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「甘々恋愛夏季休業〜麟太郎編」(中)
written by 犬神長元坊



 昨夜の事である。
『よっ、りんちゃん』
「えっ? その声はコゴロー!? 久しぶりじゃない。と言ってもまだ卒業してから4ヶ月しか経ってないけど」
 美緒とデートする事が決まり、とりあえずはシーワールドへ行って、そのあとビーチで遊ぼうというところまでは決めてから、明日持っていく物をと麟太郎が準備を始めた所で電話が鳴ったのだ。香津兄弟が以前住んでいた所と同じ番号で継続して使っている電話である。旧友がかけてきてもおかしくは無かったが、突然の事で麟太郎はびっくりした。
 コゴローとは麟太郎の中学時代の友人の一人木戸小五郎のことで、1年から3年まで同じクラス、しかもなぜか席もずっと隣同士だったという腐れ縁だ。麟太郎が通っていた中学校では名簿の順番で席が決まっていたから自然そうなったのだが。電話の向こうの友人の声に、麟太郎は不意に色んなことを背がしびれるような甘さと一緒に思い返していた。
「そういえばコゴロー、ゆーちゃんとは仲直りしたのかい?」
『うっ、それはよ……。まだきっかけがつかめなくてさ』
「早いところ謝った方がいいよ。この際プライドなんか邪魔なだけだよ。それに本当に悪かったのはこっちの方なんだから」
 ゆーちゃんと言っても美緒の甥(彼女より年上なのだが)の草刈 悠や美緒の母親の事ではない。麟太郎や小五郎の旧友の一人で、クラスでも一番の美少女と名高かった近藤勇仔(こんどう ゆうこ)の事だ。正義感の強い性格の少女で、凛としたところのある、ある意味美緒とも馬の合いそうな少女であった。彼女は校内自警組織「新鮮組」の責任者も務めていた。
 そのゆーちゃんを、小五郎は修学旅行のときに……平たく言えば夜這いをかけてミスしたのだ。未遂に終わったとはいえコトに及ぼうとしたのは事実なので、思い切り憤慨したゆーちゃんに、小五郎は逆さに吊るされて布団たたきで何度もたたかれたものである。どうやら先生には報告しなかったらしく小五郎が退学になるといった騒ぎには至らなかったものの、彼女は機嫌を損ねたままだったのか卒業するまで小五郎は無視されつづけたのだった。
『た、確かに俺が悪かったよ、あれは。俺、勇仔が好きで……。それで』
「コゴロー、それをゆーちゃんに正面から言えばいいんだよ。がんばれって。応援してるからさ」
『……余裕だな、麟太郎』
 不意に小五郎の声が1オクターブは低くなったような気がして麟太郎はン? と訊き返した。
『聞いたぜ。ヤッくんに。お前ガールフレンドが出来たそうじゃないか。それも凄く可愛いって。やるねぇ、りんちゃん。ま、昔っからりんちゃんはもてたけどな』
「ええっ!? ヤッくんが!? そ、そんな、じゃあ美緒ちゃんのことは」
『ああ。多分今頃クラスの全員が承知してるだろうな』
 ヤッくん。本名は山崎 進。とてつもない地獄耳を誇る小柄な少年で、誰からも可愛がられるルックスとどこにでも入り込めそうな小さな体、そして並外れた運動能力を武器に、学校のあらゆる噂や秘密を手に入れては公開していた。彼の働きによって、みんなから嫌われていた(特に女子に)セクハラ教頭の児童買春の証拠が挙がり、逮捕にまでこぎつけたほどで、ゆーちゃんの新鮮組のメンバーの一人でもあった。その彼が麟太郎の秘密を握ってそのまま心にしまっておくはずが無い。面白半分でクラスのみんなにばらしても不思議は無かった。
『何しろイチゾーもハンペーも知っているみたいだからな。クラスでも特に朴念仁と言われていたあいつらが知ってるんだ。間違いないだろ』
「そんな……。今からなんだか怖いような」
 クラス委員を務め、生徒会長も2期勤めた西郷一蔵に、鬼の風紀委員長と謳われた武市半平(たけち はんぺい)。二人ともまじめ一徹な人物で、今はかなり有名な私立の高校に通っているはず。二人とも将来は弁護士か検事になるのが目標だと公言していた。女性には目もくれない性格のあの二人までが知っているとなると、確実に同じクラスだった全員が麟太郎にガールフレンドがいる事を知っているだろう。
『それでだな。実はリュウちゃんやゲンちゃんに一度りんちゃんの彼女確かめて来いって言われててさ。彼女連れてこないか? 今、千葉県の飯岡海水浴場って所の海の家でバイトしてるんだ。海水浴にでも誘ってよ、来いよ、是非。安くしとくからさ』
 坂本竜王に河上元気か。二人ともこういうネタに目が無いからな……と麟太郎は汗ジトだ。
「あ、ああ」
『よし、決まりだな!! 絶対に連れて来いよ! もし連れて来なかったらクラス全員で押しかけるからな!』
 あの、今住んでる所が違うんだけどという余裕も無い。何とか明日はシーワールドへ行く予定だったと告げると、それならこっちへのアクセス方法を教えてやると言われ、メモをとる羽目になったのだった。
「美緒ちゃんに、なんて言おう」
 受話器を上げるのが怖い気がしたが、しかし美緒の返答は想像に反して嬉しそうだった。
『麟太郎くんのお友達!? 昔の麟太郎くんがどんな子だったか聞きたいし、いいわよ、わたしは♪』

