照れ隠し

照れ隠し



  「んじゃ、俺が待ってるよ。アッシュと俺は流派同じだし、一人いれば充分だろうしさ」

  今日は母上の為に、滋養強壮の為の薬になるキノコを入手するためミュウの言葉を信じてキノコロードまでやってきた。

  キノコロードの入り口には同じ事を考えたアッシュがいた。やっぱり考える事も同じなのかな。

  んで俺はなんかあった時の為に、用心して一人残る事にした。

  レプリカの俺より、本物の息子であるアッシュが取ってきたって方が母上も喜ぶだろうし。

  そんな事を考えているのが顔に出たのかガイがこちらを見た。

  「入り口とはいえ、一人じゃ危険だろ。俺も残るよ」

  「馬鹿にするなよ!別に俺一人だって平気だし!頼りないけどこいつもいるしさ」

  そう言って俺は足元にいたミュウを持ち上げて笑った。

  「だからさっさと行って来いよ」

  「しかしなぁ」

  ガイはまだ渋っているようだ。子供じゃないんだから大丈夫なのに・・・子供か。まだ七歳だし。

  「そう言ってる時間が勿体無いだろ!早く母上に持って行ってあげないといけないんだし」

  背中を押して無理やり一行を出発させた。

  去り際にアッシュがいつもの不機嫌面でこちらを睨んできたが直ぐに視線を逸らしてキノコロードの奥へと消えた。






  皆が出発してから三十分は過ぎたが、皆はまだ戻る様子は無い。

  思ったよりもここは広いようで、目的の物を探すのに手間取っているのだろう。

  「お前、ここ知ってるんだろ?道案内の為に着いてった方が良かったかもな」

  足元で、近くに生えていたキノコを食べているミュウに言った。

  「それはダメですの!ご主人様一人になったら寂しいですし、一人じゃ危険ですの!だからミュウはご主人様を護るですの!」

  自分とさほど大きさの変わらないキノコを抱えて誇らしげに言うミュウに苦笑しながら「ありがとな」と答えて頭を撫でてやった。

  何だかんだでこいつには一番辛い時に、一番精神面で助けられたかもしれない。

  俺はもう一度ミュウに小声でありがとうと言った。






  「遅いなぁ」

  キノコロードに着いてから恐らく一時間半になるか。それにしても遅い。

  あのメンバーだしもしもの事は無いだろうけど、長くても一時間程度で戻ってくるだろうと踏んでいた俺には想定外の長さだ。

  ミュウに至っては、腹一杯になって眠くなったのか気持ち良さそうに爆睡中だ。

  そんなミュウを見ているとつられて俺まで眠くなってきた。生欠伸を噛み殺していると直ぐ側から気配がした。

  眠気を一瞬で吹き飛ばして剣を引き抜き警戒する。気配を探ると数は四。

  倒せない数じゃないなと思っている側からモンスターが飛び掛ってきた。それは始めて見るモンスターだった。

  人の形をしているが、何だか君が悪い。

  「おっと」

  飛びずさって攻撃を避けると残りの三匹も姿を表した。四匹とも同じモンスターのようだった。

  先手必勝!先程攻撃を仕掛けてきたモンスターを蹴り上げて剣で突き刺し、先ず一匹。

  そこに他のモンスターが走り寄って来た。一匹目の攻撃を避け、二匹目の攻撃を防いでそのまま敵の体に剣を沈ませた。

  そこで気が付いた。俺の後ろにはミュウがいる。慌てて振り向くと標的を変えたモンスターが、この状況でも眠ったままのミュウに攻撃を仕掛けようとしていた。

  それほど距離も離れていなかったし、敵の動きも鈍いおかげで何とかミュウに攻撃が届く前にモンスターを仕留める事は出来た。

  流石にミュウも目を覚ましたようだ。

  「全く、こんなトコで呑気に寝るから・・・」

  ほっと息をついてミュウに声をかけるも、それはミュウによって遮られた。

  「ご主人様!後ろですの!」

  「え?」

  時すでに遅く、モンスターの気味の悪い、けれども鋭い爪が俺の背中を切り裂いた。

  ミュウを護れた事で安心した俺は失念していた。もう一匹のモンスターを。

  「くっ・・・う」

  かなりの痛みだったが何とか声を上げるのは抑えられた。ここで別のモンスターまで呼び寄せては状況を悪化させてしまう。

  緩んだ手に力を入れて剣を握り直して、振り向きざまに敵を切り倒す。

  最後に敵がもういないか、辺りを確認すると俺は地面に座り込んだ。その辺に敵の体液が散らばっているのを気にする余裕も無かった。

  「はぁっ」

  「ご主人様、血ですの!大変ですの!」

  「分かってるからちょっと黙れ!」

  側で騒いでるミュウを一括して黙らせると、かなり痛む背中を伺い見た。

  その間にも地面には鮮血が広がっていく。

  背中だしどんぐらいの傷なのか全然みえねぇ。とりあえず痛い。体も熱い。

  出血と熱が出始め、朦朧とする意識で考えた事は。

  「俺のコート・・・絶対背中の真ん中で切られてる・・・」

  と、かなり論点がずれていた。

  体を起こしているのも辛くなってきたが、皆が戻ってきた時に倒れこんでいるのは何だか情けないので、心力を奮って起きていた。

  「ご主人様、ミュウ、皆を呼んでくるですの。ご主人様死んじゃうですの」

  「これぐらいで死ぬかっつーの!・・・っつぅ」

  声を張り上げたらますます傷が痛んだが、話している方が意識がはっきりする気がする。

  「大丈夫だよ・・・大体、お前が行ったらモンスターに食われるだけだ。それに・・・」

  この先は言うのを躊躇ったが、ミュウしかいない上に色々な判断能力が鈍ってきたルークは思った事を口にした。

