むかしむかしのおはなしです。
埋め立て地という、それはそれは辺鄙なところに、まま母やいぢわるな姉さんと暮らす、シンデレラというむすめがおりました。シンデレラはいつもこの二人にいじめられてばかりでした。
まま母は、
「ほんとにお前と来たら、いつまでたっても仕事仕事でヨメにいきそうにないし」
そういって、シンデレラのお姉さんばかりを可愛がります。そしてこの「姉さん」という人がとんでもない悪党で、シンデレラをスパイしては、
「まったく、あたしよりちょっと美人だからっていい気になるんじゃないわよ!」
ワニ顔のくせしていぢわるを繰り返します。今日も二人はシンデレラをのけ者にして、お城の舞踏会にいってしまいました。
シンデレラはひとりぼっちで、埋め立て地の潮風にさらされて泣いていました。
そこへ、ぱっぱー、ぱっぱっぱぱぱぱぱー!
クラクションも高らかに、コブラに乗った魔法使いのおじいさんがさっそうと登場です。
「なんでえ、お嬢ちゃんよ。何を泣いていなさるんで」
魔法使いのおじいさんは、いなせにシンデレラにたずねました。「今日はお城の舞踏会なのに、おいてけぼりをくらってしまったのです」
「お城の舞踏会だあ? そいつぁ大変だ。よし、これに着替えな」
そういってうつくしいドレスと、ガラスの靴を出して、シンデレラを更衣室に追い立てます。
どうやら、この魔法は自動的に着替えさせてくれるのではなく、セルフのようです。
シンデレラは、お部屋のかたすみにカーテンで仕切られた更衣室へと向かいました。
もちろん、魔法使いのおじいさんは聞き耳をたてています。………………。
こほん。さて、うつくしくなったシンデレラですが、お城へいこうにも、おうちの馬車、「いんぐらむ」は、まま母といぢわる姉さんがのっていってしまいました。もうひとつの馬車「ぜろ」には御者がいません。
お城は「さくらだもん」という、とても遠いところにあるので、歩いていっては舞踏会が終わってしまいます。そこで魔法使いのおじいさんは、そこら辺をおちつきなくうろついているネズミを捕まえ、魔法の言葉をとなえました。
「とっとと人間さまにへんしんしろい! ぼやぼやしてると、東京湾にたたっこむぞ!!」
するとどうでしょう。ねずみが御者にへんしんしたではありませんか!
「へいお待ち! おやっさん、なんの御用でしょ!」
「このお姫さんをお城まで送りとどけてくんな」
「へい、がってん承知のすけ!」
やたら調子のいいネズミの御者は、「ぜろ」の前にのりこむとさっそくシンデレラを乗せてお城へと走り出しました。「ありがとう、魔法使いのおじいさん。このご恩は一生わすれません」
窓から身をのりだし、シンデレラは手をふります。
「なーに、いいってことよ。それより夜中の12時になったら魔法は解けちまうからな! 12時までにはかならず帰ってこいよ!」
「わかりました。かならず帰ってきますーーー」
こうしてシンデレラは、魔法使いのおじいさんの助けをかりて、お城へと急ぐことになりました。その頃、ひと足先にお城に着いていたまま母といぢわる姉さんは、なんとかして王子さまの目に止まろうと作戦を練っていました。
いぢわる姉さんの考えは、橋を爆破して王子さまの注意をひこうというものです。そのために戦闘機まで準備していたのです。
まさに、「備えあれば憂いなし」とは、このことですね。どっかーん。
大きな音が鳴り響き、お城にいた人たちは何ごとかと外へ出て来ました。
もちろん、そのなかには王子さまの姿もあります。
いぢわる姉さんは、いそいそと王子さまの元に駆け寄りました。
「王子さま、王子さま。あれはわたしがやったのです」
「そうですか。あなたとわたしは気が合いそうですね」
王子さまは、いぢわる姉さんの作戦にまんまと引っ掛かってしまいました。いぢわる姉さんと王子さまはにこにこと見詰め合いながらワルツを踊ったり、豪華な料理を「あーん」したり、今度は飛行船をとばしましょうなどと甘い計画を話し合っていました。
どうやら二人は恋におちてしまったようです。
そのいちゃいちゃぶりにあてられたのか、横で観ていた貴族の娘は「SHIT!!」と叫びながらお城を出ていってしまいました。ああ、可哀想なシンデレラ。せっかく綺麗なドレスをきて舞踏会にやってきても、王子さまはいぢわる姉さんにとられてしまったあとなのです。
その時、玉座に座っていた目のほそーい王様がいいました。
「実はその王子は偽物だよーん」ええっ!?
