BINOS vol.6:75−82(1999)

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酒匂川におけるコアジサシの繁殖状況と
人工営巣地の造成について

日本野鳥の会神奈川支部西湘地区コアジサシプロジェクトチーム

LittleTern Group in Kanagawa chapter of Wild Bird Society of Japan :
Litt1eTern's breeding status and the construction of an artificial breeding ground,
on the Sakawa River

はじめに

コアジサシは本州以南の海岸や河川に飛来し、集団で繁殖する夏鳥である。しかし、近年、全国各地で個体数の減少が報告されている(林・岡田、1992)。神奈川県小田原市においては、主に二級河川酒匂川の河口部から中流部にかけて繁殖しているが、後述するようにやはり減少の傾向にある。ここでは、1993年以降の酒匂川におけるコアジサシの繁殖状況について述べるとともに、人工的な台地の造成による営巣地確保の試みについて報告する。

なぜ人工台地の造成を計画したか

酒匂川における営巣地点を図1に示し、それらの営巣地における1993年から1995年までの繁殖状況を表1に示した。表1によると、どの営巣地点においても、この3年間に繁殖に成功して一人立ちまで成長した雛はごく少数しか観察されておらず、コアジサシの繁殖条件が悪化してきていることは確かである。

図1.酒匂川におけるコアジサシの営巣地点

表1.人工台地造成前の繁殖状況

No 場所 面積
(ha)
西暦 飛来数
(羽)
繁殖の緒果
(7月下旬)
かく乱要因 備考
1 飯泉取水堰 3 '93 1300 若鳥220羽以上確認。 7月2日ダム放流にて冠水、卵と雛全減。 立入禁止区城。
'94 50 営巣放棄 6月1日のダム放流で冠水、後放棄。
'95 500 若鳥150羽前後確認。 6月30日、大雨で冠水、卵と雛全減。
3 鈴広前
(中州)
1 '93 中州は存在せず 1995年5月初旬には抱卵を
開始したため6月には飛行可能
となっていた。
'94 中州は存在せず
'95 150 若鳥30羽前後確認。 ハシボソガラスによる卵と雛の捕食、釣人進入。
6月30目大雨で卵、雛全減、移動可能な若鳥避難して戻る。
4 富士道橋下流
(橋下流200m地点の中州)
1 '93 10 不明 釣人進入、ハシボソガラスによる卵の捕食。7月2日、ダム放流で冠水、卵と雛全減。 1995年看板設置。
釣り人の進入により長時間の抱卵や育雛が行われにくい状態となる。
1996年以降草地化、繁殖はなし。
'94 15 営巣なし。 中州草地化、中州が固くしまり営巣地に不適。
'95 50 営巣放棄。 ハシボソガラス捕食、釣人進入、6月19日放棄。
5 報徳橋下流(橋下500m地点の中州) 1 '93 10 営巣なし。 中州草地化。 工事車両により出来た輪立ちを利用して、一般車進入。1996年以降繁殖はなし。
'94 200 雛2羽確認、若鳥なし。 車両進入、ハシポソガラスによる捕食。6月1日の冠水で移動して来た個体多く200羽に増える。しかし繁殖するものはごく少数。
'95 0 営巣なし。 車両進入が容易な地形となる。
6 大井校前
(中州)
0.1 '93 0 営巣なし。 水に浸り易い地形になる。  
'94 30 雛2羽確認、若鳥なし。 大雨で冠水、ハシポソガラスの捕食。
'95 5 営巣失敗。 ハシボソガラス近くの松の木に営巣、捕食。
7 開成堰下(中州) 1 '93 150 若鳥10〜20羽確認。 7月2日ダム放流。冠水、卵と雛が流される。ハシボソガラスの捕食、釣人の進入。 釣り人の進入が多い。
'94 0 営巣なし。 草地化。
'95 0 営巣なし。 草地化。

 繁殖条件の悪化の原因はいくつか考えられている。まず1つには、中州の草地化が進み、営巣に適した裸地が減少している点である。更に上流部のダムの建設により、下流域への土砂の供給がおさえられている点も裸地の減少の原因と考えられている。次に、カラス類やチョウゲンボウによる卵や雛の捕食が頻繁に行われ、繁殖がさまたげられている事も原因の1つとなっている。後述するように、1999年にはネコによる雛の捕食も確認された。また最近の傾向として、中州内に四輪駆動車が進入し、営巣地を荒して、営巣の放棄につながる例がみられ、あらたな個体数減少の要因となっている。
 しかし表1で明らかなように、酒匂川においては、梅雨期の大雨による増水やダムの放流による洪水で、営巣地が冠水し、卵や雛が流出することが最大の原因と考えられる。
 そこで、それに対する対策として、1995年にコアジサシが市の鳥に制定されたのを機に、1996年から人工営巣地の造成を試みることにした。日本野鳥の会神奈川支部コアジサシプロジェクトチームが中心となって小田原市環境保全課と一般市民との共同作業で、中州に砂利を高く盛り上げ、人工営巣地の整備を行った。

