のんたん日記 8
17.さようなら、H先生
さようなら、H先生
新学期です。
この春、のんたんは六年生になりました。いよいよ、小学校の最終学年です。
あと一年で、小学校を卒業してしまうし、長年お世話になった学童保育クラブも、
終了となります。来年から、のんたんは放課後をどうやって過ごせばいいのかを考えると、
おとうさんもおかあさんも不安でいっぱいです。そんな気持ちの中、おかあさんをさらに
がっかりさせることがありました。それは、三年生のときから三年間担任となってくださった、
H先生とのお別れです。
三年前、初めてH先生と出会ったとき、のんたんはとても動揺していました。
一、二年生のときの担任だった、大好きなU先生と、突然お別れしなければならなかったからです。
実は、教室のすみにうずくまって、のんたんが動こうとしなかったことすらありました。
けれど、そんなのんたんをしっかりと受けとめてくださったのが、H先生でした。
当時、H先生は大学を卒業したばかりで、内心は不安なこともあったのかもしれません。
でも、そんなようすはみじんも見せることなく、いつも元気いっぱいでのんたんと接してくだ
さいました。そしてのんたんも、なぜかU先生に手をひかれると、素直に歩き始めるのでした。
U先生から指先で触る世界の楽しさを教えてもらったのんたんは、今度はH
先生と共に、さらにその先の世界を広げ、この三年間で点字や指文字を覚えるまで
になったのでした。
卒業まであと一年。どうか、このままH先生が担任でありますように、とおかあさんは願
っていました。でもそれと同時に、なぜか、H先生とはこれでもうお別れとなってしまうような
気がしてなりませんでした。
おかあさんのそんな予感は的中しました。
のんたんが六年生になり、新しい担任の先生の発表があった日、H先生は、のんたんに
大きな封筒を持たせてくれました。
封筒の中には、春休みにH先生が「発達心理学会」で発表した資料がはいっていました。
「先天性盲ろう児の発達と初期の段階 〜コミュニケーション」というタイトルのそれには、
三年間にわたる、のんたんとH先生とのあゆみが簡潔にまとめられていて、おかあさんは
泣きたくなってしまいました。
資料には、こんなお手紙も添えられていました。
早いもので、黎明くんも6年生ですね。進級、おめでとうございます。
3年生からの三年間、黎明君と過ごせたこと、出会えたことに感謝しています。
一緒に学ぶ楽しさ、大切さを体験させてもらいました。
学芸会、ソーラン節、点字、指文字、数…などなど…。おしゃべりも!!
教員1年目だった私を押してくれていました。
今年からは、“ちょっと”遠くから黎明君を応援しています。
力不足の三年間…、そんな中、ご理解とご協力、ありがとうございました。
まだまだ続く黎明君の成長…、
お父さん、お母さん、あみちゃんも一緒になって“楽しんで”ください!!
本当にお世話になりました。
そして、今後とも宜しくお願いします。
三年間、のんたんの隣りには、いつもH先生がいました。お手紙を読みながら、
楽しかった数々の出来事が
次々と思い出され、おかあさんの目からは、いつのまにか涙がこぼれていました。
この春、H先生は、新一年生の担任となりました。おかあさんにとっても、
のんたんにとっても、残念なお別れです。けれど、教師歴四年目となり、
新しい子どもたちとの生活をスタートするH先生のことを、精一杯応援していこうと、
おかあさんは思っています。
H先生、ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。
(おわり)