REMOVECURS SS
「語られなかったハジマリの物語」
written by 星野 洋



 ――夢

 ――夢を見ている

 ――悲しい夢

 ――果たせなかった約束の、その夢

 ――この世で最も愛した女を

 ――守れなかった

 ――守ることができなかった

 ――目の前にいながら

 ――俺は何一つすることができなかった

 ――ただ、見ていることしかできなかった

 ――ただ、泣き叫ぶことしかできなかった


 

   ――それは


   ――俺の内に沈む、深い深い、ただ一つの「コウカイ」――





 「!!!!!!!」

 朝、太陽の光が柔らかく部屋を照らす中、青年は声にならぬ叫びとともに跳ね起きた。その体には、汗が珠となって張り付いている。


 「――また・・・あの夢か・・・」


 ひどく疲れた声で、青年はただ一言、そう呟いた――





 ――Removecurse Prerude

             For the last Regret――







 「――いってきまーっす!!」

 晴れ渡る日差しの中、一人の少女の声が、住宅街に響き渡る。玄関を出るとともに、すぐさま全力疾走へと移行。―時計を見れば・・・まぁなんというか、ギリギリである。であるから、自らの平和な学生生活のためには、少女は走るしかないのであった

 ――そして、視点を変えてみれば、高みから少女を見つめる視線が一つ。・・・ビルの屋上に佇む青年の口元には、心なしか、微笑が浮かんでいた





 「おっはよー、夏菜、相変わらずアンタって女はギリギリが好きだねぇ」

 小杉真美―中学時の少女の親友―が、そういって笑いながら少女―夏菜―に声をかけてきた

 「・・・うっさいほっとけ」

 親友の気安さからか、ぞんざいな口調で答えを返し、自分の席へつく――案外、もうからかわれることに慣れてしまっただけかもしれないが。

 「ふっふーん、そんな口をきいてしまっていいのかなぁ?せっっかく重大ニュースがあるってゆーのにー?」

 それを察してか、さらにからかうように―というか実際にからかっているのだが―真美が言葉を続ける

 「・・・・・・にゅーす?」

 ぴくり、と夏菜の眉が動く、微妙に食指が動いたらしい。その反応に脈ありとみたか、横柄な態度で真美が続きを告げる

 「ほー?教えてほしーか?んじゃ可愛い可愛い真美様、どうか私めにお教えくださいって言ってみなさいな」

 おーっほっほ、と頬に手を当て、ひっじょーにわざとらしく笑う真美、――どこの貴族様だ、お前は
 なんかムカついたのでとりあえず一睨みをくれてやる

 「うっ・・・・・・わかったわよ。・・・んー、まだ確認はとれてないんだけどね?数日中に転校生が来るかもしれないんだって。うちの担任が職員室でいってたっけ」

 親友が教えてくれたその情報は、確かに夏菜の予想の範囲外だった

 「転校生?こんな時期になんでまた?」

 ただいまの時期としては、夏到来間近。まぁ転校生の登場シーンとしてはメジャーな時期ではないだろう。お約束としては新学期早々というのが基本だ。ちょっと早い。だが当の情報提供者、親友サマの返答は、非常にあっさりしたものだった

 「――さぁ?アタシが知るわけないじゃん」


  ――とりあえず一発後頭部をはたいてやった


 「ちょっといきなりなにすんのよー」とか横で騒いでいる真美を無視し、窓の外に広がる空を見上げ、呟く――

 「・・・・・・転校生、ねぇ・・・どんな子なんだか・・・」

 自らの身に、一体何が起こるのか・・・彼女はまだ知らない、知る由もない。予想だにすることもできなかっただろう。だが、そんな彼女をあざ笑うかのように――

 ――風が、吹いていた。ハジマリを告げる、そんな風が







 ――蝋燭の炎にのみ照らされたその部屋は、まさに書海と呼ぶに相応しい様相をしていた。本棚に収まりきらない古今東西の本、それらが複雑に積み重なり、まるで森のようである