 シーワールドを出たあと、安房鴨川駅までは歩く事になった。何しろさっきのシャチのショーでずぶ濡れなのだ。歩いているうちに乾くだろう。
「えへへ、なんか恥ずかしいな」
 美緒が頬を紅くして、自分の体を見下ろして身をちょっとよじる。重たくなったジャケットを脱いだため、真っ白なブラウスの胸のあたりに赤い下着が透けて見えるのだ。
「美緒ちゃん、白いブラウスに赤いのはちょっと大胆すぎたんじゃ」
 なんだか回りの人間(特に野郎ども)にそんなエロティックな姿の美緒を見せたくなくて、どぎまぎしながら身を寄せて隠そうとする麟太郎に美緒はくすっと笑った。
「麟太郎くんが喜ぶかなと思ってこういう取り合わせにしたんだけど」
「そ、それは……! 確かに、う、嬉しいけど! でも、他の奴らに見せたくないんだよ!!」
 少しうろたえた風でしどろもどろになりながら応える麟太郎に、最近膨らみを増してきた胸をきゅっとわざわざ手で寄せて上げて見せながらくすくす笑う美緒。そうやって麟太郎が慌てるのを見て楽しんでいる。その様子を陰から見ながら雪人がぼそっと呟いたのは無理も無かっただろう。
「……小悪魔だ……」
 その雪人の背後では、鷲士が樫緒の「力」で動けなくなりながらも二人のほうへと走っていこうともがいていた。


「あ、麟太郎君、おべんとついてる」
 お昼ご飯は電車の中でのコンビにおにぎりだった。紅鮭のおにぎりを味わっていた麟太郎は、不意に顔を近づけてきた美緒にドキッとして硬直した。

 ぺろっ♪

「美緒ちゃん!?」
「えへへ、食べちゃった♪」
 麟太郎のほっぺについていたご飯粒を飲み込み、照れくさそうに笑う美緒。麟太郎は思わず隣の車両を見た。草刈家の大半が、もうとっくに尾行がバレバレなのは承知の上でついてきている。しかもそれにキェロツーと先行者マーク7軍団が加わっているから目立っている事この上ない。その中で美緒の実父である草刈鷲士が美緒の一挙手一投足にあうあう言っているのがわかる。
「もしかして美緒ちゃん、鷲士さんに見せ付けてない?」
「えへ、ばれた?」
 苦笑するしかない麟太郎であった。


