DADDYFACE ShortStories
「夢幻郷(2)」
written by 利根丸



 様々な思いが交差する中、ついに三日目の夜はやってきた。
 その日は満月で、静寂に包まれた街を優しい光で照らしていた。
 「ククク・・・ついにこの時が来た・・・前回の『儀式』よりかなりの時がたった今、今回、この二人の来訪は願ってもいないものだった」
 一人呟くセロの足下には、眠っている鷲士と美沙がいた。
 セロ達がいる場所、それはこの都市の中心に位置する巨大なドームだった。
 ドームの中心には、巨大な樹が天井を突き破って生えており、月の柔らかい光が梢から床を照らしている。
 樹の根本は、澄んだ水が満ちた泉になっており、水は床を網の目のように広がる細い水路を流れていた。
 セロは、泉にはいると、無造作に水の中へ手を突っ込み、何かを引きずり出した。
 「お前は、もう用済みだ・・・消えろ」
 セロが水から引き上げたもの・・・それは、骨と皮だけになり、息も絶え絶えの女性だった。
 女性は、何か訴えようと、手を伸ばしたが、セロは女性の首を掴むと一息にへし折った。
 「・・・・・・!!」
 女性は目をいっぱいにまで見開くと、そのまま壊れた人形のように後ろへ仰け反る。
 そのまま、セロが女性を床に放り出すと、女性は、まるで蝋人形のように溶けて、あっと言う間に消えて無くなった。
 「さて・・・そろそろ、新しい『贄』を『神樹』に与えるか・・・。この者たちなら、前の『贄』より長持ちするだろう」
 セロは、床で寝ている美沙を抱え上げると、泉へと近寄っていった。
 「これで・・・ここの永遠は続く」
 「永遠なんて無いわよ」
 「!!」
 今まさに、泉に美沙が泉に沈められようとしたとき、眠っているはずの美沙が目覚めるという意外なことが起こった。
 美沙は、ジャケットのポケットから小型のリボルバーを素早く取り出すと、呆気にとられているセロの顔面目がけて発射した。
 「ごあ・・・」
 美沙を取り落としたセロは、水飛沫を上げながら仰向けに倒れるとゆっくりと泉に沈んでいった。
 「鷲士くん、今のうちに!」
 「わかってる!」
 美沙の声に、既に起き上がっていた鷲士は床を蹴り、巨木に取り付くと、その幹に拳を撃ち込んだ。
 「はぁぁぁぁ!」
 鷲士は、そのまま、もう片方の腕も差し込むと、一気に幹を左右に引き裂く。
 巨木の中は、植物組織の他に、まるで血管のようにチューブが張り巡らされていたり、見たこともない機械が存在していた。
 そして、無数のチューブに絡まるようにして、鷲士達が知るよりも僅かに年上のセレンが生まれたままの姿でその中で眠っていた。
 「見つけたよ、美沙ちゃん!」
 「よっし、それじゃ、とっとと逃げよう鷲士くん!」
 「うん」
 鷲士は、セレンに自分のコートを羽織らせて背負うと、美沙と共にドームから脱出した。
 誰もいなくなったドームは静寂に包まれる。
 泉も鏡のように波一つなかったが、不意にゆっくりと水面が乱れ、セロの腕が出てきた。
 ゆらりと立ち上がったセロの顔には、何故か美沙の銃撃の跡が残って居らず、代わりに深い怒りの表情が浮かんでいる。
 「・・・くっ!何故だ・・・薬は確かに飲ませたはずだ。・・・そうか、シェロのヤツか・・・。くっくっくっ・・・アイツは、また、使命に逆らうつもりだな・・・いいだろう、何度でも、貴様の計画を壊してやる・・・」
 泉から、上がったセロは鷲士達を追うべく走り出した。