 ――そんな中、青年が一人


 部屋にただ一つあるテーブルで、蝋燭の光に照らされ、ただ黙々と古ぼけた書物に目を通す

 「紅き剣持つ死神・・・間違いない・・・やはりヤツなのか・・・全く、恐ろしい男だな・・・」

 そう呟き、嘲笑を漏らす、声はまだ年若い青年のものに聞こえるが、そこには年経たものだけが持つ、疲れにも似た感情が色濃く出ている

 「――リグナー様」

 その背に、しゃがれた声がかかった。見ると、闇の中に、いつの間にかせむしの、タキシードを着込んだ老人がたっている

 「――ヒヒか・・・、それで?」

 「はっ、連れ戻して拘束してはおりますが無駄でしょうな、民間人にでも見つかって保護や通報をされなかっただけでも幸いでしょう。そのようなことになれば隠しだてるのも困難。いかがなさいましょう?」

 老人の言葉に、青年は ふむ、と考え込む。そして数分の経過の後、おもむろに呟いた

 「噂・・・、だな」

 「・・・は?」

 主人の突然の言葉に、ヒヒと呼ばれた老人も些少の疑問の念をこぼす

 「噂を流せばいい。この屋敷には夜な夜なミイラが現れては、人々を次々と襲う・・・とな。自らに被害が及ぶとなれば大衆などアレに近づこうとも考えんだろう。・・・人間など利己的なものだからな・・・」

 そういって、また嘲るように笑う、まるで、人類そのものを憎んでいるかの如く、酷薄な微笑を――

 「・・・なるほど、承知いたしました。それではさっそく――」

 言葉とともに老人の姿は闇に融け、後には青年のみが残った。そしてそのまま数分――突如、青年は立ち上がると、全てをこめる様にこう言った

 「――必ずだ!!必ずボクは全てを掴んでみせる!!この手にだっ!!」

 唸るように叫んだそれは、目の前にいない誰かへの、殺意すらともなうような宣戦布告であった――



 テーブルに拳を叩きつけ、魂をこめるかの様にこう言った。

 「――必ずだ!!必ずボクは全てを掴んでみせる!!この手にだっ!!」

 唸るように叫んだそれは、目の前にいない誰かへの、殺意すらともなうような宣戦布告であった――



 



 「なぁなぁ、あの女なんていいんじゃねぇか?」

 金髪にピアス、ラフな格好に身を包んだ”今時の”と言われそうな男が、ある一点を指差しながら、相棒の男―こちらは茶髪のロン毛―に声をかけた。

 「なに?お前あんなのが好みなわけぇ?」

 信号待ちしている少女―夏菜―を見て茶髪が嘲笑をあげる。だが当の金髪はそれに対して、

 「バーカ、おめぇ、あーゆーのだからこそいいんじゃねぇか。あんな免疫なさそうなガキだったらちょいっと誘えばコロッっと転がってくれそうじゃねぇか」

 そういって金髪が下卑た笑いをあげる、彼が何を考えるのかは想像に難くないだろう。対する茶髪のほうも、

 「うっわー、キチク。この変態め。」

 ふざけていっているその言葉には、罪悪感の欠片も感じられない。彼らにとって、その行為はそういうものなのだろう。麻痺している。とでもいえばいいか――

 「「「はっはっはっはっは」」」

 「――んっ?」

 笑い声に、突如彼らのものとは違う響きが混じる。嘲るかのようなそれを自分たちに対する挑発と受け取ったか、金髪が声の方向に振り向き――

 「んだっテメェ!!ブッ殺す・・・・・・・・・え?」

 反射ともいえるスピードで睨み付けたその先、・・・黒い壁があった。いや違う。人だ。長身の彼らより一回り抜け、肩幅も大きい、なにより彼らとは存在感そのものが全く違った。それらの事実が二人に染み透るだけの、絶妙の間をとってから、その人物がさも可笑しそうに言った。

 「はっはっは・・・なんかおもしれぇことが聞こえちまったなぁ・・・・・・・んで?誰が誰を殺すって?」

 その獰猛な笑みにこめられた感情、それを読み取った二人にできたのは・・・無言で首を振ることのみだった。

 「あ〜〜〜〜ん!?きこえんなぁ?」

 「「ひっ!!そんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」

 路地裏に、二人の悲鳴が木霊した。



 ――次の日、メルクリウスビルの玄関口に、全裸で”僕らは変態二人組です”と書かれ、簀巻きにされてぶら下がっていた二人組が警察に保護された。あまりにも不可解なその状況を聞いた周辺住民は、「これもメルクリウスの怪異に違いない」と声を揃えて証言したそうな――






