DADDYFACE SideStories
「裏家業も楽じゃない」(1)
written by アルディー



毎度毎度異常に熱く、寝苦しい夜もいまや昔、世間はすっかり秋の装いである。 
もちろんここ、風刈町も例外ではない。 
「やっぱり、寒い夜はおでんだよね・・・」
アパートでお鍋をガスコンロにのせながら我らが草刈鷲士はそう呟いた。 
古い土鍋ではがんもどきや、大根、つみれ、はんぺんなどがぐつぐつ言いながら踊っている。 
「お鍋って一人で食べると寂しくなっちゃうんだけど・・・今は美沙ちゃんがいるし・・・」
少し照れ笑いを浮かべながら壁に掛かっている時計に目をやる。 
今日は日曜時間は夜の八時、テレビでは日本が誇るひいき球団の『野球の試合』を放送している。。 
「なんか今日、友達と出かけるって言っていたけど・・遅いな・・・大丈夫かな? もしかして・・・
何かあったのかな・・・」
鷲士が心配のあまり狼狽し始めたそのとき
「・・・・・・・」
「み・・・・美沙ちゃん・・・ど、どうしたの!?」
無言で帰ってきた美沙を見て鷲士は声をあげた、服は埃まみれ、ところどころ切れている部分もある。 
美沙はそんな鷲士の声に耳も貸さず、ずんずんと中に入っていく。
「み・・・・美沙ちゃん?」

ブチン!!

何を思ったのか、テレビのコードをはさみで切ったのだ。とたんにテレビはただの粗大ゴミになって
しまった。
「な・・・何してるの? 美沙ちゃん?」
漆黒になった画面を呆然と見る鷲士・・・
「バット・・・なんて・・・・・だいっきらい!!!!」
「はあ?」
「くけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
奇声を上げて暴れまわる美沙。
「わわわ、ちょっと落ち着いて!」
「もごごご! もごぉぉぉぉぉ!!」
何せここは長屋のようなボロアパート、皆住んでいるのはいい人ばかりなのだが、せっかくの日曜の
夜、できれば騒々しくはしたくない。
美沙の口をおさえ、必死の説得を試みるが効果は見られない。
「ああもう! いったい何があったんだよ〜〜〜!!」
ひとしきり暴れて疲れるまで、美沙の暴走は続いた。

三時間後・・・

「えっと・・・まとめると、FTIで中国の遺跡を攻略していたら、邪魔が入ったと?」
おでんをハフハフ言いながら美沙がうなずく。 いまだに不機嫌そうではあるが。
「今回はそんなにヤバゲのミッションじゃなかったから・・・ヴァンとか冴葉ちゃんに任せといて、
最後だけ私が出張ったの・・・・」
「そうしたら、邪魔が入った・・・・もしかして・・・ミュージアム!」
「ちがう・・・ある意味もっとタチが悪いの・・・あれは・・・『運び屋』! しかも最悪の・・・
ああ、今思い出しても腹が立つ!」
「あ、あのさ・・・運び屋って・・・なに?」
これ以上暴れられては大変だ、鷲士が慌てて話をそらす。 
すると、トテトテと自分の部屋に戻っていった美沙はそこからノートパソコンを持って来る。 
そして再びちゃぶ台に戻ると起動させ、キーボードを叩いて『メリーアン』のホームページを映し出
した。 
さらにそこにある『掲示板』にカーソルを合わせてクリックする。 
「運び屋って・・・トレジャーハンターの事?」
画面に次々と映し出される探し物依頼の文字、その中には探し人と言う所もある。 
依頼額は一千万からウン十億まで様々ではあるが・・・
「ま・・・当たらずとも遠からず、って感じかな。 運び屋っていうのはねここにある依頼にあるも
のしか追わないの。 そんでもって、ゲットした物を依頼主に引き渡す・・・依頼主に希望の物を
『運ぶ』。だからそういう人間のことを『運び屋』って言うんだ・・・ここに書いてある依頼額の何
倍もの値段をつけて吹っかけてね 」
「な・・・何倍ぃ?」
「そ、だから依頼主もそれを考慮して値段を提示しているんだけどね。 それが運び屋が満足する
額じゃないと売らなかったりするの。 だから私たちとはは少し違うし、変な美学を持っているハン
ターたちからは疎まれたりすんのよ・・・ってあら?」
画面をなんとなくスクロールさせていた美沙の指が止まる。 そこには

