DADDYFACE SidetStories
「DADDYFACE-OLD結城(麻当)美貴の場合」
written by 星野洋



 あの時以来、私はいつも通りの日常を生きていくことに努めた。
 いろいろなところで無理は出てくるかもしれない。
 でも、約束したから。
 ”忘れない”って。
 私のせいでしゅーくんに大怪我をさせてしまった。
 だから私は、どこかで私のことを想っているかもしれない彼に、
 ”私は大丈夫だから”って、
 精一杯笑って言えるように、
 いつか彼と会っても、彼が心配することのないように、
 そんな風に生きていきたいと思う。



 日常はすぐに過ぎていく。
 自分というものに実感を感じられないのならなおさらだ。

 ―さみしい。
 ―会いたい。
 ――あの笑顔が、見たい。
 
 そんな思いは、すぐに溢れてきた。
 こんな事では、また彼に心配させてしまう。
 でも、それでもこの気持ちは、押さえる事ができなかった。

 ――自分を保つことが、できなかった。


 
 双子の存在は、私にとって、重要だった。
 私の子供。
 しゅーくんとの、子供。
 私の視線はすぐに、遠い過去へ、そしていつか彼と会える未来へと飛んでいたけれど。
 それでも子供達がいたから、私は現在という現実に留まっていられたのだ。


 
 私にとっての日常とは、彼と共に居る事だった。
 ならば、それが失われたのなら、
 私はどこに生きているのだろう。
 どこに生きていけばいいのだろう。
 もう一度、前を見よう。
 私は母親なのだから。
 一人ではないのだから。


 
 私の心は、あの時から凍りついたままなのかもしれない。
 あの、太陽のような笑顔を失ったときから。
 いつか、また、あの太陽に出会えるだろうか。
 あの時のように、
 私の凍てついた心を溶かしてくれるだろうか。
 降り注ぐ慈雨のように、
 乾いた私の心を潤してくれるだろうか。
 彼は私のことを忘れてしまったかもしれない。
 それは、とても怖い想像だった。
 それでも、私は待っていた。

 あの人を―――。


 
 「っ!!・・・・・」
 私は誰かに呼ばれたような気がして目を覚ました。
 「しゅーくんが呼んだ気がしたんだけどな・・・・。」
 鷲士と離されてからの自分の事を考えると”幻聴”の一言で片付けらてしまうかもしれない。しかし確かに私は鷲士の、”しゅーくん”の声を聞いた気がした。
 「そうだね、しゅーくん。私がしっかりしなきゃダメだよね。私、お母さんなんだもんね。しゅーくんと私の子供なんだもんね。ね、美沙、樫緒。」
そういって私は隣で熟睡する双子に微笑んだ。
 よく似た顔をした二人の赤ん坊が幸せそうに眠っている。少し私似。しゅーくんに似なかったのはくやしい。彼はカッコよかったのに・・・。
 「しゅーくん、絶対に・・・また会えるよね・・・・。」
 私は空を見上げる。
 空には満天の星空と銀の満月が輝いていた。
 「しゅーくん・・・・」
そして私は祈る。願いが天に届くように・・・。




 少しづつ、少しづつ、時は流れていく。
 彼の居ない日常にも慣れ始めた。
 さびしい気持ちは変わらないけれど、
 会いたい気持ちは変わらないけれど、
 私は前へと進み始めた。
 子供達に心配させないように。
 ”彼”に心配させないように。
 そして、私自身のために。
 ”彼”と私の、未来のために。
 そのためにはしなければならないことがある。
 それは――――。



 「やはり・・一緒にはいけない?」
 身の回りのものとしゅーくんとの「こんやくゆびわ」だけをもって、私は振り向いた。
 目の前には、結城の屋敷。
 長い間、一人の少女を閉じ込めた、檻。
 そしてこれからも、私の家族を血族という名の鎖で縛っていくであろう、場所。
 そしてその前に、私の家族。
 美沙と、樫緒。
 「わたし、もう少しがんばるつもり。みんなにわたしの事を認めさせてやるんだから」
 「ぼくは・・・少なくともこの家の跡取ですし・・・」
 私は嘆息するしかなかった。
 この強情なところは誰に似たんだか・・・。
 でも、この二人はしっかりしたコだから。
 ”彼”と私の子供達なんだから。
 私が心配すべきことではないのかもしれない。
 いつの日か、私とは違う方法で、己の進むべき道を歩んでくれるだろう。
 私はそのときに手助けをすればいい。
 だから――
 今は歩き出す。
 私自身のために。
 ”彼”との、未来のために――。


 さらに数年の時が経った。
 美沙は、自分で設立した会社が順調に大きくなっていた。
 樫緒は、結城という檻の中で、それでもがんばっている。
 二人とも、自分なりの道を歩き出したのだ。
 でも、私はまだ”彼”と出会えなかった。
 会えばすぐにわかる自信はあるのに―――。


 それはファミレスの前のことだった。

 「────ゆうちゃん!?」
 「違います!」

 ・・・・・やってしまった・・・・。
 せっかく”彼”と出会えたのに・・・。
 彼は約束を守ってくれたのに・・・。
 でも、とうとう彼と出会えたのだ。
 いつか、彼がまた聞いてくれたとき、
 今度こそ私は答えようと思う。
 「うんっ」
 って――――
 彼は昔のように微笑んでくれるだろう。
 あの太陽のような笑顔で――――――



 まさか・・今日のことをあんなに長い間、悔やむことになるとは思わなかったけど・・・・・・・(汗) 


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