 ――場所は変わり、N・Y、地下鉄、その構内、女子トイレ――
 二人の女がいる、いや、いたというべきか。女のうち一人は美しい裸身を惜しげもなく晒し、立っていた。
 そして、もう一人の女―修道服を着ている―は、恍惚の表情を浮かべながら事切れていた。だが、裸身の女は、それを気にすることもなく、ただ手早く、淡々と目の前のシスターから服を脱がすと、自らそれを着こむ。2.3度自分の格好を確認すると、それに満足したらしく、悠然と微笑んだ――

 「待っていなさい、呪われしヒトの子よ、その身に潜みし‘鬼‘の技術――必ずや我が手に入れてみせます」

 それだけを呟くと踵を返し、立ち去っていく。――後にはただ、物言わぬ死体が残るだけ。

 ――と、その前に、舞うかのように一枚の白い羽が落ち、地面に触れるとともに、白い光の粒子となって、消えた――







 ――青年は今日もそこにいた。
 ――そこにいて、当たり前の日常を、不器用に、それでも楽しそうに送る少女の姿を、ただじっと見守っていた。・・・本当に長い間、ずっと――

 「おとーさん――」

 ふと、その背に声がかけられる。振り向くとそこにいたのは、さきほどまでみつめていた少女のものと同じ制服に身を包んだ、透き通るような白い肌を纏った少女――青年を父と呼ぶには年齢的には無理があるように思えるが――

 「・・・おう水蓮か、どーした?今日から学校だろーが。遅刻すんぞ?」

 それを全く気にせず、そしてあからさまに追い返そうとするかのように邪険な口調の青年。だがそれを歯牙にもかけず、少女は呟いた。

 「――彼女、見張り、つけられてるわ」

 「――!!」

 ただそれだけ。水蓮のなにげない一言に、青年の顔に衝撃が走った。今度は周囲を注視しながら、少女の姿を見つめる。

 ――1・・2・3・・・4・・

 確かに。数名が少女を尾行しているようだ。そして、その立ち振る舞いを観察する限り、相手はプロだろう。そこまでのことを少女に対してする相手といえば――

 ――DIAの連中・・・とうとう気づきやがったか・・・。あの3馬鹿も来日してるって話だし・・・。しちめんどくせぇ・・・

 そこまで青年は考えると、青年はおもむろに水蓮のほうに向き直った。

 「おぅ水蓮、遅刻する前に学校いっとけ、んで、柊さんちの夏菜ちゃんは遅刻しますー♪、とでもいっとけや」

 「――?・・・おとーさん、なにするつもり?」

 少女にしては珍しく(だがそれでも他人には気づけない程度に)訝しげに疑問の声を返す。その質問に対して青年―いつのまにかその手には無骨なライフルのようなものが握られている―は

 「決まってんじゃねーか。テメーの立場ってもんを思い知らせてやるんだよ・・・・・・”両方”にな」


 ――そういって・・・、ニヤリ、と、野獣のような笑みをその顔に浮かべた。






 八重垣市の東、ここ最近、若者を中心に”ミイラ屋敷”と呼ばれるようになった屋敷。その近辺の裏路地に、一台の銀色のバンの姿があった。車体の屋根には4つのパラボラアンテナと各種の監視カメラ、さらには集音マイクまで用意され、ウインドシールドはフロント部分だけという念の入れようである。怪しすぎる。
 乗員は二人、一人は赤毛の白人。ラフな格好で、ガムを噛みつつ、アンテナやマイクが拾う情報に目を光らせている。もう一人も白人で、こちらはメガネをかけ、少々痩せた体を緊張で強張らせている。

 コンコン、とドアがノックされた。

 「・・・っ!誰だ!!」

 ビクッと体を震わせながら、それでもメガネが問う。その手にはいつの間にやら無骨な拳銃が握られている。赤毛のほうも、座席下から音もなく単機関銃を出す。

 「私だ。今戻った」

 車内の二人が、表情に安堵を浮かべ、頷いた。だがそれでも銃を構えたままでドアをスライドさせる。そうして乗り込んできたのは、太った黒人であった。まるで熊のような体に、緑のツナギ―米軍兵士戦闘服―を着込んでいる。それを見てメガネは笑顔を浮かべつつ―