 旭駅に到着し、美緒と麟太郎がバスに乗って海水浴場へ向かったためキェロツーが先○者マーク7軍団をバスに変形させたあとのこと。
「す、すげえ!! 話には聞いていたけど変形合体は漢の浪漫!! 凄いぜ、アンタ!!」
 先○者バスを見て、悠が興奮して叫んだ。
「おお、分かってくれますか!? 君も機械いじりが好きなんですね?」
「ああ!! モノが先行者だってのはともかく、技術的に凄い代物だってのはよく分かるぜ!!」
 二人は見詰め合い、互いに相手の瞳に燃える炎を確認しあっている。おーい、と美沙が呼んでいるのも意識の外だ。
「「同志よ!!」」
 がしっと抱き合う二人。漢泣きしながら漢抱きだ。一種異様な空間がそこに生まれているのに気づき、さしもの美沙も汗ジト。
「……クロックワーク同士で共鳴しあってる……」


「うわ……」
 木戸小五郎は言葉を失った。麟太郎に「彼女連れて来い」と確かに言ったが、ここまでの美少女とは全く想像もしていなかったのだ。
「コゴロー、こちらが草刈美緒ちゃん。その、僕のガールフレンドだよ。美緒ちゃん、こいつがさっき話した木戸小五郎。中学時代席が隣同士で、宿題を写しあったりした仲なんだ」
「はじめまして、草刈美緒です」
 にっこり微笑んでペコっとお辞儀する美緒に、小五郎もどぎまぎしながらようやくの思いで頭だけ下げた。何しろ美緒はただ立っているだけで魂を奪われそうになるほどの美少女なのだ。それが笑顔になったりすると破壊力抜群である。
「プシュー、ずいぶん懐かしいなロリポップ」
 不意に声を駆けられ、美緒は顔を上げた。小五郎の背後に長身の特徴の無い無表情な男が突っ立っている。海パンの上に小五郎がしているのと同じデザインのエプロン姿……明らかに小五郎と同じく海の家でバイトしているのに違いない。だが、そいつの体は明らかに人間のそれでは無かった。青味がかった金属で構成された体に、内部でカリカリ音を立てて回る原始的な歯車……明らかにミュージアム製のチューン・マンだ。
「それにしちゃ変じゃねーか? 前会った時より少なくとも30年は経ってるぜ。もしかしてアンタ、結城美沙の娘か何か?」
「草刈美緒よ、わたしは。美沙姉上を知っているの?」
 油断なく戦闘体勢を整える美緒に、青年の姿のチューン・マンははじめて苦笑いのような物を浮かべた。案外、人間味のある顔だった。
「何だ、そっくりだからてっきり──美沙は元気か? 今は……もうロリポップとは呼べねーだろーな……」
「もしかして……スプレイ? あんた」
「プシュー、なんだ俺の事知ってんのか」
 まーね、一瞬思い出せなかったけど美沙姉上が何度か思い出の一つだって子守唄代わりに聞かせてくださったことがあったからねと答える美緒に、スプレイも楽しそうに笑う。その様子を見ていた麟太郎はしばらく固まっていたが……はっと小五郎の方を振り返る。
「ねえ、コゴロー。あのスプレイとかって人……人間じゃないんじゃ……」
「ん? 俺達以上に仕事はできるしあのルックスだろ? ビーチギャルズの人気の的でここの看板だぜ。なんか問題ある、りんちゃん?」
 能天気に応える小五郎に、何かが違うような気がして汗ジトの麟太郎と美緒だった。その時だ。
「ややっ!! そこにいるのはスプレイくんじゃあーりませんか!!」
「げっ!? 『ハイアート・マイスター』!?」
 猛然と駆けてきたキェロツーがスプレイに声を駆け、スプレイの方もとっさに戦闘体勢をとる。何しろスプレイがミュージアムを抜けた頃はキェロツーの元になった男、キェロ・クロックワークはまだミュージアムにいたからだ。とっさに警戒して当然だっただろう。
「安心なさい、スプレイくん。ミュージアムは既に瓦解しましたし、わたしはキェロの記憶の残滓でしかない……キェロツーと名乗るいちチューン・マンに過ぎませんよ。あなたと戦う気はありません」
 キェロツーは自らも歯車剥き出しの体をひょいっと示しながら笑いかけ、おかげでどうやらスプレイも安心したようだ。それを見て美緒が一言。
「あれ、この人と顔見知り?」
「ええ、スプレイくんとの関係ですか。彼がチューン・マンになる時、キェロが開発中だった先行者ボディに組むかどうかコンベンションが行なわれましてね。研究が未完成だった事もあって先○者1号となる栄誉を逃したのですよ、彼は」
 そ、それはスプレイくんにとって幸いだったかもと汗ジトになる美緒達と陰から見守る美沙達であった。


