鍛錬所には趙雲、馬超、の三人がいた。
偶然居合わせただけなのだが気心も知れているしそのまま一緒に調錬しようか、と言う話になったのだ。
そして休憩の時、話題は先日の求婚話になる。
「どのはどういう者を夫に望まれるのだ?」
馬超の問いにはそうね、と頭を悩ませる。
「私の事を愛してくれる方だと嬉しいけど。―――蜀の為になる婚姻を結びたいわ」
にこりと笑って相変わらず蜀の為だけに生きているような発言に趙雲、馬超は曖昧な笑みを浮かべた。
しかし馬超は少し考える風を見せて、それからにやりと笑ってに進言する。
「俺はどうだ?俺とどのの子ならば武に長けて必ずや後の蜀の為になると思うのだが」
にやりと切れ長の目を自信満々に輝かせてを見る。
内心趙雲はひやひやしていた。馬超が冗談で言っていないのはよく解る。それをが本気でとるとは思えなかった。
だが馬超の強引な性格の事だ、の同意らしい言葉が万一漏れるとトントン拍子に婚姻まで行きかねない。
だからと言って今更趙雲の出番など無いのだ。
心配そうにを見るとその表情は嬉しそうに笑んでいて、薄い唇からは今にもそれいい考えね、などと出そうな雰囲気で。
「それ、いい考えね。馬超の勇猛な性格を受け継いでくれたら蜀の猛将になることは間違いないわ」
趙雲の当たって欲しくない予想、まさにストライクである。
なんなら今から作っても構わんぞ!と勢いに乗ってぎゅっとの手を掴む馬超に、後ろから槍で無双乱舞でもかけてやりたい衝動を必死に抑える趙雲にも気付かずはでも、と続ける。
「でも、武で言うのなら趙雲も同じよね。それに趙雲のほうが馬超よりも結婚生活は上手くいきそうな気がするわ。
子供の面倒を見るのも得意そうだし、何でも手際よくやってくれそうだわ。まさに理想の主夫のイメージね」
その言葉に喜んでいいのかどうか。
しかし当の趙雲は危うく馬超に娶られそうだった所で自分の名前を思い出してくれて嬉しい事この上なかった。
目が合った瞬間にこりと微笑まれて軽く赤面してしまう。
それでも最大のアピールポイント、少なくとも今馬超よりは一歩半くらいはリードだ。
「も、もちろんです!子供は好きです、それにさまの為なら「ちょっと待て!俺だって家事ぐらいできるぞ!」
趙雲が必死で思いのたけを伝えようとした所に馬超に割り込まれた。
こんな所で伝えるのがそもそもの間違いかもしれないのだが;
馬超曰く、俺にもできる。だ。
「いつも女官に部屋の掃除が大変だとぼやかれてるのは誰だ?館の事は殆ど馬岱と下女が仕切ってるみたいだな。この間も馬岱が嘆いていたぞ」
勝った!とばかりに趙雲に言われ、馬超はチッと軽く舌打ちをして開き直った。
「そんなもの、やらんだけだ!やろうと思えばできる!!大体、漢たる者主夫などという甘っちょろいイメージで良いのか!?」
俺はご免だね。とにやりと笑われながら(ちょっとだけ)気にしていた事を言われた趙雲は今にも戦闘態勢に入れそうな勢いでギラリと目を光らせる。
趙雲も負けじと応戦した。
「どうやら馬超の言う漢とやらは女に節操がない事を言うようだが、己の身辺整理さえできない者がさまと結婚して上手くいく道理が無い」
馬超の女癖の悪さは悪評高いもので、それでも一夜限りで良いという女官が沢山寄って来るのだから凄い。
馬超としては気にして欲しい所だがはそれに一向に関心を寄せないので未だ記録は更新中なのだ。
ふん、と鼻で笑って趙雲はまたひとつ睨みつける。
痛いところを突かれたが此処で引き下がるわけには行かない馬超。
「貴様のような何時までも何も言えん女々しい奴に言われたくない!もう何年も想い続けてる割に一向に進展せんでは無いか」
一番痛いところを、それもの目の前で言われてしまい趙雲は狼狽する。
しかし此処で焦る様子を見せては馬超の思う壺だ。必死に睨みをきかせ今すぐにでも戦場に出れそうな殺気を放つ。
一触即発の空気に馬超はにやりと笑う。
「そろそろ決着をつけておくのもいいかもしれん。武を持ってけりを着けようぞ!!」
