DADDYFACE SidetStories
「【花輪計画】〜きまぐれなかみさまのたね〜」(序章)
written by 東坊主



――事の起こりは、美沙が鷲士に出会う約半年ほど前のことになる――


 アフリカ大陸の西側に位置し、同大陸の国家の中では最大の産油量と、一億人を超す人口とを誇る国。――ナイジェリア。
 その沿岸から200kmほど沖合にでると、そこはいわゆるギニア湾。
 赤道からは離れているとはいえ、充分に強い日差しが波まで青々とした海面に弾け、キラキラとした飛沫を散らす。
 かつてはここを、船旅で何万もの黒人奴隷や、象牙が運ばれていったという暗黒の歴史がある海だ。
 しかし今ではその船の姿もない。
 代わりにそこには今、――巨大な空母が浮かんでいた。
 先進気鋭の化け物企業、FTIが誇るハイテク満載のミニッツ級航空母艦、通称「LIGHTNING LADY」。 別名は、「海に浮かぶ要塞」だ。
 そして、その中枢となる部屋の薄闇の中では、電子光に照らされた幾人かのスタッフが緊張した面もちで任務にあたっており、部屋の中心の位置には、指揮を執っているらしい一人の女性が立っていた。
 黒いスーツに身を包み、耳は大きめのイヤリング。メリハリのきいたクールな美貌――片桐冴葉である。
 彼女は先ほどからずっと真剣な顔のまま、何かを待っているように押し黙っているのである。
 と、突然イヤホンを装着している職員の一人が冴葉を振り返った。

「キャプテン! ボスより通信です!!」
「主回線に回して。……それから、キャプテンではなく、冴葉でいいわ」
「了解!」

 冴葉の指示に答えた三つ編みの女性が、カタカタとキーボードを操作すると同時に、幼い少女の声が部屋に飛び込んで来た。
 走っているのだろうか? 呼吸の音がやけに大きい。

「冴葉!?……作戦は失敗! 【エシュの種】は入手できなかったわ!!」
 
 その言葉に、何人かの職員は落胆の表情を浮かべる。――が、  

「……またいたのよっ! あいつ! “グール”と遭遇したの!!」

 少女の次の言葉は、彼らを再び緊張の渦へと引きずり込むのに充分なものだった。 

「とりあえず、目があった瞬間に手持ちのナパ−ム全部叩き込んでやったけど、そんなもんじゃあいつには効かないだろーし……。今の装備じゃ勝てないんで悔しいけど撤退するわ! すぐに援護と、ミサイルをここに頂戴!!」
「了解。近空を無人ステルスが周回していますから、そちらを援護に。……ただ、ステルスは数十秒で現場に到着しますが、ミサイルの方は数分かかります。その間に離脱を」
「わかった!」

 回線が途切れる。
 同時に目まぐるしく動き出す女性陣。冴葉は、その一人一人に手早く、かつ冷静に指示を与えた後、

「ボス。……どうかご無事で」

 瞳を閉じ両手を胸の前で組み合わせ、そっと祈りを捧げた。


 ナイジェリアの中心を流れるニジェール川。
 それを河口からかなりさかのぼった川岸から、またさらに内陸へと進む。
 すると、あたりは見渡す限りの荒野となる。
 人が訪れるような所では決してあり得ない。逆に迷い込んだら命を落としそうな、無人の平原だ。
 そこに、パッと見ではそれがそうであるとわからないほどこじんまりとした、石の遺跡があった。
 いくつかの巨石を積み上げただけのシンプルなものだ。……しかし、人気のないその遺跡の内部から、煙が吹き上げているのは、どうしたことだろうか?
 と、そこから煙を裂いて、全身黒尽くめの一人の少女が姿を現した。
 先ほどのギニア湾沖での冴葉達との会話の相手、無線を挟んだその向こう側にいた少女。「ボス」こと結城美沙だ。
 時折背後の遺跡を振り返りながら、死にものぐるいで荒野を駆ける。
 今や、黒いぴっちりとした超ミニは、お尻が出るほどにまくれ上がり、これまた黒のキワドイ下着がちらりちらりと露出していたが、本人はそんなことに躊躇している状態ではないようである。
 息も絶え絶えになりながらも、彼女は前方約20mほどの地点に着陸させてある自分の愛機をめざして、最後のダッシュをかける。

―― F22ラプター ――

 当然、ただでさえスーパーなポテンシャルをさらに飛躍させている、美沙用に特別カスタムされた機体である。
 キャノピ・シルの下に描かれた、舌を出した美沙をデフォルメしたトレードマークも健在だ。
 美沙が敏捷な猫を思わせる動きでF22のノーズのタラップに手を掛けると同時に、上空からジェット音。
 
「おっ! サンキュー冴葉ちゃん!」
 
 空を仰いで会心の笑み。その頭上の空を裂いて飛来した十条の火線が、たったいま美沙が出てきた遺跡に向かって真っ直ぐに伸びていき、――着弾。

グガグガグガグガァァァァァンンンン…………!!!!!!