 そんな事をやっている間に……。そこに近づく者がいた。ある意味美緒達にも縁の深い者だ。『彼』は呟いた。
『久しい波動だ……。久々に暴れるとしようかの……』


「じゃ、わたし水着に着替えてくるね♪」
 スプレイに改めて先○者ボディに変えないかと詰め寄り、ある意味一触即発状態のキェロツーを無視し、美緒は麟太郎と小五郎にペコっとお辞儀してから女性用更衣室へと小走りに消えた。と同時に麟太郎の周りが賑やかになる。
「凄いじゃん、りんちゃん!!」
「どこで見つけたのさ、あんな可愛い子!!」
「羨ましいね、このこのっ!!」
 唖然として麟太郎は周りを見回した。美緒ほどの美少女が入ってきたというのに妙に静かだと思ったら、海の家の客全員が麟太郎のもとクラスメート達ばかりではないか。しかもどうやら全員いるようだ。小五郎と喧嘩していてまだ仲直りしていなかったはずの勇仔までがにこにこ笑って、当の小五郎の肩にしなだれかかっているのを見て麟太郎は悟った。端からクラス全員で麟太郎の彼女を拝もうという計画だったのだと。
「コゴロー、だましたね」
「人聞きの悪い。別に俺一人だとは言ってないぞ? 確かにお前が美緒ちゃん連れてここに来るよう仕向けたのは俺だが、計画を立てたのは俺じゃないしな」
 すっとぼけて言う小五郎のあとを受けたのはゆーちゃんこと勇仔だった。
「そうそう、計画を立てたのは実はわたし♪ 本当は卒業式の夜、まー……コゴローちゃんとこういう仲になってね、和解してたのよ。でも、コゴローちゃんがりんちゃんと話をするならわたしの事を上手く引き合いに出せば向こうも安心して乗ってくれるかなって思って」
 策士だ。そう、ゆーちゃんは正義感が強い女の子だけれど、でも悪戯好きなところもある少女なのだ。教頭の児童買春疑惑を白日の下に晒すほどの腕前を見せたほどなのだから。このあたりも美緒と似ている。
「しかし本当に凄く可愛い子ね。……で、どこまで進んでるのかな〜?」
 にいっと笑ったのは土方利美(ひじかた としみ)。ひっちゃんまたはトシちゃんと呼ばれる、ゆーちゃんの片腕とも言われる少女だ。興味津々という風でみんなが詰め寄ってくる。よくよく見ればクラスの担任だった芹沢かもめ先生までいるではないか。麟太郎は真っ赤になって、思わず回れ右して逃げそうになった。それを止めたのは誰あろう、美緒の声であった。
「麟太郎くん! えへ、どお?」
 水着に着替えた美緒がそこにいた。男性陣は皆完璧に心を奪われた様子で、彼女持ちは全員その彼女につねられている。(もちろん小五郎も勇仔につねられた)
 美緒はスポーティなツーピース水着姿だった。スポーティーだからといって色気がないかというとそうではない。胸のあたりはしっかりと……小さいながら膨らみを強調していたし、きゅっと引き締まったお尻も薄い生地越しに形がはっきりわかる。何よりおへそが見えるのが妙にエロティックだった。
 前面は白、背後が黒という構成で、背中、特に肩甲骨のあたりが露出するようになっているのは翼のことを考慮した結果なのか。そしてツーピースなのは……。そこまで麟太郎が考えた時には、クラスメート達が恐る恐る美緒に話し掛け、記念撮影やら始めていた。
 美緒はというとはじめ麟太郎のもとクラスメート全員がいる(しかも担任まで)というのに驚いていたようだったが、すぐに打ち解けて……何時の間にか小さな女王様といったおもむきで、彼らの間に溶け込んでいた。麟太郎は苦笑し、まあこういうのもたまにはいいかなと思いつつ、自分も水着に着替えに更衣室に向かうのだった。

