18 向前看

                                  2002年2月27日



 程度の違いはあれ、山紫水明から砂漠・草原・険しい山々と起伏に富む風景をこよなく愛す、あるいは悠久の歴史・文化に敬意を抱く、あるいは雄大な大地に言いしれぬ郷愁を覚える、あるいは戦時下の行為に贖罪の感情を持つ、あるいは広大な市場と安価な労働力に商売のチャンスを嗅ぎ取る、といった日本人が大勢います。

 そのような人々を含め一般の日本人にとって、出版当初から話題になっていた中国関係の書物に、産経新聞ジャーナリストの古森義久著『日中再考』(産経新聞社:2001年6月出版)があります。
 
 この本は、著者が産経新聞初代中国総局長――何でも台湾に支局を置いていると大陸では支局開設は認められなかったものが、政策変更があったため31年ぶりに記者駐在を認められたそうです――として1999年12月から約2年間の取材をもとにして、産経新聞に2000年10月から2001年3月にかけて連載した「日中再考」を一部手直し、一部書き加えて一書にしたもの。現在の日中間に厳然と横たわる様々な問題点に眼を逸らさずかつオブラートに包まず、真正面から直截に日本人の前に提示している書です。

 一読すると、その人の立場・考え方などによってか、わが意を得たり、むかむかする、腹の立つ、気分が悪くなる、反発したくなる等々それこそ人により千差万別、様々な反応があるのでしょう。その内容を受け入れるにせよ、受け入れないにせよ、何れにしても今の日中関係に一石を投じた本の一つと言えると思われます。現状を知るということで、自分自身が不案内な経済や外交の分野での話題が主なものだけに、新たに認識させられることばかりでしたし、歴史教科書の件では漠然と知っていたことを再認識させてくれました。所謂、眼から鱗というところがありました。


 さらに『日中再考』がよく売れたからかどうか、二匹目の泥鰌を狙ったからかどうか、商業ベースの話はとんと分からないですが、続編として『日中友好のまぼろし』(小学館:2002年1月出版)という本が、つい先日出版されました。主に1999年から2001年にかけて、『諸君!』(文藝春秋社)・『サピオ』(小学館)・『文藝春秋』(文藝春秋社)・『ボイス』(PHP研究所)・『ファイ』(富士総合研究所)の諸雑誌に書かれたものやPRANJワークショップでの講演などに改題・加筆・修正して単行本化したものです。前書と部分的に重複している箇所が多々あるけど、最新レポートとしての側面もあるので二冊合わせて読むと現状の問題点が相互補完されているためより分かり易いという感想を持てました――だからといって、1冊だけでも著者の趣旨はよ〜く分かります――。



 今の日本には、中華料理の大好きな人、お茶好きな人、中国人の好きな人、中国人と国際結婚した人、中国語を好む人、中国人と親しく交わりたいと願う人、旗袍好きな人、漢方薬好きな人、旅自体を楽しむ人、歴史上の人物を好む人、歴史そのものを好む人、文学を好む人、『芙蓉鎮』・『ラストエンペラー』・『紅高梁』等々映画を好む人、伝統・民族・中華POPS等の色々な音楽を好む人、二胡・古箏等の中国楽器を好む人、建築物に美を見い出す人、美術工芸品・宝石等に眼がない人、書画・軸物・文房四宝を好む人、恐龍の化石等発掘物好きの人、中国ゲームを好む人、あるいはもっと実利的に経済・貿易等に興味を持つ人、工場進出・合弁・合作等々で奔走する人、特派員・駐在員として仕事に没頭する人……………。

人それぞれに出会いや填り方に個人差・程度差があって挙げていけばまったくきりはないですね。専門・素人の違いは別として、好き嫌いの感情は別として、お隣りの大国中国に何かしら関心と興味を持ったり、現在関わっていたりする日本の人々がたくさんいることは容易に想像できることです。またその反映もあるのでしょうか、個人・パック・主催・手配を問わず旅行者も年々増加しているようですし、中国語は人気の高い言葉の一つとなっているようです――あるところの調査によれば、大学の第二外国語受講者の半数ほどが中国語受講で、また中国への留学生数の半数は日本人と言われています――。そのような中にあって、2002年はちょうど日中国交回復30周年に当たる節目の年となっています。そういう時だからこそでしょう、このような本が今日のわたしたちの前に現れたことは、いろいろなものごとを前向きに(向前看)考えていくために、それなりに意義のあることなのではないかと。


 この二冊は専門書でないという書物の性格によることなのでしょうが、たとえそうであっても、惜しむらくは単行本化に際して著者の根拠としている裏付け資料――たとえば経済関係で――を添付していないということです。このことで二書の価値が減ってしまうわけではありません。でも一石を投じる内容だけに、結果として言いっぱなしになっているので、全部とは言わないまでも公表できる資料のあるほうが、自分のような門外漢にとって、より説得力が増したのにと思われてなりません。少し惜しいと言えば生意気に聞こえるかも知れないですし、もちろん、各人で経済面なら経済面で、『年鑑』等々その道の書物を調べればいいではないかと言われれば、そうなのですが……。


 そのようなことを言っても、考えさせられるところ大です。もし手放しで能天気気味に中国好き好き好きと何も考えないような人がいれば、おそらく初めて知ることが多いと思えますので、そのような人には『日中再考』・『日中友好のまぼろし』の二冊とは言わず、たとえ一冊であってもひょっとしてお勧めの本になるかも知れませんね。
 




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