 「あぁお帰りなさいツーポイント特佐。首尾はどうでした?」

 なんでもない言葉。だがこれがいけなかった。

 「ケイツ!!このファック野郎!」

 黒人は突然暴れだすと、メガネの胸倉を掴みあげる。

 「私をツーポイントと呼ぶなといったはずだ!後一度でも言ってみろ!!大好きなそのカメラのフィルムで絞め殺すぞ!!」

 ひとしきり叫ぶと気が済んだらしく、ツーポイントがケイツから手を離す。が、未だ憤懣やるかたない様子である。やっと開放されたケイツは、咳き込みながらも先ほどの質問を繰り返す

 「そ、それでどうだったんですか特佐?”彼女”に会いにいったんでしょう?」

 その言葉を聞き、激昂していた彼もようやく落ち着いたらしい。普段の口調に戻ると

 「・・・あぁ、様子見のつもりだったのだが、簡単に気取られてしまったよ。未だ目覚めていないとしてもさすがとしか言いようがあるまい――」

 「えーっと、特佐?」

 話の切れ間を見計らい、赤毛の方が声をかける。

 「本国への定期連絡の時間なんですが・・・」

 「あ、あぁ。もうそんな時間か。今日の回線はC−3、守秘ランクはレベルBのものを使え。パスコードは”PROJECTOFCURSE”。いいか、本国を焦土にしたくなかったら絶対にヤツに気づかれるなよ!」

 わかってます、と赤毛が頷き、ツーポイントの方に双方向のヘッドフォンを差し出す―

 「・・・はっ。・・・今のところは順調に進んでおります。・・・・・・増援?バチカンからですか?・・・確かに我々だけではヤツとの戦闘になった場合、作戦は困難を極めるでしょうが・・・。・・・はっ。わかりました、そのように・・・」

 確認のためだけの短い内容。そして、ブツリ、と一方的に連絡が切られる。周りには微妙な静寂・・・。その静けさを掃うべく、ツーポイントはゆっくりと振り返り――

 「諸君、聞いたとおりだ。バチカンの方から増援が来る。名前はシスター・カルチェア。本物の奇跡の使い手だそうだ。・・・・・・神の奇跡VS呪い・・・。どうやら天は我々に味方しているようではないか・・・」

 そういって、満足そうに目を細めた――







 「バッキャローーーー!!」

 その連絡を受け、彼は思わず激しい苛立ちと怒りを覚えた。

 「あ、あんだけ脅したっつーのに何夜中にノコノコ出かけてるんだあのオンナ〜〜〜!!」

 叩きつけるかのような言葉とともに立ち上がり、目の前を塞ぐドアを足で蹴破る。闇色に染まり広がる空間にあってなお黒くそびえる愛車―フェラーリF40―に怒りをこめて乗り込む。

 ――478馬力を誇る荒馬が目を覚ました。ギュルギュルと、まるで主の怒りを受けるかのようにタイヤが空転する。直後、その秘めた力をみせつけるかのようにフェラーリは夜の街を疾駆しはじめた。

 『ごめんなさいおとーさん、私がそばにいながら・・・』

 「ばーか、お前が悪いんじゃねぇよ。わりぃのはこんな夜中に遊びまわってるフリョウムスメの方だ。んなことより車の向かった先、国道方面で間違いねぇんだろうな」

 『えぇ』

 「うしっ、それじゃぁお前は港に戻って待機な、情報収集でもたのむわ。洗濯物はちゃんとだしとけよー?」

 そういって手の中の電話を切ると―助手席に向けていらただしげに投げつけた。

 「くそっ!!アイツは俺が――!!なのにDIAのアホどもはっ――!!」

 言葉とともに思い切りアクセルを踏みつける。エンジンが悲鳴を上げ、暴力的なスピードを車に提供する。与えられた力にむずがる車体を、青年は、その感情とはうらはらに繊細なハンドル捌きでてなづける。