 鷲士は、ゲートへ向かって走っている間、シェロから聞いた、この都市の真実を思い返していた。
 シェロやセレンたちがいた世界・・・その世界は、精神文明と物質文明が共存する世界なのだが、とある事情で、長い文明に終止符が打たれようとしていた。
 この都市は、滅び行く世界から別次元へ時空間移住をするという目的に異世界の住人が創りだしたもので、都市そのものは、なんと、セレン一人の力によって無から創り出されたものだった。
 最初は、無から創り出すなんて事は考えられておらず、都市そのものを創る計画だったのだが、時間的に都市サイズの時空間移動できる乗り物など不可能に近かった。
 とりあえず、時空間移動の装置は完成したのだが、肝心の都市の方は完成が間に合わず、刻一刻と世界が滅びへ向かう中、焦る研究者たちの耳に、ある日、一人の少女の情報が入ってくる。
 その少女は、様々な能力者たちが住まう、その世界で、唯一、精神力で無から物を創り出すという、具現能力を持っていた。その少女がセレンだった。
 それを知った研究者たちは、セレンを両親の元から半ば無理矢理連れてくると、早速、能力増幅のための訓練や薬剤の投与を行い、最終的に、この都市の核となる『神樹』に埋め込んで、人ではなく、システムとして、この都市を創りださせた。
 何とか完成した都市は、その世界から脱出し、次元の狭間へと逃げることが出来た。
 一方、双子のシェロとセロは、移住先で外敵から都市を守る守護者として能力を引き延ばされ、セロは主に都市エリアを、シェロは中枢である神樹の守護を任されていた。
 セロは、使命に従順な性格だっが、シェロは、それほど使命感など無く、誰も来ない中枢で、一人セレンを見守っていた。
 シェロ自身、システムに取り込まれる前にセレンと出会っており、彼女のガードをやっていたため、他の者よりもセレンを知っていた。そのため、彼女の犠牲で自分たちが生きているという事実に悩んでいた。
 しばらく、時空の狭間を彷徨っていた都市に、ある時、大事件が起こった。
 急なことで無理があったのだろう、核であるセレンが、過剰な投薬の影響が今頃やって来て、自我が崩壊し掛かり、影響で、都市に天変地異を起こしたのだ。
 もちろん、逃げ場のない都市にいた者たちは、殆どが死に絶え、僅かに強い力を持つ能力者だけが生き残った。
 その後、しばらく続いた都市での災害は、無意識にセレンが自分の分身を創り、自我と記憶を移植して、本体から切り離すことで何とか落ち着きを取り戻したが、他の住人たちは、守護者であるセロとシェロを残して、そうそうに別の世界へ去っていってしまった。
 すぐにシェロは、住む者もいなくなったこの都市からセレンを解放しようと考えていたが、セロは出ていった者たちがいずれ帰ってくると信じて解放を拒んだ。
 そうこうしているうちに、次の問題が起こった。
 災害の時にやられたのであろう、神樹を維持するためのエネルギーユニットの機能が落ち始めたのだ。すぐに修理してユニット自体は治ったが、神樹に供給するためのエネルギーは大幅に失われてしまった。
 神樹の機能が停止すれば、セレンは死んでしまう。それを知っていたシェロは、すぐにセレンの解放をセロに持ちかけたが、やはり、セロは首を縦に振らなかった。
 しかし、その間にも、エネルギーは減っていき、もう限界というところまで来てしまった。
 シェロは、再度セロに話をしに行き、それでも駄目なら、力ずくでもと思っていた時、突然、神樹の維持エネルギーが回復したため、すぐにセロの元へ行った。
 神樹のエネルギーユニット、そこで、セロは見知らぬ人間をユニットである泉の中へと沈めていた。
 神樹の維持に必要なエネルギー、それの代わりにセロは、外部から人間をさらってきて、その生命エネルギーを維持に当てたのだ。
 セロが誰も帰ってこない都市のために、関係のない者を犠牲にしたということに、シェロは怒り、戦いを挑んだ。
 しかし、僅かに実力が及ばず、シェロはセロに敗北し、そして、力の大半を封じられた上に、今度邪魔をすれば、セレンを殺すといわれた。
 そのため、シェロは目の前で多くの人間が死ぬのを見ながら、何もしてやれず、ただ悔やみながら、いつか来るであろう、セレンを助ける機会を待ち続けた。
 そして、今回、チャンスとも言うべき、鷲士達の来訪があったのだ。
 