『依頼物 犬  報酬額 五百億』

の文字、美沙の目が輝く。
「五百億っていうはした金は興味ないけど、『五百億』の価値がある犬っていうのは気になるな♪」

「うう・・・またなんか嫌な予感・・・」
舌なめずりをした美沙の横で鷲士は長々と情けないため息を吐くのだった・・・。


同日、同時刻。 
とあるオフィスの一室で美沙とまったく同じ画面を見ている人間がいた。 
柔らかそうなブラウンの軽くシャギーのかかったショートカットの髪、黒い瞳。 
少し浅黒い肌ではあるが、容貌は十分美少女と形容するにふさわしいかもしれない。 
しかし、まだ美沙と同じぐらいの年であるはずの彼女は少し変わった服装をしていた。 
クリーム色のつなぎ上下を着ていたのである。しかも背中には猫の肉球をあしらったロゴマークと

『神奈(かんな)運送』の文字。

「おっしゃー、今度の運送仕事は犬よ! 五百億の犬!!」
立ち上がり、ガッツポーズをした彼女の横で木製のバットがカランと音を立てた。

今回の依頼者は日本の資産家『皆藤 英二』。 一線は退いているんだけど、かつての日本の裏社会
を支えたじじいでね。 総資産は一千億はくだらないって言われてるの」
カンタくんから降りた美沙と鷲士は、西洋風の邸宅の中に入っていく。 
鷲士もきっちりとタキシードで正装しているし、美沙もきらびやかなドレスに身を包んでいた。
「え? でも依頼額は五百億だよ? 総資産の半分も払うの?」
「ううん、この総資産には彼の趣味の品は加えてないの」
「趣味?」
「そう、皆藤はね。 超一流の美術コレクターなんだ。持っているコレクションの数はまったく
未知数・・・さて、ここで鷲士くんに問題で〜す。 元裏社会のドン、美術品マニア、そして五百億
の犬・・・これからはじき出されるものは・・・なんだと思う?」
「もしかして・・・・・ハイ・アート絡みかもしれないってこと?」
「そゆこと・・・今日、たまたま皆藤のところであいつの米寿の記念パーティーがあってよかったわ。
まずは情報収集! だって犬って言ってもまだ『ミニチュアダックスフンド』としかわかっていない
んだから・・・それじゃ、レッツらゴー!!」
鷲士の手を取り、美沙は建物の中に入っていった。 


皆藤邸、裏側。 この家で働く者たちが利用する裏口がここにある。 
「さ〜、キリキリいくわよ。 ほら結枝(ゆえ)。 」
「まってくださいよ〜〜社長!! 神奈社長ぉ!」
神奈運送のツナギを来た二人の女性が中に入っていく。 
一人はショートカットの『社長』と呼ばれた少女。 そしてもう一人は、ブルネットの長い髪を大きな
みつあみにした大きな丸眼鏡をかけた大人の女性。 
碧眼で少したれぎみな瞳がそうさせるのか、170センチぐらいはある背丈とは裏腹に幼い印象を
持たせる。 二人は裏門をくぐり扉に手をかけようとするが、そこを前に立っていた黒服の男に止め
られる。 
「おい、なんだお前ら?」
凄みのある声に結枝と呼ばれた女性はビクっと方を震わせたが、神奈社長のほうは平然とかぶっていた
帽子をとり挨拶をする。
「ちゃーす、『ゆりかごから墓場まで』でおなじみの肉球マークの神奈運送でございま〜す。 今日は 
お届け物を持ってまいりました〜〜」
「届け物? そんなことは聞いていな・・・むぐ!」
神奈から男の口にハンカチを押し当てる。 
睡眠薬かなんかが塗ってあるのか、もんどりうって倒れてしまった。 
「お届け物はあなた様に・・・素敵な夢をってことで! まいどあり〜〜」
男を叢に隠すと二人はそのまま入っていってしまった。 


