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Tonkin Cane
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WFFJ
Event
汀石竿談義 島田一郎
文治堂出版 昭和50年6月1日
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或る日突然お見えになったご年輩のヘラ竿のご師匠。 雑談の末、読んでみなさいと勧められたのがこの1冊。 和竿師の技術にはかねてより興味を持っていた私は早々に入手して読んでみることに。 そしてそこには私の想像を超えた和竿の世界がありました。 我々6角バンブーロッドビィルダーにも参考になる話もありますので興味ある部分を私の雑感など加えてご紹介してみましょう。
欧米の竹竿の歴史は約200年少々だそうです。 それに比べ日本の竹竿の歴史はさぞかし古いだろうと思っておりました。 日本だけでなくアジア諸国は皆竹の産地でもあり、古代より竹は生活に欠かせない便利な素材あったことを考えれば古くから釣竿としても用いられていたはずです。 刈り取った竹の枝を払い竿として使ってたというレベルでは確かに太古から使用されていたはずですが、工芸的な水準まで発展していったのは一体何事頃の話しなのでしょうか。 本書によれば趣味としての釣りの普及を見ればその国の文化レベルが分かると記されています。 確かに生活レベルが低ければ釣りが趣味として成り立つ余裕もありません。 経済発展途上のアジア諸国においても中国や韓国を除けば釣りという趣味はまだまだ庶民に定着しているとは思えません。 高所得層の人なら高価な釣り具で釣りを楽しんでいる人もいるでしょうが庶民の広い娯楽としての地位は獲得されていないのが現実です。 魚を獲るとしたら、それは食量の調達として行われています。 アジアの辺境の地を旅して、河で釣りをしている姿を見かけることがあるとすれば、大抵は太い丸竹に糸を結び、その日の糧の足しにオカズを獲っている貧しい農村風景の一片を見るくらいでしょう。 しかし、中国や韓国ではゆとりのある所得層の間では確実に趣味としての釣りが定着しつつあるようです。 では経済大国の日本ではどうだったのでしょうか。 本書によれば、江戸時代に木場あたりで富を得た商人や大名の間で小さく美しいタナゴを釣るのが流行し、工的な竿の需要が生まれることになったとあります。 金箔の屏風を立てて絨毯を敷き、盆栽で育てた芝竹に工芸的な漆装飾を施し、芸者の黒髪を1本金一両支払って購入し、釣り糸として使用したそうです。 工芸文化としての釣はその頃誕生し、明治、大正、昭和とその技術はさらに磨かれ全盛期を迎えて行ったのです。 竹に火入れを施し、真っ直ぐに矯めて硬度を出し矢として使用する火入れ技術は釣り竿の技術にも応用されていったそうですが、その技術は古く朝鮮よりもたらされたとの事です。 ここで着目すべき点は、竹の産出地で無い欧米のロッド製作技術と産出地である日本のそれは大きく決定的な違いが生じました。 それはまさに火入れの違いと言えるでしょう。 欧米は武器製作としての竹の歴史も無かったはずですから、武器として竹を使用していた文化圏では当然その技術はロッド製作にも引き継がれていったのです。 日本の竿は丸竹をそのまま利用するので一見安易であるように錯覚しますが、実際には高度な火入れ技術、矯め技術を要する作業です。炎の色や炭の状態を見極め竿師の勘で火入れに適した火を作ります。 火が出来たら、経験と研ぎ澄まされた感によって矯めと火入れが行われます。 興味ある部分ですので、本文をそのまま記してみます。
<汀石竿談義・火入れより抜粋>
竹は火で焙って熱を加えると、飴のように軟らかくなると同時に、肌が狐色に焦げ始め、竹の肉が収縮して繊維がつまります。 そして火から離して熱が冷めると、焙る前よりはずっと硬くなります。 削った板を火で焙ると木目の間の肉が収縮して凹み、繊維がつまって硬くなり、指先で弾くとコンコンと良い音を立てるのと同じです。或る意味では軽い炭化が始まっているのでしょう。 しかし、黒く焦がして炭にしてしまっては、脆くなります。竹のそういった性質を使用して、曲がった竹を真っ直ぐに矯め、同時に硬さ(弾力)を増す作業が第一回目の火入れです。 さらした竹を曲げて手を離せば、元の曲り癖の通りに撥ね返りますが、一旦火入れをして癖を矯め殺し、まっすぐに伸ばされた竹は、曲げられても新しく獲得した真っ直ぐな姿に戻ろうとする性質に生まれ変わります。 竿師はこの最初の火入れを「竹に魂を入れる」とか、釣り竿としての「生命を吹き込む」とか云って重く視ます。 それもその筈で、硬さを増すということは弾力が増すということですし、真直ぐな姿に戻るということはクセが出無いということです。 釣り竿にとってこれ程大事なことはありません。 刀はどんなに良い玉鋼を使って、どんなに鍛えても、最後の焼入れに失敗すれば一朝にしてナマクラになってしまいます。 釣竿の方は、それと同じことを最初の火入れで行うことになる訳ですから、竿師が火入れの技術修練に心血を注ぎ、身の引き締る思いで火入れの場に望むのも当然といわなければなりません。
