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俺は、全てを凍らせるような吹雪の中を、一人歩いていた。
不思議と寒さは気にはならなかった。それどころかこの先に”奴ら”がいるのかと考えると怒りに体が熱く燃え上がるようだったからだ。
そして、俺は目の前になにかが動いているのを感じた。
――アレがそうなのか・・。
俺は、ゆっくりと剣を両手に持ち替えながら目の前の影を見つめる。その動きに呼応するかのように、吹雪が弱まり、その中にいくつかの人影を見ることが出来た。姿はよくはわからないが、確実に俺の行く手を拒んでいる――敵だ。
「やっと・・・・・見つけたぞ」
すべての思いを込めて、俺は剣を構える。俺に出来る全力の構え、”奴ら”を屠るために編み出した技―――
「やっと・・・・・見つけたぞ」
ゆっくりと、俺はもう一度言葉を紡ぐ。長かった時を反芻するかのように、本当に、ゆっくりと。
「・・・全てを操り、ヒトの生き死にをも弄ぶ者共よ・・・・・・おれは・・・おまえたちを・・・・」
そのとき、俺の言葉を遮るかのように、人影の中から一人の男が進み出た。俺ほどはあるだろうか?巨大な体躯と、赤い髪の持ち主だ。ふと、俺とその男の目が合った。
―――違う。これは”奴ら”ではない。あの禍禍しいまでの気配が目の前の男には感じられない・・・・ココも外れか――。
「・・・人違いだったようだ」
俺は剣を戻し、来た道をまた戻ろうとした。そのときだった。
「・・・神を倒したいか?」
――――なにっ!!
俺は驚愕を隠しきれなかった。今、こいつは神を倒したいのかと、確かにそういったはずだ!?・・・まぁいい。それなら俺の答えは決まっている。
「ああ」
俺はなんの後悔もなく答えた。
「・・・無謀な挑戦だと思わぬか?」
「だろうな」
「報われることなど絶対にありえぬ。見知らぬ者からはそしりを受け、親しき者からも石もて追われ、最も愛する者すらも腕の間から逃げていく。富と栄誉が、孤独の前にどれほどの意味を持とう?戦う意思が、この苦しみに対して如何ほどの助けになるというのだろう?人は人との交わりなくしては生きられぬ。それでもおまえは往くのか?」
「・・・・そんなもん、とっくに失ったぜ」
孤独のつらさ?・・・・そんなもんはもうわかってる。親しき者?そんな奴はとっくに墓の下だ。愛する者?・・いるかよ・・そんなの・・・・。そうだな、もうアイツは”いない”んだから・・。だから俺は答えてやった。ありのままを。そして真実を。
「もうおれは・・・ヒトじゃねえしな」
俺は足を踏み出した。もうここに用はない――
「ならば・・・・来い!」
男が強く言い放った。俺はその台詞に思わず振り返った。
「人との交わりは与えられぬ。生きる喜びも伝えられぬ。人の理も・・・・我らにはない。だがかわりに、風と、土と、水と、炎・・・・これらを操り、従わせる方法をおまえに教えよう!」
風が俺の頬を叩いていく、それでも、俺は目の前の男から視線を外せなかった。
「物が物を引き付ける力の仕組みを、物の全てを構成する粒子の話を、物を完全に滅ぼしてしまう武器の作り方を・・・・人の理は捨て去った我らだが、いわば物の理の果てを、おまえに伝えよう!ヒトとしての心を殺し、それでもなお神を討つというのなら・・・我らと共に来るがいい!」
そして男が羽織ったマントを脱ぎ捨て、その下の衣を引き剥がす。俺は絶句するしかなかった。
―――男の体は、なかった。
金属の棒が、男の下半身と上半身を繋ぎ、その真ん中辺りで、二つの金属の玉が、棒を中心に回転していた・・・・。
なんなんだ・・・ありゃぁ?
俺には何一つ理解が出来なかった、いや、只一つ、コイツも既にヒトじゃねぇってコト以外は・・。
「あんたたち、なにものだ?」
俺はやっと、そこに思い立った。自分のコトに手一杯で気付かなかったが、コイツラはこんな北の果てで、一体ナニを・・・?そしてソレに答えたのは、人影の合唱だった。
『我らの集う所―――それが闇!』
俺が思ったよりも大勢の声が、揃って雪の中にこだました――
『我らが立つ大地―――それが地獄!』
奴らの思いが俺にもひしひしと伝わってくる――そう、それは俺と同じ――――
『暗く深き血の海に果て、天高き屍の山に積まれ、心を粉々に打ち砕かれようとも、我らは何度でも何度でも戦いを挑まん・・・・一人でも生き残っている限り!』
男達の悲痛な叫びが響き渡る。その中で目の前の赤毛の男が俺を見てこう言った。
「・・・・我らは”鬼”だ」
ずずずずずずず・・・
同時に奴らの後ろから光り輝く巨大な船のようなものが浮かび上がってきた・・・・。既に俺の理解の範囲を超えちまってる。だがそれでも最後の男の台詞は理解できた。
―――鬼、地獄の果てで神に牙剥くモノか・・・。戦神・修羅とまで言われたおれにゃあふさわしいのかもしれないな・・・―――
赤毛の男がすっと手を差し出す。コイツらは信用できるのかもしれない・・なにより、コイツも俺と同じだ・・・。俺は無言で男の手を強く握り締める。男の無骨な顔が、笑ったように思えた。
――――――俺は、仲間ってやつを得た。
それから長い年月が経った――
俺はこの呪いにかかってから初めて、親友って奴を実感した。奴らの言う、『物の理の果て』とやらを俺が覚えるのにはかなりの年月を要したが俺が何度か転生しても奴らは生きて待ってくれていた。楽しかった。それは今まで俺に許されなかったことだったのだ。当たり前に友人を作り、そいつらと話す――。本当に楽しかった。ただ―――
―――終わりは、唐突だった―――
俺はいつかのように吹雪の中をひたすらに歩いていた。
俺が歩いた後は、純白だった雪が赤く染まっていた。
―――死ぬわけにはいかなかった。たしかに体は死んでも俺はまた転生を繰り返すのだろうが、それでもあのヤロウの、”神”の奴のせいで死ぬのはゴメンだった。
――あいつらが攻めてきたのは本当に突然だった。俺達は戦った。それこそ死すらいとわず戦った。目に前に、憎き”神”がいるのだ。鬼神のごとき俺達の前に奴らの軍勢も追い詰められていった。だが――
俺達は、負けた―――
”神”のヤロウに手ひどい手傷を負わせるのと引き換えに、”鬼”の船も奴の攻撃の直撃を受け沈んだ。多くの”鬼”が死んだ。生き残った奴らも散りじりになってしまった。そして俺も――。
気の遠くなるほどの痛みを押さえながら俺は歩きつづけた。何時の間にか吹雪は止み、辺りは草原になっているが人の姿は見られなかった。とりあえずの応急処置で傷は塞がっちゃいるが、問題は俺の体力のほうだった。
水蓮―我がサムライも”神”にやられた際に再構成しきれずに凍結状態・・この場にはいない。
(こいつはちょっと・・・ヤバイかな・・・?)
くやしいがそろそろ本気で”死”を考えた時だった。
「ちょ、ちょっとアナタ!!大丈夫なの!?」
目の前から響く女の声、長く透き通った金の髪が美しく陽に透けて、女の美しさを惹き立たせていた。
俺はその姿に”アイツ”の面影を見たような気がして・・・張り詰めたものが切れるかのように意識を失った――
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