 「――いや、違うな」

 ふと、疲れた声で青年が呟く。

 「そうじゃないよな・・・。そうだ。アイツが・・・俺を――」

 自分の放つ言葉の意味に気づいて、自嘲的に笑う。ここ数日考えていたことが、するすると、パズルのピースがはまるように、一つの回答へと落ち着いていく。すなわち――

 「まっ、それが妥当な結末だよな――」
 
 (あの日の約束、守れなくなっちまうけどな)


  ひとりごち――。直後、表情を引き締め、さらにアクセルを強く踏み出す。黒いボディが夜闇を切り裂くかのように加速していく。


 ――その先に、何が待つのか






 「――戦争狂いの豚どもが動き出しましたか」

 八重垣を囲んだ闇の、その一角、そこに老人の声が響いた。
 夜に溶け込むかのようなタキシード、深く曲がった背―金髪の青年に、ヒヒと呼ばれたあの執事である。

 「何が目的かは知らぬが、あの黒き神が動いたのなら問題にはなりますまい。――だが」

 言って、老人はニヤリと、見るものを心胆寒からしめる笑みをこぼす。

 「我が主の計画のため、腕の一本くらいは戴いておきましょうか――サルトル・ザ・マーキュリアン!!」

 そして、脇に置いてあった長い包みを手に取ると、老人はまた、音もなく闇に融けた。








 いかなるドライビングテクニックが可能にさせるのか。青年を乗せた車は、ものの十分とたたずに目標を視界に納めた。目の前を走る銀のバン。そして走るその先には――巨大な軍用輸送機・C17

 国道、そしてそこに広がるビル街の中に横たわる軍用機という光景を目にして、青年はニヤリと、獣の笑みを浮かべた。

 「あんのアホどもが・・・目にモノ見せてやらぁ、オイ、起きろ」

 言葉と共に、腕をサイドガラスへとのばす。

 「うるぁ!!」

 瞬間、握られた拳が振るわれた。拳銃弾でも容易に砕けぬ強化ガラス製のはずが、青年の一撃を受けたそれは、あっさりと砕けてしまう。そして、それに呼応するかのように、助手席、ダッシュボードがひとりでに開いた。中から出てきたのは、

 ――金属の光沢を示す飛行物体

 手のひらサイズの土星を思わすそれは、眠たげに瞼を上げると、彼を起こした主人に物言いたげな視線をよこす。

 「もくひょー、めのまえのデカブツ。そーだなぁ・・・。めんどくせぇ、刺身にしちまえ」

 あまりにも投げやりな主の命令を、だが円盤に仕込まれたAIは正確に察し、割れたガラスから、素晴しい勢いで夜空へと飛び立っていく。

 「・・・さて、次はこっちだが・・・少々荒っぽくいくか」

 そういって、一度腕を車内に戻し、そしてまた外へと突き出す―そのときには既に、青年の手には、少々風変わりな機関銃が握られていた。

 「ま、ころしゃーしねぇから・・・安心しなー」

 言って、引き金をひく。三度。一撃目でバンのフロントは吹き飛び、続く二撃目は右前輪を貫き、左前輪までもが融解する。そして、当然のごとく、凄まじい勢いでバンが横転していく。

 「ありゃ?ちとやりすぎたか?」

 またも一人ごち、ポリポリと頭を掻く。しかし、やっとのことで回転が止まったバンの内から這い出た人物を見て、青年の顔は安堵と・・・そして深い憂いに染まる・・・これからすることを、彼女はどう思うだろうか?怒るだろうか、悲しむだろうか・・・ここまでしても思い出せないほどに、自分のことを忘れているのだろうか?
 だが、それでも、やらなければなるまい。例え彼女を悲しませても、困らせても、これは彼にしかできないことなのだから。これが彼女を守ることになるのだから。――もう二度と、見ているだけで何も出来ないのは御免だ。


 ブレーキを踏んで車を止まらせる。ドアを開ける――次の瞬間。

 ―轟、と、夜空に紅い花が咲いた。彼にはそれが、神への宣戦布告の狼煙にも、劇の終幕を告げるベルにも聞こえた。



 さぁ、はじめよう。この残酷な運命の戯曲の、最後の一幕を。全ての想いに、ピリオドを打つために――



        ――この「コウカイ」を、最後のものとするために――



           
――To be continued REMOVECURSE”FIFTY・FIFTY”

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