<火入れ>
本書には、火入れ(矯め)は4回に分けて行うとあります。 和竿師が皆4回ということではないでしょうがその位、あるいはそれ以上入れるのでしょう。 しかしこれは我々バンブーロッドという張り合わせロッドと丸竹竿の違いはありますので4回以上というのは和竿の話として参考程度に記憶しておく程度で良いと思います。 また本書では何度の熱で火入れするかは一切触れられていませんが、バンブーロッドのように何度で何分というマニュアル化されたものでは無く、あくまでも竿師職人の経験と勘で全ての作業は行われるということです。 火入れの火が何度であるかは知る必要も無く、起こした炎の色や炭の状態で判断し、これなら良しという状態にします。これを火を作ると言うそうです。作った火で素早く竹が焦げないように竹を回しながら前後に動かし、十分に熱したら素早く矯め木でもって真っ直ぐに伸ばします。 この作業は手早くスムーズに行われなければならないので、竹は右利きであれば右手で持ち、矯め木は左手で持つそうです。 矯め木を持つ手は右手か左手かで流派があり、詳しい事は本書に書かれています。 最初の火入れは荒矯めとも言われるようですが、竹に最も熱を加える矯めで竹に魂を入れる大事な火入れです。 2回、3回目は中矯と呼ばれ、最後の為は上矯めと呼ばれます。 つまり火入れと言っても4回ともに火加減は微妙に違うことになります。 一方、欧米のフライロッドは割った竹を加工し、接着材で貼り付けるという方法です。 火入れは和竿に比べ比較的低温熱処理ですが、それは世界で一番強靭な繊維を持つと言われるトンキンケーンを使用するから成り立つのではないでしょうか。 日本の真竹や淡竹で6角バンブーを製作する場合、バンブーロッドで行われる180度前後の低温では到底ロッドに張りを出すことが出来ないのは明白です。 真竹や淡竹で良い6角バンブーを作るのであれば、和竿師レベルでの火入れが必要となるでしょう。
<竹について>
この本で一番興味かれるテーマは何と言っても竹の話です。 我々バンブービィルダーはトンキンケーンであればティップもバットもトンキンで製作してしまいます。 あるいは真竹であれば全て真竹で作ります。 一方和竿の場合はどうかというと3種類位の竹を使い分けます。 ヘラ竿の場合は穂先は真竹の削り穂、あるいは合わせ穂、穂持は高野竹、穂持より下のセクションは矢竹です。 全て高野竹で作る総高野という竿もありますが、普通は3種類の竹を使います。 アユの友釣りの竹竿は穂先が布袋竹、穂持と穂持下は矢竹、その下の2番、3番、手元は淡竹、真竹、大名竹あるいはお化け(埼玉だけに生える矢竹の一種)のいずれかを使用します。 ここで重要な事は各セクションの竹の種類によって竹の刈り取る年数が違うということです。 例えば真竹の削り穂を使用するヘラ竿においてはなるべく硬い真竹を使用するために刈り取りの年数は立ち枯れ寸前の7〜8年物を使用します。 またアユの友竿などは竿が4間といった長竿も多いために軽くする必要があります。 その為、新子を使ったりします。 バンブービルダーは竹は3〜4年物と思いがちですが、これは一考の余地があると言えそうです。 新子でも竹の子が伸びて目一杯の高さになるので2ヶ月程です。 春の竹の子は夏には伸びきってしまっていることになりますが、その年に切る場合、通常竹を切る時期は一霜降りた10月以降1月位までと思われていますが、新子の場合は夏に切る場合もあようです。 夏の竹の子が成長しきった段階では中身がまだ成熟していません。 これを半身の竹を呼びます。 一般的な刈り取り時期である冬の刈り取り時期には新子でも身が入った所謂身入りになってしまいます。 3〜4ヶ月切る時期を変えるだけで同じ竹でも身の入り方や硬さが違うものになってしまいます。 刈り取る時期は大変ですから、名のある和竿師などは竹を切る時期には1週間くらい泊まりで山に入ることも珍しいことではなかったようです。 手で触り感触と経験だけを便りに竹を切る時期を見定めて、良いとなったら切るのだそうです。 また、同じ種類の竹であっても産地により硬さが全然違うそうです。 真竹なら、関東であるなら群馬県、日本全国で言うなら奈良県の真竹が良いそうです。 トンキンケーン同様に山の物か川の物か平野の物かでその繊維の固さはまるっきり違うという事実を認識しておくことは重要です。 日本の竹の場合、 火山灰を被った土質のものは繊維がどうしても柔らかくなる傾向があるようです。 