2002年8月4日
今年の夏もえらい暑さに扇子扇ぎながら映画館に足を運ぶ。レイトショー1回限りの上映、三分の一程度の客の入り。全国上映の期間延長している『少林足球』(少林サッカー)と比べると雲泥の差といってもいいくらい。確かに周星馳の主演映画は、何の構えもいらなくて今回のものも大いに笑えて面白かった。
でもレイトショーのこれだって、監督・脚本は香港を代表する一人のあの陳果(フルーツチャン)の作品なのに。日本ではまだまだ知名度が低いのかなと?と思ってしまうが……。彼を一躍有名にした『メイドイン香港』は、香港返還前の揺れ動く気持ちの少年少女を描いたとても印象深い作品だった。『メイドイン香港』以後も『花火降る夏』や『リトル・チュン』と立て続けに上映されてきたが(日本ではどうだったかな?)見ておらず、自分にとっては久しぶりに彼の新作『榴〔木連〕飄飄』(ドリアンドリアン)を見ることとなった。何でも所謂香港三部作(メイドイン香港・花火降る夏・リトル・チュン)が終わって、新しいものに挑戦したという作品だそうだ。この作品で陳果監督は、2001年台湾金馬賞最優秀作品賞・最優秀脚本賞、第六回香港批評家協会賞最優秀脚本賞、第二十回香港電影金像賞最優秀脚本賞を受賞していると聞くと、弥が上にも期待が膨らむ作品だった。
大陸から南方へ出稼ぎに行く人はとても多いけど、そのことがやっぱりモチーフになっているようだ。その中にはこの映画の主人公のような職に就く人もいるのだろう。だが、彼女は強い。そのまま流されっぱなしにならず我を忘れてしまうんじゃなく、自らが選んだ環境の中でベストを尽くす。ひとたびその職を選ぶと、やり遂げ、故郷に帰って行く。自分が変わるための代償としてはあまりに大き過ぎるとも言えるが、それすらも想い出と化して、故郷では自分の本当にしたいことを再発見し、結果的には変わっていったのではないだろうか。まさに 「由旺角〔石本〕蘭街到東北牡丹江一個中国女子、流連二地兩種心情故事」の通り、香港と牡丹江との生活、その生きざま、向きあい方の違い
………。
映画の要所要所で登場する「ドリアン」は、その主人公Qin Yanの人生を象徴していると監督は語る。見た目はごつごつしていて無骨でしかも匂いは強烈、でも奥深い味わい。彼女の人生経験も一言では語り尽くせず奥深く味わい深いもの。好きになるか嫌いになるかはっきり分かれる果物ドリアンのように見る者にとってQin Yanの選択した人生もそうなのかも知れない。まさしく冬の東北の田舎と夏の香港という両極での物語は、似たような境遇の主演女優との出会いが製作のきっかけになったと言われるだけのことはある。
今、作品を時系列で追ってみると、(丹江での京劇俳優・幼馴染みとの離婚調停→深〔土川〕)・香港で春を売る→不法滞在者のFanたちと出会う→香港で唯一Fanと友達となる→牡丹江に帰り成功者として迎えられる・親戚の娘を南方に連れていくように依頼される→新しい仕事を探す・幼馴染み友人たちと再会→離婚成立→親戚の娘や幼馴染み友人たちがそれぞれ南方に旅立つ→一人牡丹江に残ることとなる・再び京劇へ………。わたしにとっては大きく頷かざるを得ない。一人の女性がおのが人生を切り開いていくさまのその1シーン1シーンがすべて芳醇な香りたつ色彩に覆われ、甘酸っぱさとややえぐ味を持ち、厳しさを兼ね備えていると。
この映画が初出演・初主演の秦海〔王路〕は、『花樣年華』の張曼玉(マギー・チャン)や『臥虎藏龍』(グリーン・デスティニー)の章子怡を抑えて第六回香港批評家協会賞最優秀主演女優賞、2001年台湾金馬賞最優秀主演女優賞を、また同最優秀新人賞や第二十回香港電影金像賞最優秀新人賞を立て続けに取っていたとは、パンフレットを見るまで知らず、驚くばかり。でも映画を見終わった後ならそういうことも納得がいく気がした。美の好みは人によって異なるだろうけど、彼女は飛び抜けてダントツで絶世の美女とは言えないような感じを持っていた、しかし映画の中での彼女は輝いていた。その存在感の確かさ。今後が楽しみな女優さんがまた一人中国映画界に誕生をした瞬間を目の当たりにしてのではないだろうか。そういう感想が強くよぎる。
ただほんの一部の中国映画以外、大多数のものは単館でひっそりと上映されていて、いつの間にか終わっている。欧米の映画に比べて知名度が殆ど無きに等しいのは中国映画の常なのだろうか。ふとそんな気が………。