人工営巣地を造成した場所

 酒匂川の富士道橋と小田原厚木道路鉄橋との間に数ヶ所の中州があるが、富士道橋下流約700mの地点に位置した広さ1ha程の中州に台地を造成した。台地は中州の一番高い場所に砂利を盛り上げて作った。
 人工営巣地の造成場所は、4年間同じ場所で行ったが、その理由としては行政区分の問題がある。小田原市が整備事業として関与できるのが河口部から報徳橋までとなっているので、十年程前から行っている生息調査から毎年飛来し、営巣が継続して行われている富士道橋下流域を選択した。更に造成作業には多くの参加者が不可欠であり、その安全を確保し、作業の利便性を考慮し、現在の位置に決定した。

人工営巣地の大きさと造成方法

1.1996年と1997年の場合
 全ての作業は人の手で行い、大きさが、10mx7mx0.7mの台地を造成した。作業手順は次のようであった。

手順1
予定地周辺からヨモギ類やヅルヨシ等の草を根から引き抜く。その草は必ずビニル袋に入れ回収する。
新たな草が生えるのを防ぐ為、埋めたり捨てたりはしない
手順2
ピニールテープで10mx7mの枠を作り、その内側に、大石(直径約20cm〜40cm)を運び、2〜3段ほど積み上げる。
それは作業の短縮化を意図して行ったもので、台地の強度等とは関係がない。
手順3 砂利を運ぴ大石の上に積み上げる。
約70cmほど積み上がった時点で、表面を軽く押し、直径1〜3cm程の白味をおぴた小石を上部に敷きつめる。
最後に日陰や避楚用の大石や流木を置き完成。

2.1998年と1999年の場合

 小田原市の費用負担で、重機を使用した。仕上げは人の手で行い、台地上面に直径1〜3cm程の白石を敷きつめた。また水の勢いで台地が崩れるのを防ぐため、上流側に面した側面に大石を並ぺ補強した。完成した台地の大きさは約15mx10mx1mとなった。
 4年間の造成作業の参加人数や作業時間は表2のようであった。

表2年度別の造成方法

  1996年 1997年 1998年 1999年
大きさ 10m×7m×0.7m 10m×10m×0.7m 15m×10m×1m 15m×10m×1m
方法 全て手作業 全て手作業 重機使用、仕上げ手作業 重機使用、仕上げ手作業
参加人数 野鳥の会会員 91名 50名 50名 100名
小田原市職員 30名 30名 20名 30名
一般市民 150名 10名 10名 10名
作業時間 2時間 1.5時間 2時間 1.5時間
図2台地造成の作業風景 図3完成した人工台地

人工営巣地およぴその周辺部での繁殖状況.

 営巣地内の調査と岸からの目視による繁殖状況は下記のようであった。なお、現場への立入を制限したため、詳しい調査は行えなかった。また、酒匂川全域での繁殖状況は表3に示した。
1.1996年について

5月7日 台地上で1組が抱卵を開始。
6月7日 台地上に卵が23個、雛7羽、巣穴13個を確認。
台地すぐ下では卵が180個、雛14羽、踏まれた卵13個、踏まれた雛1羽を確認。
6月30日 台地上に2個の放棄卵を確認。雛2羽が台地側面の石の間に身を隠していたが、
他の雛は台地下にある草むらに移動していて数は分からなかった。
台地北側に新しいコロニー確認。卵は約30個、水際に放置卵25個確認。
7月13日 台地周辺の水辺で51羽の若鳥を確認。盛んに飛翔し、水面を低く飛ぶ光景を目にした。
7月9日の大雨で抱卵中の卵や雛は全て流失したのを確認。
7月15日 全てのコアジ抄シが渡りを完了した。

2.1997年について

5月10日 2羽が飛来したが、結局1羽も営巣を行わなかった。他の調査地点でも営巣の確認はできなかった。

3.1998年について

5月19日 台地上で1組抱卵。もう1組が巣穴掘りと求愛を繰り返す。
5月27日 台地上の2巣の卵4個がすべて消失。同時に台地下のコロニーの卵82個も消失。
26日には調査地M3(図1)のコロニー内の卵100商以上が捕食され消失。