「おうおうおう・・・わしの米寿にFTIの秘書さんが来てくださるとは・・・これでわしの人生に
もハクがつくわい」
大きなパーティー会場で車椅子に乗った白髪のヨボヨボ老人、英二は豪快に笑った。 
その隣には片桐冴葉の姿がある。 美沙達の一足先に来ていたのだ。 
さりげなく近づいた美沙が冴葉に目配せで合図をする。 
うなずいた冴葉は唐突に切り出した。 
「ところで・・・皆藤さん、貴方は相当な愛犬家だと聞いていたのですが」
「そうじゃよ、犬と美術品はわしの人生だ」
「そうですか・・・私も犬が好きでして、例えば・・・ミニチュアダックスフンドとか?」
英二の顔が引きつる。
(脈あり・・・)
美沙が小さくガッツポーズをする、回りの男たちが慌てて何か声をかけようとしたとき・・・
「うおおおおおおおおお〜〜〜ん  シルバちゅわあああああん!!!」
いきなり英二が泣き出したのだ。 しかも号泣、かなりみっともない。 
これがとても元裏社会のドンだったとは思えない。
「なぜじゃ・・・なぜ・・・どこにいってしまんたんじゃシルバちゃああん・・・うおおお・・・
わしは・・・わしを置いてどこにいてしまったんじゃああ!!」
「英二様、落ち着いてください! おい、はやくあれを!」
「はい!」
慌ててメイドたちが部屋から出て行くと、いくつもの檻を運んできた。 
なかにはギッシリとミニチュアダックスフンドが入っている。 
「うおおおん!! そんな偽者じゃわしの心は癒されぬううううう」
喚きつづける英二の横で、冴葉が肩をすくめる。 美沙も大きく溜め息。
「な・・・なんか・・・情報聞くどころじゃないみたいだね」
鷲士が汗ジトで言う。 
「もうすっかりボケジジイになってるわ・・・ダメね・・はあ、犬なんだから帰巣本能で帰ってく
ればいいのに・・・」

キャン!!

美沙がそう呟いた瞬間、入り口のほうで犬が吠える声がした。 
「え・・・マジ?」
ゆっくりと振り返った美沙の視線の先にあったのは・・・。
ドロドロになったダックスフンド。
「あれは・・・シルバちゅわああああああん!!」
それを聞いて一斉に男たちが走る。 
「いそげ! 逃げられるとことだぞ! 」
「鷲士くん! 捕まえたもん勝ちよ! 急いで・・・・ぷぎゃ!」
駆け出した美沙が声をあげる、バランスを崩し、床に突っ伏したのだ。 
「うぐぐ・・・何すんのよ!」
美沙が赤くなった鼻を抑えながら、メイドの一人をにらみつける。 
メイドの女性の足が美沙を引っ掛けたのだ。 
「これは『運び屋』の領域よ〜ん♪ トレジャーハンターのあんたはすっこんでなさぁ〜い」
ふふんと笑う。
「出たわね・・・神奈牡丹(ぼたん)!! あのときはよくも邪魔してくれたわね〜〜、あの遺跡は
私が攻めてたのよ!!」
「あ〜ら、遺跡を攻めるのに予約がいるのかしら?『私より胸が三センチも小さい』結城美沙さん?」
「き〜〜〜また言ったぁ!!」
「おお、何度でも言ったらぁ! おかけでこっちは前回の運送仕事、赤字だったんだからなあ!!」
すでに犬そっちのけ、ガルルルル・・とにらみ合う二人。 
一触即発の二人・・・慌てて止めに入ろうとする鷲士。 
しかし、その行為は徒労に終わった。 
二人の喧嘩はガラス窓を突き破って入ってきた突然の珍客で中断される事になったからだ。

