃を向ける一行の中で声を掛けてきた美沙に向き直り、一礼をした後、名乗った。
「初めまして、元気な人の子よ。私の名は、ラファエル。貴方達が天使と呼ぶ者です」
 一同に衝撃が走る。
 大天使ラファエル―癒しの天使と呼ばれ、天使と格闘して足を負傷したヤコブの傷を治療し、ノアに医学の書を与えているなど、正典に名を残す偉大な天使の一人でもある。
「四大天使の一人・・…」
 御神苗は、やっとの事でそれだけを口に出来た。
 ラファエルは終始、穏やかな微笑みを浮かべている。
 だが、その存在感、ただそこに居るだけなのにプレッシャーとなって全員を襲う。
 御神苗の、八頭の、美沙の、銃を握る手に震えが走る。
 鷲士と鈴木それにメリッサもまた一応の構えを取るが、ラファエルのプレッシャーの前に動けないでいる。
「下級天使達が何やら騒がしいと思ったら、こんな所に人の子が迷い込んでいるとは・…おや?」
 ラファエルの視線は美沙と樫緒に向けられる。
「ほう!?貴方達は訪い人の血を受け継いでいるのですね?…・なるほど、あの計画は上手く行った様ですね」
 暖かな、だが何処か全身が萎縮する様な眼差しを受け、美沙と樫緒は我知らず後ずさる。
「おや、怯えさせてしまっている様ですね?これは失礼」
 そう言うや否や、ラファエルから放たれていたプレッシャーが消える。
「長い間、人の子と話す機会が無かったものでね。力の加減が中々難しいんですよ」
 和やかに話すラファエルに対し。警戒しながらも、誰一人動く事が出来なかった。
 その中でメリッサは声を振り絞り、ラファエルに問う。
「熾天使たる貴方が居ると言う事は…この遺跡を貴方が管理しているのですよね?ならば何故!?オーバーロードさせ、半暴走状態にさせているのですか!!」
 その言葉にラファエルはメリッサを見る。
「このままでは!竜脈の流れが異常活性され、地球は只では済まないわ!!」
 メリッサの言葉に一同は驚愕した。
「どう言う事だ!?」
「竜脈が暴走するってのか!?」
 八頭と御神苗が色めき立つ。
 竜脈とは大地に流れる氣の流れ、地球の生命そのもの。
「そんな事になったら・…・」
「世界が崩壊する・・…!?」
 美沙と樫緒の顔に驚愕の色が浮かぶ。元々この竜脈を操る遺跡を求めたのは、来訪者に取って重要な遺跡ならば、美沙の力を封じる"人の在り様を変える者"が有るかも知れないと思っての事である。(異伝 力を継し者)
「それは、仕方の無い事なのです」
 ラファエルの言葉に、一同は驚きの顔を向ける。
「それが、我が王の望みなのですから」

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