2001年8月5日
夏は暑い。当たり前の話。だが、今年の夏はいやに暑い、何でも5、6年ぶりの酷暑だそうだ。摂氏37、38度が出ている。
それにつけてもここ数年ますます暑くなっている気がする。油断していて道でノラ(or飼い犬)の生理現象物を踏む、○○がつくほど暑い。殊に都市部では、昔と比べて土地利用が大きく異なり、アスファルトや建物――ガラス張りの建物が目立つ――からの照り返し、緑の不足、エアコン室外機の温風、車の排気ガス、工場等の廃熱、人の多さ、そして二酸化炭素の温室効果と、数え上げれば幾つでも出てくる。複合的な原因によって確実に気温が上昇している気がする。所謂ヒートアイランド現象で郊外より気温が2〜4度高い――それに紫外線の脅威。環境問題という面から何らかの手だてが講じられなければならないのは言うまでもないが、ここで言上げするつもりはない――。気象台の気温発表は、百葉箱――天気予報のおっちゃんは、近頃は金属製の筒で計ると言っていたが――の中の温度計に基づいているから実際のカンカン照りでの気温、アスファルト道での気温、家の中での気温等々と異なり、発表温度より体感温度は数度高めだ。
昔の建物に比べて今の建物は気密性に富んでいる分、暑さには人間弱いのではないだろうか。ひと昔前なら、打ち水、風鈴、行水、物売りの声――盥の行水、物売りっていったい何十年前なのと言われそう――、簾越しの風なんかでも十分に涼がとれたし、夕暮れ時の木陰に吹く風の涼味は格別。またはペパーミントの香りによって神経の高ぶりを抑えるというのもある。それでも暑いことは暑いだろうが、気分的には随分楽だったのではないだろうか。ところが、概して今の家は風通しが良くない。建て込んでいるいないといった立地条件に大いに左右されるが、それもで風が通りにくい構造の家が多いのではないだろうか。涼しくなるはずの窓を開けると、外の熱気が家に入ってきてかえって暑い。このような家が都会では多い。
文明の利器に頼ろうとすれば、やはりエアコンを点けっぱなしする――こまめに付けたり消したりしたり、設定温度を高めにする?としても――しかなく、健康面、経済面等で必ずしも効果的ではない。涼しいところから外に出たときの気分の悪さ、あれを繰り返し行うだけでもゾッとする。そうこうしているうちに体温調節機能の混乱から冷房病や風邪を引いたりする隣人を見かける。
だからと言ってエアコンを使用するなとは現代では非常識に聞こえだろうし、そういうことを言うつもりもない。たとえ嫌だと言っても、電車・店・デパート・映画館等々とその恩恵に欲するしかないわけだし、きっちりと涼しさを満喫している自分がいる。ただ文明の利器に頼りすぎないという意識はあってもよいような気がする。そういう時にふっと良寛和尚が語ったと言われている
「暑い頃には暑さがよろしかろう」(原文通りではないがこういう趣旨の文)
という言葉が脳裏に浮かぶ、口をついて出てくる。ごく自然に暑い時は暑いものであり、寒い時は寒いもの、こう考えるだけでも大分気が楽になる。もちろん、そうだけども寒暑に身体がこたえるのも事実。そのいっぽうでこの言葉だけでも精神的に安定する人がいるのも想像できる。そういうレベルでこの言葉を受けとめることも酷暑の最中にはいいことかも知れない。
ただ、自分がこの言葉を想い起したのは、単に気が楽になるということだけではなく、もう少し違う意味において。
如実知見にものごと観じることができればどれほどいいんだろうということになろうか。それはありのままに、ありのまま存在する眼の前のモノを見ていると、何だか暑さ寒さに人一倍抗することがひどく愚かしく観じてくる。むろん健康を害するような我慢を強要する意味ではなく、気持ちを自然界に開放することで、内心と外界をことさら区別せず、さらに進んでみな自心のたまものと見ると妙に心が自然と落ち着く場所に落ち着いてくるような気がする。だけど、摂氏35、36度の外気温は相変わらず摂氏35、36度だし、太陽のカンカン照りは相変わらすカンカン照りだし、暑いことは暑いが、そういう心持ちを少しでも通すと、それ以前とは同じ暑さであっても何がが違うような気がする。その暑さとは、
「暑い頃には暑さがよろしかろう」
という暑さになっている。一つフィルターを通すと、同じなんだけど同じではない暑さがある気がする。だけど精神修養論とも根性論とも異なって、自分をころすのではなくあるがままに暑さを受け入れることによって暑さに対して心が穏やかになるというか、暑さと一体化するというか、暑さに成りきるというか、当たり前のことを当たり前に思い直しているような暑さになっている。そう、日本のここら辺りの夏はいたって蒸し暑いのがごく当たり前にと。
このように取り留めもなく暑〜い昼下がりに白昼夢を見るように取り留めのなく暑さを堪能していた。実は暑さにあたったのかも知れない。