・・・・・そう、武装した黒服の招かれざる客に・・・・

武装者は次々と中に入って行くと、各々手にナイフやスタンガン、警棒などを手にとる。 
顔は目だし帽をかぶっているので特定は出来ない。
メイド姿のままの神奈牡丹と早くも裾の長いドレスを手で裂き、グロックを取り出した美沙の周りに
もその戦闘服の男たちは集まっている。 
「これどう思う? あんた」
背中合わせに立っている牡丹に美沙は尋ねる。
「まあ・・・格好だけね、こいつら。 ミュージアムってわけじゃないみたい。 しかも銃を一丁も
持っていない・・・持てなかった・・・ううん、多分『持たせなかった』・・・たぶん皆藤の周りの
人間ね」
「やっぱ、そう思う? あのボケジジイが自分でメリーアンにあの依頼書を掲載するは思えないし、
破格の値段をふっかけて、返り討ちにする算段である程度武装した人間を配置しておいた。でも犬が
自分で帰ってきたからさあ大変。傷つけないよう捕まえるためにに銃は置いてきた・・・って所かな」
「それでどうすんの? 」
指をパキパキ鳴らしながら牡丹。
「そんなの決まってるでしょ・・・」
二人の美少女が、笑う。

『強行突破よ!!』

二人の声がシンクロしたと思うと、牡丹がテーブルに置いてあるワインやら、こしょう瓶やら、
タバスコ・・・などを次々放り投げる。 そこを美沙が的確に射撃して破壊する。 
頭の上に降りかけられた調味料が戦闘員を襲う。 
直撃したのか、目を抑えてもんどりうって倒れる者もいる。 
「結枝ぇぇぇぇぇぇ!!」
「あいあい♪」
ワインの瓶で戦闘員の頭を殴っていた結枝は返事をすると、柱の陰に隠しておいた鞄の中から何かを
取り出して投げる。
空中でくるくると回転しながら自分の所に飛んできた『それ』を、牡丹はキャッチする。 
それは・・・・バットだった。
木製のバットなのだが、ところどころ『何かで』赤黒く汚れていたりする。 
それを持った牡丹は短いスカートも気にせずに助走をつけて飛ぶ。
「むぎゅ!」
前にいた戦闘員の顔を踏みつけてさらに高く跳躍。 
「堕ちろおおおおおおおおおお!!」
落下点には別の戦闘服の男、そいゆにむかって落下速度をプラスしたバットの一撃が脳天に振り下
ろされる。 しかし、直前でバットの柄を持ちかえる牡丹。
リーチが変わり、バットの切っ先は男の顔の目前で空を切った。
「は・・・はは・・・」
恐怖のあまり失神した男が仰向けに倒れる。 牡丹の動きはそれで終わらない。 
さらに横に走ると、そのままフルスイング。 脇腹に強烈な一打を加え戦闘員を吹っ飛ばす。 
「このアマぁぁぁぁぁぁ!!」
怒りに我を忘れた戦闘員の一人がナイフを牡丹に投げる。 
太い腕から放たれたナイフはスピードも速い。 だが、これを見た牡丹はにやりと笑う。
「そんなヒョロ弾・・・しかもど真ん中ストレートでぇぇ。 私に投げようなんて・・・・・」
バットの先を一度、男に向けると構える。 まるでそこがバッターボックスであるかのように・・・
「一億年・・・はやいっつぅの!!」
一閃、強烈なピッチャー(?)返しをお見舞いする。 
方向転換したナイフは戦闘員の目だし帽を引きはがし遥か後方の壁に突き刺さった。 
「む・・・むちゃくちゃだ・・・」
男の記憶はそこでしばらく途切れる。 
脳天に振り下ろされた木製バットによって昏倒させられたからだ。


二人に増えたチビ魔王を見ながら、鷲士は口をあんぐりあける。
こちらでも気を失った戦闘員がゴロゴロしていることから察するに鷲士も力をセーブして戦っていたようだ。 
「相変わらず・・・似た者同士ですねえ」
そこにコロコロ笑いながら結枝が近づいてくる。 
「お久しぶりです、神足(こうたり)さん」
冴葉が彼女に頭を下げる。 
「いえいえ、こちらこそ〜。 CEOさんにはお仕事の方で、美沙さんには学校のほうで、うちの
牡丹がお世話になってますぅ〜〜」
悲鳴響くこの場所を忘れてしまうような、のほほんとした笑顔で頭を下げた。 
「え? あの子カト女なの?」
「はい〜 カト女は外のガードも厳しいから、社長みたいな仕事している人が行くのにちょうどいい
んですよ〜・・・え〜と、鷲士さん。でしたっけ?」
「はい・・・でもどうして僕の名前を?」
「いやですよ〜、裏の世界でダーティ・フェイスの顔を知らない人はいませんよ〜」
「ははは・・・違うんですけどね・・・・」
鷲士はがっくりと肩を落とした。 