「望む所だ!」
その当人、を完全に無視して両雄は槍をがしっと掴み鍛錬場へと躍り出た。
そして真剣な面持ちで今まさに豪傑の槍と槍がぶつかり合おうとした時、そうだわ!というの明るい声が響く。
声に拍子抜けして思わず戦闘意識をそがれてしまった二人はえ?とを見た。
其処には楽しげに笑みを浮かべている。
「武があり義を重んじるのであれば魏の徐晃なんかぴったりよね」
は?といきなり徐晃の意味が解らずを見てしまう。
趙雲、馬超が低レベルな言い争いをしている間、ずっとは蜀の為になる花婿を探していたのだ。
それは彼女にとってただの楽しみでしかなかったのだがこの二人の男にとってはそれほどまでに真剣なのか!?と思わせるには十分な時間で。
「だから、徐晃どの。誰よりも誠実そうじゃない?徐晃どのの子供ならば猛将にもなりえるし、それに私の魅力で徐晃どのが魏から蜀へ降ってくれればゆくゆくは2人の猛将を獲とくする事になるわ」
悪戯にふふんと長い髪の毛をぱさりと手で流し、少し伏せ目がちの流し目でセクシーポーズをとりながらそういう。
やっぱり私なんかじゃ徐晃どのは相手にしてくれないわね。と可笑しそうに付け足す。
しかしそのの言葉に二人とも何も返してやれなかった。否、返せなかったのだ。
本人は遊びのつもりだろうが先ほどのの色気たっぷり妖艶な仕草に蜀の猛将は完全に頭に血が上っていた。
鼻の辺りを手で覆い鼻血が出そうになるのを必死で堪える。
その時二人は同じ事を思っていた。
おちる、如何に義を重んじる徐晃であろうと確実にに落ちる―――と。
「二人ともどうかした?」
明らかにおかしい趙雲、馬超の様子には心配そうに問う。
翡翠色の瞳で見つめられて、不覚にも馬超ですら先ほどのを思い出して目をあわせられなくなってしまっていた。
「大丈夫、デス」
心配をかけまいと必死に出た趙雲の言葉がこのたどたどしい片言で、不思議に思いながらもは続けた。
「でも私、結局は殿と丞相が認めてくださる方ならどなたでもいいの。あの方達ならきっと素晴しい方を選んでくださるもの」
にこっと微笑んで今回一番初めに聞いた馬超の問いの答えのようなものをは言う。
先刻まで赤かった二人の顔から一気に血の気がうせるのが解った。
諸葛亮と劉備、まさかこの期に及んでこの二人が出てくるとは予想外で。
恐る恐る、馬超はに確かめる。
「もしかして、どのの相手には諸葛亮どのと殿の承諾が要る・・・のか?」
「ええ、そういう話は必ず相談するようにと仰せつかっているから」
にこりと天女の笑みで世にも恐ろしい事を口にする。
あの二人を敵に回すと言う事はいかなる報復も覚悟せねばならないと言う事で。
ぞくりと背筋を這うものを感じながら馬超、趙雲はその場で硬直する。
そんな二人に気付くことなくは早々と帰り支度を始めた。
「じゃ、私用があるから先失礼するわ」
にこりと笑んで踵を返すと足早にその場を去っていった。
後に取り残された男二人。風がなんとも残酷に冷たく吹きすさぶ。
馬超はぎゅっと拳を固めると意を決したようにぎらりと趙雲を睨みつける。
「俺は、絶対に諦めんからな・・・・!!」
そう捨て台詞を吐くと猛ダッシュでその場を去っていった。その瞳にはなにやらきらりと光る物が有った事を趙雲は見逃さない。
一人残された趙雲は軽くため息を吐く。
どんな報復にも、どんな闇討ちにも、どんな卑劣な策にも、どんな逆境にも負けない愛がある。
馬超ともまだ戦わなければならないようだし、先はまだまだ長そうだ。
ふう、とため息を落として、しかしその表情は己の決意に晴れやかに笑って、趙雲もその場から踵を返した。
まだまだ長い戦いになりそうだと言う事を予感しながら。
ホロリと涙を流しながら夕日に向かって走る馬超と晴れやかに笑ってまだまだ片思いを続けそうな趙雲。
どちらがよろしいか?(マテ
趙雲て本当に家事全般が上手そうなイメージがあります。料理とかめっさ上手そう。なぜかしら;;
みなさまの趙雲はどんなイメージなのでしょうか?v