  「俺が死ねばみんな・・・みんな、丸く収まるしな」

  最後の方は泣きそうになっていた。

  このくらいで泣いてたまるかと、地面について体を支えていた手で目を拭おうとしたがやめた。

  背中から流れている血が地面を流れて手のほうまで来ていたのだ。手は真っ赤に染まっていた。

  「(あぁ、止血しないといけないかな)」

  漸くその考えに至ったが実行しようとは思わなかった。

  赤い手。人殺しの手。汚れた手。

  途端に自分の手が気持ち悪くなったルークは手を服で擦り始めた。

  それでもこびり付いた血は取れなくて、今度は地面に手を擦り付けた。

  石や木の枝で切り傷を作り、余計に手を紅く染めていたが気にしなかった。ミュウが止めるのも無視して一心不乱に手を擦っていた。

  「(気持ち悪い・・・痛い・・・)」

  そこで見知った気配が近付いてくるのを察した。

  手を擦るのをやめて、ルークは木にもたれかかった。傷が当たって激痛が走ったが我慢した。

  そうだよ。みんな痛かったんだ。俺は、我慢しなきゃいけないんだ。これぐらい。

  ミュウが膝の上に乗るのを感じ視線を向けると、心配そうに見つめてきた。

  何か声をかけたかったが頭がぼぅっとする。

  足音と話し声が聞こえてきて。次いでナタリアの悲鳴が聞こえた。

  「ルーク!」

  みんなが走りよってくるのが分かる。次の瞬間には目の前にみんながいた。

  「みんな遅すぎ。待ちくたびれたよ、なぁミュウ」

  明るく言ったが誰も乗ろうとはしなかった。

  「何を言っているの?!この血は?ルーク・・・怪我してるんでしょ?早く見せて!」

  木にもたれているので背中に傷があるとは分からないが、地面の血を見れば俺が怪我をしてるぐらい直ぐ分かる。

  でも、俺は何だか素直に傷を見せたくなかった。これはちょっと違うな。傷を治したくなかった。

  「別に怪我なんてしてないよ。それだってモンスターのだし。母上に持って行くキノコは見つかったのか?」

  「あのなルーク・・・」

  ガイが何か言おうとしたが、少し離れた所で聞いていたアッシュがそれを遮った。

  「おい、屑」

  相変わらずの仏頂面だなぁと思っていると、アッシュは俺の腕を引いて無理やり立ち上がらせた。

  血の流れすぎで貧血気味になっていた俺は、ふらついてアッシュにぶつかってしまった。

  押しのけられると思えば意外にも優しく受け止められてびっくりした。

  「女、背中だ。早く手当てしろ」

  みんなに背中を向けるように体を動かされると、そのまま座らされた。

  「これはっ」

  「まぁルーク!こんな酷い怪我を負っているのに、何故早く言わないんですの?」

  直ぐにティアが駆け寄ってきてロッドを掲げた。だが俺は力の入らない体を捻って治療を拒もうとした。

  「ルーク?」

  訝しんでティアが名前を呼んだ。

  「大した傷じゃないよ。放っておけば直るからさ。ティアだって疲れてるだろ。俺なら平気だし」

  「ルーク、これは放っておいていいような怪我じゃないわ!」

  「そうだよぅ。変な事言ってないでさっさと治してもらっちゃいなよ」

  もう一度ティアがロッドを掲げるも、またそれをルークは拒む。

  「ルーク!いい加減にしろ!怪我を治さなきゃみんなにだって迷惑がかかるんだぞ」

  とうとうガイは怒鳴ってしまった。それを見てルークは笑って言った。

  「じゃあ今日だけ。・・・どうせこのままアルビオールに乗ってバチカルに行くんだろ?明日治していいからさ」

  「何を言って・・・」

  周りが尚も言い募ろうとしたのをまたもアッシュが遮った。

  荷物の中から簡単な医療道具を取り出して、簡単ではあるが適切な処置をルークに施していく。

  「アッシュ・・・?」

  「これ以上何言っても無駄だろ、屑が」

  アッシュがこう言ってくれるなんて思っても見なかったルークは、とても驚いたがそれ以上に嬉しかった。

  「・・・ありがとう」

  手早く背中の手当てを済ませたアッシュは、今度はルークの前に回ってくると視線を逸らせたままルークの手を取った。

  そのまま手にも綺麗に包帯を巻きつけていくアッシュの手をルークは呆然と見つめていた。

  「ったく!」

  完全に手当てが終わるとアッシュはルグニカ紅テングダケを手渡した。

  「これ・・・」

  「目的は果たしたんだ。俺は行く」

  そう言って立ち去ろうとしたアッシュを、ルークは包帯の巻きついた手で服の裾を掴んで止めた。

  「てめぇ」

  「これはアッシュが母上に持って行ってあげるべきだ」

  「俺がもうあの家には戻らんと誓った。お前が持っていけ」

  歩きかけたのをまた裾を掴んで止めてルークは、アッシュに言った。

  「ありがとう、アッシュ」

  背中でそれを受け止めたアッシュは少し振り向きかけたが、直ぐに前を向いて何も言わず、足早に去ってしまった。






   次の日、怪我を完全に治療してもらった俺はバチカルのファブレ公爵邸に向かった。

  母上にはこう言った。

  「それは、アッシュが採ってきてくれたんです。母上の為に、アッシュが」




何だ、この話。何が書きたかったのか不明。タイトル通りの軽いお話の予定が思わぬ方向に話が進んで、結局良く分からなくなった。 つかこれ、アシュ+ルクじゃなくてミュウ+ルクだよ。こんな調子でアシュルク小説が書けるのか・・・。

06/01/11