削り穂などは、特に固い繊維が必要ですから、立ち枯れ寸前の7〜8年物を狙って採りに行ったりするそうです。 また真竹はヘラ竿の穂先以外にも淡竹同様にアユ竿の手元などにも用いられたことがあるそうですが、群馬前橋特産の真竹は節が低く、アユの友竿に大変適していたそうですが、竹の花が咲き、どうやらその特産真竹の林は全滅したそうです。 バンブーロッドにおいては和竿のように各セクションの竹材を変えて製作するという発想は一般的ではありませんが、ロッドの各セクションにそれぞれの役割がある訳ですからティップはトンキン、バットは真竹と言ったコンビネーションや、ティップはノードレス、バットは普通の節在りという風にセクションごとに製作方法を変えてみるとか、全セクションに同じ竹を使用するのでも和竿のような発想で、ティップは4年物、バットは新子を使用するだけでも全然違ったものになるはずです。 中空ロッドの場合は単に中を抜くということから一歩前進して、インナーテーパーでロッドの調子を変えることもできます。 あるいは火入れの方法もティップとバットの温度を変えることで使い勝手も変わってきます。 そんな事をしないでもテーパーを変えればそんな必要はないかもしれません。 ただ釣竿は使う場所や使い手の好みで要求されるニーズは多岐に及びます。 それに答えるには自由な発想で望めば使い手がより納得する名竿が完成するかもしれません。。
<竿の調子とバランス>
和竿の場合、アクションは基本的に先調子と胴調子の2種類です。 アユの友竿はその中間のアクションがあるそうです。 後は硬調、軟調等作り分けしてお客様の要望に対応します。 また本書ではロッドのバランスの重要性を強調しています。 各セクションは違う種類の竹をその竹に応じた火入れを行い全体のバランスを取っていきます。全体の一部が弱かったり強かったりしたら綺麗な曲りを得ることはできません。 バランスを見るには穂先に短めの糸を結び、錘をぶら下げて行います。 和竿作りはすべて人間の勘、技術、経験に基ずいたもので、錘テストでどこか硬い箇所があればその部分は突っ張ったようになり、綺麗なカーブを描きません。 また一部が柔らか過ぎても竿の曲がりはその部分でへの字のように曲がってしまいます。 バランス良い竿を作るのは研ぎ澄まされた職人技が必要になります。 また竿の調子には掛調子と振調子があり、錘テストでは振調子は判断できません。 それは竿を振る場合掛調子よりも更に胴に深く乗ってくるアオりがあるからです。 6角バンブーロッドにおいてもカーボンロッドに比べアオリが大きいのが普通で、竹に慣れない方はロッドを壁に押し当て、その曲り具合から好みのアクションだと判断しても、振ってみてもキャスティングが難しかったりすることがしばしばあります。 このアオリが竹竿の面白さでもあります。 実際の釣りにおいても予想以上の魚の強い引きに耐え、良く胴に乗って魚をいなしてくれる竹竿の潜在的いトルクも竹独特のアオりと関係ありそうです。 我々ロイジスティックなバンブーロッド製作者においてはストレス値を利用してテーパーを算出しますが、算出された値も振調子ではありません。 良い竿は掛調子だけでなく振調子も良いものと言えます。 竹と言う自然の素材で使い良いロッドを設計するにはストレス値をベースに釣り師としての経験値をを加味して作り上げるということになるわけです。 竿のバランスに話を戻しますと、バランスの悪い竿は魚の取り込みに必要以上の時間がかかったり、場合によってはは糸が切れたりする原因にもなると本書に述べられています。
<竹の晒しについて・汀石竿談義より抜粋>
竹を取る時期、また何年物を取るかはケースバイケースであることはご紹介した通りです。 採った竹をどう処理するかが書かれていますのでご説明いたします。
<磨き>
矢竹、オバケなどの女竹(節が低い竹のこと)はもみ殻と磨き砂を混ぜて竹の表面を磨きます。
因みにトンキンケーンなども女竹の種類ですから、中国現地では川岸の土砂を小山状に盛って
竹をこすりつけるように表面磨きをします。
<油抜き>
布袋竹、淡竹、真竹などの男竹(節が高い竹のこと)火で焙り、浮いた油分はボロ布で
拭き取ります。 女竹の磨きに相当します。
<湯抜き>
京晒しと言われ建築材用の表面の綺麗な仕上げですが竿としては硬さが失われるので、この
方法は釣り竿には向いていない。
だいたい興味深い内容をご紹介しました。 本書ではこの他に歴代の有名和竿師の系統の説明であるとか、竹の矯めの方法であるとか継ぎ部分の加工方法であるとかが詳しく説明されています。 和竿製作に関してこれほど詳しく解説されたものは他に例を見ません。 興味のある方は一読をお勧めします。 ただ残念なことに現在では出版社も存在しないような状態です。 私はアマゾンで検索し、中古の1冊を見つけて購入することができました。 神田の古本屋さんなどにまだ在庫が眠っているかもしれません。
解説 三浦 洋一