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気がつくと俺は粗末なボロ布の上の寝かされていた。
「気がついた?」
さっきの女が俺に声をかける。どうやらずっと傍らで看病してくれていたらしい、俺はコイツに助けられたってワケだ。
・・・”神”のせいで死ぬことは避けられたが、俺が神に負けた事にはかわりがない。女の声に答えるだけの気力は湧いてはこなかった。
「・・・・?もしかして言葉がわからないの?困ったわね・・。」
俺が喋らないのを見て女はそう解釈した。実際はそんなことはない、だからとりあえずそれだけ答えてやった。
「・・・・いや・・・」
「あ、なんだ喋れるじゃないの。傷の具合はどう?あぁまだ動かないほうがいいわよ、一時は死んでもおかしくなかったんだから。で?アンタの名前は?」
名前・・・か。この体の名前なんて忘れちまったし、”本当の名前”は・・・・、神にやられた今は語る気なんぞ起きやしなかった。
「・・・まただんまり?それとも名前が思い出せないって奴かしら?まぁいいわ。そうねぇ・・・全身真っ黒だから・・・スルトッ!ワタシこれからあなたをスルトって呼ばせてもらうわ。ワタシはフレイアっていうの。よろしくねっ、スルト。」
(・・・変な女だな、フレイアっていったか・・。”アイツ”といい・・・なんで俺の周りにゃぁこういう女しかいねぇんだろうなぁ・・・。)
認めたくないことだが・・・・このとき俺は・・かすかに微笑んでいた。
それから数日、俺の傷は歩けるほどにはどうにか回復していた。、まだ心んなかじゃ”あの事”に対する整理なんぞついちゃいなかったが、家の中ばっかじゃ気が滅入るんで外へ散歩でもしようと、俺は外へ出た。ちょうど川の方へと差し掛かった時だ。一組の男女、・・恐らくは夫婦か?が喧嘩をしていやがった。別に野次馬をするつもりはなかったんだが、俺はその光景から目をはなす事ができなかった。段々と二人の喧嘩は激しくなっていき、最初は単なる口喧嘩だったのがいきなりとっ掴み合いになって・・・しばらくしたらどちらからともなくあやまって、最後にはお互いが肩を組んで嬉しそうに微笑みあっていた。
(なんか・・・・・”あの時”の俺達みたいだな・・・・)
まぁこんな心温まるようなもんじゃなかった気もするが・・・。だが自分で感情を抑えることが出来ず、俺はまた微笑んでいた。
その日からあのフレイアって女の態度が変わった。よくわからんが俺に興味を持ったらしい。気が向いたときに少しずつ昔話をしてやったらそのたびに驚いていたっけ。そして数日後――
俺が扉を開けるとそこにはフレイアが立っていた。心なしか顔が赤いのは気のせいか?フレイアは俺の意見も聞かずにズカズカと入ってくると振り向いてこともあろうにこう言いのけた。
「・・・・・抱いて。」
――――はっ?
俺の思考はかなり長いこと凍りついた。今なんて言ったコイツ?ダイテ?・・・・おいコラ!それが女の言うセリフか!?どこかに似たような意味を持つ台詞を言ってのけた女がいた気がするのは俺の気のせいなのか!?
まぁコイツがなにを考えてんのかは大体わかる。こんな閉鎖したとこだから外から来た男なんかに簡単に恋心抱いちまうんだろうが・・・・にしてもいきなりこんな事言うか・・?
「だから・・・・・わかんないかなぁ・・・?ワタシを抱いてって言ってるの!!」
繰り返すフレイヤの顔はもうはっきりとわかるくらい真っ赤だ。まぁ無理もねぇが・・・。
「・・・断る」
なんで俺もそう言ったのかはわかんねぇ。”アイツ”に似ているフレイアを代わりみたいに扱うのがイヤだったのか・・?とにかく俺の返事を聞いた彼女は今までとは別の意味で顔を真っ赤にしていってしまった・・・わりぃことしちまったな・・・・。
そんなことがあってから数日、フレイアが俺に話しかけるようなこともなかった。傷も治ったし、いづらくなった俺はまた旅にでることにした。まぁあまり長くココにいるとこの村に迷惑がかかるかもしれないしな・・。
旅支度を整え終えた俺が村の中央に差しかかった時だった。・・なにか騒ぎが起きているらしい。あの時の夫婦と、馬に乗った騎士みたいな奴が騒いでいる──俺には関係ない──そう思って通り過ぎようとした時だった。女が斬られた。俺は何も考えられずにその光景を凝視していた。そんな時、近くにいたらしいフレイアが慌てた面持ちで俺に声をかけてきた。
「スルト!!あなたは逃げなさい!!神の使いに人間なんかが勝てるわけないんだからっ!!」
・・・神の使い?アイツラがか・?―――笑わせんな!!