4.1999年について
 台地上での営巣は確認できなかった。台地すぐ下の中州で2組が営巣し、若鳥が2羽巣立った。

 表3人工台地造成後の繁殖状況

No 場所 面積
(ha)
西暦 飛来数
(羽)
繁殖の結果
(7月下旬)
かく乱要因
1 飯泉取水堰 3 '96 150 営巣放棄 チョウグンポウ、ハシボソガラスの捕食。
'97 50 営巣無し  
'98 0 営巣無し JR鉄橋 2組のチョウゲンポウ営巣。
'99 0 営巣無し 堰下300m地点で150羽営巣。30〜40羽若鳥。
6月30日ダム放流で冠水。
2 ひょうたん池前
(中州)
1.2 '96 0 営巣無し 草地化
'97 20 営巣無し 草地化
'98 130 営巣失敗 5月24日夜間100個以上捕食される。
'99 10 若鳥3羽  
3 鈴広前
(人工台地を含む中州)
1 '96 170 若鳥51羽。 ハシボソガラスの捕食、チョウグンボウの捕食。
7月9日冠水。卵、ヒナ流失。
'97 20 営巣なし。  
'98 80 営巣失敗。 5月25日夜間82個の卵が捕食される。
'99 10 若鳥2羽。  
0.01
〜0.07
'96 30 卵32個
雛、若鳥は台地下に移動して不明。
 
'97 2 営巣なし。  
'98 4 2組営巣中卵が捕食される。  
'99 0 営巣なし。  
4 富士道行下流
(橋下流100m地点の中州)
1 '96 0 営巣なし。  
'97 30 営巣なし。  
'98 100 若鳥5羽。 ネコによる雛の捕食確認。一部草地化。
チョウゲンポウ、ハシボソガラスの捕食。
'99 8 若鳥4羽。  
7 開成堰下(中州) 1 '96 0 営巣なし。  
'97 0 営巣なし。  
'98 50 若鳥2羽。 大雨で冠水。
'99 0 営巣なし。  
8 足柄大橋堰下(中州) 2 '96 0 営巣なし。  
'97 0 営巣なし。  
'98 0 営巣なし。  
'99 150 若鳥2羽。 車両進入により大部分が放棄される。後に東側で再度営巣。
6月30日ダム放流で中州の90%冠水。

1996年以降に見られた繁殖阻害要因と必要な対策

1.1996年の一部営巣放棄と踏み荒らしについて
 1996年には台地周辺の中州(No.3)で、最終的に放棄した卵が52個、つぶされた卵が約20個、つぶされた雛が3羽となった。これは全卵(265個)に対して28%を占める結果となり、その原因を調査した。その結果、台地造成時の作業ミスによるものと判明した。被害を受けた巣は全て水際に作られたものである事から、作業時に水際より砂利の採集が行われた結果、コアジサシに適した新な営巣地が造られ、そこに産卵した卵は釣り人の踏みつけにあったものと思われる。また一部人間の手で草むらに移動して、集められていた卵もあった。踏まれないようにとの配慮からなされたもののようだ。今後この点には充分注意して作業を行う必要があるだろう。

2.捕食者について
 造成地付近ではハシボソガラスが営巣を始め、卵や雛の捕食は日常的に行われている。4年間、同じ場所で台地の造成を行ったが、営巣地の固定化によって、捕食者による影響が増大する結果を招くことが予想される。
 最近では取水堰のコロニー近く(No.1)のJR鉄橋に同じく捕食者であるチョウゲンボウが2番営巣しているのが確認された。雛の捕食以外にも成鳥への襲撃も目撃された。結局このコロニーは放棄され、残された卵や雛はハシボソガラスにより捕食された。その後ここでの営巣は一度も行われていない。
 1998年には抱卵中の卵が夜間、捕食される被害にあった。その数は約200個以上にのぼった。捕食者は特定されていないが、大水に依り中州が冠水し、採餌が困難となった捕食者が、冠水をまぬがれた台地周辺でコアジサシの卵を狙ったものと思われる。原因究明のための夜間調査の必要性を実感した。更に同年、猫による雛の捕食が確認された。発見が遅れたため、50羽以上の雛が被害にあったものと思われる。
 カラス類による過度の捕食を防ぐには、周辺からゴミの量を減らす等の対策が必要だろう。チョウゲンボウ等の営巣が認められた場合は、造成地の変更も視野に入れるべきだろう。また猫等の進入は営巣地の周囲に溝を掘ったり、猫が利用するという頭首工付近を避けて造成を行う必要があるだろうし、日頃の観察を密にして、捕食者の早期発見に努めねばならないだろう。また夜間の卵の捕食者の特定を急ぎ、しかるべき対策を講じなければならないだろう。