「え? マジ? こっち来るの? バカ、だったら早く言いなさいよぉ!!」
意味不明な声を上げて美沙が鷲士のところに走ってきた。 
「ど、どうしたの? 美沙ちゃん!」
「ちょっと、結枝! すでに連絡してあるってほんと?」
美沙が結枝の襟を掴み、ゆさゆさと揺する。 
「あれ〜・・・そういえばそうだったかもしれませんね〜 あ、ほんとです。 もうこんな時間です。
犬を見つけたらひと暴れして逃げるつもりだったんで〜・・・てへ」

ドゴオオオオオオオオオオオオン!!

舌を出して結枝が笑ったのと同時に正面玄関のほうから轟音が響き、一台のトラックが突っ込んでく
る。 トラックの荷台の側面には、肉球マークと『神奈運送』の文字。 
荷台が開き、中から十人強のツナギを着た男たちが出てくる。 
「それでは〜 皆さん、お仕事ですよ〜。 しっかり給料分働いて下さいね〜」
「「「「は〜い」」」」
男の野太い声がすると、手にしていたサブマシンガン『スコーピオン Vz61』を連射する。 
逆に牡丹はすばやく荷台の上に駆け上り、置いてあったバケツいっぱいの硬球ボールを引っ張り出し
「おらおら〜 地獄の千本ノックよ〜」
と叫んで戦闘員に向かってバットを振るう始末。 硬球は確実に脳天にヒットしていく。 
皆藤の連中も予想外の反撃に狼狽していて、皆藤英二を部屋から引っ張り出すのに精一杯のようだ。
「あ、そうそう。 持っている銃の弾はゴムスタンですから〜 、ご心配なく〜」
結枝の間の抜けた声に、鷲士と美沙はうなだれた。 冴葉は何か無線でやり取りをしている。 
「ねえねえ、美沙ちゃん。 僕、昨日美沙ちゃんが起こってた理由、わかる気がする・・・」
「わかってもらえて光栄だわ・・・」
鷲士は美沙が言っていた『邪魔』の様子を今この場で見ている気がして、さらに深い溜め息をついた。


ちなみにその頃、五百億円の犬は・・・
「くぅ〜ん」

テーブルの影で震えながら、ごちそう目当てで帰ってきてしまった自分の行いに、
激しく後悔しているのであった。
皆藤邸が見渡せるところに存在するビルの屋上。 そこに数人の男女が立っている。 
「現在皆藤の人間と『運び屋』達が交戦中との事、いかがなさいますか? ルボール様?」
ルボールと呼ばれた真っ赤に染めたボブカットの女性はフッと笑う。
「まあ、『鍵』はあとでいくらでも取れるし・・・わざわざ喧騒の中に身をおく必要もないでしょ?
でも・・・ただで帰るのもなんか癪だからぁ」
パチンと指を鳴らし、合図をする。 
男が持っていた小型ミサイル、スティンガーが火を噴いた。
「記憶のオルゴールはこの私が頂くわよ・・・」
そんな呟きを残し、女性はその場を後にした。