 『そう言えば、どうして満月の夜に『神樹』に生贄を捧げるんですか?』
 『特に生贄自体はいつでもかまわねぇんだが、満月の夜は俺たちの力が一番高まるときなんだよ。もしも、生贄に抵抗されてもねじ伏せられるようにって事なんだよ・・・』
 『それで僕たちはどうすれば・・・』
 『ああ・・・それは・・・』
 その後、鷲士と美沙は薬で眠らされたふりをし、油断したセロを倒して、うまく『神樹』からセレンの救出に成功して、現在、合流地点であるゲートに向かっていた。
 セレンがいなくなったためか、都市全体が崩壊へと向かい、低い鳴動と細かい振動を発し始めていた。
 崩壊の始まった庭園を抜け、草原に出たところで鷲士は足を止めた。
 「どうしたの、鷲士くん?」
 「・・・美沙ちゃん、セレンちゃんを連れて先に行っててくれないか」
 「どういうこと・・・まさかっ!?」
 「僕が、アイツを引きつけているうちに、シェロさんと合流するんだ」
 「でも・・・」
 「早くするんだ!」
 「わ、わかった・・・」
 美沙は、鷲士からセレンを受け取ると、彼女を背負って走り出した。
 「・・・一人残って時間稼ぎか?」
 鷲士が振り返ると、そこには怒りを露わにしたセロが立っていた。
 「ええ・・・もっとも、死ぬつもりはありませんけどね」
 「・・・貴様らのせいで、もう、この街はおしまいだ。だが、このままではすまさん!一人たりともここから生きて帰すものか!」
 それだけ言うと、セロは鷲士に向かって跳びかかった。
 「焼き尽くせ、炎蛇よ!」
 セロが右腕を振るうと、彼の手に突然青白い炎が現れ、それが鞭のように伸びて、鷲士に襲い掛かった。
 「くっ・・・」
 
九頭左竜・閃刀

 咄嗟にはなった対仙術の技は、見事、セロの炎の鞭を打ち散らした。
 「住む世界が違っても、力という括りが同じで良かった・・・」
 「やるな・・・私の力を相殺するとは、だが・・・!」
 今度は、セロの両腕が炎に包まれる。
 「私は、負けるわけにはいかないんだ!」
 そう言ってセロが両腕を振ると、今度は無数の炎鞭が鷲士に襲い掛かった。
 
 鷲士が戦い始めた頃、美沙は何とかセレンを連れて、シェロのいるゲートへとやってきた。
 「はひ〜、や、やっとついたよぉ〜」
 「大丈夫か?」
 「囚われのお姫様をお届けにまいりました〜」
 「鷲士はどうした?」
 「鷲士くんなら、今、あのセロと戦っているわよ」
 「何だと!正気かアイツは!?満月の夜のセロを相手に戦うなど無謀だ!」
 「大丈夫よ、九頭竜の使い手の鷲士くんが負けるはず無いでしょ」
 「俺も元々はセロと互角の力を持っていたが、自己鍛錬で強くなったセロの前には歯が立たなかった・・・」
 「え・・・」
 シェロの話に、美沙の顔がさっと青ざめた。
 「俺が鷲士を助けに行く、その間セレンを頼んだぞ」
 「わ、私も行く!」
 「足手まといだ!ここで大人しく待っていろ!」
 凄い剣幕で怒鳴るシェロに、美沙はただ頷くしかなかった。

 振動は、いよいよ激しくなり、至る所で地割れや建物の崩壊が始まっていた。
 鷲士とセロのいる草原にも、場所によっては大きな裂け目が出来ている。
 「どうした、龍の闘士よ。貴様の力はその程度か?」
 セロは、目の前で地に倒れ伏している鷲士に言い放った。
 「常人に比べれば、確かに優れた身体能力だが、所詮、私の敵ではなかったな。そこで死を待ってるがいい、後から仲間も送ってやる」
 「待て・・・美沙ちゃんたちの所へは行かせないぞ・・・」
 「何だ、まだ動けるのか?諦めろ、貴様の技は全て見切った」
 「・・・まだだ・・・九頭竜を甘く見るな・・・」
 血を吐きながら、鷲士は立ち上がる。
 「九頭竜の技の中には、一時的に限界を超えて能力が引き出す物がある。恰も、竜をその身に降ろすかのように・・・」
 「竜を降ろすとは面白い・・・見せてみろ!その技を!」
 「・・・いいだろう、見せてやる竜の力を・・・」
 そういうと、鷲士は目を閉じると、静かに意識を集中した。
 頭の中で、何かを縛る鎖を断ち切るようなイメージ、その瞬間、鷲士の中で何かが音を立てて変化していった。