「やっぱり美緒ちゃんは人気者だよね」
 そう思いながら麟太郎は自分の格好を確認した。競泳用の水着に白いTシャツ。ま、こんなものでいいでしょ。──自分が今、いかにとんでもない姿かまるで理解していない麟太郎はそのまま更衣室を出て行った。すると、ちょうど美緒ちゃんに友達の一人の武田が
「そうだ、せっかく海に来たんだから泳いでいったら?」
 などと声をかけているところだ。それで美緒も泳ぐ気になったのか、慌てたように麟太郎の腕を引っ張って駆け出した。
「麟太郎くん、泳ご!!」
「あ、美緒ちゃん? ちょ、ちょっと待って」
 Tシャツが濡れちゃう! という麟太郎の叫びは完全に無視され、美緒は麟太郎の手を引っ張りながら腰のあたりまで水の中だ。
「もう、美緒ちゃん。ちゃんと準備体操しなきゃ──うわっ!?」
 誰かに背をいきなり押され、一瞬水の中に全身飛び込んでしまう麟太郎。慌てて顔を上げると小五郎と勇仔だ。二人してVサインと一緒に笑っていたりする。
「もう、濡れちゃったじゃないか」
 苦笑する麟太郎。その麟太郎を美緒が意味ありげな視線で見つめていた。その頬が紅みをさしている。何だろ、と首を傾げたその時。
「フフ、麟太郎くん……♪」
 くすくす笑いながら美緒が麟太郎の手の中に何かを押し付けた。何、と思って見ると……。前面が白で背面が黒の水着の下部分ではないか。ということは美緒ちゃんの下半身は今……!! 一瞬で想像し、麟太郎の頬がぼっと熱くなり、事態に気づいた小五郎と勇仔が唖然と二人を見つめている。
 美緒が不意ににっと笑い、麟太郎にしがみついたかと思うと、瞬時にして水の中に潜っていた。凄い、と麟太郎は素直にそう思った。水を掻き分けて素早く泳ぐこの快感。もしかしたら美緒ちゃんはこれを教えたくてこんなことをしているのだろうか。
「ど、どこ!?」
 一瞬にして姿の消えた二人に驚き慌て、小五郎や勇仔が探し回る間に、二人は飯岡灯台の立つ岩場の影まで泳ぎ去っていた。
「み、美緒ちゃん……」
「えへ、驚いた? これがあたしの人魚形態よ。前話した事があったでしょ、天使と人魚は本来同じモノだって」
 うん、びっくりしたと正直に頷く麟太郎に、美緒はシャチの下半身そのものになった姿を岩の上に載せて、ほら、見てと声をかける。
「結城の力と九頭竜、天使の力を融合させた影響かね、他の人魚は脚がひれに変化するだけなんだけどわたしの場合は逆に脚が退化して、下半身全体がこうなるの。どうやらこの中身は尾の骨にあたるものがあるらしいわ」
 触ってみる? と訊かれたので、おずおずと手を伸ばしてみる。不思議だ。美緒の肌のほかの部分より弾力がより強い気がするが、すべすべとして滑らかでやはり柔らかい所があって、麟太郎が好きな彼女のお尻や太もものような感じであった。触ってみているうちに、麟太郎も己が高ぶっているのを感じていた。美緒のほうもすっかりソノ気になっているようだ。麟太郎の視線を誘導するように、わざと仰向けになって肝心な部分を手で示している。
「ほら、肝心な部分がこんな所に♪」
「あ、ほんとだ……」
 シャチ形態を保ったまま手招きする美緒に彼が顔を寄せていくと、手を回してきて強引に唇を奪われた。今度こそ誰にも邪魔されずに、ゆっくりとフレンチ・キッスを味わうことができた。
「ここまで秘密を晒したんだから……。麟太郎くん、ここで……ね?」
 紅くなって言う美緒に、麟太郎もまた紅くなって頷き返す。手がシャチ形態の美緒の下半身に近づいていって……。