「ボス、『ラジコン』軽装ニ機、監視用一機が上空に旋回中です・・・いつでもいけます。社員は
あと三十分ほどで到着との事」
冴葉が美沙に耳打ちをする。 
あらかた片付いてしまったパーティー会場。 
「ああ!! そういえば! 犬は!」
テーブルにあったゆで卵をバットで飛ばし、眉間にヒットさせた後で牡丹が我にかえる。 
「犬ぅ・・・五百億の犬ぅ・・・飯のタネぇ・・・」
飢えた狼の目で周囲をサーチする。 
「くぅ〜ん」
「あ・・・いたあああああああ〜〜〜〜」
ニヤリ、と不適に笑う。 ダックスフンドのシルバちゃん(♂)は震え上がっていた。 
牡丹の狩る者の瞳に・・・シルバは勘違いをするほどに
『喰われる』
と・・・。
牡丹が手を伸ばす・・・
「きゃっ!」
突然の大きな震動に牡丹はバランスを崩し転んでしまう。
「いきなり・・・なによお!」
外は昼間のように明るくなり、火の粉がパラパラと振っている。 
「おい! 小型ミサイルなんて聞いていないぞ! ・・・くそっ! お前らはやく『鍵』を見つける
んだ!」
皆藤英二を避難させ、とんぼ返りをしてきたスーツの男が叫ぶ。
(鍵・・・)
美沙がその言葉を聞き、思案をめぐらせようとする。 
しかし、それは突然の獣の声でさえぎられる事になる。

ワンワンワワンキャワンキャンワキャワンワンキャン・・・プキャン!!

降ってきた破片の落ちどころが悪かった。 
大きな破片がちょうど檻の端を破壊し、閉じ込められていたシルバの代わりとして飼われていた数十
匹の犬も洪水が巻き起こった。
戦闘中断、周りではみなそれぞれが犬探しをする羽目になってしまった。


「あったああああああ!!」
「よくやった! 外に車が待たせてある! いったん逃げろ!!」
皆藤のお付の人間がだらしなく舌を出したシルバを高く掲げる。 
そしてスーツの男の指示ですぐさまダッシュ!!
「ああくそ、やられた!! 結枝、後を追うわよ!!」
「あいあ〜い♪」
高そうなワインの瓶を持ってきたバッグに入れていた結枝と共に牡丹が男の後を追う。 
「それじゃ〜皆さん〜〜接待よろしくお願いしますね〜〜」
といって社員にウインクをする結枝。
「あ! 待ちなさいよ牡丹! 鷲士くん! 私たちも行くわよ!!」
「み・・・美沙ちゃん前!」
美沙の前方を指差しながら鷲士
「え・・・・ぷきゃ!」
情けない悲鳴をあげる美沙、それも無理はない。 
前方から飛んできた犬のお腹がバフ、とヒットしたからだ。
「会社経営は競争社会よ〜〜 そんじゃま、お先に・・・ばっはは〜い!」
後ろを振り返らずにひらひらと手を振る牡丹。 
「み・・・みさちゃん・・・」
ゴゴゴ・・・と怒りを炎を燃やす美沙に恐る恐る声をかける鷲士、顔ではしがみついた犬がワン、
とほえる。
「いい度胸じゃないのよおおお!!!」

再びそこは戦場になった。 しかしこの戦場は
犬が右からポ〜ン!  犬が左からポ〜ン!
の情けない戦場ではあるが。
「くのくのくのくのくのくの〜〜〜〜〜」
むんずと掴んだダックスフンドを手当たり次第に投げる美沙。
「だめだよ! 生き物を投げちゃ・・・・ぐえ!」
止めようとした鷲士にも容赦なく犬がヒットする。
「ボス、逃げた男の車を『ラジコン』が捕捉しました。」
「そう! ナイスよ冴葉ちゃん・・・って」
振り返った美沙はがジト目になる。 それも無理はない、冴葉の頭の上にはちょこんと子犬のダック
スフンドがちょこんと乗っていたからだ。 
子犬はきょとんとした目をしている。 
冴葉は咳払いをして一言・・・・

「ええ・・・これはこれで・・・嫌いではありませんので」
それに呼応するように犬がキャイン、と吠えた。
猛スピードで、車をかいくぐり高速道路の入り口に向かって走る黒塗りのベンツ。 
その中には丸くなっているシルバ。 
「へっ 軽いぜ・・・」
道路の先を凝視しながら、男が笑う。 しかし男は知らない・・・
誰を相手にしたかを・・・。

