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T-REX Vol.16 10/10
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10 御影ヴァレリアα学園は閉鎖された。 徒党を組んだ賞金首たちによるテロ行為により、校舎が壊滅したためだ。 飛泉はその救済処置として、別の学校に教育実習生として参加することになった。こちらはどうにか経歴に傷が付かずにすみそうだった。 だが、ヴァレリア学園の生徒たちは、そうはいかないだろう。学園内で行われていた遊戯に関して、脅迫状が届いており、かなりの金額が強請られたと聞いている。 おそらくは、レックスの仕業だろうが。あの男がなんでそんな面倒な手段で、しかもせこい揺すりで莫大な金額を稼ぐのか、理由がわからないが、とにかく今はレックスのことは構わない。 街角の時計台前。デートの待ち合わせに利用されるスポット。 「どうも。本当に、一人で出てこられたんですね」 飛泉は待ち合わせ場所に現れた、女子高生を見て微笑んだ。 藍華は険しい表情で、飛泉を睨み付ける。 「……力の使い方はわかってきたから、簡単だったわ」 藍華は飛泉にぶっきらぼうに答える。精神感応能力を使えば、ボディ・ガードやお目付役の目を眩ませるのは簡単だった。 「一応、確認しておくけど、話を聞くだけよ? 父にはメッセージを残してあるんだから」 「あなたもきっと気に入りますよ」 飛泉はそう答えて、藍華を促した。 だが、藍華が覚えているのは、とある高層ビルのワンフロア、神風と銘打ったバーでジュースを一杯ご馳走になったところまでだった。 目隠しくらいは覚悟していたが、飛泉の思考にはそんなたくらみはなかった。つまり、飛泉もここではその程度の使いっ走りでしかないのだ。藍華が甘かったとしか言いようがない。 藍華は我に返って起き上がると、目の前の小柄な女を念動力で拘束して宙に吊し上げた。 「ここはどこ!? あんたは誰なの!?」 藍華は、その女が沼崎祥子という名であり、サイバードックであり、底知れないことを知り、この場所が地下深くにあることを知った。 そして、その場にいる男に気付き、藍華は沼崎を放り出し、そちらに意識を集中させる。 「さすが、特α級だ」 男は軽く拍手をして、藍華を褒め称えた。 「……うそ!? だって、……まさか、前大統領のクローン!?」 藍華は目の前の男の顔を知っていた。 「私のことは、wizemanと呼んでくれ」 藍華が思考を読む前に、男は答えた。 「……どうして、私をここに連れてきたの?」 藍華は、沼崎祥子の思考にあった、地下深くにあるこの施設を見据えた。 「君も少しは自身が、各企業に狙われている理由に予想がついているだろう?」 wizemanに問われて、藍華は小さく頷く。 「……瞬間転移能力者、でしょ? メガ・コーポをはじめとする、テレポーターの開発は進められ、実現しているけれど、量子テレポートをはじめとして、問題が多いのも事実。テレポーターは同様の装置が相手側コロニーにも設置されている必要がある」 「そこである一部のメガ・コーポが目をつけたのが、君のようなサイキッカーだ」 「だけど、私は瞬間転移能力者じゃないわ」 藍華は首を振った。 超能力と呼ばれる、特異な能力というのは、科学的に証明されているわけではないが、今この世界に確実に存在している。 遺伝子の権威であるメガ・コーポ、プロメテウスなども、遺伝子改造より人工的にサイキッカーを誕生させようと躍起になっている。 だが、実際には、物理的な能力を持ったサイキッカーはほとんど存在していない。念動力を使える藍華が特α級と呼称される所以だ。 人類は、この閉ざされた世界からの解放を望んでいる。 瞬間移動能力者。 その能力の持ち主がいれば、人類はコロニー間の移動ではなく、外の世界に飛び立つことが出来るのだ。 wizemanの背後にそびえている白い柱が震動が響いた。その後、ゆっくりと柱が上下に開いていき、ガラス張りの円柱が現れる。中身は液体で満たされているのか、男が一人浮かんでいた。 「!? ……レックス、じゃ、ない?」 藍華はその男の姿に見覚えがあり、全裸に赤くなる暇もなく蒼くなった。あの男がこんなにやすやすと捕らわれるはずがない。そして、この男はどこか違う。同じ黒い髪が液体の中で揺れているが、その体格はレックスのあそこまで筋肉質ではなく、しかし規律のように均整がとれていた。 「誰、なの?」 藍華は訊ねる。 「二千年前の遺物だよ」 放り出されていた沼崎が起き上がる。 「……二千年前?」 「我々人類に残された、二つの指輪。星に至る者が残した、DNA」 青き瞳の龍と、赤き瞳の龍。それは指輪だ。だが、その龍にはその時代に存在したとされる、男女のDNAデータが保存されている。 飛泉が持ち帰ってきた青い瞳の龍のプランチナリング。そこには、この男のDNAデータが封じられており、wizemanはこれを復活させたのだ。 