3.車両の影竈
 1999年足柄大橋付近のコロニー(No.8)では150羽が飛来し5月初旬営巣を開始したが、車の進入により営巣は放棄された。その後、車が入らない東側で60羽程が再ぴ営巣を開始した。そのため孵化の時期が大幅に遅れ、6月30日のダム放流では抱卵中の卵や小さな雛が流失した。途中から看板を設置したが、車の進入は阻止できなかった。これは土木事業関係車両が使用した道がそのまま放置され、一般車の進入を容易にした結果と思われる。このため工事終了後は、一般車の進入禁止策として、大石を入り口付近に積んだり、溝を深くしたりの処置が必要である事を行政機関に提言した。
 釣り人による阻害は主に抱卵、育雛期の営巣地への侵入が考えられる。看板の設置で協力をお願いしているが、充分な効果は上がっていない。今後はロープ等による囲い込みや、進入しにくい造成上の工夫が必要だろうし、コアジサシ保護の一層の啓蒙活動も必要となるだろう。
 なお営巣中の台地上への踏み入れは今のところ確認していない。

人工営巣地造成についての今後の課題

 酒匂川ではコアジサシの営巣を阻害する最大の要因が、大水である事がわかり、1996年より砂利を盛り、人工営巣地を造成した。しかしながら現在のところ、台地上での営巣数は決して多いとはいえない。せっかくの営巣地造成がコアジサシの繁殖率を高めるための有効な手段となり得ていないのが現状だ。
 ただ人工営巣地は自然増水時に冠水をまぬがれる事はこの4年間で立証されている。そのため、周辺の雛や若鳥が一時避難場所として利用すれば、その意味もあるだろう。また造成に多くの参加者があり、普及啓蒙活動としての役割は充分に果たしていると思われる。
 しかし更に積極的なコアジサシの保護を目指すならば再考の余地があるように思う。人工営巣地造成の意味は、コアジサシを積極的に誘導し、早い時期の営巣をうながし、梅雨末期のダムの放流前に、より多くの飛翔可能な若鳥が育つ環境を提供することである。そのためにはより一層、営巣条件に見合った環境造りが求められる。冠水防止のための台地造成から、周辺中州の整備を含めた形での造成へと変えて行かねばならないだろう。冠水防止という視点にとらわれる余り、今迄コアジサシの生態に充分配慮した環境整備が行われたとは言い難い。
 成鳥の水浴場や休息場所、ひいては成長した若鳥の集合場所となる浅瀬の整備や、捕食者の進入防止を目的とした、陸から孤立した中州の造成等、台地の造成と同時に試みられねばならないだろう。いずれにしてもコアジサシの生態を充分に反映した営巣地造りが求められるだろう。

行政と保護団体との連携の意義

 人工営巣地の造成作業は、現在では小田原市の事業として位置づけられている。日本野烏の会神奈川支部コアジサシプロジェクトチームは、協力者という立場にある。コアジサシの生態や習性に関しての助言や実質的な活動は主にコアジサシプロジェクトチームが行って来たが、今迄の小田原市の積極的な取り組みには深く感謝している。
 将来的には、市の財政悪化などの側面で未知数の部分もあるが、行政と市民、そして保護団体との共同で野生生物の保護に取り組む試みは、野生生物の保護は住民1人1人の間題としてとらえる格好の場であり、意義深い。今後も長く継続されるぺきだろう。この様な行政参加型の保護活動がこれから増々大きな広がりを持ち、確実な成果を上げていく事が各方面から期待されている。小田原市や保護団体の果たす役割は大きいといわざるを得ない。

謝辞

 人工営巣地造成にあたっては、日本野鳥の会関係者の方々、日立野鳥クラブの方々、小田原自治会、小田原市環境ボランティアの方々、そして多くの市民の方々には、ご協力頂き感謝申し上げます。調査結果については、日本野鳥の会神奈川支部西湘ブロックの皆様にご協力頂きました。

参考文献

林宏・岡田徹、1992.わが国におけるコアジサシの繁殖状況。Strix、(11):157−168。
東陽一・桑原和之・金井裕、1996.コアジサシ Sterna albifrons の営巣地の現状と保全策。Strix、(14):143−157。
東陽一、1998.コアジサシの営巣環境条件と集団繁殖地の保全策。ランドスケープ研究、(61)5:541−544。

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