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「んで〜、鷲士クン、来週ヒマ?」
「えっ? 来週ね〜、 バイト三つも入ってて忙しいんだけど…」
ボロアパートの一角の部屋にお決まりの二人はいた。
「バイトって、何やんの?」
「工事現場と、深夜の皿洗いに、それに金曜から山梨に行くんだよ。この間、云ったじゃないか。」
相も変わらず多忙なバイトスケジュールを組む、鷲士。
「自由になるのは?」
「……ゴメン、ムリみたい…」
鷲士は、一瞬小さく背を縮まらせた。
「……そう、か。」
美沙は肩を落とした。
実は来週の土曜、カト女では全校あげての授業参観があるのだ。
鷲士はこの事を一週間前から知っていた。各家庭に配布される手紙の中に、“授業参観へのおさそい”があったのだ。
よく見ると、手紙の配布されたのはおよそ一ヶ月前。美沙はこの事を隠していたのだ。
だが、てんでボケている鷲士は美沙に、
「何で云ってくれなかったの。」
と、問いただした。
「だって鷲士クン忙しいでしょ。こんな行事より、バイトッバイトッ!」
この一言でその日は終わった。美沙らしい言動だったので、鷲士はそれ以上云わなかった。
だがその日以来、美沙はしきりにため息を吐くようになった。
いくらドン感鷲士といえども、これには気付いていた。
それで美沙を元気付ける為、云ってしまった。
「調整して、何とか行けるようにするよ。」
美沙は云わんばかりの狂喜乱舞……まではしなかった。
だが、鷲士に妙に大人びた、苦し紛れのような笑みを見せた。鷲士がこれを心配し、努力し始めたのは云うまでもない。相手先に謝り歩き、三件まで減らした。
だが、それ以上は減らす事が出来なかった。特に参観日と重なっている山梨遠征は、担当者が既に山に入ってしまっていて、連絡がつかない状態なのだ。
……正直、授業参観には行きたい。ムスメの学校での姿を見た事がない鷲士にとって、この思いは切実なものだった。
鷲士は一つ賭けに出た。それは片桐冴葉の力を借りる事だった。
ただでさえ世界中を飛び回っている冴葉との接触、特に美沙を通さないのは困難を極めたが、何とか冴葉に会う事が出来た。
「鷲士さん、それで具体的に何を頼みにここまで?」
「来週の土曜に美沙ちゃんの学校で授業参観があるんですけど………」
鷲士の用件とは次のようなものだった。
・今後、一度だけフォーチュン、娘のお宝探索の依頼を無条件で他より優先させる事。
・ その見返りとして、今週の土曜、往復一時間で山梨まで行かせてくれる事。但し、美沙には知られずに。
冴葉は快くこれを承諾してくれた。普段、トレジャーハントへの誘いは行っていた。本職にしてくれと頼み込んだ事もある。だが、鷲士はそれを断り続けていた。
多少弱みを見せる事になるが、貧乏鷲士にとってこんな頼みは冴葉にしか出来なかった。
清清しい土曜の午後、快晴、西北西の風。鷲士のバイト先の裏にはF22ラプターが着陸していた。だが、このラプターには一番の特徴と云えるパーソナル・マークが、鷲士の知っているものとは異なっていた。
“DADDY−CUSTOM” と、美沙とは違う縦長の縁取りフォントで明記してあった。
「あの〜、これは一体……」
片桐冴葉は淡々と答えた。
「このラプターのマークは単にボスが指示した事をしただけです。山梨での用件が済んだ後、中国に飛んで貰います。詳しい事はあちらに。」
冴葉が指差した先には、彼女のボスがニヤニヤ笑いながら、完全武装で立っていた。
「鷲士クン、さ、行こ。」
「冴葉さん、美沙ちゃんには黙っててって。」
「ご安心下さい、お嬢様はお仕事キャンセルの件はご存知ありません。ただ、鷲士さんが孤児院時代の友人に会いに行く、とそれだけ伝えました。その後は契約に基づき中国のある山に向かって貰います。」