俺の体にあの時のような覇気が戻ってくるのが感じられた。いける。俺は腰の紅い剣を抜くと、自称神の使い共の前に討ってでた。
―――勝負は、一瞬でついた。
馬に乗っていようが得物の違いがあろうが、世の中には桁違いって言葉がある。俺がソイツを倒すのなんざ赤子の手をひねるようなもんだった。だがそれを見たそいつの仲間達が一斉に逃げだす・・・面白くもねぇ奴らだ。まぁいい。”鬼”の兵器を試す好機だぁな。俺は天を指し、こう叫んだ。
「サルトルの名の元に命ず!!範囲指定!目標は眼前のエインヘリアルども全員!落とせっ!!」
俺のセリフに反応し空が真っ赤に染まった。光とともに、全てを焼き尽くす粒子が逃げ出す奴らに落ちていく・・・なんだ結構使い勝手がいいじゃねぇか、衛星兵器ってのは・・・。
「ちょっとスルト・・・あんたなんてことを・・・!」
フレイアが青ざめた顔で俺を見ている。なんでぇ?せっかく奴らを倒してやったってぇのに?だが次の言葉が俺のさらなる激昂を誘った。
「きっと神々がやってくるわ・・・もうこの村は終わりよ・・・」
・・・んだと?神々?訝しげに聞く俺にフレイアが訥々と事情を語り始める・・・。はらわたが煮え繰り返りそうだった。――あの”神”がやりそうなことだ。少々力のあるだけで性格に問題があるバカに自分達の”技術”を与え、近くを統治させる。その後がどうなるかなんて考えもせず・・。俺のはらは決まった。―――滅ぼす。
「これから半日の間、家に籠り、戸を閉じよ!さもなければ、汝等の身にも災いがふりかかるであろう――!!」
村の奴が俺に向ける視線が変わるのがわかる。化け物を見る眼だ。関係ない、俺は神の名を持つモノどもを滅ぼしつづけるだけだ。俺は眼前にそびえる世界樹――記憶が正しければ奴らの宇宙船の一つ――へと足を進める。――ただ、フレイアの視線をみるのが怖かった。
キィンッ
ガスッ
戦場に響く剣の交差する金属音、漂う血臭、肌に心地よい殺気と怒号――俺は懐かしい戦場へと帰ってきた。しかし思ったよりもバカどもが多い。人数に差があったからってコイツ等に俺を殺せるわけなんざないんだがオーディンとかいう首謀者達を取り逃がしちまいそうだ・・・どうするか?
ドゴォォォォン!!!
