|
六月も半ばを過ぎ、毎日じめじめ・しとしとといかにも梅雨!といった日々が続
いている。この日も折角の休演日だというのに、空はどんよりとした雲に覆われ、
昼とは思えない薄暗さだった。
「ん〜」
売店の片付けを手伝い終えた大神が凝った肩や首をほぐしながらテラスへと上
がってきた。休憩も兼ねてぼうっと窓の外を眺め、ため息を零す。
「今日は霧雨か……」
そんな事を呟く大神の前の窓ガラスへ、雨粒がポツッと落ちてきた。
マリアはのんびりと休演日を楽しんでいた。午前中に読みかけの本を読み終え、
午後は遊戯室でビリヤードでも、と思って大神を探していた。大神の姿は見あたら
ない。もしかしてまだ売店の方にいるのかもと行きかけた時、テラスの人影が目に
入ってきた。雨がやんだのかと思い外を確かめたが、弱いとはいえ梅雨独特の細や
かな雨はまだまだ降り続いている。またカンナが…と思いながら近付いてみると、
そこにいたのは。
「隊長!」
雨の中に立っている大神を見つけたマリアはテラスの扉を勢い良く開けていた。
「ん? マリア、どうかしたの?」
大神は気持ちよくてしかたがないという笑顔でマリアへ振り向いた。
「どうかしたの、ではありません。雨の中で何をなさっているんですか」
「いや、何って…。気持ちいいんだよ」
大神は水滴を手のひらに受けて笑う。その姿に一瞬、マリアの脳裏には雨の中を
駆け回る大型犬が浮かんだ。
「マリア?」
マリアはそのイメージを急いで打ち消して、首を傾げる大神に手を伸ばす。
「気持ちいいといわれますが、こんなに身体を冷やされては……」
「大丈夫だよ」
そう言う大神のシャツはぐっしょりと濡れていて身体に張りついている。
「隊長の『大丈夫』は信用できませんから」
マリアはそう言って強引に手を引いて室内に連れ戻した。
「もう外に出ないで下さいね」
そう釘を差しておいて、マリアは自室からバスタオルを持ってくる。素直に待っ
ていた大神の頭からかぶせて優しく拭いていった。
「ん〜」
柔らかいタオルの感触に目を細めている大神を見ていると、マリアは再び大きな
犬を見ている様な気になってくる。
「マリアは心配性だなぁ」
「誰のせいですか……」
大神の言葉にマリアはつい、ため息を零してしまう。
「だって、霧雨が気持ち良さそうで……」
大神はまだ名残惜しそうに窓の外を見つめている。
「そんな子供みたいな…。風邪を引いてしまいますよ」
「いや、それは……ごめん」
迷惑をかけてしまう可能性に気付いて大神は素直に謝った。
「わかってくださればいいですよ。はい。これでいいです。部屋に戻って濡れた服
を着替えてくださいね」
あらかた水気を拭き取ってからマリアは微笑んだ。
「ありがとう」
「構いませんよ。この後、ビリヤードに付き合ってくだされば」
悪戯っぽく提案したマリアにそんな事でいいの? と言いたげに首を傾げた大神
だったが。
「うん。じゃああ、着替えたら行くから待っててよ」
笑って承諾する。
「マリア?」
着替えを済ませた大神は、約束通り遊戯室へ現れた。
「お待ちしていました。さ、始めましょうか」
雨の降る午後、大神とマリアはふたりでビリヤードを楽しむのでありました。
|