“九頭真竜・竜臨”

 崩壊の轟音を掻き消すほどの、鷲士の咆吼が辺りに響く。
 技のせいか、膝を着き、震える鷲士、その身体に流れる気が変化と共に増幅していくことにセロは気付いた。
 「ほう・・・」
 感心するセロの前で、ゆっくりと鷲士が立ち上がる。
 立ち上がった鷲士の雰囲気は驚くほど変わっていた。さっきまでの必死な表情はなくなり、純粋な闘志と殺意を秘めた瞳は血のように紅く、身体から立ち上る氣は明らかに先程とは質が違っていた。
 「確かに・・・さっきよりは強くなったみたいだな。さて、竜の力とやら・・・早速確かめさせて貰うぞ」
 「かかってこい・・・竜に挑むことの愚かさを教えてやる」
 ガラリと口調も雰囲気も変わった鷲士は、口元に冷酷な笑みを浮かべるとセロに向かっていった。
 「こちらも時間がないのだ、一撃で決めさせて貰う・・・重の鎖よ!」
 セロはパワーアップした鷲士に怯むことなく、重力波で鷲士の身体を押さえ込んだ。
 仁王立ちする鷲士の足が地面にめり込み、彼の周りにクレーターができていく。 
 「いくら強くなっても、20倍の重力には耐えられまい」
 勝利を確信したセロだったが、不意に視界から鷲士の姿が消えた。
 鷲士が視界から消えたと同時に、セロは脇腹に巨大なハンマーで殴られたかの様な衝撃を感じ派手に吹っ飛んだ。
 「なっ・・・」

九頭・真竜剛破

 右竜徹陣に込める気の量を増やすことにより破壊力を上げ、さらにインパクトの瞬間、相手の体内で拳に込めた気を爆発させるという必殺の一撃は、セロに大ダメージを与えた。
 「が・・・こ、この攻撃は・・・」
 「さっきまでの勢いはどうした」
 「・・・ほざけこの程度のダメージ、すぐに回復する!」
 立ち上がったセロは、今度は高速移動で、鷲士の死角から攻撃を仕掛けた。
 だが、鷲士は、まるでセロがそこから攻めるのが解っていたかのように、裏拳を放つ。
 しかし、いるべきはずのセロはそこにはいない、咄嗟に鷲士は空いた手で顔を守る。
 途端、腕に来た衝撃と共に、鷲士は二、三歩後ろへ後退した。
 「・・・それが本気か?」
 「くっ・・・」
 刹那、鷲士はセロとの間合いを詰めると両腕を構えた。
 瞬時にセロを射程に入れた鷲士は指を曲げ、鉤爪のような形にした手を高速で薙ぎ払う、同時にセロは回避のため空間を飛んだ。

九頭・真竜閃牙

 鷲士の攻撃は、外れたかに見えた。
 少し離れた場所に転移したセロは、鷲士に不敵な笑みを向けた。
 「外したな」
 「どうかな?そういうことは、自分の腕を見てから言え」
 「・・・!!」
 自分の腕を見たセロは、無惨にもすだれのように切り裂かれたその姿を見て絶句した。
 「ば、馬鹿な、確かに攻撃が命中する前には空間を飛んだはず・・・」
 「お前が、そう思っていただけだ、実際は僕の攻撃の方が早く当たっていた。もっとも、閃牙は射程内なら多少空間を越えて当てることが出来るから、お前が早く空間を渡ったとしても結果は同じだったがな」
 「こ、こんな馬鹿なことが・・・」
 傷は再生して行くが、痛みまでは取れないのか顔を歪めながらセロが呻く。
 そんなセロを見ながら、鷲士は無表情に話す。
 「悪いが、僕たちにも時間がないんだ。次で決めさせて貰う」
 「無駄なことを・・・月がある限り、私は不死身だ」
 「だったら、再生が間に合わないくらいのダメージを与えるだけだ」
 「やれるものなら・・・やってみろ!踊れ、土の精よ!」
 叫ぶと同時にセロは、地面に向かって拳を撃ち込んだ。
 巻き上がる土砂と土煙に鷲士の視界が塞がった。
 「子供騙しだな・・・」
 「そう言っていられるのも今のうちだ」
 鷲士の後ろへ転移したセロは、手刀を鷲士の後頭部目がけて放った。
 『殺せる!』そう思ったセロだったが、それ以上先には行けなかった。
 まず、振り向きざまに撃たれた鷲士の肘打ちがセロの手を砕いた。
 そして、そこから嵐のような連続攻撃が始まった。