俺が悩んでいると急に空から何かが降ってきた。舞い続ける土煙の中から確認できたのは、白銀に光る毛並み。そして聞こえてくるのは全てを凍らすかのような唸り声。
「へっ!今ごろ来やがったか、水蓮!!」
そこにいたのは我がサムライ、俺が造り上げた自慢のムスメ、水蓮の姿だった。ムスメ、といっても今は狼の姿をしているが・・・。
「殲滅戦仕様で来るとは分かってんじゃねぇか!!後は任せたゼ!!」
そういって俺は戦場を後にする。それに答えるかのように水蓮の遠吠えが木霊した。いくつかある水蓮の擬体の中でも殲滅戦仕様―数メートルを超える巨大な狼―ならば奴等の相手は充分だ。なら俺の獲物は決まっている。こんなことをやった張本人達だ。そしてソイツ等はすぐに見つかった。つまんねぇことに逃げる準備なんかしてたらしい。まぁ美味い汁吸ってきたお偉方にそんなん期待しても無駄か・・・・。
「き、き、きさまがこんなことをしたのか・・・い、一体我等をなんだと思っておるのだっ!!貴様等なんぞとは格が違うのだぞ、格がっ!!」
こんなクズどもにもまだそれくらい言えるだけの度胸は残ってたらしい。しかしこんな状態になって一体なにを威張ってるんだか・・コイツは。だから俺は言ってやった。
「何者・・?てめぇらはあのクソ野郎から力をもらっただけの人間だろ?偉そうになにを言ってやがる・・。」
「き、きさま・・なぜソレを・・・」
俺のセリフが奴等の激昂を誘ったか・・武器を身構え、俺に対する攻撃姿勢をとる。・・・・荷電粒子砲に指向性の雷撃兵器・・・まぁ相手にとって不足はない。
「・・・・ヒトの想いを弄ぶ奴等を俺は許しはしない・・・。ヒトのココロを失った奴等にかける情けなど俺は持ち合わせてはいない・・・覚悟を決めろ・・・お前等は・・・・俺が滅ぼす・・・・!!」
俺は手元の宝剣を構え直して叫んだ。
そして、戦いがはじまった─――――
「ほらよっ・・」
目の前のフレイアに俺はソレを差し出した。この村を支配していたばか者どもが確かに死んだという証だ。それをフレイアは信じられないといった面持ちで眺めている。
「あなた・・・・何者なの?」
フレイアが俺に尋ねる。当然の質問だ。
「・・・・・化け物だよ・・・・元人間のな・・。・・ついて来い」
なぜかはわからない。俺は正直に答えていた。納得しかねているフレイアをつれてそのまま川へと向かう。・・・・コレだったら抗生物質いくつか流せば大丈夫だろ・・。そう判断した俺は処理を済ませた水をフレイアに飲ませた。
「・・・えっ?」
フレイアが驚きの声を挙げた。まぁそれもまた当然だ。今まで体にまとわりついていた不快感が嘘のように消えたはずなんだからな。それを遠巻きに見ていた村人達も次々に水を飲み始めた。村に活気が戻っていく様を俺は知らず暖かい目で見ていた──。
「本当に・・・行ってしまうの?」
夕暮れが辺りを朱く染め上げるころ、フレイアが俺に尋ねてきた。俺はその言葉に無言で頷く。
「どうして・・・?ワタシのせいかな?もうあんなこと言わないから・・この村で暮らしましょうよ。皆もきっと歓迎するわ。地を耕して一緒に暮らしましょ?きっと楽しいわ・・。」
――・・・・鍬を握ってみないか?──
昔、俺にそう言った女がいた。もういない女、いなくなってしまった女。その姿と目の前のフレイアが重なる。
「・・・・やるよ・・。」
俺は持っていたそれを彼女に放った。
「・・なに・・コレ?」
フレイアが受け取ったものを見て首を傾げる。きっと農業に従事してばかりで綺麗なもので着飾ることなんざ考えたこともなかったんだろう。
「バレッタだよ・・それで髪を飾るんだ・・。まぁ他にも使い方はあるんだが・・・そっちにゃ使うなよ?一応使い方も紙に書いておくけどよ・・・・。」
フレイアの顔が真っ赤に染まる。きっと男にものをもらった事も初めてだったんだろう。わかりやすい奴だ。
「・・・すまねぇな・・・気持ちは嬉しかった。ありがとう・・・・ホントに・・・・ありがとう・・・・。」
本来なら礼を言う立場だったのが逆に礼を言われてフレイアの奴、慌ててやがる。俺はそんな彼女を横目に、振り返り進み出した。不覚だがそれ以上いると覚悟が鈍りそうだったからだ。
「本当に・・・ありがとう」
最後にそういって、俺は彼女の前から去っていった───
そして、3500年の時を経て、今日の日の事実は神話となった。神を滅ぼす男の物語の物語──破天(ラグナレク)の時として──男の歩みは止まらない。
いつか、神を滅ぼすその日まで──
呪いは、今だ、解ける事はない────
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