「……はい。」
「それじゃ行ってみよ〜!」
ラプターが辺りのゴミ箱等を吹き飛ばしながら飛び退る。
「御武運をお祈り致します、ボス、ミスターフェイス。」
優秀な会長秘書はそう云って歩き始めた。
「えぇぇ〜〜〜!!? 今回は冴葉さん達来ないの〜?」
「冴葉はこれからロシアに行って、共産党に圧力掛けてくる。他の戦闘メンバーはメキシコでミュージアムの小隊とやり合ってる。別にいつも私といる訳じゃないんだから。」
「そ、それもそうだね。」
空中にホログラフィが現れた。どうやら中国の地図らしい。中央に点滅している部分がある。
「ここが今回行くとこ、東岳・泰山。聞いた事ある?」
「う〜ん、どっかで聞いた事あるぐらい。」
「じゃ、陰陽道って知ってる?」
「ちょっと前に流行ってた占いだっけ。東京より京都に縁が深い宗教みたいなのでしょ。」
「東岳・泰山っつーのは、この地図のピカピカ光ってるとこね。昔から生命を司る神様がいるって云われてたの。んでもって、陰陽道ってのは昔、百済の時代に日本に渡ってきた宗教なの。」
「へぇ〜、宗教なんだ。それで、それとその山とどんな関係があるの?」
ホログラフィが変化し、絵に描いた人間を映し出した。
「この人は知ってる?」
「確か、安倍晴明だっけ。平安時代の人でしょ。クイズ番組に出てたの見たよ。」
「安倍晴明、平安時代の宮廷陰陽師っていう今の官僚に当たる人。いろいろ伝説残してるのよ。狐と人間の間に生まれた子だとか。あと、八十五歳で一旦死ぬんだけど、閻魔大王に命貰いなおして、更に八十五年生きたとか。」
「で、何でこの人が?」
「安倍晴明が始めた儀式があるの。その名も泰山府君祭。詳しい事は分かんないんだけど、どうやら延命の為の儀式だったらしいの。」
「泰山府君って、東岳・泰山の事?」
「半分当たり。泰山府君っていうのは東岳・泰山にいる前述通り、生類の神様。それの力を借りて延命を施すのが主な内容だったみたい。安倍晴明も中国の偉い僧にこの術を掛けて貰って復活した話があるから、多分、ね。」
「えっと、具体的に東岳・泰山に行って何すんの?」
「安倍晴明は“占事略決”っていう陰陽道の奥義を載せた本を書いてるの。いくつか断片的な内容は分かってるんだけど、どうやら安倍晴明没後にいくつか編纂されちゃったらしいのよ。で、原本探してんの。」
「つまり、原本があるのは……」
「そう、東岳・泰山ね。安倍晴明が直接書いたのは焼失しちゃったらしいんだけど、伯道上人っていう偉いお坊さんが写本したのがあるらしいの。誰にもバレないように信仰のある山に置いてきたんだって。」
そうこうしている内に山梨の目的地が見えてきた。
「そんなバイトは入ってないよ。帰ってくれ。」
この一言で追い返されてしまった。相手のオヤジは、電話口とは明らかに違う声だった。
「あ〜れ〜? 随分早かったね。」
ニコニコ顔の美沙サマ。
「もしかして、美沙ちゃんが全部仕組んだとか。」
「えっ? なにをぉ〜〜??」
「何でもない……」
鷲士は全てを悟った気分でラプターに腰を据えた。
「それじゃ、Let’s go to treasure!(お宝へレッツゴー!
「もう、何も云いませんっ。」
ラプターのジェットエンジンが火を噴き、最高速度まであと数秒。
鷲士はまだ知らない。これから戦う強敵、不可思議な出来事。そして、ラプターのパーソナル・マークがお馴染みのツインテールとV−サイン、“MISA−CUSTOM”の文字が自分のマークに浮き出て、並んでいるのを……
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