九頭真竜・狂舞

 鷲士は、セロに連続で拳を撃ち込みながら、セロの周囲を回り始める。
 スピードが上がるごとに、円の中心にいるセロは技の名前通り、まるで踊り狂っているかのようになった。
 さらに回転スピードが、最高に達したとき、唐突に鷲士はセロを真上に殴り上げた。
 辛うじて、意識を保っていたセロは空間を飛ぼうとしたが、それより先に鷲士が動く。

九頭真竜・吼焔

 鷲士は、セロより高く飛ぶと、両手に込めた気をセロの胸に叩き込んだ。
 胸元で爆発した気の勢いで、セロは受け身も取れずに地面に叩きつけられる。
 「がぁっ!」
 激痛による悲鳴を上げながらも、セロは尚も立ち上がる。
 着地した鷲士に、セロはボロボロの身体にもかかわらず狂ったよな叫びを上げながら殴りかかってきた。
 「しぶといな・・・だが、これで!」
 鷲士は、流れるようにセロの懐に潜り込むと、トン、と軽く掌底を当てた。

九頭真竜・破魂

 触れた相手の体内を駆けめぐる気に干渉し、相手の気そのものを爆発物にして肉体を破壊させる。この技を受けたセロは、胸部が内側から炸裂すると共に、全身から血を吹き出しながら崩れ落ちた。
返り血を浴びたのも気にせず、鷲士はセロの絶命を確認すると、目元を押さえながら静かに深呼吸した。
 何度目かの深呼吸が終わると、鷲士の雰囲気は元へと戻った。
 鷲士が元に戻ったのと、ほぼ同時にシェロが走ってきた。
 シェロの姿を見た鷲士は、そちらに行こうとしたが、途端に足がもつれたかのようにバランスを崩すと、地面に倒れた。
 「おいっ!大丈夫か?」
 倒れた鷲士を見たシェロは、慌てて鷲士に声を掛け近寄ったが、鷲士は力無く笑うと首を振った。
 「大丈・・・夫です・・・ちょっと・・・疲れただけですから・・・」
 「そうか・・・ならいいが。それよりも時間がない急ぐぞ」
 シェロは、鷲士に肩を貸すとゲートへと急いで向かった。


