■ある日の帝劇■(Ver1.0)

花組たちが旅行に出かけて、帝劇は静まり返っていた。
米田は盆栽の手入れをし、帝劇三人娘達は事務処理の傍ら、地下のプールで泳いでいた。
 そして、副司令・藤枝かえでは、たまった書類の処理に大忙しだ。
各部署への報告、備品請求等、出すものがたまっていたのだ。
 静かな今のうちに、仕上げるだけ仕上げたいのが本音。
「たまには、私も休みたいのよね」
 ちょっぴり本音を覗かせながら、かえでは書類作成にいそしんだ。

 夜も遅くまで仕事していたおかげて、書類の山は片付いた。今日一日で3日分の仕事をこなした気分だ。日付はすでに、変わっていた。
「これで今日は、ゆっくり眠れるわね」
 見回りがてら、厨房から発泡酒を持ってくる。ついでに簡単な酒のつまみを作ってサロンでぐっと一杯。
 仕事の後の、この一杯が最高なのだ。
「はーー。生き返るわぁ。加山君、いるんでしょ?つきあわない?」
 気配を察知し、かえでが声をかけると、闇から加山が現れた。
 こちらも花組と共に熱海に行き、再び帰ってきたとあって、少々疲れ気味だ。
「大丈夫だった?」
「ええ。むこうに、唐沢と嵯峨野を残してきました。明日の昼に交代します」
「そう・・明日は大丈夫そうね・・・」
 簡潔に報告を済ませると、勧めにしたがってグラスをもった。副司令直々に注いでもらい、一気に飲み干す。
 あとは、お互いに注ぎつ、注がれつでグラスを重ねていく。加山は海軍で鍛えられただけあって、酒には滅法強いが、かえでは実のところ、さほど強くはなかった。
 コップ三杯で、もう頬が真っ赤だ。ろれつも回らなくなりつつある。
「副司令、そろそろ休んだほうが・・・」
「だーいじょうぶっ。ゆーいちっ、ついでってば」
 だんっとグラスをおかれてしまった。仕方なく、加山は酒を注いだ。
丁度最後の一本をあけきるところだったので、『これで終わりです』と念を押しておく。
「あらぁ、もうないの。つまんないの」
「つまんないのって・・・もう3時近いんですから、副司令」
 いっきに飲み干して、かえでは立ち上がった。多少ふらつきはしたが、後は意外にしっかりとした足取りで自室に戻る。
「あら、なーんであかないのかしら」
「そこは大神の部屋ですっ。副司令の部屋は隣ですっ!・・・目茶目茶酔ってるなこれは」
 ドアをあけてやり、部屋の電気をつける。
 もうそのころには、彼女は壁にもたれて眠りかけていた。崩れ落ちる前になんとか支えて、抱き上げる。
「かえで、寝るならちゃんとした所で、眠ってくれないかな?」
 すでに、寝息を立て始めた彼女にいっても、無駄な事だった。散乱した書類を踏まないようにして彼女をベッドまで運ぶ。
 上着を脱がして、襟元のボタンを一つ外して楽にしてやった。
「・・・ゆーいち・・・」
「何?かえで」
「・・お・・や・すみ・・・」
 タオルケットをかけて、電気を消し、副司令室を後にした。
 加山は屋根裏部屋で仮眠を取ると、明け方、再び熱海へ向かったのだった。