一同、びっくりぎょうてんです。「どういうことですか?」
王妃様が詰め寄ります。眼がマジです。腰の銃に手をかけています。
王様は冷や汗を流しながら答えました。
「そのほうが面白いから」
さすが手段のためには目的を選ばない王様です。
「ということで、君の役目はおわった。クロサキ君、ぽいっ、しなさい」
「は……」黒メガネの侍従がやってきて、偽王子はいぢわる姉さんと一緒に「ぽいっ」されてしまいました。
そこへやっと、馬車にのったシンデレラが到着しました。
「なに? ずいぶん騒がしいわね」
お祭り騒ぎにやって来て、騒がしいもないものですが、とにかくシンデレラはお城の広間へとやって来ました。なぜだか、人々は妙にざわついています。シンデレラは人込みのなかで、ある人の足を『ぎゅむっ』と踏んでしまいました。
「あ! ご、ごめんなさい」
「……」
ガラスの靴のハイヒールで思いきり踏まれたのです。痛くないわけがありません。しかも相手はサンダル履きで、ぺったらぺったら歩いていたのです。
「はあ、治療してちゃんと靴を履きなおしましょう」
相手の男の人は頭をかきかき、そういいます。
「それがいいですわ。きちんと消毒しないことには傷口からばい菌が入ってしまわないとも限りません。もちろん、私もけがをさせた者のせきにんとしてご同行しますわ。大体、このようなフォーマルな場所でサンダル履きとは言語道断です、以後気をつけてください」
てきぱきとしたキツイいいっぷりに、男の人は感心したようです。
「ははあ……。なかなかこのみのタイプだなあ」
「何かいいました?」
「いいえ、別に。さあ、まいりましょう」シンデレラが、男の人の足に薬をぬってあげていると、周りの人がふしぎそうな顔でとりかこんでいます。
「?」
シンデレラは首をひねってしまいました。
「あいたたた──どうも、ありがとう。お礼といっては何ですが、一曲踊っていただけませんか?」
「ええ、喜んで」二人が手に手をとって広間の中央へいくと、周りの人たちがみな遠慮をしてよけていきます。シンデレラは(みなさん、この人の水虫をいやがっているのかしら?)と思いましたが、そうではありませんでした。
なんと! この男の人がほんものの王子さまだったのです!「ごめんなさい。かぼちゃパンツと白タイツがあまりにも似合わなかったので、王子さまとはおもいませんでした」
「ふんふん。よくそう言われます」
二人は、きゅうそくに打ち解けていきました。「今度、祖師谷温泉にいっしょにまいりませんか?」
「私、混浴はちょっと……」なごやかな会話をかわすうち、二人は時間がたつのを忘れてしまいました。
ぼーん。ぼーん。ぼーん。
シンデレラははっとして時計をみあげました。時計の針は12時をさそうとしています。
「まあ大変。もう行かなくちゃ」
シンデレラは走り出しました。
「12時になったら魔法がとけてしまうわ!」
シンデレラはいそぐあまり、かいだんから脚をふみはずして足首をひねってしまいました。ああ、なんということでしょう。むじょうにも、12時の鐘が鳴り終わって、シンデレラのうつくしいドレスは、元のぼろ服に戻ってしまいました。
おいかけて来た王子さまに、シンデレラは泣いていいました。
「ごめんなさい、王子さま。私はきれいなドレスなんか持ってないんです」王子さまはいいました。
「……脱いじゃえば、おなじでしょ?」
そういう考え方もありますね。
王子さまはシンデレラを抱き上げると、自分のお部屋につれかえってしまいました。魔法使いのおじいさんは、シンデレラが12時までに帰ってこなかったので、まあそういうことだろう、と思って納得したということです。
シンデレラと王子さまは末永くしあわせに暮らしたということです。
めでたしめでたし。[BACK]