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PHOENIX SAGA Chapter 05. 4/9
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4 「竜王ですか。確かに、ファリアースには火竜王フェルディナントが存在すると、聞き及んでいます。しかし、同等の存在として、水竜妃ロスヴァイセがオーディナス大陸には存在しているのです」 教皇アスティヌス自らが、そうイリーナたちに説明した。 「その水竜妃とはいずこに?」 イリーナは身を乗り出して訊ねる。 「水竜妃は、このイスクの西にある<黄金の月>と呼ばれる森に住んでいます」 アスティヌスは言った。 イスクの西には細長い三角州があり、そこには大きな森がある。その三角州の北に、精霊の湖が存在している。 「その森には、満月のように丸い大きな泉があり、そこに水竜妃は住んでいるのです」 アスティヌスは言った。 「教皇猊下はその方にお会いしたことがおありなのでしょうか?」 イリーナは訊ねた。その存在の有無を訊ねれば、教皇の言ったことを疑ったことになるが、こう訊ねれば失礼にならない。 「あります。泉の近くには、調和神の神殿があるのです。司教になったものは、満月の夜にそこを訪れることになっているのです。水竜妃は、満月の晩に泉から姿を現します。その時、お会いすればよろしいでしょう」 アスティヌスは微笑んで言った。 「抜け目ない」 アレインがぼそっと小声で言った。 イリーナは教皇にとんでもないことを言うアレインを説教しようとしたが、その意味を悟り、アスティヌスの次の言葉にはっと身を固くした。 「今度の満月は、一週間後に迫っています。急ぐのならば、すぐに出発せねばなりませんね」 ターラが目を細めてイリーナを見る。 「では、これより早速叙勲式をはじめるとしよう」 アスティヌスも微笑んだ。 「ガイルは、また留守番だな」 アレインはスカルにそう言って、肩の凝りをほぐすようにして首をすくめた。 イリーナは司教のごてごての衣装を纏い、額には小さな星の額冠を戴き、長い廊下を歩いていった。 その輝くばかりの美しさと、孤高な岩山に咲き誇る一輪の華、たおやかな姿、女神の如く出で立ちに、観覧者たちは新たなる司教の誕生に神の恩寵を感じて、感謝と感嘆の溜息をもらした。 赤い絨毯のひかれた廊下の両側には、神官、司祭たちが並び、階段の両側には司教たちが並ぶ。一番上には十字を象った天秤を戴いた玉座があり、その前に教皇アスティヌスがローブを床に垂らし、長い帽子を被って立っていた。帽子には同様に、十字を象った天秤の模様があしらわれている。 「全知全能、天地に遍くあらゆるものに恩恵を与える我らが調和神に栄光あれ」 一同、司教、司祭、神官たちが一斉に祈りを唱えた。 神に仕える信者たちは、前世界に於いて神々が使っていたと言われる言葉、現在の時代には神聖語と呼ばれる、太古の言葉を祝詞として神の御下に届かせる。 末席にてその様子を見ているアレインにはわずかに理解できるが、スカルには彼らが何を言っているのかさっぱりわからないでいた。 階段を上り、イリーナは教皇の足下に跪いた。 「偉大なる我らが調和神に、栄光あれ。……調和神の偉大なる奇跡の証として、この三つの指輪を神殿に納めます」 イリーナは箱の中の、金、銀、そして七色に輝く指輪を差し出した。 アスティヌスは頷き、その箱を受け取ると、控えているターラ司教に渡す。 「偉大なる我らが調和神の恩寵を受けし、司祭イリーナ。汝に、司教の位を与えん」 アスティヌスは、イリーナの秀でた白い額から司祭の証である額冠を外す。 「名乗りの誓いを唱えよ」 アスティヌスはイリーナを促す。 イリーナは両手を交差させ、胸の天秤の聖印に触れる。 「我、イリーナの名を持つもの。偉大なる調和神の恩寵を受け、授けられし癒しの力。寛大なる神の愛を指し示し、人々の御心に調和をもたらさん。その誓いをもって、司教の位を得ん」 教皇アスティヌスは別の司教から司教たる証たる、大きな宝石の付いた額冠を受け取り、イリーナの額に回した。 吹き抜けの夜空が、満天の星の煌めきをイリーナに降り注ぐ。 「汝、調和の神の教えを守るものに、神の祝福あれ」 教皇は、新たな司教の誕生を喜んだ。 「凄いお祭り騒ぎだな」 スカルは馬上の人となり、先頭を行くイリーナを讃える人々を見下ろし、苦笑した。 これから、例の<黄金の月>と呼ばれる森へ行く。そこへは司教位を得たものが知らねばならない調和神神殿の秘密があるらしい。そのついでに、太陽剣ファルガイスの復活の鍵を握る竜王に会いに行くのだ。 「まあ、次期教皇猊下があれだけの美人で、外面が良いとなれば誰でも喜ぶでしょう」 アレインは自分が讃えられているわけでもないのに、声を掛けられて馬の上から手を振っている。 「……外面って。……本人はあまり嬉しそうじゃないね」 スカルは人々に応えているイリーナが、なんだかよそよそしく見えた。 「気になるなら聞いてみれば? 相談に乗ってあげなよ」 アレインは何か勘ぐるようにスカルに言った。 「……そういうの、苦手だから」 「なら、心配しても仕方ないじゃない」 「アレインは、楽観的というか現実的だね」 スカルはアレインの親切なのか、突き放したような言い方に苦笑した。 「まあね。僕はさっきから、次の追っ手のことが気になっているんだよ。風帝が言っていた、冥帝の五凶星。相手が五人もいるなんて、厄介でしょう? 相手はこの大騒ぎに、イリーナの居場所とガイルが生きていることを知る。そこからが問題だ。調和神神殿は、イリーナの護衛は僕ら二人だけしかつけるつもりがない。次期教皇候補だって言うのにね。まったく信じられない放任主義だよね。ガイルは神殿が責任を持って守ってくれるらしいから、ここは三人で頑張るしかない。イリーナが集中してくれないと、いざってときに困るんだよ」 アレインは今後のことをずっと考えていたようだ。 「イリーナだって、大事な戦力にはかわらないんだから、ぼうっとしてもらっては困る」 「そうだね」 スカルは頷いた。イリーナは癒しの力だけでなく、ちゃんと自分の身を守ることが出来る。イリーナにそれを言ってやればいいのに、という言葉は呑み込む。それを言ったら、イリーナの悪口が数十倍になって返ってきそうな気がした。 「あとで、それとなく聞いてみてよ」 アレインは畳みかけるようにして、スカルに止めを刺す。 「僕が言うと喧嘩になりそうだから。僕は相談に乗るって言うより、口車に乗せる方が上手いんだよね。そればっかっていうのも、イリーナの精神衛生上良くないし」 アレインが言うのは、もっともだ。 だが、スカルはあまり気が乗らなかった。 あのことが、まだ彼の中では引っかかっていたのだ。 自分は、何なのか? イリーナは普段と変わらず接してくれているし、アレインの態度も変わらない。この魔術師は、そういうところがある。相手がなんであろうと、彼には関係がないのだ。 彼は強く、そして寛大だ。司祭には向いていないかもしれないが、将来偉大な指導者として大成するような気がする。 それは、唯の予感では終わらず、現実となる日が、きっとくる。 スカルは、そんな予感がした。 |
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