 シェロと鷲士が、ゲートに着く頃には、都市は『神樹』の機能停止による崩壊で、その姿を殆ど残していなかった。
 ゲートの周囲も崩壊が及んでおり、辛うじて形を保っているという状態だった。
 「鷲士くん!大丈夫!?」
 「シェロ!」
 ゲートに到着した二人を美沙とセレンが出迎える。
 「もう、ここもあまり長くないよ!速く逃げなきゃ!」
 「そうだな・・・」
 シェロは、寂しげな笑みを浮かべると、突然、鷲士をゲートの中へと放り込み、傍にある操作盤のようなものに手を触れた。
 鷲士が中に入った途端、ゲートは白い光に包まれる。
 「シェロさん!」
 鷲士は慌てて、戻ろうとするが光が壁となって戻ることが出来ない。
 「悪いが、この装置はこっち側からじゃないと操作できねぇんだ。最後に押しつけるようで悪いけど、セレンのことを頼むぜ」
 「いやだよ、シェロ!一緒に行こう!一緒に色んなものを見て回ろうよ!」
 「そうよ!今時、こんなシチュエーションなんて、流行らないわよ!」
 「そんなことを言うなよ・・・力のない俺に出来ることといったらこれぐらいしかねぇんだ・・・。セレン、幸せになれよ・・・」
 「いやだよ!私、シェロがいなくなったら幸せになれないよぉ!」
 「セレン・・・」
 「その通りだ、こんな終わらせ方は許せんな・・・」
 いるはずのない者の声にシェロが振り返るのと、いつの間にかシェロの後ろに立っていたセロが彼の殴って気絶させるのは、ほぼ同時だった。
 「セロ!」
 鷲士が『竜臨』の後遺症で戦う力が残っていないのにも関わらず、立ち上がる。
 セロは、鷲士を無視するように、シェロをゲートの中に放り込むと、操作盤に手を伸ばした。
 「そいつの目が覚めたら、こう言って置いてくれ。『封印は解いた、その力でセレンを守って見せろ』と・・・」
 「一体どういうつもり?」
 美沙が訝しげにセロを見る。
 しかし、美沙の声が聞こえていないのか、セロは言葉を続ける。
 「・・・もう、誰も戻ってこないのも気付いていた。『神樹』を維持するために多くの命を奪う必要もなかった。しかし、ここを守るという使命を持った私にとって、ここを壊すのは考えたくはなかった・・・。セレン、今まで苦しめてすまなかった・・・シェロと共に外の世界で幸せになってくれ・・・」
 「セロ!」
 「竜の闘士よ・・・月並みな台詞だが、お前とは別な形で出会い戦いたかった。もし、生まれ変わり再び出会うことがあったら、その時は命ではなく互いの誇りをかけて戦おう・・・」
 「セ・・・」
 鷲士は、何か言おうとしたが、白い光が強くなると共に意識を失った。
 ゲートに誰もいなくなったのを確認すると、セロは満足げな表情を浮かべ、その場に倒れた。
 そして、都市は、まるで幻だったかのように、少しずつ崩れ時空の狭間へと消えていった。

 別世界の住人ということもあり、シェロとセレンの二人の身元は、様々な方面に力を持つ、美沙が引き受けることになった。
 しばらくは、この世界のことなどを勉強したり、別世界と言うこともあり、様々な検査を二人は受けた。
 その後、セレンは、様々な知識や技術を学習したのち、FTIでオペレーターとして活躍し、シェロは、その戦闘力を生かして、美沙のボディーガードとなっていた(もっとも、シェロが本当に守っているのは、セレンだが・・・)。
 そして、月日は流れて・・・。

 「・・・てな事が昔、あったのよ」
 美沙は、思い出に浸るかのように、目を瞑りながら、うんうん頷いた。
 「すごーい・・・ゼロとカレンのお父さん、強いなーっておもってたけど、そんな秘密があったんだ」
  傍にいた、美沙によく似た少女が言った。
 「だけど、シェロ、セレンには頭が上がらないよ」
 反対側にいた、こちらも美沙によく似た美貌の少年が、美沙の腕を引きながら、そう言った。
 「惚れた弱みってヤツよ」
 美沙が、しばらく二人の反応を楽しんでいると、不意に美沙の胸ポケットに入っている携帯が軍艦マーチの着信音を奏でた。
 美沙は、携帯を取ると、二、三言葉を交わして電話を切った。
 「誰から?」
 「シェロたちから久しぶりに会おうかって、電話が来たの」
 「う・・・」
 途端に顔を曇らせる愁。
 「どうしたの、愁?」
 「最近、カレンが怖い・・・」
 美沙の質問に、愁はそう答えた。
 「どうして?」
 「沙貴おねーさまから離れなさーい!って、いきなり、ハリセンで叩くんだ」
 「あ・・・あははははは、そうなんだ・・・」
 それだけで、美沙は愁がただならぬ状況にいることを察して、ぎこちない笑みを浮かべた。
 「大丈夫、カレンには私から言うから。だから、愁も一緒にいこ」
 「う、うん・・・」
 「とりあえず、待たせちゃ悪いから行こうか・・・」
 愁が頷いたのを確認して、美沙は二人を連れて、約束の場所へと向かった。

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