「この男は、瞬間転移能力を持っているはずだ。テレパシー、ESP、ヒーリング、サイキック・ヴァンパイア、アストラル・プロジェクション、エレクトロニクス。それぞれの超能力は、それでもどうにか脳のどの部分が使用されていたかは確認できている。問題は、サイコキネシスとテレポーテーション」 沼崎祥子が言う。サイキック能力は、人間の脳の内部にその特殊な構造があるとされている。 「この男は、それら以上に、現在確認されている能力以上の力を所有している。だが、目覚めない。魂が無いのだ」 wizemanは肩越しに男を振り返る。 「たま、しい?」 藍華は信じられないというように、wizemanを見つめた。魂という言葉は聞いたことがある。だが、科学的にはもちろん証明されていない。けれど、前世占いやら、魂の色とやらで聞いたことがある。 「君はテレパスだ。その力で、この男を目覚めさせて貰いたい」 wizemanの言葉に、藍華は立ち竦むしかなかった。 魂など、本当に信じていいものなのだろうか? だが、信じなければ、外の世界には辿り着けない。 藍華は少女らしい飽きっぽさで、この世界も、大人たちも信じてはいなかった。絶望しているつもりでも、それは本当の絶望を知らないだけだった。 けれど、それで十分だった。 この腐った世界から、抜け出せるのなら。それが、本当に私自身の力で遂げられるのであるならば。 レックスはバスローブ姿でむき出しの足を組み、テーブルの上のノート型端末を操作する。 プロメテウスの専務がよこした情報というのは、たいした情報ではなかったが、その断片からPMが情報を引き出してくれた。 そのために、またしても莫大な情報領をふんだくられることになったのだが……。 赤い瞳の龍。 レックスは、結城悠が持ち去っていった、プラチナリングを思い出し、思わず舌打ちした。 二千年前の遺物であり、ある女のDNAを記録しているという。 だが、プロメテウスは別のルートからそのDNAデータを入手し、独自に一人の女をこの世界に蘇らせた。 それが近頃裏世界で噂されている、エキドナだ。 エキドナは、通常二重螺旋構造であるDNAが、三重螺旋構造という宇宙人としか思えない構造をしており、その構造を研究することで、絶滅種を蘇らせ、合成動物の製造すら可能にしたのだ。 プロメテウスは、その遺伝子情報から、サイキッカーを誕生させようと目論んでいるのだ。 だが、エキドナは完全体ではないという。プロメテウスがクローン製造に使用したサンプルは、二千年前の髪の毛であるという。劣化が激しく、完全には復活できなかったのだ。 さらに、数年前にそのエキドナ本人がプロメテウスから誘拐され、その後も行方知れずだというのだ。 だが、裏社会では近頃そのエキドナを巡って、何人もの賞金稼ぎたちが戦いを繰り広げているらしい。 赤い瞳の龍、そのプラチナリングがあれば、神の娘を蘇らせることが出来る。だが、エキドナの存在とてどこのメガ・コーポも欲しがるはずだ。 レックスは嘆息した。 紫藤とは連絡が取れない。 そのエキドナが、葵であることは、間違いないだろう。 背後で扉が閉まる音がして、レックスは肩越しに振り返った。 アリアと縁が、おそろいのワンピースに身を包み、トランクを引き摺って並んでいる。 「レックス様、これでお暇致します」 縁が頭を下げる。 「なんだ、もう行くのか?」 レックスは椅子を回して身体の向きを変える。まだまだ、これからだというのに。 「このままレックス様に飽きて捨てられる前に、自分たちで出ていくと決めました」 アリアがいけしゃあしゃあと言い放つ。 「もう一晩泊まっていけよ」 レックスは渋い顔をする。 『……すけべ』 シャスティフォルが机の下から覗き込むようにして主人の後頭部に投げかける。 「私たち、ずっと離れたいって思っていました」 「だけど、あなたに出会って、孤独を知りました。誰も彼も、心と心が繋がっているわけじゃないのに……」 「私たちは心と心が繋がっている」 アリアと縁は手を繋ぎ、見つめ合う。 「………」 レックスは意味がわからない。 「それがどんなに素晴らしいことなのか、わかったんです!」 二人は揃ってそう言うと、再び見つめ合い微笑み合う。 「レックス様のおそばにいると、それもままならないんです」 「というわけで、お別れです」 「ありがとうございました」 「このご恩は忘れません」 二人は交互にレックスに礼を言い、頭を下げた。 「お達者で」 二人はきゃっきゃと、新しい、けれど過酷で辛いだろう賞金稼ぎの生活に飛び込んでいった。おそらくは、プロメテウスから賞金が出ていることだろう。賞金首を狩ることで恩赦を受け、さらには賞金が値上がる生活が始まるのだ。 レックスは残念だったが、致し方なく二人を見送った。 さて、これからどうするか。 <エキドナ>。 彼女は今、どこにいるのだろうか? |
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