その車の遥か上空、『それ』は確かにあった。 
灰色のボディをしたそれはどこかおもちゃの飛行機を大きくしたような印象を受ける。 なぜか? 
それは多分『コックピット』がないからであろう。
全て灰色一色のその機体はそれでも確かに存在していた。
機体は合計三機、そのうち二機は50口径マシンガンを備えている。 
あとの一機は機体上部にレーダーを背負っている。
へロン無人偵察機、ジェリコ、UZIなどの銃でも知られているイスラエルのIAI(イスラエル・
エア・インダストリーズ)の開発したものだ。 
右翼にFTIのロゴがあるところを見ると、いろいろいじっているようだ。
これが美沙の言うところの『ラジコン』。 
ラジコンはひっそりと、しかし確実に黒ベンツを追っていた。 

「おりゃあああああ!! 前進!!」
ひっそりと追っていない一団もあるが。
「なっ!!」
ベンツの男はバックミラーに写る軽トラックを見て絶句する。
追ってきているのだ。いつのまにツナギに着替えたのかはわからないが、あの顔は確かに神奈の連中
だ。 どういった作りをしているのだろう? しっかりとベンツに張り付いている。 
2台の車はインターチェンジに入っていく。 

「あぢあぢあぢあぢぃぃぃ〜〜〜〜」
軽トラック内で牡丹が悲鳴をあげる。 車内温度計も異常に上がっている。
「やっぱりあんなエンジン積むの無茶だったんですよぉ!」
運転している結枝も不満の声をあげる。 
「うっさい!! 熱ければ脱げ!」
「言われなくてもそうしますよお!」
2人はツナギのジッパーを下げ、上半身Tシャツになる。 神奈が目だけを横にして結枝を見る。 
「? なんですかあ?」
「ったく、あんたプクプクプクと育って〜〜」
牡丹の視線から察するに、結枝の大きな胸であろう。 それと引き換え牡丹の方は・・・いや、ここ
で言及するのはよそう。 命が惜しい。
「これはですね〜〜 私の日頃のがんばりを神様が見ていてくださったんですよぉ・・・」
眼鏡の奥をキラキラさせる結枝。 
「あ・・・そう、んじゃその神様に感謝して、とっとと前の車捕まえてね」


ガガガガガガガガガガガガガガ!!!

突然、高速道路に破裂音が走る。 
それはまっすぐに進み、牡丹がのる軽トラの再サイドミラーをふっとばし、ベンツの前方で動きを
止めた。 
『おら〜〜止まれ〜 今度は威嚇射撃じゃすまないぞぉ!』
上空から高速のすぐ上まで降りてきたへロン無人偵察機、軽装がマシンガンを発射したのだ。 
そしてさらに後方には美沙の愛車カンタ君の勇姿が。
『何が威嚇射撃よ! サイドミラー吹っ飛んじゃったじゃない!』
無線機を掴み、牡丹が叫ぶ。
『ケチケチしないでよ。 たかがサイドミラーの一つや二つ』
カンタ君の車内で美沙がふふん、と小馬鹿にするように笑う。 
もちろん助手席には、はわわ、と目を回している鷲士。 
ここに来るまで、美沙がとった行動が如実に伺える。 
『あっそ、そいうこというか、アンタ・・・』
そこでプツっと切れる。 美沙は訝しげに前方を見る。 
牡丹が、窓を開けて何かをポイッと投げ捨てる。 それはニ、三飛び跳ねるようにカンタ君に近づい
てくる。 
「あの馬鹿!!」
その正体に気づいた美沙はハンドルを思いっきり切る。 
今までの進路方向で起こる爆発。 先ほどのものはハンド・グレネードのようだ。 
『あ、ごめん。 私高速に乗るとつい窓から手榴弾を投げたくなるクセがあってえ・・・』
「直撃したら、どうすんのよ! あんた自分のクラスメート殺す気?」
『何を御言いで、美沙っち♪ あんただったら避けられるって私、信じてたわ』
「ああ・・・そう・・・」
そこで鷲士は震え上がる。
「美沙ちゃんが・・・怒った・・・」
美沙はこれ以上ない、猫のようなコロコロした声で
「あの〜♪ 実は私も似たようなクセがあってぇ・・・高速に入ると50口径のマシンガンを連射
したくなるって言う〜」
『あ・・・まさか・・・』
空には迂回してきたヘロンが旋回して再びカンタ君の背後から迫る。 
「しっかり逃げてね♪」


トリガーオン・・・・・・・・ファイア!!


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