 美緒達が姿を消してから数十分。もうしょうがないやと草刈ファミリーはみんな水着に気がえ、めいめい遊び始めた。
「スイカを割るぞ!!」
 雪人がよく冷えたスイカを持ってきて叫ぶ。それを見た紗慧がほら、とドーラを雪人の方へ押しやったが、ドーラは真っ赤になってそれ以上近づくことが出来ず、わたしがやルと言い出せなかった。勇気を振り絞って声にしようとしたその時、脇からにやっと笑いながら悠が手ぬぐいを手に俺が、と声を上げ、ドーラは忘れられてしまった。
 落ち込んだドーラに気づくこともなく雪人にくるくる回されてふらふらになりながら、悠はどうにか木刀を構えた。と同時に手ぬぐいの中に隠したウェアラブルPCを起動。叢雲3号機へ連絡をとる。
『スイカの位置についての情報。左後方43度。距離23メートル』
『右前方10度に修正。距離10メートル』
『右前方30度に修正。距離2メートル……』
「ズルするな!!」
 雪人の声と共にウェアラブルPCもろとも手ぬぐいを取られる悠。
「何するんだよ!! だって兄貴ほかみんな、「力」か気の流れですぐにスイカの位置が分かっちまうじゃんか!!」
 喧嘩が始まった。それを尻目に、スイカを持ち去った美月がルナに目隠しをし、さっさとスイカ割りをはじめてしまう。結局割って見せたのは4番目に挑戦した翔だった。

「せっかくですから、最新の先○者マーク8ボディに改造して差し上げようと、こう言っているのですよ」
 あくまでもにこやかに、笑みを崩す事無くキェロツーが交渉するのに対し、スプレイもまたあくまでもさわやかに返す。
「真っ平ごめんだぜ、プシュー」
 がしッ!
 キェロツーとスプレイ、二人の手と手が組み合わされ、互いに歯車を激しく回転させる。足場が砂ということもあって上手く力が入らないのか互いに足踏みするようにしていたが、相当なエネルギーがぶつかり合っているのがみしみしという嫌な音でよくわかった。
「いかがですか!? 最新のボディの威力は!? 万が一壊れても再生する金属で構成されているのですよぉ!!」
「プシュー、んな訳わからねー体にされてたまるかよ!! どっか他所をあたってくれ!」
 二人がこれでも結構マジな攻防を繰り広げているその傍らでは、フリル付きのピンクの水着をつけた美花が神威、先○者マーク7軍団、そして麟太郎のもと級友の一人で、腰まである黒髪を首の後ろでまとめている、なぜかうさ耳カチューシャをつけたスクール水着の美少女と一緒に砂のお城を作って遊んでいた。
「ピピッ、砂ヲオ持チシマシタ」
「ありがと♪ そのバケツを逆さにしてそこに……そうそう♪ はい、ワンちゃん、マークつけて♪」
「またかよ」
 先○者マーク7がバケツで作った砂の塔に、美花が胸に抱いた神威がぺしぺしと前足を叩きつける。こうして神威の肉球マークだらけの塔が次々完成していくのだった。その美花たちの傍らで、うさ耳カチューシャ少女が黙々と城門を作っている。
「ありがと、沖田さん♪」
「……こういうのは嫌いじゃないから」
 沖田総美(おきた うさみ)。もと新鮮組最強の剣道娘として名を馳せた少女である。ただかなりの変わり者で、寡黙な上になぜかうさ耳カチューシャを身につけたり、いざ話をしても『ぽんぽこたぬきさん』などと意味不明の会話をする。なぜか美花と気があうらしく、さっきから一緒に遊んでいた。
「……!!」
 不意に総美が振り向いた。その先には、海があるだけ。美花と神威が一緒になってふに? と首をかしげると、彼女は厳しい目つきで声に出した。
「何か、来る……。わたしは戦わなくてはならない。わたしは彼の者と戦う者だから……」