―― マーベリックAGM65G ――
 
 凶悪な空対地ミサイルが炸裂し、遺跡をただの石塊へと変える。そして、その後を追うように遺跡上空を通り過ぎたのは五機の黒いデルタ翼機。これまたステルスだ。
 ただ、形状から察するにこちらはカスタムの度合いは少ないようだ、――コックピットに人が乗っていないという一点を除いて。
 完全に、無人で起動している。
 実体を持たないFTIの超技術者集団だからこその芸当である。

「……ふふ〜ん♪ ど〜だ! そこら辺のステルスとは技術と予算が違うのよぉっ!!!」

 合衆国の人間が聞いたらめまいを起こすようなとんでもねぇセリフを吐く。だが、強気な言葉とは裏腹に、その表情には焦りの色がうかがえた。
 額の一筋の汗が、そのいい証拠だ。ほぼ全壊にした前方の遺跡から目を外すことなく、既にコックピットに乗り込んでいた彼女は手早く酸素ハーネスとゴーグルとを装着する。
 その時だった。
「げっ!?」

 未だ爆炎冷めやらぬ遺跡の内部から、空に向かって一個の青白い光の球が放たれた。
 同色の空に吸い込まれそうなサッカーボール大の大きさのその球体は、超高速でステルスに向かい直進。
 反転して次撃を繰り出そうとしていた無人ステルス編隊の先頭機に、吸い込まれるように命中。

ドゴン!!

 短い音を立て、ステルスは爆散。粉々になった機体の破片が、無人の荒野へと降り注ぐ。
 続いて、今度は同時に四つの光球が地中から放たれ、それぞれが違う機体へと直進し……、今度は、四倍の量の破片が荒野に降り注いだ。

(地上から対空射撃で!? 隠蔽能力、回避機能、共に最高レベルのシステムを積んだステルスをあっさり撃墜!? 空飛ぶ軍事機密が時間稼ぎ程度にしかならないなんて……!! なんて野郎なの!!)

 相手の驚異の火力に顔をしかめる美沙。
 だが、ステルス五機が身を張って(!?)時間稼ぎをしている間に、彼女は何とか離陸に成功、同時にアフターバーナーを全開。全速力で離脱を開始する。
 強力なジェットエンジンの推進力があっという間にあたりの景色を後ろに持っていく。
 その前方、どこまでも突き抜けられるような蒼い空に、黒い雲がぽつんと一つだけ出現した。こちらの進行とあわせ、最初は黒い染み程度だったそれが、ぐんぐんとその大きさを増していく。美沙は右側に進路を変更、黒い雲の横合いをすり抜ける。――否、それは雲ではなかった。

―― BGM―109C ――

 「トマホーク」と呼ばれる巡航ミサイルの大群。
 湾岸戦争や、アメリカ軍の空爆などで使われているこれが、黒雲の正体であった。アメリカ軍の将兵の間で「針の穴をも通すほどだ」と絶賛されているように、こいつの特徴は、その驚異の三つの誘導システムにある。
 目標近くをあらかじめ偵察機等で撮影し、ミサイルに画像を記憶させ、設定されたチェックポイントや目標に接近すると自動で誘導システムを切り替える『状景照合誘導=DSMAC』
 発射時に与えられる発射方向、発射速度,発射角、加速度、等を内蔵されたコンピュータで計算し、ミサイル自身が発射されてから何秒後かを計算し現在の位置を知る『慣性誘導』
 軍事偵察衛星(スパイ衛星)で測定された地形の高低データにより、ミサイル内部に地図を描き、高度計で海抜高度と真下の地形の高度を読み取り照合しながら、現在の位置を確認する『地形照合誘導=TERCOM(テレコム)』
 さらには、FTIの誇る監視衛星『叢雲』の偵察能力付きだ。以上のシステムをあわせ、今のこいつらの命中精度はコンマ以下30桁まで狂いがない。
 ――簡単に言えば、目標に自動で飛んでって、絶対に当たるミサイルである。

「ただで引き下がるなんて絶対やだかんね!! 地下貫通弾頭式の『トマホーク』300発! ……これなら迎撃しきれないでしょ!! アハハ♪ 食らえ〜〜〜!!!」

 ちなみに地下貫通弾頭というのは、地下室などに潜む敵を散滅するために弾頭にある程度の貫通能力を持たせ、地面の下に潜り込んでから炸裂する弾頭の事だ。
 物騒な捨てゼリフを残し、音速を超えた速度で飛び去るF22の後方で、巨大な爆発の花が乱れ咲いた……。




 夕暮れの荒野、無数のミサイルの着弾を受けたため穴ぼこだらけになり、もはや以前そこに遺跡があったなどとは誰もわからなくなってしまったその場所に、

――男が、いた。

 今やまさに消え入らんとする西日の残光を受け、赤黒く浮かび上がったそのシルエットの右手に、奇妙なものが握られている。
 大きさはクルミぐらい。夕焼けの光を鈍く反射し、銀虹色にヌラリと光っていた。
 この奇妙な光がなければ、――そう、まるで何かの種のようなのだが。
と、男が、突如振るえだした。なにかの発作というわけではない、単に笑っているだけだ。

「きははははははははははははははっ……!! ついに、ついに手に入れた!! 【第一世代】を! これで……いよいよ【花輪】を紡ぐことができますねェッ!!」

 右手に奇怪な物体を握りしめた、これまた奇怪な男の笑い声はしだいに大きさを増し、やがてこの荒野に響き渡らんとするばかりの大声となった。

「花輪を頭上に抱き、神の身元へと旅立つ……。最後に笑うのは、……この私。くくくくくきはははははははははははははははははッッ!!」

 いくつも重複されたクレーターの、その中心で。
 男の狂える馬鹿笑いが、荒野の荒風に運ばれていった……。


――そしてこれより約一年後。とある研究室の一つの扉が突如開くところから、今回の事件はスタートする――


(第一章)
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