「ねエ、あれ、何!?」
 ドーラの声に振り返った紗慧と梓は言葉を失った。
 壁だ。
 正確に言うと、海の彼方から白い壁のような物が迫ってきているのだ。こんな所でこんな物といえば、壁の正体は一つしかあるまい。
「津波ヨ!!」
「馬鹿な、今の所どこでも地震は発生していません!!」
 ちょうどラジオに耳を傾けながら冬花の膝枕で横になっていた樫緒が跳ね起きながら叫んだ。しかし現に、津波は恐ろしい勢いで迫りつつあった。
「ひ、避難を!! 高い所へ逃げなくては!!」
「でも……!! 高い所ってどこへ!?」
 思わず叫んだ鷲士を美貴の声がさえぎる。鷲士は青ざめた。そうだ、ここは千葉県の九十九里浜。すぐ近くの高い所なんてありはしなかった。せいぜいが高い建物の屋上といったところか。しかしあの津波は15メートル以上にはなりそうだった。
「ここは僕達が!!」
 叫ぶ樫緒。と同時に、とうとう泳いでいた人たちのすぐ目の前にまで迫っていた津波が何か壁にぶち当たったように更に高くなってから崩れ落ちるように砕ける。そこに青白い火花が……樫緒が「力」で壁を作って跳ね返したのだ。
「やった!」
 美貴が叫んだが、しかし樫緒の顔色は優れない。
「まだまだです。第2波、3波が近づいてきている。全力を尽くしますが、支えきれるかどうか」
「大丈夫!!」
 叫んだのは美月だ。
「何のために兄弟姉妹がいると思っているの!? わたしだって!!」
「美花も手伝う〜!」
 更に愁、沙貴、美魚も「力」を展開した。完全に日本の沿岸部をカバーした「力」の壁は、完璧に津波を跳ね返していく。よし、と誰もが思った時だ。
「……来る」
 総美の声と共に空から何かが降ってくる。軟体動物のような、甲殻類のような──一言で言えば、旧世界の支配者達のような生物群だ。そして彼らが放っているのは、明確な──殺意。
「くっ!」
 樫緒が「力」をコントロールして美花に襲い掛かった一体を塵も残さず吹き飛ばしたが、しかし数が多い。樫緒自身も狙われたその時、彼はちょうど美月に襲い掛かった一体を片付けている所だった。樫緒はまだ気づいていない。そのオーム貝にカニのハサミと脚が付いたような奇妙な生き物……ただし、相当でかい……が樫緒に触手とハサミを伸ばして……
「危ねえ、兄貴!!」
 横から飛び出した雪人が右竜徹陣で怪生物を粉砕した。
「雪人……!!」
「ああ、安心してくれ、兄貴! 化物どもは俺たちに任せるんだ!」
 雪人だけではない。悠も最近発明したばかりの新兵器を試そうといそいそと準備していたし、ルナリムもシザーハンズや笛で戦いの準備をすすめている。翔と美琴も互いにかばいあいながら戦っていたし、もちろん我らが草刈鷲士はすでに数体を片付けて美貴の歓声を受けていた。
 総美の刀(どこに隠し持っていたのだろう?)が、ドーラの鞭が、紗慧の鋼線が、梓の八岐大蛇化した草薙剣が、冬花の天之尾羽張が振るわれるたびに怪物どもの残骸が散らばる。不毛な戦いをやめて参戦したスプレイの強引な手刀が化物を寸断し、キェロツーの号令のもと、いっせいに股間のプラマダッターを発射、敵をいっぺんに吹っ飛ばす先○者マーク7軍団。こいつらは敵に回すと違う意味で凄く厄介だったが、味方にすると案外頼もしい。その乱戦のさなか、愁があれ?と首をかしげた。
「何でだろう……? 力が、尽きない」
「お前もか?」
 雪人の声に頷く愁。彼は最近九頭竜を習い始めたばかりだ。その愁ですら、こうだ。雪人に至ってはいつも以上に激しく戦っても限界が無いような気がしている。
「この感じ、僕は知っている。……神の一人と戦った時もこんな感じだった。何でも神や仙人といった強大な存在が現れる時は、まわり一帯の気の流れが強くなり、九頭竜の使い手はその気の流れを吸収しながら戦うことができる……つまり九頭竜は神を相手にする時自動的に強くなるようになっているんだ」
 鷲士が語る。その声に雪人ははっと気づいたように叫んだ。
「じゃあ、何かよ親父!? 今、神に匹敵する奴が近づいてきてるって事か!?」


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